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7.2-01 予想外の海1

そして場面は再び・・・


キィィィィン・・・


と、甲高い音を上げながら、高温高圧の空気を吹き出して、そしてその反動で回した大きなファンが生み出す推力で、空を進むエネルギアの艦内へと戻る。


「・・・失敗しました〜」


艦橋から見える景色に眼を向けながら、急にそんなことを呟くコルテックス。

そんな彼女の表情は・・・しかし、どう見ても、後悔しているようには見えなかった・・・。


「ん?急にどうしたんだ?」


と、彼女の近くにいて、全身を赤い紐で縛られ・・・そして逃げられないように艦橋の座席へと括りつけられていたアトラスが問いかける。


「せっかく街に降りて、お昼すぎまでいたのですから、昼食くらい食べて行ってもよかったかな〜、って思ったんですよ〜」


「そうか・・・俺たちは軽く食べたけどな」


と、満足気に話すアトラス。

ワルツたちと共に行動していた彼は、姉に付き合って、軽く昼食を取っていたのである。

ちなみにその内容は・・・ワルツと同じく、串焼き(鳥)だったりする・・・。


なお、アトラスたちは、自分たちの分だけでなく、エネルギアで待っているだろう仲間たち全員の分(すでに満腹状態の飛竜を除く)を購入してきたのだが・・・アトラスはあえてそれを言おうとはしなかった。

どうやら彼は・・・


「そうでしたか〜。うらやまですね〜。・・・で、もちろん、私たちの分も買ってきてくれたんですよね〜?」


・・・と、口にするだろうコルテックスに対して、最近の仕打ちに対する(ささ)やかな復讐をするために、本当の事は伏せておこうと考えたようだ。


そしてアトラスは、時は満ちた!、と言わんばかりに、以前からコルテックスのため(?)に用意していた言葉を口にしようとした。


「・・・ねぇよ!そんなm」


「あるぞー?」


「か、狩人姉ぇ・・・」


・・・しかし、横から狩人が割り込んできて、ちゃんと食事を用意してきたことをバラしてしまう。

どうやら、彼は、単なる気の利かない兄になってしまったようだ・・・。


「流石は狩人さん。愚兄とは頭の作りがまるで違いますね〜」


「ちょっ・・・」


そこまで声は出るものの、それ以上、何も言い返せない様子のアトラス。

そんな彼に対して・・・


「・・・・・・」にっこり


と、コルテックスが無言で言い知れぬ気配を纏った笑みを浮かべていたところを見ると・・・


「お、おまっ・・・図ったな!?」


彼女には、最初からアトラスの行動など、お見通しだったようだ・・・。


「はいはい。どうでもいいけど、仲良くね」


アトラスが明らかに劣勢になったところで、艦長席に座りながら、2人のやり取りを見ていたワルツが口を挟む。

先ほどアトラスを吹き飛ばしてしまったことに対して、ワルツは償うつもりで、彼の肩を持つことにしたようだ。


そんなワルツとホムンクルス2人のいつも通りのやり取りが続く背後では・・・狩人による食事の準備が着々と進んでいた。


「・・・確か、このスイッチだったか?」ぽちっ


まるで携帯端末の使い方が分からない高齢者のような反応を見せながら、艦橋の壁についているパネルを、恐る恐るといった様子で操作して、食事のための机を準備しようとする狩人。

しかし、幸いなことに、スイッチの操作は間違っていなかったようで、


ガション!


と、エアシリンダーが付いた可動式の机が、床から無事に生えてきた。


・・・ところで、である。

本来ならこういった艦内の操作は、狩人ではなく、この船を自身の身体とするエネルギアが行うはずであった。

具体的には・・・『エネルギア?机を出してもらえるか?』『わかったよ。狩人さん』といったような、ある意味、音声認識のようなやり取りをすることになるだろうか。


しかし今回、狩人は自分で操作を行ったのである。

つまり・・・この艦橋には、エネルギアの意識が無かったのだ。


「・・・全く、困ったものよね・・・。()()二人には・・・」


自身の後ろで、四苦八苦しながら、昼食の準備を進める狩人の姿を機動装甲の広角カメラで眺めながら、おおむろにそんなことを呟くワルツ。

その言葉は・・・目の前で、いつも通り柔和な笑みを浮かべたり、自身の生まれを呪ったりしているようなホムンクルスたちに対するものではなかった。

では、誰のことを指した言葉だったのか、というと・・・本来ならこの船を操艦しているはずのエネルギアと、サウスフォートレスの復興事業に参加しているはずの剣士に対するものだったのである。


・・・要するに、エネルギアに轢殺(れきさつ)されかかって、先程までカタリナたちの治療を受けていた剣士が、未だ意識を取り戻していなかったためにまだ医務室で寝かされていて・・・・・・そして、そんな彼からエネルギアが離れようとしなかったせいで、今、この船は、ワルツが操艦していたのだ。

そんなべったり(?)な2人を思い出して、彼女は思わずぼやいてしまった、というわけである。


「まぁ、そう言うなよ。エネルギアだって責任を感じてるんだろ?私だって、ワルツに同じようなことをしてしまったら、何も手が付けられなくなるだろうしな・・・」


ワルツが何に対してぼやいたのかを察したようで、一通り昼食の準備を終えた狩人が、誰に宛てたでもないワルツの独り言に返答した。


「そうですね・・・そうかもしれませんね・・・(ん?なんか引っかかるけど・・・ま、いっか)」


狩人が何かを副音声を言葉に乗せていたような気がしたワルツだったが、理解できなさそうだったので、とりあえず気にしないことにしたようだ・・・。


「さてと。じゃぁ、みんなをここに呼びますね?」


「あぁ、すまない。流石に・・・その、『かんないほうそう』と言ったか?アレの使い方は私には分からないからな。頼むよ」


「あ、はい。任せて下さい(スイッチ押して、話すだけなんですけど・・・)」


ボタンが1つしか無い艦内放送のことを思い出しながら、一人で昼食の準備を進めていた狩人に対して、そう口にするワルツ。


こうして、乗艦してから、バラバラの場所へと散らばっていた仲間たちが、一旦、艦橋へと集まることになったのである・・・。




・・・そのはずだった。


『すみません、ワルツさん。せっかく声を掛けていただいたのですが、剣士さんが多臓器不全でまた死にそうになってるので・・・後ほどこちらから食事を取りに伺います。・・・あ、それと、本当なら下船せずに、手伝ってもらう予定だったシリウス様も、今日はこれから、こちらで手伝っていただきますので、彼女の分の食事は明日の朝ごはんまでいりませんよ?』


とカタリナ。


『ドラゴンさん、『もう食べれぬ・・・』とか言って、ぐったりしてるから、今はパスかもだし?』


とイブ。


・・・といったように、カタリナ班に属するテンポとユキの3人(とシュバル?)は剣士に付きっきりになる必要があって来れず、そしてイブ班の2人も、諸般の事情により、昼食会には参加できないようだ。


唯一、やってきた来たのは・・・


ガション!


「・・・鎖を作りすぎて手が痛いです・・・」


・・・と、いつも通りに独り言を口にしながら、腕を包帯でぐるぐる巻きにしたシラヌイだけであった。

どうやら彼女は、忙しかったカタリナに回復魔法を掛けてもらえず、応急処置的に薬を練り込んだ包帯を手に巻きつけてきたようだ。


「この匂い、湿布の匂いね・・・」


その特徴的な薬っぽい香りに、どこか懐かしげに眼を細めながら呟くワルツ。


「しっぷですか?」


湿布、という言葉を初めて聞くのか、シラヌイは首をかしげながら問いかけた。

すると、その言葉に反応したのは・・・用意した食卓に着いて、皆の到着を今か今かと待っていた狩人である。


「荒稽古をした時なんかで、打撲した場所に貼っておくと、次の日には楽になってる薬草のこと・・・でいいんだよな?」


どうやら、この世界・・・特にミッドエデンでは、湿布の名を冠する薬草があるようだ。

もしかするとミッドエデンの高齢者たちは、皆、背中や腰に、緑色の葉っぱを貼り付けているのかもしれない・・・。


「詳しいことは分かりませんが、大体そんな感じだと思います。えーと、シラヌイ?その薬って、自分で調合したの?」


カタリナなら、筋肉疲労や擦り傷には、忙しくても薬ではなく回復魔法を掛けるはず・・・。

そんな予想をしながらワルツは問いかけた。


「はい。少々臭うのが欠点ですが・・・薬草を潰して、ひまし油に溶いて、そして包帯に湿らせて痛い所に巻く・・・。おじいちゃん・・・えっと、祖父からから教えてもらった、秘伝の治療法です」


(それ言っちゃったら、秘伝じゃ・・・・・・ま、いっか・・・)


ほとんど形骸化している『秘伝』という言葉に対して、苦笑を浮かべるワルツ。

それから彼女は、現代世界にある湿布を思い出しながら、ふと湧いてきた疑問を問いかけた。


「ふーん。それってやっぱり、貼ったら温かくなるとか?」


「はい。よくご存知ですね?どうして温かくなるなるのかは分かりませんが、この効果を利用して、寒い日に懐炉(かいろ)の変わりに使うこともあるんですよ?」


(それって、薬効成分とかどうするのかしらね?)


《薬も過ぎれば毒となる》ということわざを思い出しながらそんなことを思うワルツ。


するとシラヌイは・・・どこかハッとしたような表情を浮かべながら、外の景色に目をやって、口を開いた。


「例えば、こんな日は、懐炉が欠かせませんよね」


『・・・え?』


シラヌイが急に何を言い始めたのか分からなかったためか、戸惑いの声を上げるワルツと狩人。

そんな彼女たちが、シラヌイの視線の先へと眼を向けると・・・


ビュオォォォォッ!!


雲の隙間から見える、本来なら青々とした景色が、どういうわけか真っ白になっていたのである・・・。

うーむ・・・。

土日も忙しすぎて、結局、ストックが0のままなのじゃ・・・。

まぁ、期日までには時間はある故、水曜までにはどうにかなる・・・いや、どうにかするじゃろう。


でじゃ。

早速補足してしまうのじゃ。

・・・んー・・・なんじゃったかのう。

1つ重要なものがあったのじゃ・・・。

なんじゃったか・・・あ、そうじゃ。

湿布についてなのじゃ。

・・・全然、重要でも何でもないのじゃ。

まぁ、それは置いておいて・・・。


ミッドエデンの湿布代わりの薬草も、シラヌイが湿布(?)の原材料として使っておる薬草も全く同じものなのじゃ。

加工するか、否か。

それだけの違いなのじゃ。

見た目は手のひら大の葉っぱ。

触った感触は・・・アロエの中身。

そんな感じなのじゃ?

じゃから、わざわざ加工しなくとも、単に貼り付けて使うことも簡単に出来るのじゃ?


・・・ちなみに、どうでもいいことじゃが、この薬草は食虫植物じゃぞ?

葉っぱに付いた虫を、その粘液に含まれる神経毒(麻痺)で捕らえて無力化し、徐々に溶かしていく・・・。

まぁ、人が溶かされることは無いがの?


他は・・・エネルギア嬢についてかのう?

どこからがエネルギア嬢で、どこからが船のことなのか・・・。

エネルギア嬢については、『エネルギア』と書いておるのじゃ。

で、船体の方のエネルギアについては、『船』や『艦』と書いておるのじゃ。

・・・まぁ、そう書かずとも、なんとなく分かってもらえるとは思うのじゃがの?


今日はこんなところかのう。


・・・次回、『イブ、寒中水泳』乞うご期待!、なのじゃ?

・・・・・・やらせてもいいかもしれんのう・・・。

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