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7.2-16 ダブルデート3

「・・・どうしてこうなった?」


「・・・さぁ?」


そんなことを口にしながら、訳が分からない、といった様子で、首を傾げる剣士とアトラス。

そんな彼らがどこにいたのかというと・・・アルクの街に1件だけあったケーキ屋の中である・・・。

なお、彼らの他に客が誰も居ないその原因については、どうか察して欲しい・・・。


『頑張ってね?ビクトールさん!』


「手を抜いたらダメですよ〜?アトラス〜?」


戸惑う2人とは裏腹に、黄色い声を2人に向けるエネルギアとコルテックス。

彼女たちの争いは、コルテックスの代わりにアトラスが行う事になり、その上、どういうわけかケーキ屋の中で繰り広げられることになったようである・・・。


・・・とは言っても、店の中で拳を交えて語り合う(?)わけではない。

剣士の扱いに納得がいかなかったエネルギアが、コルテックスに対してその怒りをぶつけようとしたのだが・・・コルテックス自身も、言い過ぎたと思っていたらしく、すぐに(ほこ)を収めたのである。

ただ、それでエネルギアの怒りが収まるわけではなかったので、形を変えて勝負の白黒を付けることにした、というわけである。

もしも、エネルギア(+剣士?)vsコルテックスの戦闘が現実のものとなったのなら・・・最近急激な成長を遂げているこの街は、その成長に掛かった時間よりも遥かに短い時間で衰退・消滅することになるはずなので、賢明な判断といえるだろう・・・。


まぁ、それはさておき。

一体、どんな勝負をすることになったのか。


「・・・見るだけで胸焼けがするんだが・・・」


「・・・知ってるか?急性胃拡張とか、高血糖症とか、糖尿病とか・・・」


そんな彼らの微妙な表情と、今、彼らがいる場所が物語っている通り、ケーキの早食いである。

余程、拳を交えるよりは高尚な勝負(?)に見えなくもないのだが・・・しかし、残念なことに、剣士は甘いモノが好きではなかったようだ。


「シャラップ!時間が無いので、2人ともさっさと勝負を始めてください!」


『ビクトールさん!私は物が食べられないから、応援するだけになっちゃうけど、頑張ってね?』


2人に向かって、各々言葉を飛ばすコルテックスとエネルギア。

ちなみに、そんな彼女たちが何をしていたのかと言うと・・・


エネルギアは、今もなお、剣士の鎧となって、彼に纏わりついていた。

彼女が鎧を解けば、剣士の身体は、ボロ雑巾よりも更にボロボロな布切れが付着しているだけの、殆ど裸同然の姿だったので、剣士一筋なエネルギア(?)は、彼に恥ずかしい思いをさせまいと変身を解かなかったようだ。


一方で、コルテックスの方は・・・


「はむっ・・・」もぐもぐ


・・・2人が勝負を始める前から、美味しそうにケーキを頬張っていた。

王城では、大好きな甘いモノを食べる機会が少ないためか、今のオフ状態の彼女は、ある意味でタガが外れたような状態になっているのだろう。

・・・今、丁度、4個目のショートケーキを平らげ終わったようだ・・・(1個 = 21cmホールケーキ)。


「うっぷ・・・」


「・・・分かるよ・・・剣士」


口の周りをクリームまみれにしながら美味しそうに大量のケーキを頬張り続けるコルテックスの姿を見て、ただでさえ、甘いモノが苦手な剣士には、ケーキに手を付ける前から、すでに限界が訪れていたようだ・・・。

甘いモノが苦手というわけではなかったアトラスでさえも、彼女の食べっぷりには、胸焼けを感じているらしい・・・。


「・・・食べるか・・・」


「・・・あぁ。でも、無理するなよ?」


「・・・お互いな・・・」


そう言って、死んだような眼をしながら、目の前に置かれたホールケーキ(チョコレート)にスプーンをつける剣士とアトラス。

こうして地獄のケーキ早食い対決(談合済み)は、最悪の形で幕を開けたのである・・・。




「・・・む、無理だ・・・」


「・・・き、奇遇だな・・・」


「う、うっぷ・・・」

「う、うっぷ・・・」


・・・そして幕を下ろす対決。

この勝負の勝敗は・・・そんな彼らの言葉通り、決まらなかったようである・・・。


「ごちそうさまでした〜」


ショートケーキばかり、8個(但し全てホールケーキ)を平然と平らげたコルテックスに対して、1人当たり2個が限界だった剣士とアトラス。

もしもこの勝負にコルテックスが参加していたなら・・・勝者は間違いなく、彼女になっていたことだろう。


『大丈夫?ビクトールさん?』


「お、おう・・・もう、ダm・・・・・・大丈夫だ」


『ならいいんだけど・・・』


青い顔をしながら、うっぷうっぷと口を抑えている剣士に対して、心配そうに問いかけるエネルギア。


すると、剣士と同じように、胃の底から湧き上がってくる何かを両手で口を押さえながら、アトラスは自身よりも遥かに大量のケーキを口の中に詰め込んでいたコルテックスに対して問いかけた。


「コルテックス・・・そんなに食べて、気持ち悪くならないのか?」


「え〜?何がですか〜?」


「・・・いや、何でもない・・・」


幸せそうな表情を浮かべながら返答してくるコルテックスに対して・・・逆に泣きそうな表情を浮かべながら、問いかけるのを止めるアトラス。


そんな絶望まっただ中な剣士とアトラスと、そして逆に幸せそうなコルテックスの姿を見て、食べ物を口にできないために、ただ見ていることしかできなかったはずのエネルギアは・・・しかし、おもむろにこんなことを呟いた。


『・・・楽しいね』


「いやいやいや・・・」


「何をどうしたら、これが楽しく思えるんだ・・・?」


「楽しいですよ〜?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


エネルギアの呟きに、それぞれに異なる反応を見せる3人。

そんな彼らの反応を聞いたエネルギアは、小さく笑みを浮かべながら言葉を続けた。


『だって、こうやってみんなで外に出て、お店に来たりするのは初めてだったから。食べ物が食べられないっていうのは、少し残念だけどね』


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


ミリマシンで身体を構成しているがために、いつも真っ黒な姿をしているエネルギア。

そんな彼女が、普段停泊している王都の町中を歩くというのは、ただ歩いているだけで、とても目立ってしまうことだったのである。

それ故に彼女は、王都の中を自由に出歩くようなことはしてこなかった。

・・・まぁ、剣士が王都にいなかったために、彼女がいつも艦橋に引きこもっていたことも、その原因の一つではあるのだが・・・。


そして今回、その両方の問題が彼女の前から取り払われたのである。

大好きな剣士が近くにいる上、彼の鎧として化けている分には、誰の眼も気にする必要は無いのだから、エネルギアにとっては、まさに抑圧から開放された状態と言っても過言では無かったのだ。


「・・・そうですか〜。では、この後、周りの店も色々回ってみましょうか〜?」


エネルギアの境遇に気づいたのか、そんな提案を口にするコルテックス。


「そうだな。今頃、姉貴たちが何をしているのかは知らねぇけど、まだ時間はあるはずだしな」


アトラスも妹と同じような表情を浮かべながら、同意の言葉を口にした。


・・・一方。

2人と違う色の言葉を口にしたのは、エネルギアを纏っていた剣士であった。


「・・・なぁ、エネルギア。お前は、どこに行きたい?何処か行きたい場所があるなら、一緒に行ってもいいぞ?」


『えっ』


「まぁ、遠い場所へ行くっていうのは難しいと思うが、別に町の中じゃなくてもいい。エネルギアが行きたい場所があるなら、言ってくれれば付いて行くぞ?」


先の2人と違い、主体をエネルギアに置いて、そう提案する剣士。

そう口にした背景には何か理由があったわけではなかったようだが、エネルギアにとっては嬉しい言葉だったらしく、彼女はその声を明るく輝かせながら・・・こんな言葉を口にした。


『じゃぁ、デートしたい!』


「・・・え?デート?」


『うん!デート!』


「デートか・・・・・・」


エネルギアのその言葉を聞いて・・・思わず考え込んでしまう剣士。

この辺境の町で、女性をエスコートして楽しませることができるような場所があるのか・・・彼は悩んだようである。


すると・・・


「デートですか〜・・・・・・なら、お任せください!」キラッ


と、どういうわけか、眼を輝かせながら、自身の胸を叩くコルテックス。

なにやら、彼女には、秘策があるらしい・・・。


「おい、コルテックス!そんなこと言って本当に大丈夫か?」


初めてこの村に来たにもかかわらず、根拠のよく分からない自信を見せる彼女のことが心配になって、アトラスは思わず確認を取るのだが・・・


「この国の一切を取り仕切る議長に、抜かりはありませんよ〜?」


・・・しかし、コルテックスの方は成功を確信しているようだ。


「・・・なら、頼んでもいいか?」


剣士がそう口にすると、


「はい。ではこちらにどうぞ〜」


一同の先頭を切って歩き始めるコルテックス。


そんな自信な満々な彼女の後ろを、エネルギアを纏った剣士と、怪訝な表情を浮かべたアトラスは、とりあえず大人しく付いて行くことにしたのであった・・・。

も、もうダメかも知れぬ・・・。

諸事情があって、あとがきはカットさせてもらうのじゃ。

明日辺り、ゆっくり書ければいいのじゃがのう・・・。


・・・次回、「イブとシラヌイのデート。但し、刃物屋以外で」乞うご期待!なのじゃ?

・・・もう、次回予告も適当なのじゃ!

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