7.1-09 町の観光3
少しだけ時間は遡って、再び町の中に視点は戻る・・・。
「・・・・・・!」
それまで大して目立つことも無く、コルテックスたちの後ろを静かに付いて来ていたシラヌイが、何を見つけたのか、皆の先に走り出て、満面の笑みを浮かべながら振り向いて言った。
「コルテックス様!この店に、少し寄っていってもよろしいですか?」
そんな彼女が足を止めていたのは、一軒の武具屋の前だった。
壁は少々焦げているようだが、石造りだったためか、建物にもその中身にも問題は無いようで、町の中には閉店している店が多いながらも、この武具屋は普段通りに営業しているようだ。
「この街で、どんな剣が扱われているのか、見たいと思いまして・・・」
と、武器屋の前で、言葉を続けるシラヌイ。
そんな彼女に、怪訝な表情を浮かべながら近寄って・・・そしてその耳元で呟いたのは、メイド姿のイブだった・・・。
「(ちょっ、シラヌイちゃん!コルテックス様の前で、そんなこと言ったら、叱られるかもだよ?レディーには相応しく無いって・・・)」
「えっ・・・」
「(だって、このメイド服だって、城を出るときに『淑女の嗜みですから〜』なんて言って、無理矢理に着せられたものかもなんだから!)」
「そ、そうだったのですか?」
イブの言葉に驚いている様子で、確認の言葉を口にするシラヌイ。
すると、その会話を漏らすこと無く超高性能な耳で聞いていたコルテックスが、笑みを浮かべたまま口を挟んできた。
「それは、人それぞれですよ〜?イブちゃんの場合は、淑女成分が全く足りてませんからね〜」
「ひ、ひぃっ?!地獄耳?!」
「おやおや〜。地獄耳だなんて口が悪いですね〜・・・。これは、ちゃ〜んと躾をする必要がありそうですね〜?・・・イブちゃん?」
そう言って、両手をワシワシとしながら、まとわり付くような笑みを浮かながら、イブへと迫るコルテックス。
「うはっ?!」
そんな彼女の表情が・・・イブには、笑み以外の何かに見えていることだろう・・・。
・・・まぁ、それはさておき。
「武具店に立ち寄りたいのですか〜。シラヌイちゃんらしいですね〜?」
その場から逃げ出そうとしていた犬の獣人のメイドを難なく捕まえたコルテックスは、腕の中で彼女の天然パーマな髪をクシャクシャに揉みほぐしながら、そこにあった武具店へと、細めた視線を向けた。
「やっぱり・・・ダメでしょうか?」
そんな彼女の様子が、あまりポジティブなものではないと思ったのか、シラヌイは申し訳無さそうな表情を浮かべながら、半分諦めたような言葉を口にした。
しかし、彼女の予想に反して、コルテックスに否やは無かったらしい。
「いえいえ。寄って行っても私は構いませんよ〜?私のためだけに、ここに来たわけではないのですから〜。それに、確かこの店は、以前、お姉さまやルシアちゃんがお世話になっていた店のはずなので、折角の機会ですから、ご挨拶に伺っても良いと思いますしね〜」
「そ、そうですか!」
思いがけないコルテックスの言葉に、シラヌイが再び明るい笑みを見せ始めると・・・
「・・・ホントは自分が寄って行きたいだけだろ?っと!」
ドゴッ!
コルテックスの隣で、町の地図に眼を向けていたアトラスが、未だに襲いかかって来ていた兵士をいなしつつ、彼女に対してツッコミを入れた。
・・・もちろん、言葉だけである・・・。
「よく分かりましたね〜?アトラス。実はカタリナ様が購入した白衣は、この店で購入したらしいのですよ〜。ということはですよ〜?つまり、特殊なスク水もあると思いませんか〜?」
「・・・コルテックス。もしかしてその水着、普段着にするつもりか?」
「いえいえ、そんなことはしませんよ〜?コレクターとしての血が騒ぐだけです」
「・・・・・・そうか。なら仕方ないな」
そんなコルテックスの言葉に、彼女の中に流れている血が誰の者なのかを考えて・・・納得した表情を見せるアトラス。
どうやら、ホムンクルスであるコルテックスの元となった人物は、何らかの収集癖を持っているらしい・・・。
・・・ちなみに、集めているものは、ワルツの肖像画だったりする・・・。
まぁ、それは壁かどこかに飾っておくとして・・・
「えっと・・・」
場が混沌に包まれてきたことで、どう反応して良いのか分からないような、複雑な表情を見せて始めるシラヌイ。
そんな彼女の様子に、コルテックスも気づいたのか、
「これはすみません、シラヌイちゃん。では、さっそく、店に入ってみましょう〜」
場を仕切り直すように、そう口にしてから・・・木でできた入り口の大きな扉を、小さな手で軽々と開けて、武具店の中へと入っていったのである・・・。
カランコロン・・・
店に入ると・・・・・・どういうわけか、中は人でごった返していた。
どうやら、今、この町では、武具の需要が高まっているようだ・・・。
「えっ・・・」
先程まで嬉しそうな笑みを浮かべていたシラヌイだったが、店の中の様子を見て表情を固くすると、そのまま顔を引きつらせて後退ってしまった。
恐らく彼女も、ワルツと同じで、人の多いところが苦手だったのだろう・・・。
「あの・・・・・・これでは、みんなで一緒に入るというのは難しそうですね・・・。仕方がないので、今回は諦めることにします」
自分のために付き合ってくれている仲間たちのことを考えたのか、シラヌイは一旦外に出ると、残念そうにそんな言葉を口にした。
すると・・・
「大丈夫ですよ〜?シラヌイちゃん。ここは私に任せておいてください」
コルテックスはそう口にして、両腕を腰に手を当てると、店の中の全員に聞こえるような声を上げた。
「・・・愚民ども〜!心して聞くが良い!即刻、この店から立ち去らねば、此奴のようにしてくれるのじゃ〜!」
そう言ってから、彼女はアトラスの方を振り向くと・・・
「(ほらほらアトラス?今から吹き飛ばしますから、怪我しないように、ちゃんと防御してくださいね〜?)」
「そういうのは、宣言する前に、吹き飛ばす側にも以前に一度相談s・・・」
ぺちっ・・・
ドゴォォォォン!!
何だかんだ言って構えを取っていた彼を、不可解(恐らく物理的)な方法で吹き飛ばし、表の通りの地面に巨大なクレーターを作り上げた・・・。
それを見た店内の人々は・・・
『・・・・・・』
一瞬、何が起ったのか理解できなかったのか、しーんと静まり返ってから・・・しかしすぐに、
「何っ?!人が死んだ、だと?!」
「あいつ、魔王か?!」
「こういう時こそ落ち着いて行動すべきだ・・・!」
どうやら全員、手練の戦闘経験者だったためか、意外にも恐慌状態には陥らずに、冷静に対処して・・・そして、コルテックスに対して、刃を向けてきた。
「あれ〜?おかしいですね〜?こういう時は、皆、走って逃げる場面のはずなのですが〜・・・」
顔を真っ青にしたイブや、興味深そうな表情を見せていた飛竜、そして、どう反応して良いのか分からない様子で口をパクパクとしていたシラヌイをよそに、客達の反応が予想外だったためか、一人、頭を傾げるコルテックス。
それから彼女が、店の唯一の出入り口に自分たちが立っていたため、誰も外に逃げることが出来ないことに気づいた・・・そんな時である。
「・・・お前たち、剣を引いて立ち去ったほうが良い・・・。世の中には戦っていはいけない者もいるんだ・・・。さもなくば・・・社会的に抹殺されるぞ?」
『・・・・・・え?』
コルテックスの後ろ・・・つまり、店の入口の方から、先ほど吹き飛んでいった少年の兄のような姿をした・・・・・・勇者が現れたのである。
読みやすさと、書きたいことの両立・・・これって、文面以上に難しいことだと思うのじゃ。
よく、それを指摘されるのじゃが・・・・・・正直、理解でき・・・いや、なんでもないのじゃ・・・。
頑張れ、妾・・・なのじゃ!
さて。
補足するのじゃ。
とりあえず、ツッコミについてかのう?
アトラスがコルに対してツッコミを入れる部分で、注釈を入れたじゃろ?
もしも、その意味が分からぬ者がおったら、その注釈を除いて読んでみると良いのじゃ。
ついでに、その直上にある『未だに襲いかかって来ていた兵士をいなしつつ』という文書も除くと効果的なのじゃ。
・・・恐らく、次の瞬間、アトラスが肉塊へと変わるシーンが想像できるはずじゃからの。
で、次なのじゃ。
妾の収集癖について・・・。
・・・いやの?
別に、妾だけではないのじゃ。
ワルツ教(?)に属する者たちは、ブロマイドだったり、聖遺物(?)だったりと、ワルツに関する様々なアイテムを所持しておるのじゃ。
・・・なお、誰がどんなものを集めているのかに関しては・・・そのうち、紹介する・・・かも知れぬのじゃ?
まぁ、今日はこんなところかのう?
・・・それはそうと、なのじゃ。
ユキに関して、重要な記述をするのを忘れておったのじゃ・・・。
というわけで、途中、エネルギアに戻った辺りで、その話をねじ込む予定なのじゃ。
その際は、何が抜けておったのか、あとがきに書こうと思うのじゃ。
・・・妾が忘れなければの?




