7.1-22 ミノタウロス7
狩人のソレは・・・戦いと言えるものでも、そして狩りと言えるものでも無かった。
普通に考えれば、自分の身長の2倍ほどはあるミノタウロスたちと正面切って戦うのは、自殺行為以外の何物でもないのだが・・・しかし狩人は、何か道具を使って撹乱するわけでも、隠れるわけでもなく、ミノタウロスに対して堂々と歩いて近いったのである。
その結果、どんなことが起ったのか。
言うまでもなく、彼らのキルゾーンに侵入した狩人が、巨大なラブリュスを脇腹に喰らい、壁の縁まで吹き飛ばされた・・・わけではない。
何故か、ミノタウロスたちは、彼女に攻撃を仕掛けなかったのである。
以前、彼女は存在感を希薄化する能力(?)を使って、大量の魔物たちを狩ったことがあったのだが・・・どうやら今回も同じような能力を使用しているらしい。
実際、ワルツの眼からは、彼女の存在そのものが、まるでこの世界からズレてしまったかように、認識出来るかどうかのギリギリのレベルまで薄まってしまっていたようだ。
(うわぁ・・・・・・前より影が薄くなってるんじゃない?極限まで影が薄くなると、こんな風になるのね・・・)
機動装甲に搭載された複数のセンサーを補完的に組み合わせることで、ようやく彼女の姿を捉えることに成功するワルツ。
ワルツの隣りにいたユキとイブたちが、眼をこすったり、周囲を見回しているところを見ると・・・恐らく彼女たちには、狩人の姿が全く見えていないのだろう。
一方で。
それはミノタウロスたちにとっても同じことだったようだ。
ムォ?
何が起ったのか分からない、といった様子で、狩人が目の前で消えたことを疑問に思ったような・・・そんな小さな唸り声を上げるミノタウロスたち。
その次の瞬間には、
バタンッ・・・
と、ミノタウルスたちは4体とも一斉に、その場の地面へと倒れこみ、そしてそれっきり動かなくなってしまった。
そんな彼らの身体からは、盛大に血が吹き出すようなことは無かったが、首の後の延髄があるだろう部分に、何か鋭い刃物のようなもので切りつけられたような跡ができていたところを見ると・・・・・・恐らく、狩人が、ミノタウロスたちの急所を的確に狙って、彼らに気づかれない内にいつの間にか斬りつけた、ということなのだろう・・・。
故に、その様子は、冒頭の言葉通り、戦いでもなく狩りでもなかった。
むしろ、『収穫』という言葉で表現した方が合っているかもしれない・・・。
「よしっ!未だ身体は鈍ってないようだな・・・」
つい先程まで、自身の感覚が鈍っているのではないか、と思っていたらしい狩人が、安堵の表情を浮かべながらそう口にすると、薄まっていた彼女の存在感が、急にその場へと戻ってきた。
その際、彼女の額に大粒の汗が溜まっていたところから推測するに、ただ歩いているように見えて、実は一つひとつの行動に、相当な神経を使いながら身体を動かしていたようである。
それから狩人は、その額の汗を拭うと、爽やかな笑みをその場に残しながら、ワルツたちの方を振り向いた。
「お疲れ様です。狩人さん」
自分の方を見て、満足気な笑みを浮かべている彼女に対して、労いの言葉を掛けるワルツ。
それから彼女は、先ほどの狩人の動きについて問いかけてみた。
「さっきのアレって・・・魔法ですか?」
「ん?いや、魔法は使っていないぞ?できるだけ気配を消せるように頑張ったら・・・あんな感じになっただけだな」
「あ、そうなんですか・・・(つまり、素なんですね・・・)」
『・・・・・・』
狩人の返答に、思わず眼を細めてしまうワルツと他2名。
狩人が自分の影の薄さを利用して戦闘していることに、3人とも何と声を掛けていいのか悩んでいるようだ。
するともう一人。
その場にいて、今まで意識のなかったはずの者が、その口を開いた。
「・・・ワルツ。降ろしてくれないか?」
怪我をしていたために、ワルツによって宙に浮かべられ・・・そしてここまで連れて来られていた勇者である。
「あら、起きたのね」
ドカッ!
「ぐはっ?!」
意識を取り戻したことで、普段通りの扱いをされる勇者。
急に重力制御を解除された彼は、腹ばいの状態で地面へと落下したのである・・・。
まぁ、それによって追加で怪我を負わない彼は、流石神からの祝福を受けた勇者、と言えるだろう。
「さてと・・・。それで、どうします狩人さん?ミノタウロスを解体しますか?」
地面に落下してから、再びグッタリとして動かなくなってしまった勇者から、無理やり意識をずらすような形で、狩人へと問いかけるワルツ。
一方、彼女から視線を向けられた狩人は、いつも通りの扱いを受ける勇者に対して、全く気にした様子は見せずに、ワルツの問いかけに答え始めた。
「いや・・・見た感じ、食べるところも売るところもないだろ・・・。ワルツは食べるか?」
「いえ。全力で遠慮しておきます」
「だろ?まぁ、売れたとしても・・・斧くらいだな」
と、ワルツの問いかけに対して、ミノタウロスが腰に巻いていた真っ赤な布切れを無視して答える狩人。
それから彼女は、ミノタウロスたちが持っていたラブリュスに手を掛けるものの・・・その斧を持ち上げるのは一苦労だったらしく、狩人は結局、斧を持ち帰ることを諦めたようであった。
そんな悪戦苦闘する狩人の姿を見て、手助けをしてもいい、と考えていたワルツだったが・・・くず鉄にしか見えない斧をわざわざ持ち帰る必要は無い、と思い直したようで、結局、ワルツも、斧を持ち帰ろうとは思わなかったようである。
その後で彼女は、仕切り直すように仲間たちへと言葉を投げかけた。
「なら・・・先に進みましょうか。結界の境界部分をあと一箇所見つければ、お宝ゲットかもしれないしね?」
と、先程まで、お宝には興味はない、と言っていたはずが、今になって宝の内容が少し気になり始めていた様子のワルツ。
彼女はそう口にしてから、仲間たちに対していつも通りの笑みを見せると、再び洞窟の奥(?)へと身体を向けて、そして歩き始めたのである。
そして、そんな彼女の後を、ここまでと同じように追従する、狩人とイブと、それにユキ。
・・・だがここで、いつも通りではない出来事が起った。
地面に伏せたまま、一人取り残されていた勇者が、ワルツを呼び止めるように口を開いたのである。
「わ、ワルツ。待ってくれ・・・」
その言葉に・・・
「・・・珍しいわね?勇者の方から、私を呼び止めるなんて」
ワルツはその足を止めて、勇者の方を振り向いた。
その際、彼女と同時に、他の3人も同じようにして後ろに顔を向ける。
そんな4人の視線を同時に向けられた勇者は・・・しかし、臆することなく、地面に這いつくばったままで、決意したような視線をワルツに向けながら、再びその口を開いた。
「俺を・・・俺たちを鍛えてくれ・・・!」
「・・・・・・は?」
勇者が何を言っているのか分からない、といった様子で、眼を点にするワルツ。
彼の言葉が、あまりにも予想外過ぎて、彼女のニューロチップでは理解が追いつかなかったようである。
そんな彼女の混乱したような様子が、勇者にも伝わっていたのか、彼は先ほど口にした言葉を言い換える形で、その口を再び開いた。
「仲間にして欲しいんだ!」
そう言って、地面から上半身だけを起こしながら、必死な様子でワルツたちへと訴えかける勇者。
どうやら勇者は、魔神と(元)魔王がいるパーティーへと入りたがっているようだ・・・。
諸事情により、今日はちょっと短いのじゃ。
・・・基準より-12文字くらい、の。
・・・あれ?足りてる?
・・・まぁ良いか。
いやの?
今、自宅に居らぬのじゃ。
ちょっと、取材(?)に出掛けて、ホッカホッカの狐になって帰る途中なのじゃが、家に付くまでに、まだ時間がかかりそうなのじゃ。
じゃから、仕方なく、主殿の車の中からアップした、というわけなのじゃ。
そういうわけで、今日は、補足をお休みするのじゃ。
・・・いや、いつも通り内容が薄すぎて、補足するようなことが無いんじゃがの?
じゃが・・・これだけは書いておこうと思うのじゃ。
次回、『勇者だけ仲間入り』、乞うご期待!
・・・その場合、残された剣士たちはどうなるのじゃろうか・・・。




