7.2-12 再々訪アルクの村3
「・・・・・・」
「・・・なんか、すみません・・・」
酒場の一角にあった椅子に、無言で座り込む店主に対して、申し訳無さそうに頭を下げるワルツ。
もちろん、その謝罪は・・・コルテックスの暴走に対して、である。
「・・・あの嬢ちゃん・・・元姫のテレサ様だったか?一体、何してくれるんだ・・・」
「・・・あの娘、テレサじゃなくて、うちの妹です」
「・・・?」
「見た目はテレサと同じですが、全くの別人ですね・・・。一応、あれでも、この国の議会の議長なんですけど、今日はオフを決め込んでいるとかなんとかで、ハメを外しているみたいです」
「・・・すまん。何を言ってるかわからないんだが・・・」
「・・・私にもよく分かりません」
「・・・・・・」
嵐のように急に酒場へと現れて、そこにいた者たちに対し、手当たり次第に襲いかかった(?)コルテックス。
彼女は今、ここにはおらず、村の観光をすべく、アトラスと共に、ドコかへと消え去ってしまっていた・・・。
彼女たちは、今頃もしかすると、幸せそうに夕餉を楽しむ街人たちが入り浸る新しい店を見つけて・・・そして愉快犯よろしく、襲撃しているのかもしれない・・・。
・・・なお、剣士とエネルギア(少女)は、ミリマシンの活動範囲的な問題で、船体から長い距離を離れることが出来ず、村の中まではやってきていなかった。
そのため2人は、村の入口周辺か森のなかで観光(?)を楽しんでいるはずだが・・・戻った時に剣士が生きているかどうかは・・・不明である。
・・・それはさておき。
「・・・まぁ、嬢ちゃんの妹だって言うなら、酷いことにはならないか・・・」
(店主さん・・・前から思ってたんですけど、懐が深すぎませんか?)
細かいことを気にしないレベルが、自分よりも遥かに高かったためか、店主に対して、尊敬の念のようなものを抱いてしまうワルツ。
なお、言うまでもないことだが、ワルツの場合、『細かいことを気にしないレベル』ではなく、『考えるのが面倒くさいレベル』か何かである・・・。
「それはそうと、随分久しぶりじゃねぇか?狩人さんもな」
「あぁ。ちょっと我儘言って、立ち寄らせてもらったんだ」
「いえいえ。そんなことはないですよ・・・」
そんなやり取りから始まって、『調子はどうだ?』『ちゃんと飯は食ってるか?』、といった親子がしそうなやり取りを一通り終えた辺りで・・・
「・・・それにしても、来る度に見ない顔が増えたり変わったりするってぇのは・・・相変わらず、嬢ちゃんたちらしいな」
酒場の店主は、ワルツの後ろから付いて来ていた、イブ、飛竜、シラヌイに対して視線を向けながら、呆れに近い表情を浮かべながらそんなことを口にした。
一般的な冒険者のパーティーでは、たった1ヶ月の間にメンバーがコロコロと何人も入れ替わることが無いことを考えると、店主にとってワルツたちは、特殊なパーティーのように見えたのだろう。
更に言えば、その新しいメンバーたちが、全員身長140cm以下というのも、特殊に見えた一因と言えるだろうか・・・。
「本当は、ルシアや本物のテレサとかも連れて来たかったんですけど、今回、立ち寄ったのが、急ぎの用事の途中だったこともあって、みんなのスケジュールが合わなかったんですよ」
「そうか・・・。嬢ちゃんたちは元気か?」
「はい。変なクッキーを作ったり、レシプロエンジン作ったり・・・みんな元気ですよ?」
「ん?・・・そ、そうか・・・」
と、ワルツのよく分からない断片的な言葉を聞いて、店主が頭を悩ませていると・・・
「・・・む?」くんくん
何やら、気になる匂いでも漂ってきたのか、店主に対して犬の獣人のイブ・・・ではなく、なぜか飛竜が、その鼻を鳴らしながら、彼に(?)近づいていった。
そして彼女は、店主から漂ってきていた加齢sy・・・匂いをひとしきり嗅いだ後、戸惑った様子で首を傾げながら問いかける。
「・・・すまぬことを訊くが、店主殿から嗅ぎ覚えのある匂いが漂ってくるのだが・・・何処かで会ったことがあるだろうか?」
「いや、初めてのはずだが・・・?少なくとも、俺の記憶には無いな・・・」
と、腕を組んで難しい表情を浮かべながら、考えこむ様子の店主。
そもそも、人の姿になって間もない飛竜なのだから、店主が彼女のことを知っているはずはないのだが・・・。
「ふむ・・・気のせいか・・・」
対して飛竜は、知らぬ存ぜぬ、といった様子の店主の反応に、納得いかなそうな表情を見せながらも、気のせい、で片付けることにしたようだ。
どうやら彼女は、自身の今の姿が、人間の姿になっていることをすっかり忘れているらしい・・・。
そんな飛竜に対して、『元の姿に戻ったら?』とは思っていても、彼女の大きな身体のことを考えて、それを口には出さなかったワルツ。
彼女は、2人のやり取りが終わったところで、店主に対して、この街に来てから抱いていた疑問を問いかけた。
「それにしても、1ヶ月前に比べて、随分な変わり様じゃないですか?この規模じゃ、下手をするとサウスフォートレスよりも町が大きくなっていると思うんですけど・・・?」
・・・ちなみに。
彼女は、2週間前にも、自身のホログラムシステムを修復するために、この村(?)へとやってきていた。
しかし、当時は1人だけだったために、小心者が発病して誰にも会わず、その上、村の工房に設置した隠し通路をつかって出入りしていたので、町の景色は見ていなかったのである。
そんなどうしようもない理由があったために、発展した村の様子を見るのは、今回が初めてだったのだ。
すると、ワルツの問いかけに、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりの笑みを浮かべ、村長を兼任している店主が、発展した理由を話し始めた。
「・・・魔女と迷宮」
「・・・え?」
「前に、嬢ちゃんたちがこの村に連れて来た魔女たちのお陰が半分。それと、村の外に出来た迷宮を攻略するためにやってきた冒険者たちのお陰が半分、ってとこだな」
「魔女・・・っていうか、彼女たちが何かやったんですか?」
決してネガティブな内容ではないはずだが、何かあった場合は、その大元の責任が自分にあるので、恐る恐る問いかけるワルツ。
対して店主は、その目尻の皺をより一層深めて、優しげな笑みを浮かべながら言葉を返した。
「彼女たちのように、強い魔法が使える者がこの村にはいなかったからな・・・。他の村や町を探したって、いても2人3人くらいだろ。それが、この村だけで、何十人も集中したんだから、そりゃ当然、生活も色々と大きく変わるってもんだ。日々の狩りから炊事に洗濯、土木工事に子どもの世話まで・・・。長いこと生きてる俺も、ここまで村の様子が変わるとは思ってもみなかったかったぜ・・・」
(あぁ・・・そういえば、弟のカノープスが160歳位のおじいちゃん(?)だったから、店主さんも、相当な年齢なんでしょうね・・・200歳くらい?)
と思いつつも、あえて問いかけないワルツ。
それから彼女は、もう半分の疑問も問いかけてみた。
「そうですか・・・。それで、迷宮の方はどうしてなんですか?」
・・・村近くの平原にある迷宮。
それは、ルシアの魔法のテストをした際に、残留した魔力によって自然発生的(?)に生じた迷宮であった。
以前、ワルツたちが見かけた際には、それほど大きいものではなかったはずだが・・・どうやら小さいわけでもなかったようだ。
「あの迷宮・・・一見すると大きくは見えないんだが、実はとんでもない深さがあって、誰も攻略に成功してないんだとよ?それで、冒険者たちが寄ってたかって集まって・・・日夜攻略に勤しんでいるってわけだ。人の出入りが多ければ、自然とこの村にも人や金が集まってくるってこったな。・・・噂によると、1階層目からフロアボス級の魔物が彷徨いているらしくて、誰も2階層目まで到達できてないらしいぜ?」
「・・・なんで、それで、深いかどうかって分かるんですか?」
「俺にもよく分からないんだが、迷宮の大きさを測る魔道具があるらしいぞ?」
「ふーん・・・」
その魔道具をボレアス遠征の際に持って行ったなら、一体どんな使い方が出来たか・・・などと考えながら、店主の言葉に納得げな表情を浮かべるワルツ。
それから、世間話や、弟のカノープスが元気にやっているという話や・・・そして、吹き飛ばしたドアの修理費用について話をした後で・・・
「そういえば、村長。母がこの村にやってきているという話を聞いたのだが・・・どこにいるのか知らないか?」
父親の話を思い出した狩人が、おもむろにそんな質問を口にした。
「あぁ、キャロラインさんか。彼女なら・・・」
そして、店主が狩人母の居場所を説明しようとした・・・そんな時である。
「今日は惜しかったな・・・。フロアボスまであと一歩のところだったんだが・・・」
「そうっすね・・・。ですが、明日こそは攻略してみせましょう」
「今日のことは酒でも飲んで、パーッと忘れちまおうぜ!」
ワイワイガヤガヤ・・・
と、賑やかな話し声を上げながら、鎧を身にまとった者たちが10名ほど酒場へとやってきた。
その姿を見る限り、冒険者ではなく、どうやら、ミッドエデンの公務員たちらしい・・・。
そして、その先頭にいた人物が、到着するや否や、店主に対して、少々乱暴な物言いで話しかけてきた。
「おう、店主!今日は人がいないようだが・・・もしかして、休業日か?」
『・・・・・・』
・・・その人物の姿を見て固まるワルツと狩人と、そして店主。
何故なら、その人物こそが・・・
「・・・母様・・・」
狩人の母である、キャロライン・アレクサンドロスだったからである・・・。
・・・正直に言うのじゃ。
途中まで、エネルギア嬢と剣士殿の存在を忘れておったのじゃ・・・。
酒場に入った人物が、イブ嬢、飛竜、シラヌイ殿・・・あれ?何か足りない・・・と思いながらも書き続けて、2週目の修正に入ったところで・・・・・・あ、2人が居らぬ・・・と、気づいたのじゃ。
まぁ、もとより、村に連れてくるつもりは無かった故、問題は無いんじゃがの?
今回連れて来たかった人物は、飛竜だったのじゃ。
その理由は・・・まぁ、1年後くらいに明らかになるのではなかろうかのう?
さて。
補足に入るのじゃ。
特には無いのじゃが、ワルツの第一地下工房の地下通路がドコへと通じておるのか、についてなのじゃ。
むしろ、ドコから入れるか、と言うべきかのう?
実はのう・・・いや、言わないでおくのじゃ。
一つ言えることは、近くではない、ということなのじゃ。
・・・もう、この時点で、バレたようなものじゃがの・・・。
まぁ、そんなところかのう。
次回、『酒場を出たら、町が無くなってたかもだし?!』乞うご期待!なのじゃ?
・・・なお、犯人は国家議会議長の模様。
・・・もちろん、妾ではないのじゃぞ?




