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7.1-02 初めての長旅2

時折、心地よい風が吹く、晴れ渡った空の下で・・・


「ふぅ・・・」


好青年よろしく、剣士ビクトールは、額から流れ落ちる汗を愛用のタオルで拭った。

それから、何も遮るものがない地平線の少し上に浮かぶ2つの太陽に眼を向けて、彼は充実した日々を実感しているような笑みを浮かべながら口を開く。


「今日もいい天気になりそうだな」


すると・・・


「・・・ビクトールよ。お前、最近、この町の住人化してないか?」


そんな声が、彼の後ろから飛んできた。


「『住めば都』ってやつだな」


「・・・辺境の城塞都市だがな・・・」


と、彼に対して親しげに話しかけたのは、同じパーティーの賢者ニコルである。

どこか不満気な彼の表情から推測すると・・・賢者の方は、大きな書店も図書館もない小さな都市(サウスフォートレス)より、大きな街のほうが居心地と考えているらしい。


そんなやり取りをする2人は、町を取り囲むようにして作られていた市壁を修復するために、その外へとやってきていた。

以前、どこからともなく飛んできた、まるで宇宙船のような見た目の巨大な白いリング。

その誘爆によって、町は大きく破壊されてしまい・・・・・・そしてそれは、市壁も例外ではなかったのである。


故に、サウスフォートレス自治政府は、町の守りの要でもある市壁の修復を決定したわけだが・・・既存の市壁は、あまりに大き過ぎるダメージを受けていたために、殆どの箇所を取り壊して作りなおさなくてはならず、相当な大工事が予想されていた。

・・・つまり、わざわざ取り壊す手間を考えるなら、古い市壁を取り囲むような、もう一回り大きな市壁を建築した方が、費用的にも時間的にも、コストを低く押さえられそうだったのである。


・・・そこに駆りだされたのが、エネルギアを交換条件に社会貢献活動(きょうせいろうどう)()いられていた、勇者パーティーの面々だった。

とは言っても、慣れない仕事を無理矢理に任せられるのではなく・・・賢者は頭を使った設計を、そして剣士は自ら進んで肉体労働をしていたのである。

要するに、2人とも、嫌々ではなく、楽しんで仕事をしていたのだ。


ちなみに、パーティーのリーダーである勇者レオナルドはここにいない。

彼には彼で、やるべきことがあって、別の場所にいるのだが・・・・・・その話については追々することにしよう。


というわけで、この2人を中心として、市壁の再構築が進んでいたわけだが、その作業は実に順調に進んでいた。

勇者パーティーの一員として世界を渡り歩きながら、様々な街や砦の作りを見てきた賢者にとっては、サウスフォートレス程度の町の市壁を設計することなど造作も無いことだったようである。

そして、普段から人並み外れた体力を持つ勇者と共に、鍛錬を続けてきた剣士にとっても、賢者の注文通りに石を切り出して積んだり、セメントを流し込むための『型』を作ったりすることは、容易いことだったらしい。

そんな2人がタッグを組んで、作業を進めていたのだから・・・まさに電光石火の勢いで、作業は進んでいったのだ。


第二市壁の現在の完成度は・・・7割、といったところである。

彼らを抜きにして、たった1週間ほどで、ここまでの成果を上げることは、ほぼ不可能だったのではないだろうか。


「全部終わるまで、あと3日くらいか?・・・っと!」


ドゴォォォォン!!


石を切断するために特注で造られた専用の斧で、近くの石切り場から運ばれてきた大きな岩を器用に、かつ大胆に切断しながら、賢者に問いかける剣士。

すると・・・


「・・・2日だ・・・だけどな、ビクトール。・・・できれば、もう少し離れた場所で作業して欲しいんだが?」


賢者はそう言いながら、設計図が貼り付けられている机の上に飛散してきた石の破片を手で取り除きつつ、不機嫌そうな表情を剣士に向けた。


「っと悪ぃ!」


剣士はそんな謝罪の言葉を口にすると、2頭の馬で運んできた、重さが300kgはありそうな岩を軽々と引きずりながら、その場を離れようとする。


そんな時・・・


「剣士さんと賢者さーん!」


と、町の入口の方から、彼らにとっては聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。


「お、朝食の時間か・・・」


「いつも済まないな。宿屋の娘さん」


大きなバスケットを手に走ってやってきたお下げの少女に対して、いつも通りの反応を見せる2人。

そんな彼らの言葉に、


「いえいえ。コレも大切なお仕事ですので!」


彼女の方も、これまたいつも通りにバスケットを机の上に置くと、2人に対して、はにかんだ表情を向けた。


彼女は、勇者パーティーが宿泊している宿屋の娘・・・の娘である。

本来はサウスフォートレスの住人ではないのだが、町が酷い状況になったと聞いて、とある村から祖父のところへと手伝いに来ているらしい。


「えっと、今日の朝食は・・・剣士さんには、この地方の名産のヘルチェリーをトッピングした、テンタクルボアのフォカッチャです」


「ほぉ!朝からボリューム満点だな!」


と言いながら、嬉しそうに、宿屋の()娘からフォカッチャを受け取る剣士。


「それで、こっちの生ハムチーズサンドが、賢者さんの朝食です」


「いつも、ありがとう」


賢者も礼を言って、朝食を受け取った。


なお、剣士から見ると、賢者の食事のほうが、随分と簡素な朝食に見えるが、コレは2人からのリクエストであることを一応断っておく。

作業内容とカロリーを考えるなら、異なる種類の食事を取ることになっても、不自然なことはないだろう。

ちなみに、原材料は同じである・・・。


「それじゃぁ、今度は勇者様の所に、届けに行ってきますね?」


「あぁ、頼むよ」


「気をつけてな」


2人に朝食を届けた宿屋の孫娘は、バスケットの蓋を閉めて2人に頭を下げると、矢継ぎ早にその場から立ち去っていった。

恐らく彼女には、勇者以外にも、朝食を届けなくてはならない者がいるのだろう・・・。


「・・・なんか、町娘って感じだよな・・・」


「・・・まぁ、本物の町娘だからな・・・」


バスケットを揺らさないようにしながらも、全力疾走で走っていく彼女の背中に、苦笑を浮かべる剣士と賢者。


すると・・・辺りの雲行きが怪しくなったなってきたのか、突如として太陽たちが(かげ)りを見せ始めた。


「何だ?さっきまで雲一つなかったはずなんだが・・・」


そう言って剣士が空に視線を向けると・・・


「・・・そうか。太陽が隠れただけか」


何か大きくて白いものが、太陽を隠してしまっている姿が眼に入ってきた。

もちろん、空に浮かぶ『白いもの』と言っても雲ではない・・・。


「・・・ビクトール。さっきお前のこと、町の住人化してきてるって言ったが・・・あれは気のせいだったみたいだ・・・」


空の様子を見ても特に反応を示さない剣士に、ある意味で尊敬のような念を抱く賢者。


なぜなら・・・


「ワルツたちが来たみたいだな・・・。それも堂々と・・・」


彼らが視線を向けたその空に、いつもなら姿を隠して、どこか町から離れた場所に停泊するはずの巨大なエネルギアが浮かんでいて・・・剣士がそれを見ても、全く驚いた表情を見せなかったからである。

さらにその上、彼がどこか嬉しそうな表情を見せながら、ストレッチを始めたのは一体何故だろうか・・・。




ドゴォォォォン!!


荒れた地面でも着陸できるように、そり型のランディングギアを下ろして、地面へと降り立つエネルギア。


そしてそこから最初に出てきたのは・・・


「おぉ、2人とも、お疲れさん!」


この町を治めるベルツ伯爵の娘である狩人であった。


「お久しぶりです。リーゼ様」


そんな彼女に挨拶をする賢者。

・・・一方、


「お世話になってます、(あね)さん。・・・・・・あれ、おかしいな・・・?」


どういうわけか、剣士は挨拶をしながら、何故か眉を顰めて頭を傾げた。

その後も、続々とエネルギアから出てくるワルツの関係者一行。


そして最後に出てきたと思わしきワルツに対して、剣士は徐ろに問いかけた。


「久しぶりだな、ワルツ殿。で・・・・・・到着してから早々で申し訳ないんだが、一つ聞いてもいいだろうか?」


「え?この街に何しに来たかって?」


「いや、それはどうでもいい」


「・・・・・・」


「・・・エネルギアの姿が見えないと思ってな」


そう。

一行の中に、エネルギアがいなかったのだ。

それも、本来なら、誰よりも先に船から降りて、剣士に対して頭からタックルを仕掛けるはずの彼女が、である。


「ほほー・・・。これが相思相愛ってやつね・・・」


「・・・は?」


ワルツの言葉に、顰めていた眉の溝を深める剣士。


彼女は、そんな剣士に対して色々と何か言いたかったようだが・・・少し考えた様子を見せてから口を開いた。


「そうね・・・。艦橋に行けば会えるんじゃないかしら?」


「?」


「ま、頑張ってね・・・」


「???」


意味深な言葉だけを繰り返すワルツに対して、彼女が一体何を言っているのか理解できなかった様子の剣士は、ポッカリと大きな口を開けていたエネルギアの巨大なタラップに向かって、細めた視線を向けた。


「・・・よく分からないが、つまり俺から会いに行けということでいいのか?」


「そうそう、そういうこと。あ、でも、ちゃんと装備は整えていったほうが良いわよ?」


「は?」


「・・・多分、行けば分かるわ・・・」


「はあ・・・」


詳しくを語ろうとせず、意味深な発言を繰り返すワルツに対して、頭の中を混乱させる剣士。


ともあれ彼は、そこにいた賢者に、ワルツたちの接待を任せると、一人、エネルギアの艦橋に向かって、歩き始めたのであった・・・。

もう、サブタイトルは、その章の名前で良いのはないかと思う今日このごろなのじゃ。

コルテックスメインの話のはずなのに、エネルギアと剣士の話が始まってしまいそうなのじゃからのう・・・。

いや、本話と次話は2人の話なのじゃがの?

じゃがそれを差し引いたとしても、その後で展開される話が、サウスフォートレスの中での話じゃから・・・あ、そうじゃったの。

そもそも、コルにとっては、サウスフォートレスに来ること自体が初めてじゃったから、別に始めての長旅で括っても問題はないんじゃな。


まぁ、それはよいのじゃ。

でー、補足かのう?

余り書くことは無いと思うのじゃが、一部だけ。


300kgほどの岩を運んできたのは、2頭の馬に引かれた『馬車』なのじゃ。

ロープで引っ張って持ってきたわけではないのじゃぞ?

そのことを書くと、何となく読みにくくなった故、本文中からは馬車の表記を消してしまったのじゃ。

まぁ、その岩を運ぼうとしていた剣士は・・・ロープで引っ張って運ぼうとしておったがのう・・・。


他、宿屋の()()については・・・書くべきかのう?

ついでに、宿屋の()の話と・・・。

なお、宿屋の店主は、以前、ワルツたちがお世話になった宿の主人なのじゃ。

主要な登場人物ではないがのう?

まぁ、この辺の話は、本文中でするかのう・・・。


というわけでじゃ。

今日はこの辺にしておくのじゃ。

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