7.1-03 初めての長旅3
婿注意なのじゃ!
グロ注なのじゃ!
アブノーマル注意(?)なのじゃ!
要領を得ないワルツの言葉に、頭を傾げながらエネルギアのタラップへ足を掛けて・・・そして船内へと恐る恐る足を踏み入れた剣士。
するとそこでは・・・
ゴゴゴゴゴ・・・
・・・何やら言い知れぬ気配が彼の身を刺してきた。
「・・・エネルギア、いるのか?」
暗い艦内に向かって、彼はそんな問いかけの言葉を口にするが・・・しかし、エネルギアからの言葉は返ってこない・・・。
「なんだ・・・この息苦しさ・・・。まるで、ダンジョンの中のボス部屋前のような空気だ・・・」
艦内に立ち込める異様な雰囲気に、固唾を飲む剣士。
しかし、入り口で待っていても、何も起こりそうになかったので・・・彼は、ワルツに言われた通り、仕方なく艦橋へと足を進めた・・・。
カツンカツンカツン・・・
得体のしれない成分の金属でできた床を、一歩一歩、足を進めていく剣士。
「一体、なんだって言うんだ・・・?」
全く事情が読めなかったためか、彼は顎に手を当てて、考えこむような素振りを見せながら、思わずそんな呟きを口にした。
本来なら、自分の姿を見た瞬間に飛び込んでくるはずの、真っ黒な姿のエネルギア。
そんな彼女が顔を出さないというのは、剣士にとっては初めての出来事だったのである。
ワルツの意味深な発言も然ることながら、今の彼には分からないことが多すぎたようだ。
「・・・確かにこれは、フル装備で来たほうが良かったかもしれないな・・・」
まるでどこかのダンジョンのように、トラップか何かが山程しかけられていそうな雰囲気が、見慣れているはずの廊下の中に立ち込めていたのである。
船に入るまで、その空気を感じ取れなかったために、何も準備してこなかったことを、今になって剣士は後悔した。
「(・・・何か出て来ても、勝てるかどうか・・・というか、フル装備でも生きて帰れるかどうかすら分からないけどな・・・)」
もしも化け物が・・・この場合だと、エネルギア級のモンスター(?)が出現したとして、一人だけで対処できるかどうかを、職業柄、考えてしまう剣士。
だが、残念なことに(?)、彼が頭の中でシミュレーションをする限りでは、勝てる見込みは全く無かったようだ。
スライムと違って、そもそも核の存在しないエネルギア(級のモンスター)を倒す方法が、彼には思いつかなかったらしい・・・。
「(頼むから、そんな展開にはならないでくれよ・・・?)」
そんなことを考えながら、艦橋の扉の前に辿り着いた剣士は、心の中で、いつも頼りにならない神に対して祈りを捧げた・・・。
そして彼は、いよいよ、青黒いオーラのようなものを隙間から漏れ出させている艦橋の扉へと、一歩足を進めたのである・・・。
ガション!
いつも通り大きな音を立てて開いた艦橋の扉。
剣士は、意を決して、その中へと足を踏み入れた。
そして、そこで彼のことを待ち構えていたのは・・・
ずーーーん・・・
・・・廊下と同じように暗い艦橋の中で、自身に背を向けながら、膝を抱えてうずくまっている黒い塊の姿であった・・・。
「(・・・どうする?こういう時、考えも無しに声を掛けて良いのか?)」
どうしてこうなっているのか、剣士には全く予想が付けられなかったが、エネルギアに何か嫌なことがあって凹んでいたのは間違い無さそうであった・・・。
なので、下手な言葉を掛けて、これ以上、彼女の機嫌が損なわれないように、掛ける言葉を慎重に選びたい剣士だったが・・・
『・・・・・・ビクトールさん』
彼が口を開く前に、エネルギアの方が先に話し始めてしまう・・・。
『さっき親しげに話してた女の人、誰?』
「(・・・宿屋の娘さんのことか?)」
どうやら、エネルギアは、宿屋の孫娘が剣士たちに朝食を届けに来たところを、超望遠レンズか何かで目撃していたらしい・・・。
「・・・宿屋の娘さんだ。俺たちに朝食を届けに来てくれただけd」
『ビクトールさんとは、どんな関係なの?』
と、剣士が話し終わる前に、言葉を割りこませるエネルギア。
「どんな関係って・・・・・・お世話になってる客と、お世話をしてる店員、ってことになるか?」
そんな剣士の言葉に、エネルギアは何を思ったのか・・・
『・・・・・・お金で買ったんだね』
・・・そんな言葉を呟いた。
「(一体、何をだよ・・・)」
エネルギアが何を言わんとしているのか、理解できなかった剣士。
このまま言葉を交わしているだけだと、延々と堂々巡りを繰り返すことになるような気がして、彼は思い切って、行動に出ることにした。
「やれやれ・・・。よっこいせ・・・」
彼はそう言いながら、エネルギアと背中を合わせるような形で、腰を降ろしたのである。
「どうして凹んでるのかは分からないが・・・俺は、エネルギアがやってくるの待ってたんぞ?」
『えっ?』
「いつも、顔を合わせたら、抱きついてくるじゃないか?だから、今回も来るんじゃないかと思って、この数週間、ずっと身体を鍛えて待っていたんだが・・・」
そう言ってから、剣士は少しだけ残念そうな表情を浮かべながら、言葉を続けた。
「だけど・・・このままだと、無駄になりそうだな・・・」
そんな剣士の言葉に、エネルギアは、はっ、とした表情を浮かべて立ち上がると、自身に背を向けて座り込んでいた剣士に対して、必死な様子で言った。
『そ、そんなこと無いもん!剣士さんが待っててくれたなら、未来の婿として、期待に応えるのが僕の務めなんだから!』
そして彼女は・・・いつも通り、剣士に突進したのである。
しかし・・・
フラッ・・・
と、まるで、宙を舞う蝶のごとく、エネルギアのことを避ける剣士。
「おっと、危ない。・・・だが、まだまだ修行が足りないようだな?エネルギア。その程度じゃ、今の俺を捕まえることは出来ないぜ・・・?(・・・こいつ、まだ婿になる気だったのか?)」
彼が、背中から飛びついてくるエネルギアを避けられたのには、どうやら深い理由があったようだが・・・まぁ、その話は大した問題では無いので、割愛しようと思う。
『じゃぁ、今度は本気で行くよ!』
「あぁ、来い!」
そんな言葉を交わしながら、対峙する剣士とエネルギア。
そして・・・
ドゴォォォォン!!
・・・2人は、正面から衝突したのである・・・。
と、そんな時。
ガション!
カチッ・・・(明かりを付ける音)
「忘れ物をしてしまいました〜」
・・・何故か、コルテックスが艦橋に現れた。
そして彼女は艦橋の中での出来事を見て・・・
「・・・えっと〜、2人の趣味をどうこう言うつもりはありませんが、そんなアブノーマルなプレイをするのはどうかと思いますよ〜?」
いつも通り柔和な表情を浮かべながら、そう口にしたのである。
・・・ちなみに、コルテックスの視点から見て、どんな光景が繰り広げられていたのかというと・・・
『え?あっ?!剣士さんがっ!?』
王城でユリアに何を吹きこまれたのかは分からないが、何故か、際どいビキニ姿をしていたエネルギアが・・・
「・・・・・・」
・・・ダンプカーのようなものに轢かれたのか、腕や足があらぬ方向に曲がって、血まみれになってしまった剣士を、嬉しそうに抱き上げていた・・・といった様子だった。
・・・どうやら、どんなに身体を鍛えても、人間である剣士には超えられない壁があったらしい・・・。
『えっと、こ、こういう時は、人工呼吸!?』
「・・・多分、カタリナ様の所に連れて行ったほうが、早いし確実だし安全だと思いますよ?」
『えっ、なんか残念・・・』
すぅはぁすぅはぁ、という音とは裏腹に、工業用コンプレッサのような空気圧で人工呼吸の練習をしていたエネルギアは、その言葉通り、残念そうな表情を浮かべた。
「(・・・これはいつか、間違いなく死人が出ますね〜。まぁ、私たちには関係ないので、どうでもいいですけどね〜)」
巨漢であるはずの剣士を、片手で軽々と持ち上げて、艦橋の外へと出て行くエネルギアの後ろ姿に、生暖かい視線を向けるコルテックス。
もしもこの船にカタリナが乗っていなかったなら、恐らく直ちに死人が出ていたのではないだろうか・・・。
「さてと・・・」
そんな幸せそうな(?)2人の姿を見送った後、コルテックスは艦橋に置き忘れていた小さな魔法のバッグを手に取った。
「・・・そう、これです。今回の旅で、これを使おうとわざわざ用意してきたんです。・・・ふっふっふ〜」
中身を確認して、そして怪しげな笑みを浮かべ・・・それから彼女は、皆の待つタラップ前へと戻っていったのである・・・。
か、柿の種が、妾の胃袋へと吸い込まれていくのじゃ・・・。
このままじゃと、ブクブクな狐に・・・じゃが、手を止められぬのじゃ・・・。
・・・やはり、昆布系かジャーキー系が良いのじゃろうのう・・・。
・・・ちょっとばかり、高いがの。
それはそうとじゃ。
剣士殿とエネルギアの関係は、物理という名の壁(?)があって、中々進んでいかぬのじゃ。
全くもって、大変じゃのう。
これからどうなっていくのか・・・というか、剣士殿自身が、エネルギアのことをどう思っておるのか・・・。
・・・乞うご期待(?)なのじゃ!
で、補足に入ろうかのう。
コルが何を忘れたのかについては、次回かそれ以降で述べる故、ここでは語らぬのじゃ。
・・・他に、何か言いたいことがいくつかあったはずなのじゃが・・・うむ。
思い出せぬ・・・。
まぁ、大した重要な事はなかったのじゃろう。
/* 追記 */
そうそう。
エネルギアが際どいビキニ姿だったのは・・・剣士殿が部屋に入ってくる前からだったのじゃ。
部屋の中が暗くて、剣士殿にはよく見えておらんかったようじゃがの。
/* End of 追記 */
というか、そろそろ、メンバーの中で誰が最強なのかを決めるという話を書いても良いかも知れぬのじゃ。
とは言っても、対人に関して言うなら、戦闘する以前に、誰が最強なのかは決まっておるんじゃがの?
まぁ、この物語自体、力がどうこうという物語ではない故、メインストーリーを進める上での、時間稼ぎにしかならぬかも知れぬがのう・・・。
・・・うむ。
これは、サイドストーリーの方で書こうかのう。
さ、今日はもう、寝るのじゃ。
そして明日こそ、ストックを貯めるのじゃ!




