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7.1-24 勇者と・・・・・・2

「・・・・・・」


「・・・・・・」にっこり


愕然、といった様子で、言葉を失っている勇者に対して、静かに笑みを向ける元魔王。

そんなユキの方はともかくとして、勇者の頭の中では、今まさに、カタストロフが展開されていることだろう。


そんな2人を様子を横から見ていたワルツは、何か思い出したことがあったのか、その口をおもむろに開いた。


「あー、そういえば、勇者が言ってたんだけど、魔王シリウス(ユキ)のことを討伐したいらしいわよ?」


「え?そうだったのですか?」


「ま・・・未来永劫(みらいえいごう)、無理だと思うけどね」


「いや、それは流石に言い過ぎでは・・・」


「だってさー?カタリナも私も、それにコルテックスも、バックでサポートに付いてるじゃない?」


「・・・それを考えれば、確かに誰にも負ける気はしないですね・・・」


「・・・っていうか、死にそうになっても、ゾンビ化させられて、無理矢理に戦わされそうだけど・・・」


「・・・・・・」


ワルツがそっぽを向いて小さく呟いた言葉が、ユキの耳に埋め込まれた高性能マイクロフォンに届いたのか、彼女は、ん?、と眉を顰めて・・・・・・そして、ゾンビ化した自分が勇者と戦っている様子を想像したようだ。

まぁ、その姿は腐乱状態のゾンビではなく、完全に白骨化したリッチだったようだが。


ワルツとユキが、そんなどうでもいい話を展開させていると、言葉を失っていた勇者が、プルプルと震えながら呟いた。


「一体、どういう・・・」


・・・どういうことなのか。

なぜ、ここに魔王がいるのか・・・。

恐らく彼は、そんな疑問を口にしようとして・・・しかしあまりの驚きに口が回らなかったのか、紡ごうとしていた言葉は、そこで切れてしまったようだ。


そんな勇者の問いかけの内容を、珍しく予想できたワルツは、ユキに代わって説明を始めた。


「いやさー、ちょっと色んなことあって、ユキんところの国が、今、大変なことになってるのよ・・・。で、ユキったら、わざわざ魔王を辞めて、私たちの所に勉強しにきた、ってわけ」


「・・・・・・え?」


端折り過ぎたワルツの説明では、現状の把握が全く出来なかったためか、勇者は眼を点にして、再び固まってしまった。

彼女の適当な説明のせいで、恐らく勇者の頭の中は、カタストロフを通り越して、超新星爆発(スーパーノヴァ)か何かに襲われているに違いない・・・。


「あの・・・ワルツ様?説明を補足してもよろしいでしょうか?」


「えぇ。構わないわよ?」


「では、失礼して・・・」


先程よりも勇者の様子が悪化して、豆鉄砲を喰らった鳩のような表情を浮かべていることに気づいたユキは、結局、自ら説明することにしたようだ。


「まず・・・」


ユキはそう言うと、ミッドエデンに魔王という身分を隠して、ボレアスの使者としてやってきた際の話から説明を始めた。

それから、自分の国で何が起こっていたのか・・・そして、自分たちがボレアスに戻ってから何が起ったのか・・・。

迷宮の話、姉の話、そして自分が魔王を辞めてワルツの元へとやってきた話・・・。

それらを、適切といえるレベルで端折って、簡単に説明したのである。


「・・・・・・そうだったのか」


ユキの説明を聞いて、事の次第をようやく理解する勇者。

やはり、ワルツの適当な説明では何も伝わらなかったようだ。


「そんなわけで、ウチのパーティーにユキがいるんだけど・・・・・・・ま、それはいいとして、問題は貴方のことよね・・・」


ユキの説明が終わったところで、勇者がパーティーに加わりたい、という話に戻ってくるワルツ。

それから彼女は、自身の内心を素直に口にした。


「で、正直なことを言うと、勇者を仲間に加えるっていうのは・・・ちょっと大変だと思うのよね・・・」


「それは・・・どうしてだ?」


そんな勇者の問いかけに、ワルツは3本指を立てて説明を続けた。


「理由は3つ。まず、その内の1つ目は・・・政治的な問題。勇者が『勇者』を辞めるかどうかは別として、魔神の下で修行するとなると、色々問題があるでしょ?主に、政府(エンデルシア)の面子の問題とかがさ?」


「それは・・・確かにそうかもしれない」


「で、2つ目。勇者が私の下で修行したとしても、強くはならない可能性がある、ってこと。狩人さんが強いのは、前から誰にも負けない能力があって、狩人さん自身が、それをひたすら磨いてきたからよ?貴方に可能性が眠っていなければ、私には・・・どうにもならないわね」


「・・・それについては・・・すでに覚悟してるつもりだ」


「・・・そう。なら、これが最後。・・・場合によっては、この問題が、一番大きいかもね?」


「・・・?」


「いやー・・・言いにくいんだけどさー?ウチのパーティー・・・全員女性よ?」


ワルツがそう口にすると・・・


『えっ・・・』


そんな驚いたような声を漏らしながら・・・狩人の方に視線を向けるユキとイブ。


「ん?なんかあったか?」


「いえいえ、何でもありません。ただの首の運動です」


「ゆ、ユキちゃんと同じかもだよ?」


「そうか・・・。なら良いんだが・・・・・・って、絶対、お前たち、私のことを男っぽいとか思っただろ?」


『・・・・・・』


狩人の問いかけに、急いで視線を逸らす2人。

しかし、話の流れ的に、ごまかせるものでは無かったようだ・・・。


とはいえ、狩人自身、自分が男らしい振る舞いをしていると気づいているらしく、彼女はそれ以上、2人の行動について追求することはしなかった。

・・・なお、彼女が、料理を趣味としているのは、少しでも女らしく見せるための努力の結果だったりする。


「・・・そんな感じで、ウチには女性しかいないのよ。カノープスは仲間・・・というか、ちょっと特殊な位置づけだし、アトラスはホムンクルスだから例外だしね・・・。ま、剣士や賢者も一緒に入ってくるなら、大した問題では無いかもしれないけどさ?」


「もちろん、可能であれば、剣士や賢者も一緒に入れてもらえると助かるが・・・・・・それについては、俺が勝手に決めるんじゃなくて、奴らにも一度、相談する必要があるか・・・」


そう言って、考えこむように地面に眼を伏せる勇者。

だが、これまでの剣士や賢者たちの行動を見ている限りでは、彼らが勇者の提案に対して、首を横に振るようなことは無いはずである。

それでも勇者が悩んでいるというのは・・・恐らく、自身の仲間たちだけでなく、母国に対して、なんと言い訳をすればいいかを考えているからなのだろう。

下手をすれば・・・ミッドエデンとエンデルシアとの間で、いらない火種を生む可能性にも繋がるのだから・・・。


「貴方と同じ理由で、私の方も、みんなに多数決を採るなり相談するなりしなきゃならないから、断るにしても受け入れるにしても、すぐには決められないわね」


考え込んでいる勇者の姿を見て、自身も勝手に決めるのではなく、仲間たちと相談することにした様子のワルツ。

『面倒くさい』の一言で片付けてしまうにしてはあまりに大きすぎる問題だったようで、この場で判断せずに、とりあえず棚上げすることにしたようだ。

・・・ある意味、面倒くさくなった、とも言えるかもしれないが・・・。


「・・・済まない。話し合ってもらえると、こちらとしても助かる」


「・・・分かったわ」


そう言って、頭を下げる勇者と、口約束を交わすワルツ。

こうして・・・いつの間にか巨大なグループになっていたワルツパーティーの面々が、ジェンダーの異なる勇者たちのパーティー加入について、一堂に会して議論する運びになったのであった・・・。

なお、この時点でのワルツパーティーの加入者数は・・・19名(カノープスは含まず、シュバルを含む)なのじゃ。

予定ではこの章でも増える予定なのじゃが・・・最終的には一体何人になるのかのう?


まぁ、それはさておきじゃ。

今日()ちょっと用事がある故、さっさと補足を書いてしまうのじゃ。


・・・勇者に対して、あまりいい思いを抱いていないはずの魔族のイブ嬢。

彼女が、仲間に入りたいと言った勇者に対して、ここまで何も反応を示していないのは、一体何故なのか・・・。

それについては・・・次回・・・書けるかのう・・・。

まぁ、何れにしても、そのうち書くのじゃ!

・・・補足になっておらぬのじゃ・・・。


で、申し訳ないのじゃが、今日はこんなところで御暇するのじゃ!

・・・次回、『恋する乙女、イブ嬢』乞うご期待!、なのじゃ。

え?ネタバレ?それは・・・どうかのう?

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