7.1-26 ミノタウロス9
『ぜぇはぁぜぇはぁ・・・』
疲れ果てた様子で荒い息を吐く勇者と狩人と・・・そして、2人を介抱していたユキを引き連れて、先頭をゆっくりと歩いていくワルツ。
そんな彼女の隣を歩いていたメイド服姿のイブが、今後の予定を確認するような形でワルツに問いかけた。
「ねぇ、ワルツ様?これからどうするの?」
壁に穴を開けたところで、兵馬俑のようにずらりと並んだミノタウロスたちが押し寄せて・・・。
それから彼らを軒並み駆逐した後で、結界の境界部分を探し、そこの異空間(?)に彼らの死体を投棄して・・・そして現在に至る・・・。
・・・要するにワルツたちは、3つ目の境界部分を見つけてから、来た道を戻って、地底湖のある空間へと戻る過程にあったのである。
しかし、結界の影響を受けてしまうイブにとっては、何処か結界の境界部分なのかも分からず、宝の在り処についても見当が付けられなかったようだ。
そのせいで、ワルツが何処に向かって何をするために歩いているのかも、同じように分からなかったらしい。
ヘトヘトになって疲れきっているためか、後ろからゾンビのように付いて来ている大人たち(?)が、ワルツに行き先を問い掛けなかったことも、その疑問が増長する原因の一つだったと言えるだろう。
「もちろん、宝の在る場所の目星が付いたから、そこに向かってるのよ?」
「やっぱりそうだったんだ。流石はワルツ様かもだねー?」
と、素直に感心した様子で、ワルツに笑みを向けるイブ。
すると、ワルツの方は・・・
「んー・・・でも、予想は出来てたんだけど・・・」
そう言ってから、雲行きの怪しそうな表情を浮かべつつ言葉を続けた。
「・・・多分、宝の在り処は・・・地底湖の底ね」
「ふーん・・・」
ワルツのその言葉を聞いて、考えこむような素振りを見せるイブ。
今頃、地底湖では、水に浮かないコルテックスが、掃海船よろしく、何やら機雷(?)の爆破作業のようなことをしているはずだが、果たして宝は無事なのか・・・と、彼女は心配しているようだ。
もしも、宝が柔らかいものだったとすれば、爆発の圧力で粉々になっているに違いない・・・。
「イブは・・・宝物が気になるの?」
いつの間にか、歩く速度が上がって・・・そして、自分のことを追い越していたイブに、ワルツはそんな質問をした。
するとイブは、自身の黄色い尻尾と、メイド服の裾を翻すようにして、クルッと、ワルツの方を振り向いてから、その口を開く。
「お宝がもしも、綺麗な宝石だったらいいなって、ワルツ様は思わない?」
「・・・宝石ね・・・」
振り向いて自身に問いかけてくるイブに対し、少しだけ呆れたような、あるいは苦笑のような表情を浮かべるワルツ。
それから彼女は、足を止めることなく、左手を軽く持ち上げて・・・そして、その手にイブの視線が向いたことを確認してから、自身の身体を構成しているホログラムを操作した。
・・・その瞬間。
彼女手のひらの上に、金色に輝くサイコロ状の金属が現れる。
単に、一目、見ただけなら・・・金でできたサイコロに見えるのではないだろうか。
「すごっ!何これ?!」
何もない空間から突然現れた光り輝く金塊のようなものに、驚いた表情を見せるイブ。
そんな彼女に、ワルツは、眼を細めながら問いかけた。
「これは宝石ではないけど・・・つまりイブは、こんなのあればいいなって思ってるんでしょ?」
「えっと、大体そうかも」
「はぁ・・・。そんなんじゃ、安い女、って言われるわよ?」
「えっ・・・」
急にワルツがどうしてそんなことを言ったのか分からなかったイブは、直前とは異なる色の驚き・・・あるいは戸惑いとも言える表情を浮かべた。
そんな彼女に対して、ワルツは種明かしをする。
「これ、金じゃないわよ?」
「えっ・・・」
「パイライト、あるいは黄鉄鉱って呼ばれるタイプの鉱石ね。よく、金と間違われるんだけど、単なる鉄と硫黄の加工物だから、安い鉱石よ?」
「ちょっ・・・わ、ワルツ様に騙されたかも!?」
「ふーん。じゃぁ、これは?」
そう言ってワルツは、一旦手を握って黄鉄鉱のホログラムを消すと・・・再び手を開いて、今度は、透明な円形のガラスのような物体を表示した。
「・・・ん?何これ・・・・・・あ!」
妙に屈折して輝いて見えるその物質を見て、イブは持っていた知識の中から予想を口にする。
「だ、ダイヤ?」
「素直ねー。そういうのは嫌いじゃないわよ?でも、違うわ」
「やっぱり、ワルツ様、意地悪かも・・・」
「いや、確かに、似たようなものを選んだけど、これは何処にでもあるシリコンという材料を使って作った、高屈折率な光学レンズね。ま、値段を付けたら、ダイヤより高いんじゃないかしらね?ちなみに、ユキの眼の中にも入ってるわよ?」
「・・・え?」
「あの、何か言いました?」
「おっと、そろそろ地底湖に到着するみたいね」
眼を点にして驚いているイブと、自身の眼が云々と言っていたような気がして近づいてきたユキを差し置いて、ワルツはその足を早めると、地底湖のある空間にいち早く進んでいった。
その際、その場に残されたユキの眼を、イブが、じーっと覗き込んで、彼女の眼の中にあるだろう超高価なレンズを見ようとしていたのは必然・・・というよりも、体よくイブをあしらおうとしたワルツの策略が成功した、と言うべきだろうか・・・。
「で、戻ってきたわけなんだけど・・・」
再び、ミノタウロス牧場(?)に戻ってきたワルツたちが見たものは・・・
ムォォォォ!!(x255)
・・・出発する前と比べて、倍の数に増えていたミノタウロスたちの姿であった。
「・・・増えたの?これ・・・」
最早、牛舎としてどうかと疑ってしまうようなレベルで、超過密状態に陥っていたその光景を目の当たりにして、思わず眼を細めてしまうワルツ。
皆、オスに見えるのだが・・・つまり、ミノタウロスたちは、有性生殖ではなく、細胞分裂で増えた、ということなのだろうか・・・。
すると、彼女のその疑問に対して、流石に牛舎内の中にいられなくなったのか、開放された様子のアトラスが近づいてくると、おもむろに説明を始めた。
「コルテックスが、無闇に殺すなって言うから、捕まえて鎖で繋いでたら、ここまで増えたんだ。そのまま野放しにしておくわけにもいかねえし、シラヌイは延々と鎖を作ってるからな・・・」
カンカンカン!!
・・・今もなお、何処からともなく持って来たフォージハンマーをひたすら振り下ろし続けている様子のシラヌイに対し、呆れたような困ったような視線を向けるアトラス。
コルテックスにしても、シラヌイにしても、どうやらこのパーティーのメンバーは、フリーダムな者たちが多いようだ。
「・・・どうするの?これ・・・」
「さぁ?最終的には・・・飛竜が喰うんじゃないか?」
そう言ってアトラスは、別の場所へと視線を向けた。
するとそこでは・・・
バクッ!
ゴクンッ!
バクッ!
ゴクンッ!
と、美味しそうに、増えすぎたミノタウロスたちを丸呑みしていく飛竜の姿が・・・。
「・・・平常運転って感じね」
「・・・あぁ。後で困るのは俺じゃないから、別に良いんだけどな・・・」
大きなダチョウの卵を丸呑みした蛇のようなポッコリお腹になってしまっていた飛竜に対し、生暖かい視線を向けながら、そんなことを口にするワルツとアトラス。
彼女が今の状態で人間の姿になると、恐らく・・・・・・いや、そういった話は止めておこう。
「イブ?今は、飛竜にマナを飲ませちゃダメよ?多分、死ぬから」
「・・・・・・!?」ぶるっ
ワルツの言葉を聞いて、顔を青くしながら身震いするイブ。
恐らく彼女は、お腹の膨れた飛竜に対して、今、マナを飲ませるとどうなってしまうのかを想像してしまったのだろう・・・。
「それで・・・姉貴たちは、外に出る方法が分かったのか?」
洞窟内で繰り広げられていたカオスな光景に背を向けて、ようやく本題に入るアトラス。
その際、彼の眼に、疲れきった勇者の姿が入ってくるが、アトラスは『勇者が何故ここにいるのか』と問いかけるようなことはしなかった。
状況的に、一緒に結界内に閉じ込められてしまった、と容易に予想が付いたらしい。
「目処は立ってないけど、とりあえず試してみようってことがあって戻ってきたんだけど・・・そういえば、地底湖で泳ぐとか言ってたコルテックスは?」
「ん?今も、泳いでるんじゃないか?」
「・・・議長専任の守護騎士なのに、見てないのね」
「・・・この空間内にいる内は、別に見てなくても特に問題無いだろ。そう簡単に溺れるとも、ミノタウロスに襲われて負けるとも思えないしな・・・」
「・・・ま、それもそうね」
アトラスとそんな話をして、小さく溜息を吐きながら肩を落とすワルツ。
・・・すると、そんな時。
ドゴォォォォン!!
と、今までとは比べ物にならないほどの大きな水柱が、爆音と共に、地底湖に立ち上ったのである。
「・・・あれは・・・死んだわね」
「んなわけねーだろ・・・・・・多分」
水柱の規模から、流石に否定できなくなったのか、歯切れが悪くなるアトラス。
果たして、コルテックスは、水中で爆散してしまったのだろうか・・・。
現在、超速執筆中なのじゃ!
というわけで、あとがきは省略するのじゃ!
・・・次回、『コルテックス様の千切れた尻尾だけ見つかったかも?!』乞うご期待!、なのじゃ?




