7.2-04 予想外の海4
アトラスを開放して、仲間たちに出発の挨拶して・・・そして、エネルギアの外の寒そうな世界へと、調査のために足を踏み出したワルツ、アトラス、コルテックスの3人。
重力制御で雪をかき分けながら進む彼女たちの目の前には・・・およそ2mほどにまで積もった雪の壁が、その行く手を遮るように、延々と続いていた・・・。
ビュォォォォ!!
「うはっ?!寒っ!」
雪の双璧の隙間を、ビル風のように強まった風が吹き抜けていき、そして自身の体温を急激に奪っていく・・・。
そんな状況に・・・胸に『傀儡』と書かれたTシャツ1枚と短パン1枚しか身に着けていないアトラスは、思わずその身を震わせた・・・。
すると彼に対して、
「・・・いやいや、なんで、上着を着てこなかったのよ・・・」
と、理由を知っていて問いかけるワルツ。
その問いかけにアトラスは・・・急にケロっとした様子に戻って、
「いや、この程度なら寒くないしな・・・。雰囲気だよ、雰囲気」
最近、どこかで、銀髪の狐娘が言っていたようなセリフを口にするのであった。
その辺は、流石兄妹、と言えるだろうか・・・。
・・・ところで。
未だに『こるてっくす』と胸に書かれた紺色のスク水を着込んでいた妹の方は、ワルツと兄が会話していた時に何をしていたのかというと・・・
「・・・ふっふっふ〜。雪といえば、やはり雪合戦ですよね〜・・・」
と言いながら、パウダースノーを手にして・・・油圧アクチュエータにも勝るとも劣らないその怪力で圧縮して、拳大の氷塊を作っていたようだ・・・。
「・・・コルテックス?分かってると思うけど、雪合戦に氷や石を詰めたらダメよ?」
彼女の作った氷塊が、一体ドコへと飛んで行くのかを想像したワルツは、雪合戦の結果、血まみれになってしまうだろう弟の姿を想像しながら、そう口にした。
するとコルテックスは・・・
「いえいえ〜。もちろん、アトラスにも、お姉さまにもぶつけるわけではないですよ〜?」
と、いつも通りの柔和な笑みを浮かべながら、首を小さく傾げて、返答する。
その後で彼女は・・・
「でも〜・・・」
そんな前置きを口にした後で、音か何かを探るように、何度か首をかしげてから・・・
ドゴォォォォン!!
と、非常に重いはずの自身の身体をその反動でバックさせるほどの力で、明後日の方向へと氷塊を投げつけたのである。
それから、その口を再び開いた。
「近くに悪いネズミがいるなら、その限りではないですけどね〜」
『えっ・・・?』
ワルツとアトラスが、彼女の言葉をよく理解できなかったためか、思わず聞き返すような声を上げた・・・そんな時であった。
じわぁ・・・
と、コルテックスが氷塊を投げた先の雪が、まるでケチャップを撒き散らしたかのように、ゆっくりと赤く染まっていったのである・・・。
どうやら、彼女の投げた氷塊が、雪の中に隠れていたマギマウスに直撃して・・・言葉にするのも躊躇われるような状態になったらしい・・・。
「もしかして、コルテックスには、マギマウスの姿が見えてるわけ?」
自身の生体反応センサーでは、マギマウスの姿が小さすぎたためか、ノイズに埋もれて検出できなかっために、驚きながらそう口にするワルツ。
するとコルテックスは、いつも通りの、にっこりとした表情を浮かべながら言葉を返した。
「はい。魔力特異体のマギマウスの場合は、身体から魔力が溢れ出てくる様子が聞こえてくるので、位置を特定することなど、造作も無いことですよ〜」
そう口にするとコルテックスは・・・その笑みを一段と深めて(?)、言葉を続けた。
「皆殺し・・・そう、皆殺しです。私のバカンスを妨害した者には単に死を!容赦はしませんよ〜?ね〜?アトラス〜?」
「いや、俺に振られても・・・」
コルテックスに向けられた笑みを直視できず、視線をずらしてしまうアトラス。
隣りにいたワルツも、明後日の方向を向いていたところを見ると・・・2人とも、今のコルテックスには関わりたくない・・・そんな様子である。
その後も・・・
ドゴォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
・・・と、まるで大砲から打ち出される砲弾のように、氷塊を亜音速まで加速して投げつけるコルテックス。
その度に、水っぽい効果音のようなものが、雪の壁の向こう側から響いてくるのは・・・つまり、何かが氷塊に当たって、そして弾けたから、ということなのだろう・・・。
それからエネルギアの周りを回って、300発程度の氷塊を投げた辺りで・・・
「んー、もう流石に、いなさそうですね〜」
と、すっきりした表情を浮かべながら、コルテックスはそう口にした。
「・・・雪が解けて無くなったら・・・すごい光景になってるんだろうな・・・」
「・・・もしかすると、雪が解けなくても、空から見れば、雪の中に赤い花が咲いたように見えてるかもね・・・」
「ものすごく見たくねぇな・・・」
「同感ね・・・」
気分爽快、といった様子のコルテックスとは対照的に、顔を深く翳らせながら、そんなやりとりをするワルツとアトラス。
2人は、エネルギアに乗り込んで離陸するときに、下の景色に眼を向けないことを心に決めたようだ・・・。
そんな折、2人の先にいて、野球の投手のように腕を回しながら肩の調子を確認していたコルテックスが、ふと頭に浮かんできたらしい疑問を口にし始める。
「それにしても〜・・・数百匹のマギマウス魔力特異体が一度に逃げ出すとか、完全に国家存亡の危機ですよね〜。マギマウスを投棄していたお姉さま方の責任は・・・まぁ、この際、棚上げにしておくとしましょう。問題は・・・その原因ですね〜。どうして彼らは、無人島から、この本土にやってこれたのでしょうか?」
明らかに原因はワルツとカタリナ(とルシア?)だったので、コルテックスは責任の所在を追求するのではなく、今これからをどうすべきか、考え始めたようだ。
「・・・・・・」
そんなコルテックスの言葉に、なんと言っていいのか分からない様子で、黙りこむワルツ。
もしも、マギマウスが原因で、国が滅ぶような事になってしまえば・・・と、今までの無責任な自身の行動を後悔しているようである。
その後で彼女は、一旦、小さく溜息を吐くと、マギマウスがどうやって本土に来たのか、その考えられる原因について話し始めた。
「・・・マギマウスが皆、氷属性(?)っぽいところから推測すると、やっぱ、海水を凍らせて、橋か船か・・・どこかその辺の移動手段を作って、海を超えてきたんでしょうね・・・」
と、アルタイルの名前を出すこと無く、考えを口にするワルツ。
どうやら、いい加減、責任転嫁を出来るほどの余裕も無くなったようである。
まぁ、それはさておいて。
彼女は、流氷のようなものを海に浮かべたマギマウスたちが、その上に乗ってやってきた、と考えているようだ。
対して、コルテックスは、その首を振りながら、考えうる別の原因を口にした。
「お姉さま〜?ネズミは海を泳ぎますよ〜?恐らく、地平線に見える程度の距離の無人島なら、条件さえ合えば、難なく泳ぎ切ってしまうのではないでしょうか〜?」
「つまり・・・無人島に隔離していたつもりが、実は、隔離でも何でも無かったってことね・・・」
魔法を使って海を超えてきたにせよ、あるいは泳いで海を渡ったにせよ、マギマウスたちにとっては離島など、監獄のうちにも入らなかった、ということなのだろう。
「・・・どうしようかしら・・・」
完全に、バイオハザード状態に陥ってしまっていることに、今更になって気づいて、頭を悩ませるワルツ。
しかし、悩んだところで問題は解決しないので・・・彼女は、とある2つの決断をすることにしたようだ。
「・・・とりあえず、件の無人島を、エネルギアの砲撃で消し飛ばすことにしましょう。で、逃げ出した個体については・・・」
そう言ってから、一旦、口を閉じて、眼を細めるワルツ。
彼女が言おうとしていたのは、逃げ出した個体をどうやって駆逐するかについてなのだが・・・それを簡単に口にすることができなかったようだ。
例えば、殺鼠剤をばらまく方法。
これについては、現代世界においても実績のある方法である。
しかし、駆除の対象として、ネズミたちだけでなく、生活域を同じくする他の動物達も巻き込んでしまう可能性を否定できなかった。
つまり、この世界に残る豊かな生態系を守ることを考えるなら、その選択肢を取るわけにはいかなかったのである。
あるいは、ネズミを狩る者たち・・・例えば猫やイタチを放つという方法も考えられた。
しかしこれも、人類の歴史が物語っているように、その場の生態系を大きく破壊してしまう可能性を否定できなかったので、この選択もまた、採るわけにはいかなかったようである。
他にも、遺伝子操作を行ったマギマウスを放って、生殖できなくする遺伝子を媒介させる、という方法もあるが、下手をすれば、大陸全土のマギマウスを絶滅させかねないので、この方法も選択できないだろう。
・・・では、ワルツはどうしようと言うのか。
彼女は、一度、閉ざしたその口を重そうに開けると・・・何故か嫌そうな表情を浮かべながら言った。
「・・・ミリマシンを大量に生産して、ばらまくことにするわ・・・」
ミリマシンの大量生産・・・。
つまり、エネルギアの船体を保護している補修用のミリマシンと同じものを大量に作って、そしてこの地方に散布するというのである。
言い換えるなら、小さな殺人マシーンを作って、選択的にマギマウスを駆逐する、とも言えるだろうか。
ワルツがそう口にすると・・・
「そうですか〜。がんばってくださいね〜」
と、人ごとのように、そんな返答をするコルテックス。
そして、
「・・・姉貴。応援だけしてるよ・・・」
アトラスの方も、今回ばかりは協力的ではなさそうであった・・・。
「あぁ・・・やりたくないわ・・・」
2人の応援の言葉(?)を受けて・・・しかし、ヤル気が0未満の様子で、口から溜息以外の何かを漏らしている様子のワルツ。
・・・どうやら彼女は、たった一人で、無数のミリマシンを作らなくてはならなくなったようだ・・・。
むしろ、彼女にしか作ることが出来ないので、それ以外に選択肢がない、と言うべきだろうか・・・。
酒は苦手なのじゃ・・・。
どんなに飲んでも・・・強くはならぬのじゃ・・・。
狩人殿は、どうしてあんなにゴクゴクと飲めるのじゃろうかのう・・・。
・・・まぁ、いいがの。
で、無事に帰ってきたのじゃ。
もう、外が暑くて、ギトギトな狐になってしまったのじゃ・・・。
これから先・・・服かリュックの中にターボファンでも仕込まねば、やっていけぬ気しかせん今日このごろなのじゃ。
さて。
補足に入ろうかのう。
書いておって思ったことがあるのじゃ。
・・・ワルツたちは、一体、何のために下船したのか。
単に原因を探るだけなら、船内にマギマウスが入ってきた時点で、何が起こっているかは分かったはずなのじゃ。
それでも、外に出たのは何故なのか・・・。
まぁ、そんな大それた理由があったわけではないのじゃが、マギマウスがどれほど逃げ出しておるのかを確かめるために外に出た、というわけなのじゃ。
最初の1匹だけでは、偶然と言う可能性も否定はできんかったからのう。
・・・単に、コルテックスとアトラスが、人生(?)で初めての雪を堪能してみたかった、と言う可能性も否定はできぬがの?
・・・で、次なのじゃ。
・・・多分、無いのじゃ。
いや、面倒になったわけではないのじゃぞ?
補足が無さ過ぎるのも、多すぎるのも如何なものかと思うのじゃ。
そう考えるなら、1話につき、1〜2点ほどの補足が最適ではなかろうか?
まぁ、その補足にも、色々な種類や大小はあると思うがの。
というわけで。
・・・次回、『イブは弾頭じゃないかもだし?!』乞うご期待!、なのじゃ?
・・・そういえば、イブ嬢の一人称が、今まで私だったのじゃが・・・まぁ、よいか。




