7.2-13 再々訪アルクの村4
「・・・?!お、おっほん!・・・・・・ひ、久し振りですね?リーゼ。それに、ワルツ様」
「・・・母様?誤魔化せていませんよ?」
急に男っぽい話し方を改めて、姿勢を正して淑やかに話す狩人の母、キャロライン(以下、キャロル)。
そんな彼女に対して、娘である狩人は、一度剥がれてしまった化けの皮(?)が元には戻らないことを、目を細めながら指摘した。
「え、えーっと・・・」
娘に向けられたそのジト目から逃れて・・・そして、他の者に同意を求めようと、酒場の店主やワルツへと視線を向ける狩人母。
しかしその先では、彼女にとって残念なことに、2人分の苦笑が浮かんでいた。
どうやら事は、すでに誤魔化すことのできない段階にあるようだ・・・。
そんなワルツたちの表情を見て、あー、やってしまいました・・・と、キャロルが消沈していると・・・
「ん?どうしたんです?」
「あ、リーゼ団長・・・」
「げ・・・ワルツ様もいるじゃねぇか・・・」
お供(?)の騎士たちが、護衛対象(?)の異変と、その場にいた狩人とワルツにも気づいたらしく、各々に声を上げ始める。
するとキャロルはそんな彼らに対して振り向かずに、
ビシッ!
と何やらハンドサインを見せた。
その瞬間・・・
『・・・!』
ズサササ・・・
何も言わずにその場から立ち去っていく、キャロルのお供騎士たち。
ちなみに、そのハンドサインは国家標準のもので、意味は『戦術的撤退』である・・・。
「えーと・・・もしかして、狩人さんのお母様って、騎士だったりします?」
「・・・リーゼの前に騎士団長をしておりました」
「あっ・・・そうですか・・・」
短いキャロルの説明で、大体のことを把握するワルツ。
どうやら狩人の男性のような話し方や生き方は、母親譲りだったようだ・・・。
「あの・・・私たちの前では、普通に喋られて貰っても構いませんよ?」
「・・・いえ。場は弁えているつもりです・・・」
「・・・なんか・・・すみません・・・」
コルテックスと同じように、この村に来てハメを外していた(?)様子のキャロルに対し、彼女の休暇(?)を妨害してしまったことについて申し訳なさを感じながら頭を下げるワルツ。
するとキャロルの方も・・・
「こちらこそ、見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございませんでした・・・」
ワルツの鏡写しのように頭を下げた。
そんな頭を下げ合う2人の姿を見るに見かねたのか、横から狩人がフォローに入る。
「ワルツ?あまり、気しないで欲しい。母様はたまにあんな感じで、昔の話し方に戻るみたいなんだ」
「全然、気にしてないですよ?なんか、狩人さんが2人に増えたような気がしてただけです」
狩人の言葉に、ワルツが苦笑を浮かべながら、そう口にすると、
「はっはっは!ちげぇねぇな!」
微妙な場の空気を壊すかのように、高笑いを上げながら同意する酒場の店主。
そんな彼の笑い声につられたかのように、キャロルも恥ずかしそうに苦笑を浮かべたのは・・・長いこと酒場を切り盛りしてきた店主のなせる業、と言えるかもしれない・・・。
それから、酒場の店主のおごりで、飲み物とつまむ物が振る舞われた後。
アルコールの全く入っていないぶどうジュースを口にしたイブが、同じモノを飲んでいるはずなのに顔を真赤にしたシラヌイと飛竜と一緒に、酔拳ごっこを始めたのを遠目に見ながら・・・。
ワルツは、遠慮無くビールジョッキを傾ける母娘に向かって、自身もぶどうジュースを傾けながら、折を見て問いかけた。
「・・・もしかして、狩人のお母様の趣味って、武術の訓練だったり狩りだったりします?」
ワルツの眼には、今の全身甲冑姿のキャロルの姿が、普段から狩人装備(?)をしている狩人の姿に、重なって見えたようだ。
そんな彼女の質問に、娘である狩人が、呆れたような表情を浮かべながら、言葉を返した。
「なぁ、ワルツ?もしかして私の趣味と母様の趣味が一緒だと思ってないか?そんなわけn」
「はい、ワルツ様の仰る通りです・・・」
「えっ・・・」
「ただ・・・狩りが趣味というわけではありません。人の生活を脅かす魔物の討伐を趣m・・・仕事にしております」
「・・・・・・」
人生でこの方、母の趣味(?)を知らなかったのか、キャロルの言葉を聞いて、目を点にしながら驚愕する狩人。
「そ、そうですか・・・」
一方、ワルツの方も、納得したような表情を浮かべながら・・・しかし、まさか思った通りの答えが帰ってくるとは思っていなかったのか、言葉を失っているようであった。
つまるところ、狩人の母は、生粋の女騎士だったようだ・・・。
ワルツはそれからどうにかして次の質問を見つけると、言葉には表せない何かを飲み込むようにジョッキの中身を口の中へと傾けているキャロルに対して投げかけてみた。
「もしかしてですけど・・・この村の迷宮の攻略をしてたんですか?」
先ほどのキャロルとお供騎士たちの話を聞く限り、彼女たちは村近くの迷宮の探索をしている様子だったのである。
この地を治める伯爵のその夫人が、自ら仲間たちを引き連れて迷宮探索をするというのは、少々、リスクの高い話であることは否めないのだが・・・
「実は・・・」
キャロルはワルツ言葉を否定すること無く、まるで怒られた子どものように眼を伏せながらそう口にすると、自ら迷宮探索をしている理由を語り始めた。
「『迷宮』と聞くと、いてもたってもいられなくなって・・・時間があれば、ミッドエデン全土の大小30からなる迷宮を、親しい仲間たちと共に渡り歩いているのです・・・」
(へぇ・・・ミッドエデンの中だけでも、30も迷宮があったのね・・・)
と、口には出さずに内心で驚くワルツ。
その後も、キャロルの言葉は続いた。
「・・・例えば、サウスフォートレスと王都の中心に位置する迷宮は、内部で温泉が吹き出していて、休養をするにはこの上ない場所ですね・・・。しかも、その階層まで行くのに、強い魔物たちと戦うことが出来るので、ダンジョンマニアを自負する私からすると、上から10本の指に入る娯楽施設と言えるでしょう」
『そ、そうですか・・・』
恍惚な表情を見せながら、徐々に本性を現し始めたキャロルに対して、ただただ苦笑を向けるワルツと狩人。
しかし、顔全体を真っ赤にしたキャロルの話に、終わる気配は全く無かった・・・。
「・・・ですが、最近、私たちの界隈で噂になっているのは・・・王都周辺の話なのですよ」
「王都周辺?」
ワルツは、自身が把握している中に、王都周辺に迷宮が現れた、という情報が無かったために、思わず聞き返した。
・・・もちろん、迷宮の形をしていないシュバルのことを除いて、である。
「はい。しかも、1つではなく2つが短い時間の間に急に現れた、と言う話なのですが・・・ワルツ様はご存じないですか?」
「んー、そうですね・・・。ちなみに王都の近くのどの辺とかって分かります?」
「私は直接見たことがないのですが・・・1つ目は、南街道沿いに、ある日突然、どーん、と四角いキューブの形で現れたとか・・・」
『あ・・・・・・』
「それで、2つ目は・・・これがまたすごい噂が流れているのですが、山程の大きさはありそうな大きな扉が突然地面に開いて・・・そこから、本来なら地上にはいないはずのシーサーペントなどのドラゴンや・・・それに空飛ぶ大きな魔物が轟音を響かせながら現れるとか・・・。私としては、単なるくだらない噂の類だとは思うのですが・・・でも、本当にそんな場所があるかもしれないと考えると、ワクワクを押さえられなくなってきまして・・・」
『・・・・・・』
キャロルの話の内容について、あまりにも身に覚えがありすぎたためか、言葉を失うワルツたち。
するとキャロルの方は、自分の趣m・・・仕事の話ばかりをしていたことに気づいたらしく、ワルツたちに対して、逆に問いかけてきた。
「ところで・・・ワルツ様方は、どうしてこの村に?」
「特にこれといった理由は無いんですけど、近くまで来たのでついでに寄ってみようか、という話になりまして。それで、ちょっと立ち寄っただけですね。この後は・・・隣国のメルクリオに行く予定です」
と、ワルツがこれからの予定を含めて説明すると・・・
「メルクリオですか・・・。あそこの神都近くにある湖の湖底にも(以下略)」
『・・・・・・』
・・・といった様子で、この後も、顔を真赤にしたキャロルの暴走が、延々と続いていくのであった・・・。
娘の狩人の方は顔色一つ変えず、3杯目のジョッキを開けていたようだが・・・母親の方はあまりアルコールに強くはない体質だったようである・・・。
一方その頃。
「ふぉぅっ!どごぉぉぉぉん!!ってやるかも?」
イブ嬢は飛竜とシラヌイ殿に対して、酔拳のレクチャーをしておったのじゃ。
あ、ちなみに効果音は、イブ嬢の口から出ておるものじゃぞ?
「む〜?こ、こうですな〜?」ゆらり
ドゴォォォォン!!(椅子と机が粉砕する音)
「?!」ビクゥッ
「ちょっ・・・お前ら!うちの店を壊すつもりk」
「・・・うるさいですねー・・・ヒック・・・このおじさん・・・ヒック・・・」
「お、おじさん・・・」
と、地面に崩れ落ちる酒場の・・・店員。
どうやら、酒場の店主だけでは、切り盛りできなくなったらしく、村の木こり(25歳)を臨時の店員として雇ったみたいじゃの?
「あー、ダメですよー?ヒック・・・。そんなところでねちゃー?ヒック・・・」
「・・・・・・転職しよう」
・・・こうして。
酔っ払うと面倒くさくなるシラヌイ殿に絡まれた木こりは、採用3日目にして転職を決意したのじゃ。
・・・・・・
という話が、背後で展開されておったのじゃが・・・この木こりが本話に関係することは・・・多分無いの。
と、そんなどうでもいい話は置いておいて・・・。
今日の補足に入るのじゃ。
・・・これもどうでもいい話なのじゃが、この本話、実は新しいらっぷとっぷで書いておるのじゃ。
キーボードのサイズが少々違う故、微妙に書きにくいのじゃが・・・どうに書けたのじゃ。
・・・まぁ、それでいい話が書けるわけではなくて、いつも通りの駄文しか書けておらぬがの?
で、本当に補足に入るのじゃ。
・・・・・・うむ。
無いのじゃ。
補足できることが無いというのは・・・寂しい物じゃのう・・・。
え?本来なら、補足が必要無くなるように書くべき?
・・・そ、それじゃと、キーボードを連打するという妾の仕事が無くなって、だらだらでずるずるな狐になってしまうのじゃ!
・・・む?なにか、花粉症が酷い狐のように聞こえなくも・・・まぁよいか。
というわけで。
・・・次回、『酒場の店主さんの逆鱗に触れたかもだし?!』乞うご期待!なのじゃ?
・・・正直、そんな話、期待したくないのじゃ。
・・・多分、飛竜にしてもシラヌイ殿にしても、記憶が無くなるくらいに酔っ払っておるじゃろうから、怒られたことを覚えておるのは・・・イブ嬢だけになるのじゃろうのう・・・。




