7.1-12 どーくつ探検1
「・・・本当に入るの?行きたくないかもなんだけど・・・」
町を、高い方へ高い方へと歩いて行き・・・結果、伯爵家の建設現場までやってきたコルテックスたち一行。
そして、喜々として襲いかかってきた警備の兵士たちをアトラスが軽く撃退(?)した後、伯爵邸敷地内に不法侵入して辿り着いた地下へと繋がるトンネルの入り口を前に、イブがそんなことを口にした。
「もう、迷宮とか、穴蔵とか、そんな怖い所に入りたくないかもだし・・・」
続けてそう言いながら、地下に作った避難壕のように、鉄の扉が付けられていたその出入り口に視線を向けたまま、思わず立ちすくんでしまった様子のイブ。
地下や洞窟にまともな思い出がない彼女の眼には、そんなトンネルの入り口が、口を開けて獲物を待っている化け物のような姿に映っているに違いない・・・。
「ん〜・・・困った娘ですね〜」
そんなイブの様子を見ていたコルテックスは、困った・・・というよりは呆れた様子でそう呟くと、イブの横を穴蔵に向かって通り過ぎながら、彼女に聞こえるように言った。
「無理強いはしません。なので、ここで待っててもいいですよ〜?」
・・・その直後、
ドゴォォォォン!!
と、再び辺りを揺るがす大きな振動。
そんな振動が収まる前から、コルテックスはそのまま言葉を続けた。
「・・・ですけど、勇者の言っていた化け物が、私たちと入れ違いになってここに出てきても・・・多分、誰も助けてくれないですけどね〜?」
「んな?!な、なにそれ?!一緒に付いて行かないと、結局、死亡フラグが立ったままかもじゃん!」
「要するに、そういうことですね〜」
そんな言葉と共に、いつも通りの笑みをその場に残すと・・・コルテックスは、一番乗りで地下トンネルへと足を進めていった・・・。
「・・・主よ・・・諦めろ。我はアトラス殿からそれを学んだのだ・・・」
「ドラゴンちゃん、諦めるの早すぎるかも・・・」
と言いつつ、仕方無さそうに、飛竜と共にコルテックスの後ろを追いかけるイブ。
さらにその後ろを・・・
「武器が無いのに、どうやって身を守ればいいでしょうか・・・」
と、いつも通り、誰に宛てたでもない独り言を話しながら、シラヌイが付いて行く。
「・・・ま、大丈夫だろ」
彼女に返した言葉ではなかったが、アトラスは小さくそう呟くと、一同の殿を務めるために、最後尾から付いて行くのであった・・・。
こうして5人は、一直線になって、地下トンネルを歩き始めたのである・・・。
それから数分ほど、所々に魔法の松明が掲げられている地下道を、何も言わずに歩いて行く一行。
その先頭を、嬉しそうに尻尾を振りながら歩いていたコルテックスが、決して明るはない地下道を危なげない様子で歩きながら振り返ると、彼女は最後尾を歩いていたアトラスに対して、問いかけた。
「アトラス〜?そういえば、このパーティー、僧侶もヒーラーもいないですね〜。何か、寂しい気がしませんか〜?誰かダメージを受けたらすぐにジ・エンドな気がして〜・・・」
「いやいや、変なこと言うなよ・・・。そもそも、武器を持ってる奴すらいないから、職業とか関係無いだろ・・・」
「そんなことはありませんよ〜?ここに2人もメイドがいますからね〜」
すると、そんなコルテックスの言葉に・・・
「う、うむ。ちゃんと戦えるかは分からぬが、努力だけはさせてもらおう・・・」
「えっ?!わ、私も戦わなきゃダメなの?!無理かも・・・」
完全に諦めた様子の飛竜と、何かあったら逃げる気満々だったイブがそれぞれ心の中を口にした。
「いえいえ。二人とも、まだ戦闘メイドのカリキュラムを修了していないので、いきなり戦え、などとは言いませんよ〜?」
・・・つまり、言い換えるなら、戦闘メイドになるためのカリキュラムを、後日、受けさせられる・・・ということになるだろうか。
「ふむ・・・それは安心いたしました」
「ふぅ・・・初陣で死ぬかと思ったかも・・・」
と、これからの将来、自分たちを待ち構えているだろう運命(?)に気づいていないのか、安堵したような表情を見せる2人・・・。
それからまもなくして・・・
「・・・あれ〜?道が分かれていますね〜?」
コルテックスたちの前に、Y字に別れた最初の分岐路が現れた。
そんな分かれ道を前に、コルテックスは一旦足を止めると、仲間たちの方を振り向いて口を開く。
「どちらの道が正解だと思います〜?」
すると、
「クンクン・・・・・・うん!こっち!」
と、トンネルに漂う匂いを嗅ぐような素振りを見せてから、そんな言葉を口にする犬の獣人の少女。
彼女の心情を考えるなら・・・彼女は、まず間違いなく、未知の魔物との遭遇という厄介事から逃げようとしていることだろう。
つまりイブは、魔物がいないだろう通路を選んだ、ということになるだろうか。
これがもしも、ワルツやテンポやストレラ辺なら、イブが示した道とは逆の方向へと進んでいたかもしれないが・・・
「なるほど〜。では、こちらですね〜」
コルテックスはそう言うと・・・どういうわけか、イブの指し示す方へと、再び歩き始めたのである。
そんな彼女の決定にイブは・・・
「・・・あ、あれ?もしかして間違えた・・・かも?」
と、不安げな表情を見せつつ、飛竜に続いて、コルテックスの後を追いかけていった・・・。
・・・なお、繰り返しになるかも知れないが、犬の獣人だからといって、嗅覚が優れている・・・ということは決して無い・・・。
「それで〜・・・」
それからすぐに、再び分岐路へと辿り着いた一行。
「次はどちらでしょうか〜?」
「・・・こっちかも?」
「では、そちらで〜」
「えっ・・・」
そう言って、イブの言った通りの方へと進んでいくコルテックス。
その後も・・・
「次は〜・・・」
「こっち!」
「なら、そちらで〜」
「えっ・・・」
というやり取りを繰り返すコルテックスとイブの2人。
そして、どういうわけか、イブの言った通りの道を歩いてきたはずなのに、彼女の顔が真っ青に染まりつつあった・・・そんな時である。
ドゴォォォォン!!
地面を揺るがすような大きな揺れと、大きな音がトンネル内に響いたかと思うと・・・
ドシャァァァァンッ!!
と、土埃を上げながら、トンネルの奥の方から、購入したばかりの大剣を手にした勇者が、吹き飛んできたのだ。
「ぐはっ?!」
うめき声を上げながら、地面を何回か転がって・・・そして完全に動かなくなってしまう勇者。
そんな彼の姿に・・・
「・・・あ、あれ?・・・こんな・・・こんなはずじゃ・・・」
・・・イブは、頭を抱えたまま、縮こまってしまった・・・。
「イブちゃん・・・・・・お姉さまの報告の通り、常時、死亡フラグが立っていますね〜・・・」
いくつもあった分岐路を彼女の言う通りに進んできた結果、最悪の展開になってしまったことに、イブに思わず同情の視線を向けてしまうコルテックス。
しかし彼女は、パーティーのリーダーとして皆を守る責任に駆られたのか、イブからすぐに視線を戻すと、暗いトンネルの先を見据えた。
そして・・・
バッ!
と、何かを召喚するように、前方に手を翳しながら言ったのである・・・。
「ゆけ〜!アトラス〜!」
「やっぱり俺かよ!先頭を歩いてるから、てっきりコルテックスが戦うものだとばかり・・・」
「こんな、か弱い乙女に戦わせる気ですか〜?」
「・・・・・・」
と、暗闇の向こう側に魔物が潜んでいるというのに、いつも通りそんなやり取りを始める2人。
すると、2人の側を・・・後ろから黒い何かが駆け抜けていった・・・。
・・・そして、
「・・・てあっ!」
カキンッ・・・ドゴォォォォン!!
と、未だ見えない魔物に対して・・・・・・シラヌイが、その手に持っていた勇者の大剣(50万ゴールド)を投げつけたのである。
『・・・え?』
「やっぱり剣は、投げつけるに限りますね」
と言いながら、華麗にバックステップを踏みつつ、仲間たちのところへと戻ってくるシラヌイ・・・。
「シラヌイ・・・もしかしてお前・・・怪りk」
「未だ終わっていません!・・・来ます!」
シラヌイは、アトラスの言葉を遮るようにそう口にすると、鋭い視線をトンネルの先に向けて、何があっても良いように身を屈めた・・・。
と、その瞬間・・・
ムォォォォ!!
という特徴的な鳴き声がトンネル内をこだまして・・・
「・・・は?牛?」
「・・・いえ、ミノタウロスですね〜」
「もう、迷宮いやー・・・」
「・・・・・・じゅるっ」
・・・頭が牛、上半身が人間、そして下半身が再び牛(?)な、巨大な斧を手にした・・・いわゆるミノタウロスが現れたのである・・・。
・・・影の薄いシラヌイ殿が、コルテックスとイブの2人に挟まれるとどうなるか・・・。
平均化されて・・・・・・変な喋り方になる・・・ということは無かったようじゃの。
むしろ、この話を書いておる妾自身が、変な色に染まってしまいそうかもなのじゃ〜。
・・・・・・無いの。
で、じゃ。
補足することはないか、と探してみたのじゃが・・・どうやら今日は特に無さそうだったのじゃ。
本当は、地下トンネルの様子をもっと事細かく書こうと思っておったのじゃが、妾のHPとMPが足りない故、そこまで手が回らなかったのじゃ・・・。
というわけで、なのじゃ。
・・・も、申し訳ないのじゃが・・・ね、寝る・・・の・・・じゃ・・・・・・zzz。




