7.1-10 町の観光4
勇者の呼びかけによって、大人しく町の人々(?)が店から出て行った後の店内では・・・
「一体何なんだ!嬢ちゃんたちは!」
自分の商いを台無しにされたためか、強面の武具屋の店主が、カウンターの向こう側で、憤った様子で声を上げた。
「何者か、ですか〜?通りすがりの、か弱い少女ですよ〜?」
『んなわけねーだろ・・・』
と、声が重なったのは、身長は違うものの、似たような顔つきで、同じように呆れた表情を見せていたアトラスと勇者である。
イブたち他の3人も、大体同じような表情を浮かべているところを見ると、考えていることに大差は無いのだろう・・・。
そんな中で・・・
「・・・店主」
勇者は武具屋の店主に対し、小さく首を振ってから言った。
「・・・諦めろ」
「諦めろって・・・事情くらい、説明してくれてもいいじゃねえか?」
「事情か・・・」
店主からの問いかけに、眉を顰める勇者。
それから彼は、コルテックスの方を向いて・・・説明してもいいか?、という色を含んだ、視線を向けた。
すると・・・
「んー、流石に、『か弱い』という説明だけでは、不十分だったみたいですね〜」
と、勇者が説明する前に、自分で説明する気になったのか、ニッコリとした笑みを浮かべそう口にするコルテックス。
・・・そして彼女は、自分の正体についてのヒントを短く口にした。
「そうですね〜。私のお姉さまの名前が、『ワルツ』という名前なのですが〜・・・それで分かってもらえるでしょうか?」
「・・・あの嬢ちゃんの妹か・・・」
店主は、納得したような、諦めたような・・・そんな微妙な表情を見せながら呟いた。
おそらく彼の脳裏では、ワルツだけではなく、別の妹の姿も浮かんでいるのではないだろうか。
「・・・それと、この国の議長やってます」
「・・・は?」
「いえいえ〜。独り言なので、気にしないでください」
「・・・・・・」
一瞬、コルテックスが何か言ったような気がして、思わず聞き返す店主だったが、大したことでは無さそうだったので、思考の対象を『ワルツ』という言葉に戻したようである。
その証拠に・・・
「・・・ワルツの嬢ちゃんは・・・いや、嬢ちゃんたちは、元気にしてるか?」
彼は、懐かしそうな表情を浮かべながら、コルテックスに問いかけた。
「はい。もちろん、元気ですよ〜?昨日、死刑宣告を受けて、今日これから、島送りになるみたいですけどね〜」
「・・・は?」
「要するに、元気だということです」
「・・・・・・そ、そうか・・・・」
結局、コルテックスの言葉の意味が理解できなかったためか、眉を顰める店主だったが、彼女の『ワルツは元気』という言葉で、一応の納得をすることにしたようであった・・・。
それから、そんな突っ込みどころ満載の狐娘の話に、実際に突っ込んだらどんな結果になるかを真剣に考えていた仲間たちに対して、店主が怪訝な視線を向けた後。
彼は溜息を吐いてから、話を仕切り直すように口を開いた。
「・・・で、まさかとは思うが、ワルツの嬢ちゃんの話をするためだけに、客を追い出したわけじゃねぇだろうな?」
そんな彼の質問に対して、コルテックスはこの店に立ち寄った理由を口にし始める。
「それも理由の一つでしたが、他にも3つ・・・・・・いえ、6つほどお話がありまして〜」
「倍に増えたな・・・」
「いえいえ。皆、大体、同じような内容です。・・・まぁ、時間も惜しいので、さっそくお聞きしますね〜?」
そして彼女は、自身が来ていた紺色のスク水の襟の部分を小さく指で持ち上げながら、問いかけた。
「こんな感じの防具って、売ってませんか〜?」
「・・・そういった服も防具も見たことはないな・・・」
「マニアックな触手だらけの白衣は売っているのに、ですか〜?」
「・・・白衣型の防具を取り扱ったことはあるが、触手が生えているものを扱った記憶は無いんだが・・・」
「あれ〜?おかしいですね〜・・・」
カタリナがこの店で白衣型の防具を買ったのは間違いないようだが、現在彼女が着ている粘菌で出来た白衣は、ここで調達したものではないようだ・・・。
「とても残念ですが〜・・・では、次です。彼女に刃物を見せてあげてください」
と言って、シラヌイに視線を送るコルテックス。
「えっ?あ・・・はい!刃物を見せてください!」
「・・・・・・」
彼女が、一体どういった成り行きで、どんな刃物を見たいのか全く分からなかったためか、思わず眉を顰めてしまう武具屋の店主。
そんな彼の様子に気づいたのか、コルテックスは補足するために口を開いた。
「シラヌイちゃんは刃物マニアなんですよ〜。刃物を見てないと、落ち着かなくなるみたいですね〜」
『えっ・・・』
「ほら、早く見せないと、禁断症状を発症して、暴れますよ〜?」
「・・・それ最悪だな・・・」
「えっ・・・そ、そんなことしませんよ!・・・刃物は好きですけど・・・」
と言いながら、腰に手を当てるシラヌイ。
本来ならそこには彼女の得物があるはずだったが、未だ、納得できる太刀が完成していないのか、その両脇には何も無かったのである。
そのためか、シラヌイは残念そうな表情を見せるのだが・・・そんな彼女の仕草に気づいたのか、店主は、まるで仲間を見つけたかのように小さく笑みを浮かべてから、彼女に言った。
「・・・基本的にウチの在庫は、店頭に並んでいるものが全てなんだが・・・もしも気に入るものが無いようだったら、奥にも作りたてが何本かあるから、言ってくれれば見せてもいいぜ?でー、刀の陳列棚は・・・そこだな」
と言って、シラヌイたちからは影になっていた、店の奥の方を指さす店主。
するとシラヌイは、そんな彼の指の先へと眼を向けて・・・それから一旦、店主へと視線を戻すと、
「えっと、ありがとうございます!」
丁寧に頭を下げて礼を言ってから、嬉しそうに店の奥へと消えていった・・・。
「・・・あの娘・・・剣士か?」
「いえいえ〜。鍛冶屋の孫娘らしいですよ〜?」
「そうか・・・。道理で・・・・・・って、商売敵かよ!」
「じゃぁ、次の要件に移りますね〜?」
店主が反論する前に、どんどん話を進めていくコルテックス。
そして次に口から出した言葉は・・・
「武具屋を名乗っているわけですから〜・・・戦闘用のメイド服を、もちろん扱っていますよね〜?」
そんなわけの分からない発言だった・・・。
その際、彼女の視線がイブや飛竜に向いていたところを見ると・・・どうやら、コルテックスは2人に着せる新しいメイド服(?)を探しているらしい・・・。
「・・・2人とも、私のシルク製のメイド服ではなくて、ちゃんとしたメイド服(?)を着るべきだと思うんですよ〜」
「えっ・・・こ、このメイド服、やっぱりシルク製だったの?!」
「・・・なるほど。・・・で、しるくとは何なのですかな?」
と、それぞれ、反応を口にするイブと飛竜。
そんな2人を適当にスルーして、コルテックスが店主に視線を向けると・・・
「・・・ちょうどいいものがある」
彼はそんなことを言って、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべると、カウンターの裏にあった箱が大量に仕舞われている棚の一角から、2つの箱を・・・
「よっこらせっ!」ドンッ
と、重そうに取り出して、カウンターの上に置いた。
そして箱を開いて・・・中身をコルテックスに見せながら、説明を始める。
「・・・極細のミスリルの糸で織られた、一級品の戦闘メイド服だ。もちろん、サイズ調整のエンチャントも付加してある。まぁ、重いのが難点なんだが・・・どうだろう?」
「軽銀なのに重いんですね〜・・・。それ、ミスリルっていいませんよね〜?」ひょいっ
「・・・マジか・・・」
と、片手で軽々とミスリルの塊で出来ているようなメイド服を持ち上げたコルテックスに、唖然とする店主。
そんな彼の様子をよそに、コルテックスは2人のメイドの方を振り向いて、口を開いた。
「イブちゃん・・・の場合だと、冗談抜きに潰れる気がするので、ここは飛竜ちゃんに試してもらいましょうか?」
「ふむ。つまり我は、それを着ればよいのですな?」
と言いながら、その場で今着ているメイド服を脱ごうとする飛竜・・・。
「いえいえ、飛竜ちゃん?こんなところで、レディーが破廉恥な真似をしてはいけませんよ〜?今ここで着替えなくてもいいので、とりあえずこれが持てるかどうか試してみてください。重かったら重いって言ってくださいね〜?」
「ふ、ふむ・・・。これがはれんち、というものなのか・・・」
飛竜は、何故か残念そうな表情を浮かべながら、脱ごうとしていたメイド服を正すと、コルテックスからミスリル製のメイド服を受け取った。
ひょいっ
「ふむ・・・。冷たい感触がなんとも心地よい・・・」
「やっぱり飛竜ちゃんなら、これを持つことくらい、造作も無いことですよね〜・・・」
と、納得したような表情を見せるコルテックス。
すると、その様子を見ていたイブが、首をかしげながら飛竜に対して言った。
「それ、そんなに重いものなの?」
「いや、我にとっては、それほど重いとは感じぬ。主も持ってみるか?」
そんな飛竜の提案に・・・
「いや・・・子犬の嬢ちゃんはやめといたほうがいいと思うが・・・」
「そうですね〜。多分、無様に潰れてしまうのがオチだと思いますよ〜?」
と、ネガティブな発言を口にする店主とコルテックス。
そんな2人の態度に・・・
「むっ!」
と、口をへの字にしたイブは、忠告を聞かずに、飛竜からメイド服を受け取ろうとした・・・。
・・・が、
「んー?・・・んんー!!?」
全く持ち上げることが出来ず・・・終いには・・・
「・・・主よ?そろそろ手を離してもよいか?」
飛竜がそんな不穏な発言を口にし始めた・・・。
「ちょっ、ちょっと待ってほしいかも・・・」
そう言って、ぷるぷると震えていた腕を急いで離して、飛竜から即座に離れるイブ。
どうやら彼女は、飛竜かメイド服に命の危険を感じたようだ・・・。
そんなイブの様子を見たコルテックスは、人知れず目尻にシワを寄せてから・・・
「んー、では、この服を1着だけくださいな〜?」
カウンターの向こう側で、同じように安堵したような表情を浮かべていた店主に対して、そう口にした。
どうやら、飛竜の普段着は、ミスリル製の(戦闘)メイド服に決まったようである・・・。
・・・もう駄目かも知れぬ・・・。
コルが存在する以上、場がどうやってもカオスにしかならないのじゃ・・・。
もっとシリアスな展開に持って行きたいのじゃが、コルのキャラクターがそうさせてくれないのじゃ・・・。
・・・え?コルテックスのせいじゃない?
・・・なら、勇者殿のせいじゃな。
まぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて・・・。
次回、もう一回だけ、軽く武具屋での話と・・・大切な話(?)をしてから、話を進めていこうと思うのじゃ。
いい加減、話を進めていかぬと、8章に到達するのに1年くらい掛かってしまいそうなのじゃ。
じゃから、さっさと、サウスフォートレスの話を終えて、次の話に進ませるのじゃ!
じゃが・・・このサウスフォートレスの話・・・最速で終わらせたとして、一体、これからどのくらい掛かるかのう・・・。
・・・目指せ1週間、なのじゃ!
というわけで、補足するのじゃ。
・・・うむ、無い。
無いと思うのじゃ。
勇者とアトラスが空気なのは、今更じゃから、わざわざ説明せんでもいいじゃろ?
あぁ、そうそう。
前話で文字通り地面に沈んだはずのアトラスが、どうして今話の冒頭から登場しておるのか。
・・・要するに、地面にめり込む程度の衝撃では、アトラスの身体はダメージは無かった、ということなのじゃ。
コルが本気で叩いた(?)わけでもないしの?
じゃがの?
昨日書いてからずっと思っておったのじゃが・・・普通、こんな仕打ちをされたら、家出したくなると思うのじゃ・・・。
じゃが、それでも家出しないアトラスには・・・何か特別な理由があるんじゃろうのう・・・。
・・・どんな理由かは知らぬがの?
まぁ、これ以上、余計なことを言うのは、この辺で止めておくのじゃ。




