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7.1-05 町の観光1

一部修正したのじゃ。

コル「今日のために」→「こんなこともあろうかと」

一同が検問所に着く直前。

自身の予想とは違い、妙な視線(主に恐怖)を向けてくる市民や工事関係者や冒険者たちに気づいたのか、コルテックスは捕まえていたアトラスを開放した。


「ったく、縛らなくても逃げねぇのに・・・」


と、開口一番に悪態を付くアトラス。


「いえいえ。これが貴族の女性の(たしな)みだと教わりましたので〜」


「ねぇよ、そんな嗜み!・・・っていうか、誰から教わったんだよ」


「もちろん、勇者様ですよ〜?彼も何度かそういったことをされた経験があるようですね〜」


「・・・・・・」


・・・そしてアトラスは言葉を失った。

それから彼が、自身の手のひらをジーっと見つめていたのは・・・自分の身体に流れるその血に何か思うことがあったからなのだろうか・・・。




それから間もなくして、5人は検問所へと辿り着く。


本来検問所は市壁の正門に設置されており、そこで税関よろしく、提出された書類のチェックと、場合によっては持ち物検査が行われるのだが、今は市壁の再建中ということもあって、少し開けた場所に木の杭で囲まれただけの簡素な関所のようなものが設置されているだけであった。

とはいえ、本来の業務に支障が出ているわけではなく、単に場所を移しただけといった様子で、特に混雑している雰囲気は無さそうである。

むしろ、手続きの場所が広い分だけ、スムーズに人が流れていると言えるかもしれない。


そこに並んでいた10人ほどの人々の最後尾に、一同は連なった。


「・・・で、手続きって、どんなことするの?」


そう口にしたのはイブである。

今まで、(ビクセンにしろ、王都にしろ・・・)街からまともに出入りしたことがなかった彼女にとっては、入出管理の手続き自体が初めての体験だったらしい。


「我にも分からぬ・・・」


その後、イブに続いて口を開いたのは、飛竜である。

そもそも、最近、人間の身体になったばかりの彼女にとっては、全く理解できないシステムなのかもしれない・・・。


「そういえば俺も初めてだな・・・」


「王都で造られてから、真っ当な方法で出入りしたことが無かったですからね〜」


と、それぞれ口にするアトラスとコルテックス。

テレサの影として造られたコルテックスはもちろんのこと、その補佐をするために造られたアトラスの方も、本来なら、この国には存在しないはずの人物なのである。

その上、コルテックスの言葉通り、まともな方法で王都の出入りをしたことが無かったので、2人にとっても、初めての経験だったのだ。


なお、コルテックスが国のトップである以上、登録情報はどうとでもなるので、ホムンクルスたちの出生に関しては、適当な情報を登録してあったりする。


その際、そんなコルテックスの言葉に・・・


「(えっ?造られた・・・?)」


彼女たちの正体を未だ教えられていなかったイブが疑問を持ったようだが、単に言い回しが少しおかしかっただけ、と思ったのか、それを言葉に出すことはなかったようだ。


ちなみに、ほぼ同じ境遇にあるはずの飛竜の方は、周囲にいた町の人々の方に興味があったのか、特に気した様子は無かったようである。

まぁ、彼女にとっては、全てが初めての事だらけのはずなので、細かいことを気にしている暇が無いのだろう。


まぁ、それはさておいて。

そんな一同の中で・・・唯一、例外的な人物がいた。


「こういった手続きは久しぶりです」


自分の住んでいた里から抜けだして、世界を旅していたシラヌイである。


「ほほー?シラヌイちゃん、もしかして経験豊富?」


「いえいえ。自慢にはなりませんが、こういった場所では、大抵、問題しか起ったことがありませんので、これまではできるだけ避けるようにしてきましたから、経験が豊富というわけではありませんよ?あ、でも、強行突破(ふせいしんにゅう)の経験なら豊富かもしれませんね」


「え・・・」


問いかけた結果、思わぬ答えが帰って来たのか、イブは口の形を『え』にしたまま固まってしまった。


と、そんな時・・・


パシャッ・・・


そんな紙と紙がぶつかり合ったような音が、不意に辺りに響き渡った。

その直後、その音を発しただろう人物・・・コルテックスが、柔和な笑みを浮かべたまま、手に持った『黒い塊』に視線を向けて、残念そうに口を開いた。


「旅の最初に撮った写真が、微妙なイブちゃんの表情ですか〜」


「えっ、なにそれ・・・」


「これですか〜?これは、『カメラ』という()()()ですよ〜。この魔道具を使えば、今こうして見える景色を『写真』という名前の絵として残すことが出来るんです。あ、でも、無闇やたらに使うと、写真を撮られた人の魂も奪ってしまうらしいので、注意が必要ですけどね〜(・・・まぁ、それは冗談のつもりなんですけど、実際のところはどうなんでしょうかね?)」


そう言ってから、フィルム式でも、デジタル式でもない、魔力式カメラのレンズをイブに向けて、


パシャッ・・・


と、シャッターボタンを押すコルテックス。

恐らく、再び、微妙な表情を浮かべているイブの顔が撮れたに違いない・・・。


「た、魂が抜かれるかも?!」


と言いながら、胸なのか、額なのか、魂がどこにあるのか分からない様子で、どうにか魂が抜けていかないように、身体のどこかを押さえようとするイブ。


「イブちゃんは面白いですね〜」


パシャッ・・・


「ぐはっ?!」


パシャッ・・・


「ぬあっ?!」


・・・それから暫くの間、まるでコルテックスに踊らされるかのように、イブはよく分からないパントマイム(?)を続けるのであった・・・。




そして、いい加減、何度写真を撮られても、自分の魂が抜かれないことと、コルテックスに遊ばれていたことに気づいたイブが、彼女に対して、う〜、と唸り始めた頃・・・


「次!」


前に並んでいた人々の手続きが終わって、彼女たちの番がやってきた。


「身分証を出し・・・」


そこまで言って、机から顔を上げて・・・そしてやってきた少年少女たちの姿を見てから、言葉を中断する係員。

彼はずっと手続きの作業を続けていたためか、コルテックスたちがエネルギアから下りてきたことを知らないようだが・・・それとは別に、何か思うことがあったらしい。


「何だ、子どもたちか。みんな、保護者はどうした?」


一団の平均年齢が極端に低かったためか、彼はコルテックスたちが、サウスフォートレスから外へと出て行った町の子どもたちか、あるいは、近くに親か保護者のいる旅人の子どもだと思ったようである。


そんな彼の反応を見て・・・


「そうなんですよねぇ・・・。旅してると、いつもこうなるんですよ・・・」


と、身長138cmのシラヌイが、不満気に口を開いた。

彼女の、『町に近づくと問題が起こる』発言の真意の一つは、身長の高さにあったようだ・・・。


すると、そんな彼女の言葉に気づいたのか、係員が申し訳無さそうな表情を浮かべながら言葉を訂正した。


「・・・これは失礼しました。成人されている方々だったんですね」


そんな彼の対応に、驚いたような表情を見せながら、再度、シラヌイが口を開く。


「流石はミッドエデンですね・・・。臨機応変な対応。これまでには無かった展開です・・・」


すると係員は、苦笑を浮かべてから、小さく咳をして、改めて手続きを進め始めた。


「・・・では、身分証を持っている方は見せてください。持っていないか、あるいは紛失してしまった方は別途おっしゃってください」


その言葉に・・・


「身分証ですか〜。困りましたね〜」


と、少々わざとらしく、そう口にしたのはコルテックスである。


「私たちの場合、まともな身分証が、まともじゃない身分証なんですよね〜。どう思います〜?アトラス〜」


「そうだな・・・。新しく作ってもらったほうが良いと思うな。大変なことにならずに済むと思うし・・・」


「ですよね〜」


と言いながらも、小さな鞄の中から、名刺大のサイズの身分証(カード)を取り出して、そのまま係員へと見せるコルテックス。


「ちょっ・・・」


そんな先ほどの会話とは180度異なる彼女の行動に、アトラスは、そのカードに書いてある内容を想像して、これから起こるだろう騒動を予想したが・・・


「・・・はい、コルテックスさん。カードをお返しします」


特に何もなく、コルテックスの身分証の確認は終わった。


「あれ?」


予想と大きく違ったためか、頭を傾げるアトラス。

すると、コルテックスがアトラスの耳元で種明かしを始めた。


「(こんなこともあろうかと、偽造カードを作っておいたんですよ〜。まさか、役職の書いたカードなんて見せるわけにいかないではないですか〜)」


「あぁ、そういうことな・・・っていうか、コルテックス。顔が近い・・・」


そう言いながら、コルテックスから数歩遠ざかるアトラス。


そんな彼の態度に、少々残念そうな表情を見せると、コルテックスは近くにいたイブから順に、偽造身分証(?)を配って回った。


・・・というわけで、皆にカードが行き渡った後。


「ど、どうぞ?」


と、メイド姿のイブは、恐る恐る、係員にカードを提示した。


「・・・はい。イブさん。確認できました(その歳からメイドですか・・・。大変ですね・・・)。頑張ってください」


「え?あ、はい。ありがとう・・・かも?」


何故か、係員が同情したような視線を向けてくることに、頭を傾げながらカードを受け取るイブ。


その次は・・・同じくメイド姿の飛竜の番である。


「これでよいか?」


「・・・・・・え?名前が飛竜?」


「ぬ?う・・・うむ。確かに、飛竜だが・・・」


「そうですか・・・これは失礼しました。・・・はい。確認できました。お返しします」


「うむ・・・(これが、空気を読む、というものなのだな・・・)」


これまで人を観察してきたおかげか、カリーナという実名を口にして、カードの内容と違う、という騒ぎを回避することに成功する飛竜。

どうやらカードを作ったコルテックスは、飛竜の実名を知らなかったようだ・・・。


そして、次に手続きを行ったのは・・・シラヌイである。


「はい、どうぞ」


「えーと・・・ふ、不知火(フチカ)さん?」


「いえ、これで不知火(シラヌイ)と読みます」


「難しい名前ですね・・・」


「そうですよね。一回で読めるのは、故郷の人たちくらいのものですからね・・・」


「そうですか・・・(随分と遠くから来た・・・あれ?出身が王都になってますが・・・もしかして王都では、こう言った斬新な名前が流行っているのでしょうか?確か・・・キラキラネームと言いましたか?)。はい、確認できました。お返しします」


「ありがとうございます」


こうしてシラヌイも、人生で初めて、まともに入出管理を終えることに成功した。


・・・最後は、アトラスである。

ちなみに、彼は、コルテックスから離れていたために、カードを受け取っていなかった。

そのためアトラスは、何かあるのではないかと思ったようだが・・・


「アトラス〜?これがアトラスのカードですよ〜」


コルテックスは、不思議といじわるすることなく、彼へと素直にカードを渡した。


「・・・悪いな。てっきり、俺だけ、新しくカードを作れとか言われるかと思ったぜ・・・」


「まさか、そんなことするわけ無いではないですか〜。カードの再発行に、貴重な税金をかけるわけにはいかないですからね〜」


「・・・そ、そうか・・・?(結局、その手続料は、あとで国庫に元に戻ってくる気がするんだが・・・まぁ、いいか)」


そしてアトラスは、コルテックスに渡されたカードを、そのまま流すように係員に渡す。


「頼む」


「はい。えーと・・・」


そして、アトラスのカードに書かれたコードを、水晶のような魔道具で確認していく係員。


なお、この水晶は、国が管理するデータベースと魔力的な回路で繋がっており、一度でも情報を登録したことがあれば、カードには書かれていない詳細な個人情報を参照することが可能な魔道具である。

つまりコルテックスは、その登録情報を、王城にある『メインサーバー』から直接入力して、仲間たちの偽装情報を登録してあったのだ。


それはアトラスのカードも例外ではなく・・・


「アトラスさんアトラスさん・・・・・・あっ、ありました」


係員が操作していた水晶に、彼の個人情報が浮かび上がってきたようだ。

・・・ところが・・・


「えっ・・・」


その情報を眼にした係員が、眼をこすったり、パチパチしながら、書かれている情報が間違っていないかどうかを確認し始める。


「おっと、この感じは・・・・・・係員さん。それ以上は見ないほうがいいと思う。多分、碌なことが書かれてないはずだからな・・・。っていうか、何書いたんだよ?コルテックス・・・」


「(しーっ・・・)」


「ちょっ・・・お前、図ったな?!」


最後にカードを渡してきたことも()ることながら、今までずっと意味深げに笑みを浮かべ続けていたコルテックスの姿に、アトラスは、これが罠であったことを今更になって悟った・・・。

のだが・・・


「・・・あの、アトラス()。お返し致します・・・」


それ以上、何も言うことなく、係員は、アトラスにカードを返してよこした。

そのまま彼は、神妙な面持ちで言葉を続ける。


「・・・皆様、どうぞお通りください・・・」


「えっ・・・う、うん・・・なんか済まない。一応、謝っておく・・・」


カードを受け取ったアトラスは、居心地の悪さを感じながら、係員に対して軽く会釈をした・・・。

と、そんなタイミングで、


パシャッ・・・


とすかさず、カメラのシャッター音が聞こえてくる。


「・・・コルテックス。お前、最初からこのつもりで、カメラを用意しただろ・・・」


「あたりまえではないですか〜」


「・・・はぁ・・・」


コルテックスのカメラのレンズが、今日と明日、ずっと困った自分の姿に向けられるような気がして、アトラスは重い頭を手で押さえるのであった・・・。


こうして一同は、無事に(?)余計な入町税を払わず、街の中へと入ることに成功したのである。

・・・ただし、その後で、そこにいた係員が何処かへと連絡を取っていたことについては・・・偽造身分証を作ったコルテックスしか気づいていないようであったが・・・。

今、少しだけ後悔しておる・・・。

個人情報参照水晶の話。

ワルツが初めてサウスフォートレスに来た際にも書いておけばよかったと・・・。

それもそうじゃが、イブが手続きをした時・・・つまり最初の手続きの時点で書いても良かった、と後になって思ったのじゃ。

・・・まぁ、よいか。


で、補足しようかのう。

コルテックスがエネルギアの艦橋に忘れ物として取りに行った鞄の中には、今話の通り、カメラと身分証が入っておったのじゃ。

他にも色々と入っておるのじゃが・・・それについては追々じゃの。


なお、言うまでもないことなのじゃが、この鞄、ミッドエデン共和国のエンチャントの技術の粋を結集して造られた一品(ルシア製)であるが故、内部空間拡張だけでなく、持っておるだけで、様々なエンチャントの効果が(以下略)。

鞄なのに、物理攻撃力アップとか、どんなチートアイテムじゃろうかのう・・・。

とは言っても、その程度のチートなど、今のコルテックスの前には、無意味なのじゃがの?


他は・・・色々と語っておらぬことはあるが、徐々に明らかにしていくのじゃ。


問題は・・・どんな結末を・・・いや、何でもないのじゃ!

さて、今日はこの辺で撤収するのじゃ!

さらばかもだしなのじゃ〜!


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