7.2-10 再々訪アルクの村1
『・・・・・・ふぁ?』
医務室のベッドの上で、目を覚ますエネルギア(少女)。
それから彼女は上体を、重さを感じさせない様子で、すーっ、と起こすと、
『ふーーーんっ!よく寝たっ!』
と言いながら、腕を伸ばして、足も伸ばして・・・。
そして、鈍ってしまった身体中の筋肉(?)を解すような仕草を見せながら、ベッドから立ち上がった。
『あれ?何かおかしいな』
彼女は、いつもより身体が重いと感じたのか、全身を振ってその調子を確かめ始める。
『身体中が重いし、世界が小さく感じるけど、気のせいかな?』
彼女が、体の違和感に、そんな独り言を口にしていると・・・
「おや?エネルギア様。起きたのですね?」
黒い長髪を靡かせながら・・・近くのデスクに向かっていたテンポが、おもむろに振り返って、そんな言葉を飛ばしてきた。
『うん。でも、なんか調子がおかしいんだよね』
すっきりと睡眠(?)できたはずなのに、残っていた身体の不調。
痛いとも、痒いとも言えない、そのむず痒い感覚の原因が分からず、エネルギアは頭をかしげながら、自身の身体の不調のことを、看護師姿のテンポに明かした。
なお、言うまでもないことかもしれないが、その原因の大半は、エネルギアの船内に大量の海水が入ったことで引き起こされた『痒み』であった。
海に入った後で何もせずに放っておけば、人でも起こる、あの痒みである。
彼女が寝ている間に海水漬けなっていた船体から、ワルツが海水を放出しても、乾燥して残っていた塩分までは排除できず、違和感となって残ってしまったようだ。
このまま放っておけば、塩化して錆びてしまうこと間違い無し、と言えるだろう。
・・・まぁそれも、彼女がミリマシンを開放すれば、自動的に洗浄と修復が行われるのだが・・・。
そんな寝ている間に起こった事件のことなどいざ知らず、といった様子で、エネルギアが全身の痒いところを掻きむしっていると・・・事の次第を知っていたテンポが、無表情のまま苦笑を浮かべて、エネルギアに対して、こんなことを口にした。
「それは、当たり前では無いでしょうか?」
『え?』
一体、何が当たり前なのか分からず、先ほどとは違う意味で頭を傾げるエネルギア。
対してテンポは・・・
「・・・では、エネルギア様。ちょっとお立ちになって、こちらに身体を向けてください」
と言いながら、今もなおリアが横になっているECUと、この医務室とを隔てている強化ガラス製の窓の前まで移動した
どうやら、言葉で説明するよりも、何かもっと分かりやすい説明の方法があるようだ。
『?』
一体、どういった理由でテンポがそう口にしたのかまでは分からなかったようだが、とりあえず言われた通りに立ち上がることにしたエネルギア。
その際、隣で寝ていた剣士の手を無意識の内に掴んでいたことに気づいて、彼女はミリマシンで出来ていたその顔を少しだけ緩ませながら・・・しかし、繋いだその手をそのままにして、寝ている剣士を起こさないように、ゆっくりとベッドの上から足を下ろして、スリッパに足を入れると立ち上がった。
そして、テンポの方を振り返って、問いかけようとする。
『えっとー、それでどうs?!』
ガラス窓を見た瞬間、開いていた方の手で、思わず口を押さえてしまう程に驚いた表情を浮かべるエネルギア。
その結果、寝ている剣士の手を掴んでいた方の手にも、驚きのあまり予想外に力が加わってしまったのか・・・
メキメキ・・・
「ん?!んがっ?!て、手があぁぁぁ!!」
麻酔が切れて、感覚が戻ってきていた彼は、浅い眠りから、無理矢理に現実世界へと引き戻されてしまったようだ。
「おや。汚らわしい獣の方も起きたようですね?」
「け、汚らわしいって傷つk・・・じゃなくて、手が!手がぁっ!!・・・・・・え?」
テンポの言葉に含まれていた棘が、手の痛みと同じくらいに痛かったためか、一瞬、何が痛いのか分からなくなってしまった様子の剣士。
しかし、流石に手に伝わってくる物理的な痛みまでは、誤魔化すことが出来なかったのか、その原因を探ろうとそちらの方に視線を向けて・・・そして、彼は言葉を失ってしまった。
何故なら彼の手を握っていた細く黒い腕の持ち主が・・・
『ナイスバディー?』
「・・・いや、違うと思イタイタイタイタイ!!」
一回り成長して(?)、150cmほどまで身長が伸びていたからである・・・。
『・・・・・・』
沈黙に包まれるエネルギアの艦橋。
もちろん、その理由は、対潜戦闘をしていたから・・・というわけではない。
『〜〜〜♪』
「どうなってんだ・・・これ・・・?」
全身に包帯を巻いた剣士と、妙に身長の高くなったエネルギアが、バカップルよろしく、ベッタリとくっついていからである・・・。
尤も、剣士の方には、浮かれた様子は全く無いようだが・・・。
「・・・なんか世の中、おかしいかもだし・・・」
そんな2人の様子・・・特に、エネルギアの姿を見て、眼をこすりながら、彼女の姿が正しいかどうかを確かめるイブ。
つい1時間ほど前まで、2人の身長は似たような大きさだったのだが・・・今ではエネルギアがまるで別人のような身長になってしまっていたために、イブは言い知れぬ違和感と虚無感と悲しみと遣る瀬なさと(中略)を感じていたようだ。
恐らく、彼女にとっても、自身の感情がどういったものなのか分かっていないのではないだろうか。
「・・・もしかして、身長を伸ばす薬でもあるんですか?」
イブとはまた異なる色を含んだ視線をエネルギアに向けていたのは、年齢の割に身長の低いシラヌイである。
彼女にとって、身長の低さはコンプレックスになっていたらしく、嫉妬とも憧れとも言えない視線を2人に向けながら、近くにいたカタリナに向かって、そんな疑問の言葉を漏らした。
「薬は無いですが、伸ばすことは比較的簡単に出来ますよ?」
「えっ?!」
「手術で足の骨を延長したり、首の骨を伸ばしたり、と色々方法はありますが・・・でも、健全な身体を持っている方は、やらないほうがいいと思いますよ?後で大変な目に遭いますからね。身体のバランスが崩れて、骨格が歪んだり、かみ合わせが悪くなったり、運動に支障が出たり・・・その他諸々の悪影響しか出ないですから」
「・・・・・・はい・・・」
カタリナの言葉に、不承不承といった様子で頷くシラヌイ。
例えどんなに怖い話を聞いたとしても、コンプレックスを完全に押さえ込んで納得するのは、難しいようである。
そんな彼女の表情を見て、2人の会話に口を挟んだのは・・・ワルツであった。
「シラヌイ?身長を無理矢理に伸ばすっていうのはね・・・こんな感じよ?」
彼女はそう言うと・・・
グイッ、と頭を掴んで、首の長さを3cmほど伸ばし・・・
フンフン!、と腰を回して、胴の長さを4cmほど伸ばし・・・
ブゥン!!、と足を振って、足の長さを3cm伸ばして、合計の身長を165cmほどまで伸ばした。
「・・・や、やっぱり、やめておきます!」
そんなワルツの姿を見て、素直に・・・というよりも必死な様子で遠慮の言葉を口にするシラヌイ。
どうやら、ワルツの変身(?)は、思った以上に気持ち悪かったようだ・・・。
「あー、首痛い・・・」
そう言いながら、頭を押さえて・・・身体を元に戻すワルツ。
それから彼女は、エネルギアと剣士に声を掛けた。
「何でエネルギアの身長が伸びてんのかは知らないけど・・・人前でイチャイチャするのはどうかと思うのよね・・・」
「いや、違・・・」
ワルツの言葉を、即座に否定しようとする剣士。
しかし、それ以上、彼が言葉を続ける前に、エネルギアが言葉を挟んだ。
『だって、いつもは見上げるだけだった剣士さんの顔がこんなに近いんだもん。普通、嬉しくならない?』
『(うん、ならない・・・)』
『?』
剣士とワルツを含めて、一斉に同じような表情を浮かべる仲間たち。
そんな一同の表情にどんな意味が含まれていたのか分からなかったためか、エネルギアは不思議そうに首を傾げた。
「・・・ま、ともかくだけど、いつでもどこでも人目を憚らずにくっ付くような事したらダメよ?特に剣士。エネルギアの年齢を考えなさいよ?まだ生後1ヶ月(?)位なんだから・・・」
「それは・・・その通りだと思うんだが・・・いや、そもそも、そういう問題じゃないんだが・・・」
と、ワルツの言葉に納得出来ない様子の剣士。
しかしワルツの方は、そんな彼の様子に気づくこと無く、エネルギアの船体が進む先に眼を向けた。
・・・それには歴とした理由があったのである。
「さーて、到着よ?」
エネルギア(少女)が意識を失っている間も、そして剣士に感けている間にも、ワルツは船体の操縦を続け、次なる目的地へと船を進めていたのである。
その結果、やってきたのは・・・
「・・・懐かしいな」
夕闇の空に照らし出されていたその景色を目の当たりにして、そう口にする狩人の言葉の通り、彼女と、そしてワルツたちが暫くのあいだ居を構えていたアルクの村であった。
「・・・でも、なんか・・・おかしくないか?」
・・・しかし、どうやら、1カ月ほど前に立ち寄った時に比べて、その様子は大きく変わってしまっていたようだ・・・。
あっぷろーど画面のGUIがあっぷでーとされて・・・思うのじゃ。
・・・変えなくてもよかったのではないか、と。
じゃて、何か機能が加わったわけではないのじゃから、単なる工数の無駄じゃろ?
その分、仕事を楽にして賃金を・・・いや、何でもないのじゃ。
でも・・・多分、スタッフの誰かは、そんなことを考えておるのではなかろうかのう・・・。
それはそうと・・・少しだけ失望したことがあったのじゃ。
・・・ジャンルの再編成。
ハイファンタジーとローファンタジー、あるいはSFのどれに、この物語が該当するのかを決められなかったのじゃ。
とりあえず、ローファンタジーに分類させてもらったのじゃが・・・本当に、ローファンタジーでよいのじゃろうか・・・。
できれば、複数のジャンルを選ばせてもらえると助かったんじゃが、なかなか思った通りにはならないものじゃのう・・・。
まぁ、普段は、あまりにも自信が無さ過ぎて公開しておらぬから、どうでもいいことなんじゃがの?
さて。
それでは補足に入るかのう。
補足というか・・・まずは謝罪なのじゃ。
エネルギア(少女・ミリマシン)とエネルギア(船体)の違いが分かりにくい部分があったかもしれぬ、という点なのじゃ。
・・・お察し下さいなのじゃ。
・・・今度、物語を書く時は、ちゃんと重複しないように、名前を変えるのじゃ。
・・・というか、これからも名前が重複する登場人物が2名出てくる予定なのじゃが・・・・・・もう、妾にはどうにも出来ぬのじゃ・・・。
あ、頭の体操なのじゃ!(震え声)
で、次。
艦橋にいた仲間たちの内訳について。
これについては・・・昨日のあとがきのメンバーと同じなのじゃ?
じゃがのう・・・唯一書けておらぬのが、ユキ殿なのじゃ。
テンポ殿は医務室にいるとして、ユキ殿はドコにいったのか・・・それが問題なのじゃ。
本文の方に書いても良かったのじゃが、ただでさえごちゃごちゃな話が、フードプロセッサーか何かでかき混ぜたようなペースト状の話(?)になりそうじゃった故、彼女の話は、渋々省略させてもらったのじゃ。
で、ユキ殿はドコにいるのかというと・・・まぁ、ガラスの向こう側なのじゃ?
正確には、ガラスの向こう側・・・ECUの部屋に入るための手順を、一人で確認しているところ故、医務室とは別にある洗浄室で、機器の使い方を確認しておる・・・的な感じで捉えてもらえると助かるのじゃ。
それを書いても物語は進展せぬから、今回は省略した、というわけなのじゃ?
もしも取り上げたなら・・・無駄に機器を破壊して、1話分駄文を追加せねばならなくなるからのう・・・。
まぁ、今日はこんなところかのう。
・・・次回、『魔法少女シラヌイ、大地に立つ!』乞うご期待!なのじゃ?
・・・なお、実際は、シラヌイ殿は魔法が使えないのじゃ。
彼女の場合は、魔法が使えなくとも、何も問題は無いからのう・・・。




