7.1-16 ミノタウロス1
出遭いは突然訪れるものである。
願っても願わなくても、図る図らずに関係なく・・・。
つまり、問題は、出遭うか出遭わないかではなく、出会った後で、当人たちがお互いにどのような関係を築いていくか・・・だろうか。
「・・・あれ?」
伯爵家跡地から、地下トンネルの中へと入り込んだワルツたち3人。
トンネルに入ってから15分ほど歩いたところで・・・何かユキの眼に写り込んできたモノがあったようだ。
「えっと・・・もしかして、死体でしょうか?」
彼女の眼に見てきたのは・・・全身に白い布が被せられた成人男性であった。
その姿を見る限り、どうやら彼は、ミノタウロスとの戦闘の最中に命を落としてしまったらしい。
近くに落ちていた真っ二つに折れた巨大な剣が、その壮絶な戦いを物語っていると言えよう・・・。
そんな彼の姿を見たワルツは・・・しかし、何故か首を傾げながら言った。
「ん?おかしいわね・・・。センサーに反応があるから、まだ生きてるみたいだけど・・・。それに、ほら?息してるみたいだしね?」
「あ、本当ですね・・・」
顔の部分の布が、規則正しく上下している姿を見て、納得したような表情を見せるユキ。
それから彼女は、どうすべきか悩むような素振りを見せつつ、ワルツに問いかけた。
「あの・・・どうしましょう?彼をこのままここに置いて、先に進みます?」
「そうね・・・どう思います?狩人さん」
「そうだな・・・彼に命の危険が無いようだったら、このままここに放置していっても、特に問題ないと思うんだが・・・」
最後にそう口にした狩人が、一人白い布へと近づいて・・・
チラッ
と中の人物の様子を確認する。
そして彼女は布の中に視線を向けて・・・
「兵士だったら、誰かは分かるんだが・・・冒険者なら分からn・・・・・・え・・・」
・・・何故か固まり、逆再生のように、そっと布を元に戻した。
「・・・特に問題ないようだから、先に進もう」
「あの・・・何かあったのですか?」
急に狩人の態度が変わったためか、訝しげな視線を彼女に対して向けるユキ。
すると狩人は・・・
「いやいや、至って健康そうだったから問題ないと思ってな」
両手で何も問題は無い、というジェスチャーをしながら、首を傾げていたユキに、そう言葉を返した。
そんな狩人の態度が、短くない時間を共に過ごしてきたワルツにとっても不思議に思えたのか・・・
「・・・でも、伯爵でもどうにもならないミノタウロスがやってくるかもしれないトンネルの中に、このまま置いておく、っていうのは、流石にどうかと思うんですよね・・・」
そう口にすると、彼女も狩人がしたように、布の縁にしゃがみこんで・・・
チラッ
と、中を覗き込む。
「・・・もしかしてここまで入り込んできた浮浪sy・・・・・・え・・・」
すると、まるで狩人の行動を再現するかのように、ワルツも掴んでいた布をスッ、と地面に下ろすと・・・そもそも、布の中など見ていないし興味もない、といった様子で口を開いた。
「・・・さて。コルテックスたちとの約束の2時間にも近いわけだし、さっさと先に進みましょうか」
そして、再び、トンネルの中を歩き出そうとするワルツ。
その際、ユキは、布の中を覗き込んだ2人が2人とも怪しげな行動を取ったことに、納得でき無さそうな表情を見せるのだが・・・。
ワルツのタイムリミットという言葉には反論しようがなかったのか、目の前の男性の姿を視界と脳裏から振り払うと、彼女はワルツの後ろをそのまま付いて行くことにしたようだ。
・・・ただし、男性に掛かっていた布が大きく解れていて、その端から出ていた細い糸に、ユキが足を引っ掛けていなければ、の話だが・・・。
グイッ・・・バサッ・・・
「おっとっと・・・あ、すみません!」
辺りが薄暗かったためか、糸に気づかず、履いていた革製のブーツに糸を引っ掛けてしまうユキ。
それから彼女は、自身の足に引っかかっていた糸を解いて、引っ張ってしまった布を手に取ると・・・それを未だ寝ていた男性の上に、そっと掛けたのである。
もちろん、今度は、息がしやすいように、顔の部分は出した状態で・・・。
「・・・ミノタウロス退治に参加していた冒険者の方でしょうか?装備からすると、兵士のようには見えないのですが・・・」
彼女は顕になったまだ若い男性の姿を見て、そんな疑問と感想を口にした。
すると、そんなユキの一連の行動を、少し離れていた場所で見ていたワルツと狩人は、お互いに『おい、どうする?』『どうしましょう?』と言い合ってから・・・・・・最終的には、ワルツが小さくため息を吐いて、寝ていた男性の正体を話すことにしたようである。
「・・・それ、勇者よ?」
「そうですか、勇者様ですか。流石は人間たちが住まう土地。親は自分たちの英雄の名前を、子どもに付けたのですね・・・」
『・・・・・・』
きっと、魔族たちの中には、自分の子供に『魔王』や『黒騎士』などという名前を付ける者がいるんだろう・・・などと、ユキとは逆のことを考えながら、難しい表情を浮かべるワルツと狩人。
正体を明かそうとしたワルツにとっては、正直なところ、彼の正体をそのまま有耶無耶にしたいところだったが・・・しかし、そのまま放っておくと、後々で何かあった時に、面倒なことにしかならない気がしたらしく・・・ワルツは、ユキが理解できるように、しっかりと説明することにしたようである。
「・・・ユキ。貴女に大切な話があるんだけど・・・聞いてくれる?」
「え?・・・あ、はい!ちょっと待ってください・・・」
急に畏まった様子で、自身に真面目な視線を向けてくるワルツに・・・・・・何故か、髪型や服装が乱れていないかを確認して、そして深呼吸してから、彼女へとまっすぐに視線を返すユキ。
「・・・はい、お願いします!」
少しだけ赤く染まった顔を向けられたワルツは、ユキが一体何を期待しているのか全く分からなかったが・・・仲間たちがたまに同じような視線を向けてくることを思い出して、そのまま気にせず話すことにした。
「あのね?ユキ。実は、彼、本物の勇者なのよ・・・」
「はい」
「・・・要するに、ユキやヌル、あるいは貴女の姉妹たちの命を狙ってるヒットマン、ってことね」
「えっと・・・話はそれだけですか?・・・残念です」
「・・・・・・え?」
元魔王であるユキの反応が、思ったよりも随分と薄く、更には、『残念』の言葉の意味が分からなかったために、思わず眉を顰めてしまうワルツ。
するとユキは、小さくため息を吐いてから再び勇者の方を振り向いて・・・そしてあどけない子どもを見るように優しげな視線を向けてから、彼に対する考えを口にし始めた。
「・・・彼には失礼な話かもしれませんが、ミノタウロスに勝てない者が、姉妹たちに勝てるとは思えません。それに・・・」
そう言ってユキは、ワルツの方を再度振り向いて、言葉を続ける。
「ワルツ様やカタリナ様に作ってもらったこの身体。勇者程度なら、まず負ける気はしないですので、問題はありませんね。・・・・・・あ、でも、勇者ルシアちゃんは例外ですよ?」
ルシアと戦闘を始めたとして、その瞬間に飛んで来るだろう魔力粒子ビームの直撃を受けて生きていられるかどうかを考え・・・そして、即死する、という結論に辿り着いたユキ。
そんな勇者(候補)ルシアに比べれば、ミノタウロスにすら勝てない目の前の勇者は、彼女にとっては全く脅威では無かったようだ。
「そ、そう・・・。それなら良いけど・・・」
魔王と勇者が出遭うことで、てっきり血みどろの戦いか、あるいは典型的なラブロマンスのような展開が繰り広げられるかと思っていたワルツ。
しかし、どうやら、ユキの中にある勇者のイメージは、すでに狐娘が基準になっていたようだ。
一方、近くにいた狩人も、どこかホッとしたような表情を見せているところを見ると、恐らく彼女もワルツと同じような懸念を持っていたのだろう・・・。
まぁ、狩人の場合は、魔王と勇者の戦闘の地が、復興の進む故郷であるサウスフォートレスになって、色々と台無しになることを懸念していたようだが・・・。
それから、結局、勇者をその場において、再びトンネルの奥へと歩き始めようとしたワルツたち。
そんな時・・・
ブゥン・・・
と低い音が辺りに響き渡る。
その直後。
弱々しく光る魔道松明によって照らしだされていた薄暗いトンネルの中が、以前、ワルツたちが構内の壁に張り巡らせるような形で設置したLEDライトの輝きによって、光りに包まれた。
どうやら誰かが、トンネルの先にある地底湖の横に設置されている核融合炉を起動させて、地下道全体に電力を供給させ始めたらしい・・・。
「な、なんですかこれ?!」
「え?電気だけど?」
勇者の話を聞いても驚かなかったにも関わらず、急に明るくなった周囲の景色を見て慌てふためくユキに、何てことはないといった様子で答えるワルツ。
「この町にいるメンバーで、発電機を動かせるのは、私かコルテックスかテンポくらいしかいないと思うけど、テンポがカタリナやシュバルに付きっきりなことを考えれば・・・多分、コルテックスが起動したんでしょうね・・・」
ワルツはそう言いながら、再びトンネルの中を歩き始めた。
そんな彼女の後ろを・・・ダガーに何故か悲しそうな視線を向けている狩人と、トンネルの内部に珍しそうな視線を向けながらユキが付いて行く。
・・・そして、彼女たちが、そこから更に10分ほど歩いて、全くミノタウロスとエンカウントせずに、大きな地底湖に辿り着いたところで・・・
『・・・・・・は?』
眼に入ってきた光景に、3人は自身の眼を疑った。
なぜならそこに・・・
「・・・ふっふっふ〜。これでミノタウロス牧場が完成ですね〜?」
と、嬉しそうに話すコルテックスと・・・
「やり切った感でいっぱいかも?!・・・でも、これを何に使うのかは分かんないけど・・・」
彼女の横で、複雑な表情を浮かべるメイドが、鎖のようなもので地面に掘った個室に繋がれていた大量のミノタウロスを前に、仁王立ちしながらその光景を堪能していたからである・・・。
・・・なお。
彼女たちと一緒に活動していたはずの飛竜は、元の姿(メイド服着用)に戻って、地面にグッタリとした様子で転がっており・・・アトラスは、ミノタウロスたちと同じく牛舎に鎖で繋がれているようであった。
他、シラヌイは・・・ブツブツと何かを呟きながら、簡易溶鉱炉で鎖のようなものを、未だに作り続けているようである・・・。
・・・どうやら、ワルツたちが伯爵と話し込んでいる間に、コルテックスたちは、念願の牧場(?)の建設に成功していたようだ・・・。
・・・今日は・・・眠く無かったのじゃ。
・・・サウナの入り過ぎで、少々熱中症気味じゃがの?
サウナは好きなのじゃが、入りすぎるものではないと思うのじゃ。
気づくと、カリカリな狐になってしまっておったのじゃ・・・。
じゃから・・・今日はいっぺんに書こうと思っておったのに・・・全然、キーボードが進まない上、ボーっとして修正も進まぬという悪循環が以下略になってしまってのう・・・。
・・・もう、頭が一杯で何も考えられぬのじゃ・・・。
というわけで今日は、1点だけ補足・・・というか謝罪を書いておくのじゃ。
実は・・・サウスフォートレス - 地底湖間の徒歩での所要時間を忘れてしまったのじゃ。
本話じゃと、合計で大体30分くらいとなっておるんじゃが、前に書いた時間は・・・一体、何分じゃったかのう・・・。
そんなわけで、後日、5章の方を修正した際に、この辺の数値を合わせていおくのじゃ。
その点、ご了承ください、なのじゃ。
(構造的に考えて、多分、このくらいじゃと思ったんじゃがのう・・・・)
というわけで、今日はここでおひらきなのじゃ!・・・zzz




