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7.0-07 王都の長い一日7

・・・まだ朝なのじゃ・・・。

1週間書き続けて、まだ朝とか、これいかに、なのじゃ・・・。

王城にあった食堂の一角を陣取って座るワルツたち。


そこにあった椅子に座って、不機嫌そうに・・・


「うぅぅ・・・」


と、唸っているのは、メイド姿のイブである。

シャンデリアのうえに上げられたはいいが自力で降りられず、救出されるまでの10分間、王城職員たちから好奇の視線(?)を向けられていたせいか、彼女はへそを曲げるにいいだけ曲げてしまったようだ。

なお、彼女が()()()()救出される際、職員たちが謎の発作を起こして一時的に意識を失ったらしいが、その原因については不明、とだけ言っておこう・・・。


「ごめんなさい・・・イブちゃん・・・」


と、謝罪の言葉を口にしたのは、イブの隣りの席に座っていて、先程までワルツと共に彼女の存在を忘れていたユキである。

『もしも自分がワルツ様の手を引っ張って、無理やり連れ回すようなことがなければ・・・』と後悔しているらしい。


「んもう・・・今度、ユキちゃんもワルツ様も、同じ目に合えばいいかもなんだから!」


「えっと・・・はい・・・」


そう言って、申し訳無さそうに口を閉じるユキ。

ただその表情の中に、謝罪とは異なる色が含まれていたところを見ると・・・もしかすると、すでに似たような経験があるのかもしれない。

・・・例えば、身体を取り替えた後で、自分の姿が変わっていることをすっかり忘れてビクセンの王城にあった皇帝の玉座に座ってしまい、事情を知らない部下たちに白い眼を向けられたとか・・・。


「〜〜〜っ!!」


・・・そして、ユキは顔を真赤にしながら、プルプルと震え始めた。

恐らく彼女は、忘れられない黒歴史を思い出してしまったのだろう・・・。


「・・・?変なユキね・・・。まぁ、いいけど」


と、黒歴史が多すぎて、一周回って恥ずかしいことが思い出せなくなったのか、特に表情を変えること無く、ユキへと怪訝な表情を向けるワルツ。


・・・しかし、それも束の間。

すぐに、別の場所へ・・・具体的には、食堂に隣接している厨房へ、と彼女は視線を向け直す。

そして同時に、その先にいた人物へと声を掛けた。


「狩人さん?準備出来たんで、3人分の朝食をお願いできます?」


『あいよー』


と、カウンターの向こう側で、どこかの村にある酒場の店主のような受け答えをする狩人。


「・・・ねぇ、ワルツ様?本当に狩人さんて、お嬢様なの?」


その様子に、不機嫌だったイブも、思わずそんな疑問をいだいてしまったようだ。


「・・・えぇ。ご両親のことを知ってるから、多分、間違いないと思うんだけど・・・」


そう言いながらも、頭を傾げるワルツ。

問いかけられたワルツ本人も、確証が持てなくなってきているらしい・・・。


そんな彼女たちとは対照的に、


「狩人様、お嬢様だったのですね・・・。通りで・・・」


と、どこか納得したような反応を見せたのは、ユキである。

彼女も、狩人とは食事以外であまり接点が無かったためか、その正体を知らなかったようだが・・・


「通りで、って・・・何かあったの?」


ユキの言葉の中に、何か含みがあることを感じ取ったワルツは、そんな疑問を口にした。


「はい。身のこなしが、どこか洗練されているというか、無駄が無いというか・・・」


「あぁ。それは、令嬢云々じゃなくて、サウスフォートレスの騎士団長だっていうのが理由ね。・・・あ、でも最近、確か、ミッドエデンの国防省長官に任命されたんだっけ・・・」


『は?』


彼女の正体は、単なる狩人なのか、それとも料理人なのか、あるいは騎士団長なのか、はたまた国防省長官なのか・・・。

狩人に付けられた役職と行動と、ついでにアダ名(?)が一致しないためか、イブとユキの頭の中は、完全に混乱状態に陥ってしまったようだ。


と、そんな時。


「ん?私をおだてても、美味い肉料理しか出ないぞ?できれば、強そうな山猫だと言って欲しいかな・・・」


(くだん)の狩人が、両手いっぱいにお皿を持って、ワルツたちのところへとやってきた。


「ほらっ、今日もワルツの好物の・・・」


「あの、狩人さん?それ、昨日も聞きました」


「ん?それはそうだろ?毎日言ってるからな!」


「・・・・・・」


どうやら、狩人の発言は、料理の内容が()()()()と言った話ではなく、『ワルツの好物の〜』という枕詞(まくらことば)(?)か、料理に対する冠詞のようなものらしい・・・。


「じゃぁ、これとこれは、ワルツとイブの・・・」


ワルツたちが難しい表情を自分に向けていることに気づいていない様子で、机の上に料理を並べていく狩人。

そして、2人分の配膳が終わったところで・・・


「で、これがユキのな」


彼女は最後に、ユキの食事を彼女の前に置いた。


「はい・・・。ありがとうございます・・・」


置かれた食事の様子に、悲しげな表情を浮かべながら、感謝の言葉を口にするユキ・・・。

その様子は・・・どう見ても、ありがたがっているようには見えなかった。


そんな彼女の姿に、


(あぁ・・・。さっきユキが嫌な予感するって言ってたの、この事だったのね・・・)


と、ワルツは納得した。

なぜなら・・・


「すまんな、ユキ。食事を冷やすのに時間がかかって、仲間たちと同じタイミングで食事をさせられなくて・・・」


・・・ユキの食事が、以前と同じく、(ひや)ご飯だったからである。

狩人は恐らく、かつてユキが辛くて熱いものを口にした際、急激に身長が縮んでしまったことを気にしているのだろう。


「えっと・・・いただきます」


少々悲しそうな表情を浮かべながらも、しかし、味自体は決して悪いものではないので、食事に手をつけ始めるユキ。


「うん。美味しいです」


「そうか。何か口に合わないモノがあったら、遠慮無く言ってくれよ?」


「えっ・・・あ・・・はい・・・」


・・・しかし残念なことに、ユキは遠慮しているためか、最後まで要望を口にできずに終わりそうであった。


そんなユキに救いの手を差し伸べたのは・・・彼女の横で骨付き肉に豪快に齧りついていたイブである。


「えーとー、猫の・・・狩人さん?ユキちゃん、多分、もっと熱くて辛いものを食べたいかもだよ?」


彼女は、ユキが不満を隠していることに気づいたらしい。


・・・しかし、そのことについては狩人も承知していたようで、


「あぁ。知ってるさ。でもな・・・ユキの身体のことを考えると、変な食事をさせられない、と思ってな・・・。本当にごめんな?ユキ」


彼女は善意から食事を用意しているというのに、ユキに対して謝罪した。

対してユキの方は・・・


「いえいえ、謝罪することはありません。狩人様の食事は、冷たくても美味しさを失わないように、特別な方法で作られてるというのは分かっています。それに、とても美味しいのですから、文句の付け所なんてありませんよ?」


と、本心を隠して、必死に反論する。


すると、狩人は、下げていた頭を上げると・・・そんなユキの本心を見抜いていたのか、彼女に対して少々意地悪な質問を口にした。


「なら・・・これからも冷たい食事で構わない、ということで良いんだな?」


「んぐっ・・・!」


狩人の質問に答えられなくて・・・苦い表情を浮かべながら思わず唸るユキ。


そんな彼女に、狩人は苦笑を浮かべると・・・最後まで手に持っていた皿を、ユキに差し出した。


「これ以上言うと、意地悪になりそうだから、この辺で止めとくよ。・・・ほら、ユキのために作った、特別なメニューだ。試食してもらえないだろうか?」


そう言って狩人が机の上に置いた平皿には・・・


(・・・カレーね)


というワルツの心の言葉の通り、カレー(ライス)だった。

ただし、湯気の立っていない、冷たそうなカレーライスだったが・・・。


「えっと・・・なんでしょうか?この液体とご飯は・・・」

「・・・?」


そんなカレーライスに、怪訝な表情を向けるユキと、少し戸惑ったような表情を浮かべるイブ。

魔族側の領域からやってきた彼女たちは、恐らく初めてカレーを目にしたのだろう。

まぁ、人間側の領域でも、カレーがあるかどうかは別の話だが・・・。


「これはな、実は昨日、ワル・・・・・・いや、適当に作ってたら出来た新しい料理なんだ。冷めても美味くなるように調整したものだから、是非、ユキに食べて欲しいと思ってな」


「はあ・・・」


そんな身の入っていない返事を返しながら、スプーンを手に取ると、恐る恐るカレーに手を伸ばすユキ。

そして、ステンレス(Stainless)と書かれたスプーンの上に載った粘度の高い茶色い液体に対して、まるで毒物の入った食品を吟味するような疑いの視線を向けてから、恐る恐る匂いを嗅いだ。

・・・その瞬間、


「?!」


ユキは両目を見開き、先程まで難しい表情を浮かべていたとは思えないような表情を浮かべてから、迷わずそのスプーンに喰らいついた。

直後・・・


「!」


彼女は何も言わずに、カレーライスの載った皿を自身の近くへと引き寄せると、まるで抱えるようにしながら、猛烈な勢いで食べ始めたのである・・・。


「うん、気に入ってもらえたようですね?」


「なぁ、ワルツ・・・。これ、変なスパイスが入ってるんじゃないのか?」


直前まで、しとやかな様子だったユキが、突如として別人のような食べっぷりになったことで、本当に何か毒物のようなものが入っているのではないかと狩人は疑ったようだ。


「確かにスパイスの種類と作り方を教えたのは私ですけど、どれもこの世界にはありふれているものだし、それに狩人さん自身が混ぜて作ったじゃないですか?」


「いや、そうなんだが、ここまで人を変えるものかと思って、正直驚いてな・・・。確かに、温かい内に試食した時には、『あ、これ美味いな』とは思ったけど、冷えると中毒性が出るとは思わなかったよ・・・」


「・・・多分それ、ユキだけです」


そんな会話をしている内に・・・


「おか・・・おかわりをいただけませんか?!」


ユキは冷たいカレーライスを食べ(飲み)終わったようだ。


「あー、すまない。昨日作った分は、試験的に作っただけだから、もう無いんだ」


「えっ・・・?」


・・・そして、あからさまに絶望した表情を浮かべるユキ。

どうやら、なりふりを構っていられないほどに、美味しかったらしい・・・。


「そ、そんなぁ・・・」


「仕方ないな・・・。作るのに時間が掛かるから今日は無理だが、明日はもう少し多めに作っておくよ」


「は、はい!!よろしくお願いします!絶対ですよ!?」


「お、おう・・・」


口の周りを、女性が他人に見せてはいけない類の名状しがたい状態にしながら、鬼気迫る勢いで言い寄ってくるユキに対して、戸惑いながら答える狩人。

そして彼女は、これから毎晩、カレーの仕込みを続けることになるとか、ならないとか・・・。


そんな2人のやり取りを見ながら・・・


(・・・これ、自分で調理すると何故か失敗するけど、狩人さんと組んで商売したら、意外と上手く行けるかもしれないわね・・・)


と、工房運営の資金には困っていないが、手持ちのお金に困っているワルツが臨時の金策について考えていると・・・


「・・・ワルツ様・・・?」


今度はイブが、どこか戸惑った様子で問いかけてきた。


「ん?どうしたの?」


「・・・ユキちゃんに、何を食べさせたの?」


「カレー」


「・・・カレー食べても、普通はあんなふうにはならないかもだよね?」


「そりゃ、ちょっと辛めのスパイスが効いてるからね。・・・貴女が口にしたら、ブレスを吐いた飛竜みたい、顔を真赤にするわよ?きっと」


「うわぁ・・・。それならいらないかも・・・食べたいけど・・・」


と、赤くもなっていない顔を両手で撫でながら、チラッ、と空になってしまったカレーの皿に視線を向けるイブ。

そんな彼女の様子を見て、ワルツは持っていた疑問を口にしようとした。


「もしかして、貴女の親御さんって・・・」


と、そんな時、


バタン!


「ぬ、主様(ぬしさま)?!」


食堂の扉を乱暴に開けて、騒がしく水竜(人)が入ってくる。


「ぬ〜し〜さ〜ま〜〜〜!!」


ドゴォォォォン!!


そして、間もなく、地面に沈み込む水竜・・・。


「ごめん、今、食事中」


どうやら彼女は、ワルツの重力制御を浴びてしまったらしい。


「会いたかったでございますよ〜?主様〜」


・・・しかし、地面に伏せつつも、全く応えた様子なく、嬉しそうに身体をくねらせる水竜を見る限り、そんな超重力も、ワルツとの戯れの一部に過ぎなかったようである。


「そういえば、昨日、貴女とは会ってなかったわね(あれ、もう一人会ってない娘がいたような・・・・・・ま、いっか)」


ワルツはそう()いながら、イブへの問いかけを忘れて朝食を再開しようとした。

すると・・・


「おや、ワルツ様。おはようございます?こちらで朝食を頂いておられたのですな?」


今度は飛竜(人)が、疑問形の挨拶を口にしながら、扉の向こうから現れる。


「おはよう、飛竜。えぇ、そうよ?そういえば貴女も、イブと一緒に私のことを途中まで追いかけてきていたなら、朝食を取ってないんじゃない?」


やってきた飛竜に対して、スープを口にしながらも、ワルツはそんな質問を投げかけた。


「いえ、アルゴ様と共に、()()朝食は済ませてございます」


「アルゴ・・・?誰それ?」


すると今度は・・・ワルツの足元から声が飛んできた。


「儂の名です・・・」


「『水竜』が名前だったわけじゃないのね・・・」


「主様なら、何と呼んでいただいても、儂は一向に構いませぬ!」


「・・・つまり、飛竜には、『水竜』と呼ばれたくなかった、ってことね」


そんなワルツの問いかけに、静かに首を縦に振る水竜。

どうやらドラゴンたちの間には、上下関係が存在しているようだ・・・。


「ということは、飛竜も名前があるのよね?」


「はい。我が名は『カリーナ』と申します。ただ、カタリナ様と何となく音が近い故、これまで通り『飛竜』と呼んでいただいても、どちらでも構いませぬ」


「・・・・・・ま、これからどう呼ぶかは・・・考えておくわ」


本来なら、これまでの一般名詞を使って呼ぶのではなく、本名で呼ぶべきなのだが、ワルツ自身にいきなり呼び方を変えられる自信が無かったらしい・・・。


「で、水竜が押しかけてきたのは・・・特に理由もなく、単に会いたかったから、ってことでいいのかしら?」


「・・・流石は主様。これを相思相愛、以心伝心とm」


ドゴォォォォ!!(5G)


「ぐはっ?!」


「うん、流石はドラゴン。ヤワな身体の作りになっていないわね」


と言いつつも、勇者や剣士たちよりも小さな重力に留めるワルツ。


その後で彼女は、本来なら水竜と共に行動しているはずの人物の居場所について問いかけた。


「でさ・・・やっぱ、忘れたままでいると、後で怖いことになりそうだから、ここで聞いとくけどさ・・・・・・テレサ知らない?」


『・・・・・・』


「・・・何でそこで、みんな黙るのよ・・・」


・・・どうやら皆、テレサについて、何か言いにくいことがあるようだ・・・。

そういえば、あれじゃの?

366話。

メンバー紹介を除けば、365話になるのかのう。

とは言っても、投稿を書き始めたのは去年の04/30じゃから、1年間毎日書き続けた、と言うには、あと1ヶ月弱必要じゃのう。

一体どこまで書き続けられるものか・・・。


さてさて。

今日はもう遅いから、さっさと補足してしまうのじゃ。

以前、イブ嬢の父親の話をしたと思うのじゃが、その一端が、徐々に見え始めてきたかのう。

まぁ、詳しい話は、本編で取り上げるまで、まだ言わぬがのう。


で、次は・・・ユキが初めてカレーを見てどう思ったか。

・・・言わぬ。

ノーコメントなのじゃ!

適当に想像するが良い、なのじゃ!


あぁ、そうそう。

水竜と飛竜の名前の話があったのう。

・・・と思って、ここに途中までそのことを書いておったのじゃが、これも本編の方で取り上げるまで、余計なことは書かないことにするのじゃ。

・・・まぁ、何と呼ぶかは、言わずとも分かると思うがのう。


さてさて・・・。

次回は、この物語のメインヒロインである妾が主y

ブゥン・・・

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