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7.2-07 予想外の海7

「あー、前にユリアたちの部屋のユニットを交換した時に、外装のパッキンを交換しなかったから、気密性が落ちたのね・・・。いや、それとも、急激に冷却されたから外装のパーツが収縮したのかしら・・・」


狩人の水漏れ発言を聞いて、その原因を即座に断定するワルツ。

とはいえ、どんな原因であっても、本来なら、すぐに自動修復が始まるはずであった。

しかし、それが働かなかったのは・・・


「・・・エネルギアさえ、ミリマシンを開放してくれればねぇ・・・」


船体補修用のミリマシンを、エネルギア(少女)がハッキングしたまま気を失ってしまっていたために、穴を塞ごうにも実働部隊(ミリマシン)がいなかったからである。


ワルツがそんな独り言を口にしながら、現状に頭を悩ませていると・・・


「・・・?!こ、ここ、ドコだ?!」


艦橋へと水漏れを告げにやってきた狩人が、壁に映っていた外の景色を見て、初めて、自分たちが空中ではない場所にいることに気づいたようで、驚きの声を上げた。

青く暗い水底の様子を知らない狩人にとって、今の景色がどのように感じているのか詳しくは分からないが・・・彼女の様子に緊張したような色が含まれているところを見ると、もしかすると狩人の眼には、見知らぬダンジョンに突然放り込まれた、といったような状況に見えているのかもしれない。


そんな狩人に対して、ワルツが現状を説明する。


「実は、墜落しちゃいまして・・・今、海の中です」


と端的過ぎる説明をするワルツ。

しかし、そんな適当な説明でも、狩人には通じたのか、


「はあー・・・これが海の中か・・・道理で・・・」


自分自身が塩辛い水まみれになっている原因を理解して、彼女はそんな納得げな声を漏らしながら、天井の方に薄っすらと見える青い太陽に対して、物珍しそうに眼を細めるのであった。


そんな様子で、半ば観光客と化してしまった狩人とは対照的に、慌てふためいた様子を見せていたのは・・・首に赤い縄を付けられていたアトラスである。


「あ、姉貴?!どうすんだ?!」


このまま何もしなければ、仲間たちが危機的状況に陥ってしまうのは目に見えていた。

むしろ、すでに陥っていると言うべきか・・・。

そんな状況を前にして、アトラスは焦っていたのだ。


この状況を打破するためには、エネルギアを動かす他に選択肢は無いと言えるだろう。

しかし、推進用のガスタービンにしても、反重力リアクターにしても、そのエネルギー源である核融合炉が止まってしまっている以上、エネルギアの船体を動かすことは不可能に近かった。

生物に例えるなら、心臓が止まってしまった状態、と言えるだろうか。


これが現代世界の()()()()()、主機が止まってもバッテリーなどの補助電力装置などで、船内にある大きな水風船のようなバラストタンク内に圧縮空気を送り込めば、難なく浮上できるはずである。

しかし、エネルギアは、潜水艦でも、海に浮かぶ船でも無いので、潜行・浮上を制御するためのバラストタンクなどは搭載されていなかった。

空を飛ぶエネルギアの場合は、その役割を、全て反重力リアクターが担っていたのだ。


・・・要するに、空気用のガスタービンを水中で回すわけにはいかない以上、反重力リアクターがどうにかならない限りは・・・ワルツ自身が無理やりに船体を持ち上げるしか、窮地を脱する選択肢は無かったのである。


「・・・仕方ないわね」


アトラスへの返答なのか、それとも面倒臭さに対する独り言なのか。

恐らくその両方の意味を含んだ言葉を呟いたワルツは、疲れたような表情を見せながら、船を浮かばせるべく、艦長席から立ち上がろうとした。

・・・そんな時である。


「お姉さま〜?」


コルテックスが妙に嬉しそうに、は〜い、といった様子で手を上げた。

そして、ワルツと同じく、エネルギアの設計を熟知していた彼女は、こんな提案を口にする。


「反重力リアクターが動かせないのですよね〜?なら、私が動かしますよ〜?」


「えっ?」


「動かないなら〜・・・無理矢理に動かせばいいんです!」


「・・・・・・出来るの?」


コルテックスの言葉に、なんとなく不安を感じるワルツ。

しかし、コルテックス自身は、


「当たり前ではないですか〜。お茶の子さいさいですよ〜?」


と、自信満々だったので、


「・・・じゃぁ、頼もうかしら?」


ワルツはコルテックスに任せることにしたようだ。




そして、仲間たちに余計な心配を掛けさせないためにも、彼女たちを艦橋に残したまま、巨大な核融合炉のある区域までやってきたワルツとコルテックスたち。

そこでは、滝のような水漏れが上から下へと・・・というわけではなかったが、雨漏りのような海水が壁を伝って流れてきており、黒いシミのような跡を形作っていた。

この分だと、恐らく1日ほどで、艦内は水浸しになってしまうのではないだろうか。


「・・・で、ここにきてどうするの?」


本来なら、この区域は、反重力リアクターで船体を浮かべるための莫大な電力を作り出すために、高速で回るタービンの音が響いているはずの空間である。

しかし、核融合炉が動いていない今では、単に静寂だけが辺りを支配していた。

この空間にやって来ても、放熱器が水に沈んでいる以上、核融合炉を再起動できるわけではないのだが・・・


「発電機を回しますよ〜?」


どうやらコルテックスは、人力でタービン(?)を回す気のようだ。


「ね〜?アトラス〜?」


「は?!俺がやんのかよ!」


コルテックスが、ずっとここまで自身の首についた紐を引っ張ってきた理由が、実は自分に発電させるつもりだったことに気づいて、憤るアトラス。


「・・・100歩譲って、俺がタービンを回すとしても、どうやって回すんだよ?まさか、手で回せ、とか言わないだろうな?」


アトラスはそう言うと、直径5メートルほどの巨大なタービン軸を眼にしながら、思わずその目を細めてしまう。

どう頑張っても、エネルギー保存則的に、小さな彼の身体で数百GW(ギガワット)にも及ぶ発電が出来るとは思えないのだが・・・


「もちろんそこは〜・・・別に道具を用意しているので、特に心配することはありませんよ〜?」


コルテックスの方は、全くお構いなし、といった様子である。


そんな彼女が、近くにあったメンテナンス用のトレンチから取り出したのは・・・


「・・・これさえあれば、誰でも発電機になれます!」


前輪の無い自転車であった・・・。

その後輪には、なにやら大きなモーターのようなものが取り付けられており、どうやら、ペダルを漕げば、発電できる仕組みらしい。


「いやいや、そんなんでエネルギアを浮かせられるだけの電力が(まかな)えるわけ無いだろ?!」


「大丈夫ですよ〜?アトラスが自転sy・・・発電機を回している間、私もアシストしますからね〜」


「なんか嫌な予感しかしない・・・」


まるで、目の前に、見え見えの落とし穴のような罠が設置されているような・・・そんな気がしたアトラスだったが、しかし、拒否権は無かったので、渋々ながら自転車に跨ることにしたようだ。


「・・・で、漕げば良いのか?」


自転車に跨った後、自身の後ろで、何やら太い配線が繋がった端子台に細工を施しているコルテックスに対して、アトラスは先程までの様子とは裏腹に、意外にやる気満々の声色で問いかけた。

するとコルテックスは・・・


「えーと〜・・・・・・はい、おっけーです。その発電機、(テレサ)たちに適当に作ってもらったものなので、最初はゆっくりと漕いで、調子を確認しながら回転数を上げていってくださいね〜?」


「えっ・・・マジか?!」


「はい。マジですよ〜?」


『・・・・・・』


今頃、王城で留守番しているはずのテレサが、いつの間にか、元王女でも、議長でもない、別の存在に変わりつつあることに、言葉を失うアトラスとワルツ。

ともあれ、変わりゆく彼女に対して、ここで何を言ってもどうにもならないので・・・アトラスはテレサ(と王城職員)製の自転車をゆっくりと漕ぎ始めた。


その瞬間・・・


ゴゴゴゴゴ・・・


何やら、エネルギアの船体から、そんな低い音が響いてきて・・・


「・・・これ、どんな原理で発電してるわけ?」


手元のステータスモニター(ホログラム)を眺めていたワルツが、そんな驚きの声を上げた。

どうやら、アトラスが自転車を漕ぐことで、大電力の発電が始まったらしい・・・。


「そうですね〜。種明かしをするなら・・・私の量子物理学魔法のお陰ですね〜」


と、ワルツの質問に対して、胸を張って答えるコルテックス。

そう口にした彼女が何をしていたのかというと・・・何やら、太い電線のようなものを、ガスタービン発電機の出力端子に接続して、その導線部分に、まるでピアノか何かを引くように手のひらを当てながら、何らかの魔法を行使していたようである。


そんなコルテックスは、にっこり、とした笑み(?)を浮かべると、必死になって汗を掻きながら発電している様子のアトラスに対して、言葉を投げかけた。


「あ、そうそう。アトラス〜?もう漕がなくてもいいですよ?」


「え?もう、いいのか?」


「はい。だって、その自転車からの配線は・・・元から船に繋がっていないですからね〜」


「・・・・・・は?」


コルテックスが何か聞き捨てならないことを言ったような気がしたアトラスは、その足を止めて、自転車を降りると、急いで後ろを振り返った。

するとそこでは、自転車に接続された発電機から出た線が、そのままショートするように接続されており・・・コルテックスの言葉通り、船体の配線が繋がっている端子台には接続されていなかったのである・・・。


「・・・ホント、どんな原理で発電してるのよ・・・」


息を切らしながら眼を点にして固まる弟と、いつも通りの柔和な笑みを浮かべる妹に対して、苦笑を向けながら問いかけるワルツ。

するとコルテックスは、ニッコリと笑みを浮かべながら、自信満々に言った。


「魔法です!」


どうやら、コルテックスが使う魔法は、科学と魔法の両方の性質を持った代物のようである。

それも、単なる出力で比較するなら・・・ルシアの魔法に匹敵する程のエネルギーを持っているようだ・・・。

もっと・・・こう・・・どうになからぬものかのう?

読みやすさと、情報の密度に、いのべーしょんが欲しいのじゃ・・・。

この2つを両立させようとすると・・・箇条書きのように、ブツンブツンと切れた文になってしまう気しかせんのじゃ・・・。

じゃが・・・試してみるのも悪くないかもしれぬの?


で、じゃ。

それとは別に、最近、地の文の密度を5〜7割程度になるように書いておるのじゃ。

迷宮編では3〜5割位じゃったような・・・じゃなかったような・・・。

ともかく、セリフよりも地の文が多くなるように書いておるのじゃ。


これが、読みにくさに繋がるのか、それとも世界の表現の豊かさに繋がるのか・・・。

もう暫くは、テストを兼ねて、続けてみようとは思うのじゃが・・・今のところ、前者、といった感じかもしれぬのう・・・。

・・・物語としてどうかと思うがの・・・。

その内、修正する時は、割合を一定にしたいものじゃのう・・・。


さて、補足に入るのじゃ。

今日は2点なのじゃ?


まずは1点目。

アトラスが漕いでいた自転sy・・・発電機の端子がショート状態にあった件について、なのじゃ。

経験がある者なら分かると思うのじゃが、モータや発電機の端子をショートさせて回そうとすると・・・ものすごくキツくなるのじゃ。

所謂、ブレーキをかけておる状態なのじゃ?

その原理については、『逆起電力』というキーワードを使ってネットで検索してもらうとして・・・ここで何が言いたいのかというと、アトラスが配線の接続されていない発電機を回しておっても気づかなかったのは何故なのか、ということなのじゃ。


本来、何も接続されていなければ、発電機やモータを回すのは、すごく楽なのじゃ。

じゃから、現代世界の知識があるアトラスなら、何も接続されていなければ、すぐに気づくはずなのじゃ。

それでも気づかなかったのは・・・コルテックスが、端子をショートさせることで、まるで発電機に負荷が接続されているように錯覚させていたからなのじゃ。

・・・え?負荷とは何か?それと、負荷が接続されると、ペダルが重くなるのはどうしてか?

・・・ggrなのじゃ!


で、次。

妾の設定が何かおかしい方向に進んでいっておることについて・・・。

これは、別に何もおかしくはないのじゃぞ?

この世界の真理なのじゃ・・・多分の。

まぁ、その話は、追々していくはずなのじゃ。

そうでなくては・・・今の妾は無いからの。


といった感じかのう?


・・・次回、『イブは電気犬の夢を見るかもだし?』乞うご期待!なのじゃ?

噂によると・・・イブ嬢の体細胞は、直列に繋いで、最大1300Vくらいの発電ができるとかできないとか・・・。

・・・多分、出来ないがの。

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