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1.2-15 町での出来事6

「いるならいるって、言ってくれれば良かったのに……」げっそり


「うん……。そうだね……」げっそり


 朝食を摂った後、まるでゾンビのような表情を浮かべながら、町の中をフラフラと歩いていたワルツとルシア。なぜ彼女たちがそんな様子だったのかは、まぁ、恥ずかしいことがあった、とだけ言っておこう。


 それから何度か交差点を曲がった所で、周囲の景色を見渡したルシアが、何か腑に落ちないことがあったらしく、おもむろにその口を開いた。


「ねぇ、お姉ちゃん。今、どこ向かってるの?こっちは……お洋服屋さんの方向じゃないよね?」


「えっ?どこ向かってるかって?そりゃ、あの、憎き宿屋の店主に一矢報いるために、文字通り矢でも買ってこようかー、って思ってたところだけど?」


「えっ……う、うん……分かった……!」


「えっ……いや、今の冗談だからね?」


 自分の言葉を聞いた瞬間、どこか覚悟を持ったような表情を見せたルシアの内心を慮って、念のため冗談であることを明言するワルツ。なお、その際、ルシアが、驚いたように目を大きく開けた後で、どこか残念そうな表情を浮かべていた理由については、不明である。


「それで……今、どこに向かってるかだけど……ルシアはどこだと思う?」


「……武器屋?」


「まぁ……後で行くかもしれないわね?でも、今向かってる先は、武器屋じゃないわよ?」


「そぉ?じゃぁ……どこだろ……」


 そう口にしながら、首を傾げて考え込むルシア。しかし、姉からは、まったく何の手がかりも与えられていなかったこともあって、彼女には服屋と武器屋以外に見当が付かなかったようである。

 それを感じ取ったのか、ワルツがこんな言葉を口にした。


「なら、ヒントをあげる。……これよ?」


「うん?なにこれ……?」


 ルシアの前に差し出されたワルツの手のひら。そこには、拳大の丸くて黒っぽい金属の塊が握られていた。

 鉄と比べて明らかに黒く、そして重そうに見える金属。それを手の上で転がしながら、ワルツがその正体を説明する。


「これはね……この前、ルシアと一緒に鉄の精錬をした時、鉄と一緒に鉱石から出てきた不純物よ?まぁ、正確には、不純物じゃなくて、純粋な何らかの金属だけどね。でも……正直、私にも正体が分からないのよ……」


「ふーん……でも、お姉ちゃんにも正体が分からないなら……それって、行き先のヒントにならないんじゃない?」


「ふっふっふ、甘いわね……。分からない、ってことがヒントなのよ」


 そう言いながら、顔の前で人差し指を横に振るワルツ。

 その言葉を聞いたルシアは、しばらく考えた後で、姉に対しこう口にした。


「んー……降参!」


「まぁ、しゃぁないわよね。じゃぁ、答えだけど……これが何なのかを確かめに行こうと思ってたのよ。この前、売らなかった分の余りの鉄塊を売りに行くついでに、ね?」


 それを聞いて――


「ということは……鉄屋さん?」


――と首を傾げながら口にするルシア。

 その言葉を聞いたワルツは、苦笑しながら返答する。


「鉄屋さんって言って良いのかは微妙なところだけど……まぁ、それに近いかもしれないわね。……あ、ちょうど見えてきたわよ?」


「えっ?」


 ルシアがワルツの言葉に反応して、進行方向へと視線を向けると、そこには、眼が痛くなってしまうような色使いの看板を飾る建物あった。ちなみにその看板の色は、白、赤、黒、そして金色である。

 ワルツはそんな目立つ色の看板を見て眉を顰めると、こんなことを口にした。


「遠くから見てもハッキリと分かる看板だけど、デザインのセンス、正直、微妙よね……。お爺ちゃんたちが見る分にはちょうどいいかもしれないけどさ?」


「ここって……錬金術ギルド?」


「そっ。錬金術って、私が元いた世界の”化学”っていう分野の基礎みたいなものだから、ここによく分かんない金属を持ってきたら、分析してくれるかなーって思ったのよ。もしも価値のあるものだったら、そのまま売ってお金にすれば良いしね」


「そっかぁ……。そういう意味での”ヒント”だったんだね?」


「やっぱり、ちょっと分かりにくかったかしら?」


 そう口にして、手の中にあった金属の塊の感触を確かめるワルツ。

 それから彼女は錬金術ギルドの扉を開ける前に、妹に対してこう口にした。


「これが終わったら、服屋さんに行きましょう?多分、そんなに時間はかからないと思うし。一応、手元にはそれなりにお金があるわけだけど、たくさんあっても困るものじゃないしね?いや、小銭ばっかりもらっても困るけどさ?」


「うん。私は、お姉ちゃんのスケジュールに合わせてもらって構わないよ?」


「そう?じゃぁ、さっさと行って用事を済ませてきましょうか」


「うん!」


 そう言って、錬金術ギルドの扉に手を掛けたワルツと、その後ろをピッタリと付いて行くルシア。

 そんな彼女たちは、この時、想像だにしていなかったようである。その扉の向こう側で自分たちのことを待ち受ける、ちょっとしたトラブルのことを……。



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