7.1-27 ミノタウロス10
ドゴォォォォン!!
立ち上がった大きな水柱。
その様子は・・・水面近くを漂っていた爆発物が破裂した際に起こる現象と同じである、と言っても過言ではないだろう。
・・・まぁ、爆発物が破裂した場合と大きく異なる点は・・・その水柱が静まった後、その場からスク水姿のコルテックスが無傷で現れたことだろうか。
どうやら先ほどの水柱は、爆発ではなく、コルテックスが水中を移動した際に起った現象だったらしい。
「お宝をゲットしましたよ〜?」
満面の笑みを浮かべて、そんなことを言いながら・・・どういう原理なのか詳しくは分からないが、まるで湖面に見えない土台でもあるかのようにして、水面に立っている様子のコルテックス。
そんな彼女の手には、何やら棒状のものが握られていた・・・。
「・・・無事だったみたいね」
「そりゃそうだろ・・・」
全長120cm程度の棒状の何かを右手に握りしめ、左手で腰に手を当てながらポーズを決めているコルテックスに対して、ジト目を向けるワルツとアトラス。
そんな視線が自身に向けられていることに気づいたのか、コルテックスはポーズを取ったまま、ワルツたちの方を向いて口を開いた。
「おやおや、お姉さまではないですか〜。洞窟の探検は終わったのですか〜?」
「いや、別に探検してるつもりはないわよ。・・・っていうか、ここには、ミノタウロスのお宝を探しに来てたんだけど・・・それ何?」
「これですか〜?」
そう言ってから、ようやくボーズを解いて・・・そして、手に持ったそのお宝(?)に視線を向けるコルテックス。
それから彼女は、その棒状の何かを・・・
「アトラス〜?パスです!」
ブゥン!!
・・・湖畔にいたアトラスに向かって投げつけた。
「・・・はいよっ」
ドゴォォォォン!!
超高速で回転しながら飛んできた何かを、特に慌てる様子なく、簡単に受け取ったアトラス。
ただし、ソレを受け取った結果、彼はその衝撃で、爆音を上げながら、3mほど後ろに後退してしまったようだが・・・。
「おまっ!投げる力が強すぎんだろ!」
「いえいえ。そんなことはないですよ〜?衝撃が大きかったのは・・・それが、正真正銘、お宝だったからではないでしょうか〜?」
「・・・これがか?」
そう言って、受け取った棒状の何かをしげしげと見つめるアトラス。
ソレはどう見ても・・・
「・・・鉄パイプよね?」
「・・・鉄パイプだな」
「・・・鉄パイプ?」
「・・・鉄で出来たパイプですよ?」
・・・そんなワルツたちの反応の通り、先端が少しだけ曲がった、単なる鉄パイプであった・・・。
「これ、多分アレよね?私とルシアがここを作った時に、上から間違えて落とした配管用の鉄パイプ。・・・まさか、こんなのがお宝なわけないじゃない・・・」
と、ワルツは副音声(?)で『小学生じゃあるまいし・・・』と、小さな声で実際に付け加えながら言った。
しかし、魔力を感じられる者にとっては、特別な一品だったらしく・・・
「・・・こ、これがお宝・・・」
耳をピクピクと動かしながら、鉄パイプに見入るイブ。
そして、
「・・・まるで、伝説の魔剣のようだ・・・」
勇者も、今までグッタリとしていたはずなのに、急にイキイキとした表情を浮かべて、鉄パイプに驚愕の視線を向けていた。
そんな2人の様子を見る限り、どうやらこの鉄パイプは、本物のお宝のようである。
まぁ、ノリの良い勇者や、まだ幼いイブのことを考えれば、何てことはない単なる鉄パイプの可能性も完全には否定出来ないだろうか・・・。
「・・・いや、確かに、地底湖に沈んでいた内に変質した可能性も否定出来ないけどさ・・・」
単なる鉄パイプなのか、それとも、伝説(?)の鉄パイプなのか・・・。
・・・とはいえ。
武器を使わないワルツにとっても、それを見つけたコルテックスにとっても、どうでもいいことだったようである。
実際、第一発見者であるコルテックスが、ワルツたちのところへと、水面を歩いてやってきて・・・
「それ、いらないので、よかったら差し上げますよ〜?」
そんなことを口にした。
すると・・・
「・・・?!な、なら、ちょっと貸して欲しいかも?!」
と、鉄パイプを所望するイブ。
恐らく彼女は、伝説の武器(?)を手に入れれば、少しでも仲間たちと一緒に戦えるかもしれない、などと考えているのだろう。
しかし・・・
「ほら。気をつけろよ?」
と、アトラスに鉄パイプを渡されるも・・・
「!?」
ガゴォンッ!!
イブはその重さに耐え切れずに、地面に落としてしまう。
「・・・む、無理かも・・・」
地面に落ちてしまった鉄パイプを、どうにか拾おうとするイブだったが、その小さな手で自分の身長ほどの長さはある大きな鉄パイプを持ち上げるのは、どう頑張っても難しいようだ。
その結果、自分の非力さを実感したためか、落ち込んでしまった犬の獣人のイブ。
そんな彼女に対して声を掛けたのは・・・猫の獣人の狩人であった。
「・・・なぁ、イブ。これを持ってみろ」
そう言って、イブに対して、愛用のダガーを渡そうとする狩人。
「・・・?」
イブは、その一見すると重そうなダガーに、最初は戸惑ったような視線を向けるも、優しげな笑みを浮かべながら得物を差し出してくる狩人の姿を見て、とりあえず試しに持ってみることにしたようだ。
そしてイブは、狩人からダガーを受け取るのだが・・・
ひょいっ・・・
「か、軽っ?!」
存外に軽かったためか、受け取ってから変な体勢になってしまう。
重そうなものを渡された結果、とても軽るくて、拍子抜けした様子、と言えば分かるだろうか。
その後で、イブは、後ろに傾いてしまった身体をどうにか持ちこたえると、手にしたダガーを興味深げに見つめながら、その感想を口にした。
「く・・・空気?」
「いや、流石にそこまでは軽くないだろ・・・」
「でも、多分だけど、厨房で使ってる包丁よりも軽いかもよ?」
「それは・・・否定出来ないな」
王城の厨房にある、王都の鍛冶屋が作成した大きな洋包丁を思い出しながら、同意の言葉を口にする狩人。
そんな彼女に対して、イブは思わず問いかけた。
「もしかしてこれ・・・伝説の武器?何処で手に入れたの?狩人さん」
「これはな・・・」
そう言ってから、小さく笑みを浮かべつつ、ワルツに視線を向ける狩人。
その先ではワルツが・・・同じように微笑みながら、小さく首を振っていた。
どうやら、そのダガーを作った本人である彼女は、ダガーの出処を明かしてほしくらしい。
・・・その結果、狩人は、本人しか分からない程度に眼を細め、適当に逸らかすことにしたようだ。
「・・・実は、世界を渡り歩いている伝説の鍛冶屋に作ってもらったんだ」
(・・・伝説の鍛冶屋ってところを私の名前に変えれば、嘘じゃないですね・・・。その言い訳)
そう言いながら、くすぐったそうに笑みを浮かべるワルツ。
しかし、イブには、そんなワルツに気づいた様子はなく、ダガーに向かって宝物を見るような視線を向けながら・・・
「ふーん・・・世の中には、すごい人がいるかもなんだねー」
それと同時に、未だ見ぬ伝説の職人に対して向けただろう憧れのような色を、その視線に込めるのであった。
「そうだな・・・・・・イブが、いつか剣士になるようなことがあれば、その伝説の鍛冶屋に会って、すごい武器を作ってもらえるかもしれないな。・・・あ、一応言っておくが、世の中には、伝説の鍛冶屋だけでなくて、色んな伝説を持った人たちがいるから、剣士になる必要はないぞ?」
「・・・確かに、そうかもしれないね。いつか会えるといいかも・・・」
そう言った後で、名残惜しそうにダガーを狩人に返すイブ。
そんな彼女が、狩人の言葉に隠された2つの本当の意味に気づいたかどうかは・・・イブのみぞ知る、といったところだろうか。
そんなこんなでイブは、狩人の伝説の職人発言に納得したようだが・・・・・・一人、納得出来ないものが新たに現れたようだ。
「・・・刃物と聞いて!」
・・・今まで鎖を作り続けていたはずのシラヌイである。
どうやら、イブと狩人び会話が、遠くで作業をしていたはずの彼女の刃物センサー(?)に引っ掛かったらしい。
なお、その原理は、もちろん不明である・・・。
「ちょっ・・・シラヌイ!その辺の話は後で詳しくしてあげるから、今は大人しく下がりなさい!」
このままだと、狩人の話がフェイクであることに気づかれそうだったので、急いで介入するワルツ。
すると、何故か、シラヌイは・・・
「えっ・・・じゃぁ、後で、刃物の話をしてくれるんですか?!」
そう言いながら、そのキラキラとした視線をワルツへと向けたのである・・・。
「えっ・・・う、うん・・・。アトラスがね」
「はぁ?」
急に話を振られて、戸惑うアトラス。
そんな彼に・・・
「あ、アトラスさん!不束者ですが、よろしくお願いします!」
シラヌイは興奮気味に顔を真赤にしながらそう言って、頭を下げた。
この時点で、アトラスによる刃物の講義(?)は不可避となってしまったようである・・・。
「えっ・・・お、おう・・・(おい、姉貴!何しやがる!)」
「(え?別に知識はあるんだから、問題ないでしょ?)」
「(いや、そうじゃねぇ!修羅場を作るような真似はやめろって言ってんだよ!)」
「(は?)」
センサーでは見ることの出来ない場の空気と、人間関係が読めなくて、眉を顰めながら、頭を傾げるワルツ。
一方でアトラスの方は、ワルツから視線をずらして・・・妙な気配を出しているコルテックスの方へと眼を向けた・・・。
するとそこでは・・・
「アトラス〜?モテモテですね〜。これは妬けてしまいそうです」にっこり
と、まとわり付くような・・・あるいは粘着くような、言い知れない笑みを浮かべるコルテックスの姿が・・・。
「ちょっ・・・っていうか、今のやり取りを見てたら、事情くらい分かるだろ?!」
「えぇ、もちろん、分かってますよ〜?」
「だ、だったら・・・」
「でも〜・・・困るアトラスの姿が可愛いので、このまま責めようと思います。ね〜?お兄ちゃん?」
「・・・・・・やっぱりそうなるのか・・・」
結局、どう避けようとしても、修羅場展開からは逃れられない事に気づいて、頭を抱えるアトラス。
こうして彼は順調(?)に、昼ドラの世界へと突入していくのであった・・・。
そんな2人(?)が、いつものやり取りをしているその背後で、それとは異なる別のやり取りが展開されていた。
「・・・なぁ、ワルツ。この武器、貰ってもいいか?」
現状において、自分の武器を持たない勇者が、鉄パイプを欲しがっていたのである。
「え?誰もいらないから、貰っちゃってもいいと思うわよ?コルテックスも、こんな産廃、いらないと思うし・・・」
「さ、さんぱい・・・?・・・まぁ、いいや。なら、貰っておくぞ?」
そう言って、鉄パイプを握りしめ、非力なイブとは違って、軽々と持ち上げる勇者。
「・・・・・・うん!まるで、今まで使い込んできた愛用の武器のような手触りだ・・・。流石にこのままだと、腕に振動が伝わってくるだろうから、少し改造が必要かもしれないが・・・悪くない!」
「・・・なんか、小学生みたいなことを言ってるようにしか聞こえないわね・・・」
「えっ?しょうがくせい?」
「ううん。気にしないで」
現代世界の言葉が通用しないために、勇者とのコミュニケーションに多少の支障が生じているものの、ワルツはいつも通り面倒くさかったのか、自身の言葉については説明をせずに、単に笑みを浮かべて誤魔化すのであった。
もしかすると勇者にとっては、今、彼が手にしている鉄パイプも、『鉄パイプ』という認識ではなく、そういった形状をした鈍器のように見えているのかもしれない・・・。
ともあれ。
こうして勇者は、新しい武器『鉄パイプ(?)』を手に入れたのであった・・・。
・・・あ、明日じゃ。
明日は書いておる時間が無いのじゃ・・・。
じゃから、明日の分を今日書かねばならぬのじゃが・・・ストックはいつも0なのじゃ・・・。
と、いうわけで。
今日もあとがきを省略するのじゃ。
ご了承ください、なのじゃ。
・・・次回、『ミノタウロス粒子砲発射!』乞うご期待!、なのじゃ?
・・・きっと、大量のミノタウロスたちを、超巨大な粒子加速器か何かで加速して打ち出すんじゃろうのう・・・。
・・・粒子加速器で、ミノタウロスが加速できるかどうかは不明じゃが・・・。




