7.0-16 別の王都の長い夜4
文の書き過ぎで頭が飽和しておる故、もしかしなくても記述に変な部分があるかも知れぬから、いつも以上に脳内補正して読んで欲しいのじゃ。
目前の男たちが・・・まるでその眼に映っていないかのように、愛犬ポチに向かって、ゆらゆらと近づいていくストレラ。
そんな彼女に対して、男たちは遠慮すること無く、飛びつこうとした。
・・・が、
「何だこいつ・・・とんでもない力だぞ?!」
「重っ!」
「うぎゃっ?!」バキバキッ
ストレラに手を掛けても、取り押さえようとしても、その身体を押さえるどころか、歩くスピードを遅くすることすら出来なかったのである。
挙句の果てには、彼女に踏み潰されて、身体中の骨を粉砕される者まで出始めた。
すると、
「くっ・・・ならば、足を止めればいい!」
男の内の一人がそんなことを口にして、ポチに突き刺したものと同じ、恐らく毒が塗ってあるだろう槍を、ストレラの足が隠れているだろうピンク色のドレスのスカートへと突き刺したのである。
毒で麻痺させて、無力化しようと考えたらしい。
・・・もちろん、そんな人力の槍では、彼女の皮膚の角質層すら抜くことは出来ず・・・
バキン!
足と足の間に挟まれてしまったのか、ストレラがただ一歩前に踏み出しただけで、槍の金属部分は、容易く折れてしまった・・・。
「ば、化けもんだろ・・・こいつ・・・」
「山ん中でドレスを着てる時点で、そんな気がしてたんだよ・・・」
「ま、魔法だ!魔法なら焼けるはずだ!魔法使いを呼んでこい!」
そんなやり取りをしている男たちに気にすること無く、ポチへとたどり着いたストレラは、夜の暗闇でも浮かぶその白い手を、血で湿っていたポチの頬へと当てた。
「ぽちぃ・・・」
そして彼女の名前を呟くストレラ。
すると・・・
『くぅん・・・』
ポチは、非常に弱々しい鳴き声だったが、かろうじて返事をかえしてきた。
「あなた、生きて・・・・・・っ!」
その瞬間、ストレラは膨大な量の魔力を回復魔法の生成回路へと注ぎこみ、その力場をポチへと向ける。
ゴゴゴゴゴ・・・
ルシアの体細胞を元にして造られたストレラの身体である。
そんな彼女の魔法が弱いはずもなく・・・周囲の空間を捻じ曲げるほどの強大な魔力を漏れ出させながら、全身に傷を負ったポチへと回復魔法を行使したのだ。
・・・しかし・・・
『くぅん・・・』
傷が塞がって、調子が幾分かは戻ったように見えるポチだったが、その身体に回ってしまった毒まではストレラの回復魔法で消すことが出来なかったようで、ぐったりしたまま立ち上がることは無かった・・・。
「ぽち・・・」
自分の力が足りないことに不甲斐なさを感じて、ポチに手を付けたまま俯いてしまうストレラ。
一方で・・・。
空間を捻じ曲げてしまうほどに大きな魔力と、絶対的な体力の差を目の当たりにして、先程までストレラを襲おうと考えていた男たちは、何も出来ずにその場で固まってしまっていた。
逃げることも、戦うことも、助けを呼ぶことも、命乞いすることも、その全てを忘れたようにして、立ちすくんでいたのである。
もしもこの時点で、逃げることが出来たなら・・・・・・いや、どんなことをしても逃げることは不可能だろうか。
なぜなら・・・
「・・・・・・目障りよ!みんな消えて無くなりなさい!」
ストレラが自身の後ろに立っていた彼らを、ふと思い出したかのように睨むと、まるで八つ当たりのように、とある魔法を行使したからである・・・。
・・・燃料気化爆弾。
そのあまりの威力に、爆発を目撃した者たちが、核兵器か?!、と勘違いしたという逸話を持つ兵器である。
特殊な状態になった超高温の可燃性ガスを空気中に噴霧して、十分に空気と混合した後で自然発火する、という一見すると単なるガス爆発な爆弾なのだが・・・。
その爆発力も然ることながら、本当の真価は、その衝撃波と有害なガスの生成、そして空気中から酸素を排除することによって、生物が呼吸を出来なくすることにあると言われている・・・。
もちろん、科学の進んでいないこの世界に、そんな兵器が存在するわけもなく、そしてその概念が知られることもなく・・・。
・・・故に、何が起ったのか、その場にいたストレラ以外に、原因を理解できた者はいなかった。
ドゴォォォォン!!
ストレラが自身とポチを取り囲むようにして風魔法を展開した直後、その外側で、真っ黒な空全体が、突如として爆ぜたのである。
もっと詳しく述べるなら、空気中を漂っていた自由魔粒子を触媒にして、ストレラの火魔法が伝搬し、地表から少し離れた空気が一斉に加熱されて、急激な気体の膨張現象を引き起こした、となるだろうか。
燃料気化爆弾と物理的な現象として異なるのは・・・実際に燃料を燃やしたわけではないので、有毒なガスが発生しなかった点くらいだが、それでも衝撃波による無気肺などによって、人の呼吸は容易に止めてしまうので、結果として大きな違いは無いだろう。
そしてそんな衝撃波は、何も人の肺を潰してしまうだけのものではなかった。
波全体が平面となって地表へと降り注ぎ、空から見えない壁が降ってきたかのように、当然のごとく全てを押しつぶしたのである。
森の木々、村の家々、地面に生えている花や草、それに小動物や人々・・・。
その全てを、最初から無かったことにするかように、容赦なく、プレスしていったのである。
そして結果としてそこに残ったのは・・・ストレラとポチだけであった。
「・・・やっぱり、誰か死んだかしら・・・」
自身とポチを取り囲んでいた風魔法を解除した途端、押し寄せてきた熱風と、そこに転がって藻掻き苦しんでいた男たちの姿を見て、そんなつぶやきを口にするストレラ。
一応、出力は抑えたようだが、実際、目の前で屈強そうな男たちが苦しんでいたので、もしかすると誰かを殺めてしまったかもしれない、と思ったようだ。
「・・・せめてあの松明の下にいる人たちが、集落の人々だったのか、それとも、こいつらの仲間だったのかくらいは、確認しておくべきだったわね・・・」
今では真っ暗になってしまっていた小高い丘に眼を向けながら、彼女は自分の行動を今更になって後悔したのであった。
すると、そんなタイミングで・・・彼女の前に知った顔が現れる。
ブゥン・・・
「ストレラ!」
彼女の肩揉みを受けて、熟睡していたはずのカノープスである。
恐らくは、エルメスに起こされて、ストレラのことを追いかけてきたのだろう。
「・・・ずいぶんお早い起床だこと」
彼に対して、そんな軽口を叩くストレラだったが・・・
「心配したんだぞ!」
「えっ・・・」
カノープスの方は、演技ではない様子で詰め寄ってきた。
「怪我は・・・ん!?肩に矢が刺さって・・・!」
「いや、これ服に引っかかってるだけよ」ひょいっ
と言いながら、金属製の槍を何事も無く外すストレラ。
「そ、そうか・・・って、スカートに槍が・・・!」
「いや、これも引っかかってるだけだから」
彼女はそう言いながら、槍を外した。
それからスカートを持ち上げて、足を怪我をしていないことをカノープスに見せる。
「ほらね?」
そんな彼女に・・・
「・・・ストレラ。一体、何をしてるんだ?」
そう言いながら、怪訝な表情を向けるカノープス。
「・・・・・・何でもないわ」
特に顔色を変えることもなく、そう口にするカノープスに、ストレラは掴んでいたスカートを放した後、少しだけ顔を赤くしながら、そっぽを向いたのであった・・・。
それから彼女は、今にも月が沈んでしまいそうな山の向こう側の景色に視線を向けてから、小さくため息を付いた後で、カノープスに対して事の顛末を話し始めた。
ポチに乗ってここまでやってきたこと、村の中や周囲に雷竜はいなかったこと、代わりに暴漢たちに襲われたこと、彼らにポチを傷つけられてしまったこと、そして全てを破壊してしまったこと・・・。
カノープスは、そんな彼女の懺悔にも似た説明を静かに聞いて、そして彼女が全てを話し終わった後に、短く言った。
「・・・何も無くてよかった」
「・・・え?それだけ?」
ストレラとしては、人々を殺めてしまったかもしれないことや、大きく森を破壊したこと、それに村を一つまるごと潰してしまったことを咎められると思っていたようだが、彼の対応はそんな予想とは異なるものだったのである。
「人を殺したかもしれないのに?」
「・・・そこにいる者たちは、少なくとも死んでいるようには見えないが?」
「えっ・・・いや・・・・・・」
特に表情を変えること無くそう口にするカノープスに対して、そこにいる男たちだけでなく、避難しているかもしれない村人たちを巻き込んだかもしれない、という説明をしたかどうかを思い出そうとするストレラ。
重要な事だったので、間違いなく包み隠さず説明したつもりだったのだが・・・しかし、カノープスには通じていなかったらしい。
なので、補足するように説明する。
「えっと、もう一回説明するけど・・・」
とストレラが説明しようとした時だった。
これまで出会ってから、そんなことはなかったはずなのに、彼女の言葉を遮るようにして、カノープスが口を開いたのだ。
「ストレラ。帰るぞ?」
「・・・・・・」
そんな彼の言葉を受けて、細めた視線をカノープスへと向けるストレラ。
その後で彼女は、カノープスの言葉の副音声について考え込むようにして眼を閉じた。
・・・つまり、彼は何も見ていないし、何も聞かなかった、というスタンスなのだろう。
そしてその言葉に、ストレラが甘んじれば、彼は彼女のことをこれまで通りに受け入れるに違いない。
しかし、それをストレラが受け入れるかどうかは、また別の話であった。
このまま、彼の言葉に甘えてしまって、自分のしたことを忘れてしまって良いのか・・・。
彼女は人知れず、そんな罪の意識に苛まれていたのである。
「(後悔の本当の意味って・・・こういうことだったのね)」
自分のしたことによって、居心地の良かった居場所を失ってしまうことに、ようやく気づくストレラ。
・・・しかし彼女には、カノープスの前から消えて立ち去る、という選択肢を採ることは出来なかった。
ワルツに派遣されてメルクリオに来ている以上、自身の非が原因で姿を消すことなど、文字通り論外だったのである。
・・・故に彼女は、それ以上、その居場所を汚してしまわないためにも、とある行動に出ることを決意する。
「・・・お父様。後のことはお願いします」
ストレラはそう口にすると、恭しく頭を下げてから、空に向かって手を翳したのである。
「一体何を・・・・・・?!」
・・・そしてカノープスは言葉を失った。
なぜなら・・・
ゴゴゴゴゴ・・・
と、地面を揺るがすほどの魔力がストレラから放出され・・・そして彼女が宙へと浮き始めたからである。
「(あ・・・重力制御魔法って、こうやって使うのね・・・無理だわ。私には常用できない出力ね・・・)」
ゆっくりと空中に浮きながらもそんなことを考えるストレラ。
それから彼女は特大の魔法・・・それも、回復魔法を行使したのである。
その対象は・・・自身が傷つけてしまった全てのモノに対してだった・・・。
うむ!
いつも通り、『・・・』の多い文なのじゃ!
・・・もう駄目かもしれぬのじゃ・・・。
というか最近、『、』の代わりに『・・・』を使っておることがあるのじゃ。
その部分は、『一拍休み』的な読み方で読んで欲しいのじゃ。
ところで・・・『、』には、『一拍休み』的な意味は含まれておるんじゃろうかのう?
ちなみに、なのじゃ。
『・・・・・・』の方は、フェードアウト的な意味を持っておるのじゃ。
あるいは、シンキングタイムなのじゃ。
要するに、ごく一般的な、無言を表す表現じゃのう。
じゃから、妾が書く文じゃと、『・・・』と『・・・・・・』は、実は違う意味だということに・・・今更、注意してほしいとか吐かしてみるのじゃ!
orz"
まぁ、それはさておき、なのじゃ。
今日の文は、感情にまつわる部分が多かった故、下手に補足すると蛇足になってしまうかもしれぬのう?
例えば、ストレラが考えた、『カノープスの前から消えて立ち去る』という選択について。
どうしてストレラはそんなことを考えたのか・・・などという説明は、全くもって蛇足だと思うのじゃ。
じゃから、そういった部分は、あえて補足しないでおこうと思うのじゃ。
というわけで、それ以外の部分で補足しようと思うのじゃ。
そうじゃのう・・・。
まずは燃料気化爆弾について、言い訳を言っておこうかのう。
燃料気化爆弾が生物の呼吸を阻害するための武器である的な記述は、実のところ、俗説でしか無いのじゃ。
実際には、そのような使い方が可能ではあるのじゃが、そう言った運用されておることは、どうやら無さそうなのじゃ。
むしろ、対人兵器として使うのではなく、広範囲に渡る気圧の大きな変化を利用した、地雷除去などに使われる事が多いらしいのじゃ。
・・・まぁ、某軍が、尤もらしく、人権団体にそう抗弁しておるだけじゃから、本当のところはどうなのかは分からぬがのう。
で、じゃ。
次じゃのう。
ストレラの魔法によって作り出された衝撃波が、加減できるものなのか・・・についてかのう?
というのも、衝撃波は結局のところマッハを超えることは出来ぬから、発生したらその強さは関係ないと思うのじゃ。
衝撃波自体は単なる音の壁にしか過ぎぬしのう。
では、一体どの辺が加減できるのかというと・・・衝撃波の後ろ側にある、高温の空気の圧力なのじゃ。
いわゆる、爆風じゃの。
この爆風の強さをコントロールして、攻撃対象に与える物理的なエネルギーを制限する・・・。
ある意味、風魔法の一種と言ってもいいかも知れぬの。
・・・いや、飽くまでも火魔法じゃが。
と、まぁ・・・そんなところかのう。
まえがきにあった通り、頭が、
ドゴォォォォン!!
と爆発しそうなくらい疲労しておるのじゃ。
もうこれは寝るしか無いと思うのじゃ。
というわけでじゃ。
・・・寝るのじゃ・・・・・zzz。
zzzあ、そうそう。
7章の初め辺りに、国整理も追加しておいたのじゃ。
国の名前と地理と産業と位置関係と気候が分からなくなったら、参照してもらいたいのじゃ!
という言葉だけ残してzzz・・・。




