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7.2-03 予想外の海3

チュゥ!


ドゴォォォォン!!


小さなネズミの鳴き声と共に、エネルギアの艦内を包み込む冷気。

しかし、そのせいで、誰かが凍りついたり、傷ついたりすることが無かったのは、


「危なかったわね・・・」


ワルツがどうにかネズミの魔物・・・マギマウスごと魔法の押さえ込みに成功したからだろうか。

そのせいか、マギマウスは、自分の魔法を自分の身体に浴びて氷漬けになってしまったようだ。


「な、何なのこのマギマウス?!」


見たこともないような強大な魔法を使うマギマウス。

外見は子どもの手のひら程度の大きさしかない単なる小さなネズミだが、その身体のどこからそんな強大な魔法が出てくるのか分からなかったためか、ワルツの隣りにいたイブは、思わずワルツの服の裾を掴みながら、驚きの声を上げた。


「このネズミは・・・遺伝子操作の実験に使ったマギマウスね・・・」


と、マギマウスの背中に書かれていた黒いローマ数字に眼をやるワルツ。


彼らは、医務室で寝ている勇者パーティーの魔法使いであるリアの『放っておくと勝手に魔力が失われていく難病』を治療するために、所謂モルモットになったマギマウスであった。

より詳しく言うなら、膨大な魔力を体内で作り出すことの出来る『魔力特異体』の仕組みを活用して、リアを魔力特異体にしてしまおうという考えのもと、その原理を解明するために遺伝子を操作を施されたマギマウスである。


これまでに、何百、何千、あるいは万にも及ぶマギマウスたちが、その実験の対象となって作り出されてきたのだが、魔力特異体としての性質を発現しなかった個体・・・つまり、そのほぼ全数が、廃棄の対象となっていた。

しかし、彼らを処分することは、優しすぎるカタリナにも、そして単に無責任だった(?)ワルツにも出来ず・・・彼女たちは仕方なく、ルシアの転移魔法を使って、サウスフォートレスの南の海上に浮かぶ無人島に、マギマウスたちを投棄していたのである。


今回、どうやら、そのマギマウスの一部が、実は魔力特異体の性質を持っていて、そして海を超え、本土に戻ってきてしまったようだ・・・。


「いんでんしそーさ?」


ワルツの口から、呪文まがいの言葉が飛び出してきたために、首を傾げるイブ。

一部、現代世界の知識を持っている彼女でも、流石に『遺伝子操作』という単語までは知らなかったようだ。


そんな彼女の疑問に答えたのは・・・ワルツではなく、コルテックスであった。


「遺伝子操作というのは〜・・・簡単に言うと、ネズミの身体の中を好きなように改造してしまう、ということです。例えば〜・・・とても足が早くなったり、頭が良くなったり、といった感じですね〜」


と端的に説明するコルテックス。

ワルツが説明すると・・・適当に端折り過ぎて何が何だか分からない説明になるか、あるいは細かすぎて何を言っているのか分からない説明になる、と思ったようで、彼女はワルツが説明する間に割り込んだようだ。


・・・いや、正しくは、ワルツに言いたいことがあって、他のものに割り込まれたくなかった、というべきか。


「・・・ところでお姉さま〜?」にっこり


艦橋の中から見えていた真っ白な地面に向けていたような、じとーっ、とした粘り気がありそうな笑みをワルツに向けるコルテックス。

そして彼女は・・・ワルツにとって、とても不都合なことを問いかけた。


「今回の一件・・・犯人は、お姉さま方だったのですね〜・・・?」


「え?い、いやー、まだ分かんないわよ?もしかしたら、アル○○(ピー)ル辺りが、嫌がらせを兼ねて、魔力特異体のマギマウスをばら撒いただけかもしれないし・・・」


「・・・・・・はぁ〜」


結局、その場合であっても、マギマウスを生きたまま投棄したのはワルツたちなので、原因は変わらないのだが・・・コルテックスはそんな文句をワルツに言ったところで、何も問題が解決しないことに気づいたのか、大きくため息を吐いてから、口を噤むのであった。


と、そんな時、


・・・チュゥ!


最近どこかで聞いたような・・・そんな鳴き声が急に辺りへと響き渡った。

その瞬間、


カチンッ・・・


という擬音が似合う姿で真っ白になって・・・そして固まってしまうコルテックス。


『!』


その様子に仲間たちが気づいた時には・・・すでに全てが終わっており、コルテックスを真っ白になるまで()()()()犯人は、忽然とその場から姿を消してしまっていた。

艦内に逃げた痕跡はないので、恐らく外へと戻っていったのだろう・・・。


「あっちゃー・・・。あのネズミ、凍りついたと思ったら、まだ生きてたのね・・・」


ワルツからはコルテックスの身体が邪魔になって見えなかったが、どうやらマギマウスは、自分の魔法で凍りづけになっても、そして死んでもいなかったようだ・・・。


「こ、コルテックス様?!」


急に自分の上司(?)がカチカチに固まってしまって・・・そして、それを見たイブは、ワナワナと震えながら、コルテックスに対して安否を問いかけた。

そんなイブの眼にコルテックスの姿は・・・恐らく、すでに絶望的な状態に見えているに違いない。


その他、狩人も、シラヌイも、飛竜も、眼を点にして驚いたような表情を見せていたところを見ると、皆、コルテックスの急な逝去(せいきょ)に戸惑っているようである。

つい数秒前まで、元気な様子を見せていたのに・・・。

そんな考えだけが、頭の中で渦巻いていることだろう。


・・・と、まぁ、事情を知らない者なら、彼女の様子を見て、そう思っても当然なのだが、一方で、彼女のことを獣耳の天辺から尻尾の先端まで知り尽くしているワルツとアトラスには、少し違って見えていたようだ。


「・・・コルテックス、何やってんの?」


眼を細めながら、真っ白になって凍りついてしまったように見えるコルテックスへと問いかけるワルツ。

一方、コルテックスの隣にいたアトラスも、コルテックスのその様子に、何か納得出来ないことがあったようで、首をかしげながら、おもむろに口を開こうとした。


「やっぱ、あれじゃね?か弱い乙女の振r」


ドゴォォォォン!


「ぐはっ?!」


・・・しかし、全身を縛られていたアトラスは、首につけられていた紐が急に下へと引っ張られたことで、床へと猛烈な勢いで沈み込んでしまう。


そんな彼の首から伸びていた赤い紐の先は・・・もちろん、コルテックスの手の中にあった。


「・・・まったく〜。人がせっかくやられた振りをしているのですから、妨害しないで欲しいですね〜。これだと、感動的な復活シーンを演出できないではないですか〜・・・」


と口にすると、身体に付いてしまっていた霜を、パキパキと落としながら、コルテックスは何事もなかったかのように再び動き出した。


そんな彼女に対して・・・


『?!』


先ほどとは違う理由で、驚いた様子を見せながら、眼を点にする仲間たち。

死んだと思っていたら、実は問題なく生きていた・・・。

言葉に出さずとも、仲間たちの視線がそう物語っていたことについては、言うまでもないだろう。


「まったく〜。私がこの程度のことで、()られるわけがないではないですか〜。もしも、本当に大変なことになりそうだったら〜・・・まずは近くにある肉の壁(アトラス)を使って、どうにか安全を確保しますよ〜?ね〜?アトラス〜?」


「嫌だ・・・その問いかけに答えたくない・・・」


縛られたままだったために、床から立ち上がることも出来ず・・・身体をぴーんと伸ばしたうつ伏せ状態のまま、心底イヤそうに返答するアトラス。


「はいはい。コルテックス?そろそろ、その小動物(アトラス)を離さないと、ホント洒落にならないレベルで、肉の壁じゃなくて肉塊になっちゃうわよ?」


次回、襲われた時も、同等の魔法が飛んで来る程度なら特に問題は無いのだが、必ずしもそうとは限らないことを考えて、ワルツはそう忠告した。

するとコルテックスは、


「・・・そうですね〜。せっかくの騎士様を無駄に肉塊にしてしまうというのは、単なる愚策でしか無いですよね〜。仕方ありません。・・・ほら、無事に大自然に帰るのですよ〜?」


まるで、虫カゴの中にとらえた蝶を離すかのような口ぶりで喋った後、


ブチブチブチ・・・


と、ピアノ線の5倍は丈夫そうなミスリル製のワイヤーを、細い蜘蛛の糸か何かを切るように、素手で引きちぎる。

その際、アトラスが、


「んがっ!絞まる!絞まるって!」


と、床を叩きながらギブアップのサインを出していたのだが、実際には、ワイヤーで皮膚に赤い跡がついたり、ワイヤーが絞まっても息が止まることは無かったようだ。

なお、その理由については、コルテックスが力を加減したわけではない、とだけ言っておこうと思う・・・。

ま、まずいのじゃ!

明日は水曜日じゃというのに、ストックが無いのじゃ・・・。

こ、このままでは、駄文しか書けぬ狐になってしまうのじゃ!


・・・というわけで、今日のあとがきも省略させてもらうのじゃ?


・・・次回、『実はコルテックスじゃなくて、妾だった!』乞うご期待!、なのじゃ?

・・・もしも替え玉をしておったら・・・今日の話で、妾は死んでおったじゃろうのう・・・。

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