7.1-18 ミノタウロス3
「ふーん、そっかー。じゃぁ、私たち、封印されちゃったかもなんだねー」
封印の意味が分かっていないのか、近くの石に腰掛けて、膝に両腕で頬杖を付きながら、イブはそんなことを呟いた。
そんな彼女に対して、最近物忘れが激しいのか、大切すぎることを忘れていた250歳超えの雪女が言葉を返す。
「はい。残念ながら、その可能性が非常に高いと思います。全く、困りましたね?」
「いやいやいや・・・2人とも、自分たちが封印されたかもしれないのに、その他人事みたいな反応はどうなの?」
いつも通り和気藹々と会話するイブとユキに、思わずツッコんでしまうワルツ。
すると今度は、その直前まで驚いたような表情を見せていたコルテックスが、イブの隣りにあった岩に腰を下ろして、普段通りの柔和な表情を見せながら、その口を開いた。
「魔力から察するに、すでに封印されてしまったのですから、今更慌ててもしかたないですよね〜。・・・というわけで、カタリナ様が救出に来て下さるまで、どうしましょう?・・・あ、そうだ!」
彼女はそう言ってから両の手を合わせると、いま座ったばかりの岩から立ち上がって、地底湖の方へと歩き始める。
そして、湖の縁まで歩いて行き、そこで立ち止まってワルツたちの方を振り向くと・・・満面の笑みを浮かべながら、普通の人間には少々エクストリームなことを言い放った。
「せっかく水着を着ているんですし、泳ぎましょうか〜」
そう言いながら、『こるてっくす』と書かれた自身の紺色のスク水の腰の部分に手を当てて、仁王立ちするコルテックス。
なお、仲間たちの中で、現在、水着を着用しているのは、地上にいるだろうエネルギアを除けば、コルテックスだけである・・・。
「・・・どっからツッコめば良いのか分かんないけど、結界をどうにか破って外に出る、っていう選択肢は無いのね・・・」
「だって、時間がもったいないではないですか〜?それに、後で、カタリナ様か誰かが助けに来てくれることは明白ですからね〜」
「・・・こんな冷たそうな湖で泳ぐくらいなら、よっぽど、脱出する手段を考えたほうがいいと思うけど・・・」
そう言った後で、何か思い付いたことがあったのか、ワルツは一瞬だけ固まってから・・・無線通信システムを起動した。
『・・・カタリナ生きてる?』
確かめたわけでは無かったので、結界の壁が実際にあるかどうかは不明だったが、とりあえずワルツは、その場から外部と通信できるかどうかを確認してみることにしたのである。
すると・・・
『あ、ワルツさん、すみません』
電波自体は結界を貫通できるのか、カタリナから・・・どういうわけか謝罪の言葉が飛んできた。
しかし・・・
『今、剣士さんが死にそうなので、後で連絡します』
『えっ?あ、ごめん・・・』
通信はすぐに終了してしまう・・・。
「・・・うん。暫く、救出は無いみたいよ?」
どうやらエネルギアに轢かれた剣士が、思いの外、重体だったようで、カタリナは今、手が放せないようだ。
そんな無線の会話が一瞬で終わった後。
自身の新しい無線機でその会話の内容を聞いていたユキが、『んー』と悩ましそうな表情を浮かべながら、口を開いた。
「ボクは・・・泳げないので、コルテックス様が泳いでいる間、封印の結界について調べようと思います」
「・・・なんか・・・ごめんね?ユキ」
彼女の体重(質量)を以前の4倍近くまで増やしてしまったことを思い出して、謝罪するワルツ。
そう言う意味では、コルテックスも同じはずなのだが・・・彼女は至って泳ぐ気満々なので、何か考えがあるのかもしれない・・・。
「いえ。全く気にしてませんので、気にしないでください。・・・というか、もともと泳げないのですよ・・・ボク・・・」
ユキはそう口にすると、特に何かが転がっているではない斜め下の方に、そっと虚ろな視線を向けた。
人には言えない黒歴史を持っている者の眼、と言えば、どのような視線だったのかは想像できるだろうか・・・。
「そう・・・」
空気が読めないワルツではあったが、ユキのその視線の意味については痛いほどに理解できていたためか、彼女は生暖かい視線をユキに向けながら、提案の言葉を口にした。
「なら、私と一緒に、結界について調べm」
「喜んで!」
「・・・まだ、全部言ってないんだけど・・・」
「それでも喜んで!」
「・・・・・・(もしかしてユキ。ビクセンの迷宮探検程度じゃ、全然満足できなかったのかしら?)」
と、そんな的外れな予想を立てるワルツ。
まぁ、詳しい理由については、彼女にとってどうでも良い・・・と言うよりは、むしろ、あまり聞きたくなかったようで、それ以上、ユキが浮かべていた笑みについては、触れないことにしたようだ・・・。
それから、ワルツは、一緒に洞窟探検、もとい、結界の調査に参加する者たちを追加で募ることにした。
「で、他、一緒に来る人いる?」
すると・・・岩に腰掛けていたイブが立ち上がり、地底湖の縁まで歩いて行って、メイド服のスカートの縁が濡れてしまうことに気を配ること無くそこにしゃがみ込みながら、その透明な湖水におもむろに手を付けた。
そして・・・どういうわけか、獣耳と髪と尻尾の毛を一斉に逆立てると、ブンブン、と頭を振ってから口を開く。
「わ、私もワルツ様と一緒にいく!」
・・・どうやら、彼女の想像以上に、湖の水は冷たかったようだ。
ここままコルテックスと一緒にいると、適当に難癖を付けられて、湖に放り込まれる・・・そう思ったのかもしれない。
「・・・いいの?メイドが主人の元を離れて・・・」
「しゅ、主人って・・・コルテックス様、私の旦那様じゃないかもだし!」
「・・・いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・」
言葉の意味を勘違いしたためか、真っ赤な表情を浮かべて反論してくる様子のイブに、ちゃんと正しい意味を伝えるべきかどうかを悩むワルツ。
すると、つい今しがたまで魂が抜けたように真っ白になっていた狩人が、急に色を戻して嬉しそうな視線と表情を見せると、その表情と同じような声色で同意の言葉を口にした。
「もちろん、私も行くぞ?」
そう言いながら、腰に下げられていた二本のダガーに、そっと両手を乗せる狩人。
ここまで彼女の相棒たちには全く出番がなかったが、再び洞窟の中の調査をするとなれば、ミノタウロスと会敵出来るかもしれない・・・そんな期待を持ったのだろう。
「・・・他には?」
そう言いながら周りを見渡すワルツ。
近くにいた飛竜は、再び・・・
グッタリ・・・
と、再び地面に沈み込んでいるので、恐らく来ないのだろう。
その他シラヌイは・・・
カンカンカン・・・
と、全長100メートルを超える鎖を、未だに延長し続けていたので、付いてくる様子は無さそうである。
その他にも、牛舎(?)の方に、もう一名いたようだが・・・どうやらワルツの記憶からはすっかり抜け落ちてしまっていたようで、そもそもこの場にいない、という扱いになっているようだ・・・。
「それじゃ、コルテックス?私たち行ってくるから・・・足を攣って溺れないように気を付けてね?この様子だと、誰も助けてくれないと思うし・・・」
「えぇ〜。その辺は抜かり無いので、ご安心ください」
「・・・そう。じゃぁ行ってくるわ」
一瞬、コルテックスの体重(質量)のことが気になるワルツだったが、彼女には何やら考えがあるようなので、それ以上、深く考えないようにしたようだ。
こうしてワルツ班とコルテックス班は、メンバーの再編成(?)を経て、再び別行動を取ることになったのである・・・。
いのべーしょんを起こしたいのじゃ・・・。
・・・色々な意味での。
というか、タイトルにミノタウロスと書いておるのに、本文にミノタウロスの表記がまともに出てこない(しかも内容に関係ない)というのは如何なものかと思うのじゃ・・・。
いやの?
これからミノタウロスがどんなものか、という話をしていくつもりじゃから、別に良いとは思うのじゃが・・・正直なところ、タイトルを変えようかと思った今日このごろなのじゃ。
じゃがのう・・・。
もしもタイトルを適切なものに変えたとして・・・まぁ、それが具体的にどんな名前になるかは予想が付くとは思うのじゃが・・・今後、そのタイトルが本当に必要な場面を書いた時に、どうでもいいところですでに使用していて使えなかったらどうしよう・・・と思ってしまってのう。
結果、タイトルは変えないでいくことにしたのじゃ。
まぁ、将来的にその場面がやってくるかどうかは、また別の話なんじゃがの?
・・・そんな前置きはさておいて。
今日の補足をするのじゃ。
・・・無いのじゃ。
いつも通り内容の薄い文じゃから、補足することがないのじゃ!
ユキ殿がどんな黒歴史を持っておるか、については・・・あとがきではなく、別のところでちゃんと書くことにするかのう。
というわけで、今日も短いあとがきじゃが、このくらいでお開きにするのじゃ。
次回は・・・ワルツパーティーの出来事を書く予定なのじゃ!
・・・え?
どれだけ書けば、短くないあとがきか?
それは・・・まぁ、本文より長くなれば、短くはない、と言えるのではなかろうかのう?
その場合、本文が短すぎる、という話になるのじゃが・・・。




