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7.1-21 ミノタウロス6

少し、いのべーしょんしたのじゃ。

・・・殆ど変わっておらぬがの。

ルシアの魔力粒子ビームと土魔法を使って掘った、直線と直角コーナーしかないトンネルの中で・・・。

今まさに、勇者の身体へと、ミノタウロスの凶刃が振り下ろされようとしていた。


ブゥン・・・


空気を文字通り切って、そして重力加速度を超えた加速度で落下する、ミノタウロスのラブリュス。

その低い音は、斧の後方に出来たカルマン渦によるものか・・・それとも、ミノタウロスの全身の筋肉が一斉に緊張して、まるでピアノの弦のように振動したために生じたものか・・・。

何れにしても、その音と状況が意味しているのは・・・一瞬後に起こるだろう、勇者の身体の分裂である。


そして、瞬きをするよりも遥かに短い時間の後で・・・


ドシャァァァァン!!


・・・そんな、湿りを伴ったような音が、トンネルの中を木霊した。


「あーあ。死んじゃった」


その光景を目の当たりにして、特に感情を動かすでもなく、見たありのままを口にするワルツ。

すると、彼女に対して、呆れたような視線を向けながら、ワルツの隣りにいた狩人が口を開いた。


「・・・ミノタウロスがな」


そう言ってから、一瞬で肉塊に変わってしまった2体のミノタウロスへと、ホッとしたような・・・あるいは残念そうな視線を向け直す狩人。

恐らく彼女の心中は・・・快晴なのに暴風雨が吹き荒れている・・・といった様子で、荒れ模様(?)になっているに違いない。


と、そんな時、ワルツよりも数秒遅れて、イブとユキの2人がその場へと駆けつけた。

そして、そこから見える光景について、感想を口にする。


「う、うわっ・・・地獄絵図かも!?」


「あれは・・・勇者様ですね。もしやワルツ様。どさくさに紛れて勇者様を()ってしまわれたのですか?」


そう口にするユキとイブたちから見えていた勇者の姿は・・・もちろん、細胞分裂(?)して、数を増やしているわけでも、絶命しているわけでも無かったが、ワルツがミノタウロスを重力制御で吹き飛ばした際に生じた返り血を全身に浴びて、真っ赤に染まっていたのである。

その瞬間を見ていない2人にとっては、ワルツ(魔神)が勇者を、一思いに殺害してしまった・・・その後の光景のように見えていたことだろう。


「いや、殺ってないわよ・・・」


そう言って、ユキの問いかけに、溜息を吐きながら首を振るワルツ。


それから彼女は、グッタリとして動かない勇者の側へと歩み寄ると、彼のバイタルを確認し始めた。


「・・・残念ね?ユキ。まだ生きてるわ」


「そうでしたか・・・。では、トドメを?」


「刺さないわよ・・・」


流石は数日前まで魔王をしていた・・・雪女、と思いながら、ワルツは重力制御で勇者を浮かべると、彼をぐるぐると回して、身体に大きな傷がないかを確認し始める。

・・・その結果、特に目立った傷は無さそうだったが、ミノタウロスに吹き飛ばされた際に負ったと思わしき擦り傷が、右腕に集中して見られたので、ワルツはボロ雑巾のようになっていた勇者の服を引きちぎってから、彼の腕に適当に巻き付けたのであった。

彼女は、勇者をそのまま放っておこうか、とも思ったようだが・・・そこにはまだ幼いイブがいたことや、しばらく回復魔法を掛けることが出来ないだろう現状を考えて、仕方なく応急処置をすることにしたようだ。


そして、擦り傷の部分をボロ布で、ただ、ぐるぐる巻きにしただけの適当な処置を終えた後。

ワルツが勇者から視線を外して自身の後ろを振り向くと、そこにいた仲間たちが・・・


『・・・・・・』


・・・何故か、自身に対して驚きの表情を浮かべて固まっていた・・・。

尤も、狩人は、ワルツとも勇者とも長い付き合いなので、大きな反応は見せていなかったが・・・勇者に対して反感的な感情を抱いていただろう魔族のイブや、そして本来なら彼に討伐される対象であるはずの元魔王のユキにとっては、驚きを隠せないほどにショッキングな出来事だったようだ・・・。

例えるなら・・・勇者を助ける魔神の姿を見た、といった様子だろうか・・・。

・・・まぁ、全くもって、その通りなのだが・・・。


「・・・今、貴女たちが何を考えているか、よーく分かるわ・・・」


ぽかーん、と口を開けていたイブやユキの姿に、ジト目を向けるワルツ。


そんな視線を向けられた2人の内、最初に口を開いたのは・・・何故か顔を真赤にして、頬に両手を当てたイブの方であった。


「も、もしかして、これが大人の恋?!」


「・・・どうしてそうなるのよ・・・」


・・・どうやら、イブにとっては、勇者に対する反感など、あまり重要な事では無かったようだ。

むしろ、魔神が勇者を助けた、というその行為そのものに関心があったらしい。


「いや、何度も言ってるけど、魔神じゃないからね?」


と、ワルツがいつも通り、自身の肩書について、誤解を解こうとしていると・・・


「・・・やはり、この勇者。ここでトドメを刺しておくべきですね・・・」


先程まで、勇者に対して特に思うことはない、と口にしていたユキが、自身の拳をプルプルと震わせながら握りしめて・・・そして、紛れもない殺意を、彼に対して向け始めた。

その際、彼女が身体に纏わせていたそのドス黒いオーラから推測するに・・・彼女は何やら、勇者に対して、嫉妬のようなものを感じているようだ・・・。


「いやね?ユキ。何で急に怒ったのかは分かんないけど、怪我人を手当するのは当然のことよ?カタリナのことを見れば・・・それは分かるでしょ?」


「・・・?!こ、これは失礼しました!」


そう言って・・・今度は、顔を真っ青にするユキ。

そんな彼女は、自分の発言を悔いている・・・というよりも、傷ついた人々を一心不乱に救っていたカタリナのその行動原理を、魔王なりの視点から曲解して・・・そして恐怖を感じていたようだ。


恐らく彼女にはカタリナのことが、人を救う・・・という名目の下、人々をモルモット扱いして、人体実験を繰り返すマッドサイエンティストのように見えたに違いない・・・。

そして、カタリナの師であるワルツも、また然り、という解釈なのだろう。


「なんか、すっごく、納得いかない気がするけど・・・まぁいいわ・・・」


そう言って、嫌そうな表情を浮かべつつも、再度溜息を吐いて、表情をリセットするワルツ。


「で・・・・・・なんで、こんな所に、勇者が転がっていたのかは置いておくとして、とりあえず先に進みましょうか」


「そうだな・・・どこかその辺に、ミノいないかなぁ・・・」

「恋って・・・なんだろう・・・」

「・・・ボクも見習わないといけませんね・・・」


それぞれ、そんなことを口にしながら、重力制御で勇者を宙に浮かべたまま再び先頭を進み始めたワルツの後ろを付いてくる3人。

こうしてワルツたちは、結界の境界さがしを再開したのであった。




そして・・・順調に、2箇所目の境界部分に突き当たって、再び180度逆方向に進み始めた仲間たちに、ワルツが何も言わずに追従していった後・・・。

どうして地底湖に戻ってきたのか分からない様子で戸惑っている3人に対して、彼女が小さく笑みを浮かべながらウィンクを向けて・・・そして別の通路へと入り込んだところで・・・


ムォォォォ!!!!


ミノタウロスが4体現れた・・・。


「・・・なんか、エンカウントするたびに2のべき乗で数が増えてません?」


4体のミノタウロスたちを見て、ワルツはそんな疑問を口にするのだが・・・


「え?えんかうんと?べきじょう?」


「・・・いえ、何でもないです・・・」


今度こそマトモな狩り(?)ができそうなミノタウロスが現れたことに、眼を爛々(らんらん)と輝かせていた狩人にとっては、少々、難しすぎる言葉だったようだ。

・・・というよりも、目の前のミノタウロス以外に思考を割けない・・・と言うべきか。


「・・・では、狩人さん。頑張ってください!」


「うん!行ってくる!」


もう、衝動を押さえられない、といった様子でウズウズとしていた狩人は、ワルツの言葉を聞いた瞬間、『よし!』と言われた犬のように、満面の笑みを浮かべながら、その場を駆け出していった。

・・・なお、彼女は猫の獣人である・・・。


こうして、狩人が待ちに待っていた、ミノタウロスとの戦闘が始まるのだが・・・。

その様子を見送ったのは、彼女とそこまで行動を共にしてきた仲間たち・・・だけではなかったようだ。

どんな風に、いのべーしょんしたか?

それはのう・・・昨日書いた、

(コル+イブ+ナレーター)/3

の雰囲気を、

(2*コル+ナレーター)/3

に変えてみたのじゃ。

・・・何言ってるか分からぬかも知れぬがの。


まぁ、簡単に言うと、昨日よりも極端にゆっくりと書いただけなのじゃ。

その結果、読みやすいか、内容が濃いか、言いたいことが言えておるか・・・については、後日評価するとして、とりあえず、8章に向けた『いのべーしょん』の候補として、試してみたのじゃ。

次は・・・どんな書き方をしてみようかのう。


それはさておき。

補足に入るのじゃ。

んー、カルマン渦についてかのう?

バットなどの棒を振り回した際に、ブゥン!となるあの音は、棒によって切り裂かれた空気が、元に戻ろうとして渦を巻いて、そして振動した結果生じた音なのじゃ。

その際にできる渦のことをカルマン渦と呼ぶのじゃが・・・それについては、ggrなのじゃ。

言葉で説明するよりも、写真や図を見たほうがわかりやすいと思うからのう。


で、次なのじゃ。

カタリナが傷ついていた人を一心不乱に救っておったのは、いつの話なのか、という点なのじゃ。

これは、ボレアス編で、ビクセンの市民たちが郊外に並べられておった時や、ビクセンの王城の中で、兵士たちがユキの大声のせいで耳をやられておった時の話なのじゃ。

・・・もちろん、モルモット扱いはしておらぬぞ?


まぁ、今日の補足はこんなところかのう。

さて、何故か最近恒例になっておる予告をしておこうかの。

・・・そのうち、ネタが被りそうなのじゃ・・・。

でも、やるのじゃ。


・・・次回、『ミノのきぐるみを着た伯爵』、乞うご期待!

・・・もしも本当にそんながあれば、死ぬ気でやってきたとしか思えぬの・・・。


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