7.0-02 王都の長い一日2
ヒィヒィ言いながら、王城から持ちだした裁判道具一式を一人で担いていだアトラスと、彼に対して小動物を見るような視線を向けながら、嬉しそうな表情を浮かべていたコルテックスが、どこか和気藹々(?)とした様子で議長室へと戻っていく姿を後ろから見送った後。
ワルツとテンポの2人は、王城職員たちが出勤してくる前に、地下大工房へと戻ってきた。
そして彼女たちがエレベータから降りた際、地下に停泊していたエネルギアの側で、何やらカンカンカンカンと金属を鍛え続けていた鬼人の少女、シラヌイの姿が眼に入ってくる。
「あの娘、何作ってるのかしら?」
「聞くところによると、失ってしまった太刀を作ろうとしている、という話ですね。2本あったようですが、両方とも、『夏の大三角形』に奪われてしまったようです。あ、これはお姉さま自身が言ってた話ですね。ボケましたか?」
「いやいや、後者はまだしも、前者は私が言った話じゃないわよね?というか、『夏の大三角形』なら、ベガとデネブも入るじゃない・・・。デネブさんがいるかどうかは知らないけど・・・」
と言いながら、周囲の空間を警戒するワルツ。
実は、アルタイルの名前と同様に、呟いただけで攻撃が飛んで来るのではないかと考えていたようだが・・・どうやら、その気配は無さそうだ。
「・・・不憫な世界よね。下手なこと言うと、どっからともなく杭が飛んで来るとか・・・」
「禁句、と言えばいいのでしょうか。そういったものを集めた禁書のようなものがあっても良さそうですね。今度、王城の図書館で見かけるようなことがありましたら、音楽プレイヤーに入れて、こっそりお姉さまの部屋に設置しておきますね」
「・・・うん、部屋には掃除以外で戻らないから別にいいけど、それ、どうやって録音するの?」
「もちろん、アトラスを使います」
「・・・・・・」
即答するテンポに、思わずジト目を向けるワルツ。
どうやらテンポにとってアトラスとは、生け贄と同義らしい・・・。
その後、ワルツに対して言いたいことを言って満足した彼女は、エネルギアの中で再び研究を再開しただろうカタリナのところへようやく姿を消していった。
それからワルツは再び足を進めて、額の汗を拭いながら休憩をとっていたシラヌイに近づくと、徐ろに言葉を投げかける。
「・・・精が出るわね」
「うひゃんっ?!」
足音のしないワルツが後ろから話しかけたせいか、あるいは金属を叩き続けていたがために耳が遠くなってしまっていたせいなのか・・・ワルツの接近に気づかなかったシラヌイは、座っていた作業用の椅子から思わず飛び退いた。
「・・・大丈夫?」
「わ、ワルツ様・・・ですか・・・」
ワルツの顔を見て、安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす様子のシラヌイ。
それから彼女は、そのまま椅子に座ろうとした・・・。
のだが・・・
ドシンッ!
「っ〜〜〜?!」
と、尻もちを付いて、シラヌイは痛そうに自身のおしりを押さえ始めた。
彼女が勢い良く立ち上がった際に、座っていた椅子がその場から吹き飛んでいたためか、残念ながらおしりの下には無かったようである。
とはいえ、ワルツが重力制御で衝撃緩衝を行ったので、それほど痛いものでは無いはずなのだが・・・シラヌイの目尻に涙が溜まっているところを見ると、もしかすると当たりどころが悪かったのかもしれない・・・。
「・・・なんか、大丈夫じゃなさそうね・・・」
「だ、大丈夫です・・・」
それから、生まれたての子鹿のように、プルプルとしながら彼女は立ち上がると、今度こそ椅子を見つけて、そこへと無事に腰を降ろした。
・・・が、すぐに再び立ち上がる。
「っと、ワルツ様の前で、私だけ座るわけにはいきません!」
「いや、そんなこと気にしなくてもいいけど・・・そうね。じゃぁ、私も座ろうかしら?」
そう言ってホログラムで椅子を作り出してから、ワルツはそこに座る素振りを見せた。
すると、それに合わせるように、自身も椅子に腰掛けるシラヌイ。
ワルツの場合は空気椅子も同然だったが、シラヌイの方はそれで気が許せたようだ。
「それでー・・・こんな朝っぱら早くから、鍛錬なんて大変なこと、よくやろうと思うわね?ま、狩人さん辺りなら、違う意味の鍛錬をしてそうだけどさ?」
と、今頃、近くの森に入って、テンタクルドッグか何かを追いかけているだろう彼女の姿を想像するワルツ。
するとシラヌイは、ずっとハンマーを叩いていたせいか、少し震えている手を押さえて誤魔化すような仕草を見せながら言った。
「えっと、お爺ちゃ・・・祖父と一緒に住んでいた頃は、朝に鍛錬をしていたんです。このくらいの時間帯が、赤熱する金属を見極めるために適した時間帯だから、っ言って・・・」
「ふーん・・・。その辺は、まさに鍛冶屋ってところね」
そんなワルツの言葉を聞いて、シラヌイの中では何か疑問が生じたらしい。
「あの・・・ワルツ様?どうしてワルツ様は、鍛冶のことを知っていらっしゃるのですか?私の眼のこともそうですけど、金属の配合比や、道具に関しても理解があるようですが・・・」
「そうね・・・」
そう呟いてから、どこまでシラヌイに対して話すかを考えるワルツ。
言うまでもなく、彼女は鍛冶のことを知っている・・・というわけではない。
彼女の中にあったデータベースにある、自身を修復するための知識バングの中にあった情報にしか過ぎないのである。
あるいは、現代世界における技術の辞典のようなもの、というべきだろうか・・・。
それらの情報は、言うまでもなく、この世界のものではないのである。
それをシラヌイに対してどこまで開示していいものか・・・。
ワルツはそれを悩んでいたのだ。
特にシラヌイの、その類稀な器用さのことを考えるなら、下手に知識を漏らすと、まるで火薬に付いた炎の如く、彼女は一気に様々な知識を吸収したり、何か新しいモノを創り出し始めるに違いない。
そんな背景や状況を整理してから・・・ワルツはゆっくりと話し始めた。
「・・・シラヌイは・・・私がこの世界の出身ではない、ということは知ってるかしら?」
「えっと・・・はい。噂には聞いています。直接聞いたのは初めてですけどね」
「・・・そう。でまぁ、言ってしまえば、その世界では、技術が満ち溢れていたのよ。この世界の魔法のようにね?」
「技術が・・・ですか?」
「そうよ。そこにあるエネルギアみたいな船も、当たり前のようにあって、空の向こう側まで飛んでいけるようなおっきな船だってあるのよ?もちろん、大きなものだけじゃなくて、この世界を構成する小さな粒子を巧みに使って文字を書いたり、生き物の中で活動する小さな機械を作ったり・・・。そんな技術に満ち溢れた世界からやってきたの」
「・・・なんか、お伽話みたいな話ですね」
「・・・私にとっては、魔法のあるこっちの世界のほうが、よっぽど、お伽話に見えたけどね・・・」
そう言ってから、クスッと笑い合う2人。
「そんな世界から来たわけだから、鍛冶やものづくりに関する知識には、ある程度、精通してるのよ」
「・・・本当に、ある程度ってレベルですか?私には、まさに神さまのようにしか見えませんけど・・・」
そしてシラヌイは、目の前にあったエネルギアだけでなく、ワルツが作った溶鉱炉やエレベータ、それに天井にある巨大なハッチに眼を向けた。
「・・・・・・うん。自重しないと、そう言われても仕方ないわよね・・・」
どうやらワルツは、ここに来てようやく、自分が神さま扱いされる原因の一端に辿り着いたようだ・・・。
「あ、そういえばワルツ様」
ワルツが明後日の方角に虚ろな視線を向けていると、シラヌイが何かを思い出したかのように口を開いた。
「例の折り鶴、完成しましたけど、どうしますか?」
「あ・・・」
「・・・えっと・・・何か?」
「ううん。気にしないで・・・」
シラヌイの言葉にワルツが固まった理由については・・・まぁ、言わずとも分かるだろう。
「なら、さっそく見せてもらえるかしら?」
「はい。喜んで!」
こうしてワルツは、完成した千羽鶴(?)を確認するために、シラヌイと共に彼女の部屋へと向かったのである。
・・・タイトルを見なおして思ったのじゃ。
王城の長い一日。
一←これ、数字の『いち』、なのじゃぞ?
王城の長いぃぃぃ日、ではないのじゃぞ?
・・・まぁ、言わずとも分かるとは思うがのう・・・。
それはそうと・・・・・・冒頭の部分、すこし読みにくかったかも知れぬのう。
上手く切ることができなかったのじゃ。
というか、何度も同じ文を見ておると、段々と文章に対する感覚が麻痺していって・・・終いには、それが正しい文に感じてしまう、という状況に陥ってしまっておったのじゃ。
頭が一杯、とは、このことを言うのじゃろうな・・・。
さて。
補足するかのう。
・・・おっと。
今日も補足リストは空っぽなのじゃ。
それでも強いて言うなら・・・魔王ベガについては覚えておるじゃろうか?
ワルツたちが初めて王都に来た際に、表面的に町を支配しておった魔王なのじゃ。
植物を操る魔法を得意とする者なのじゃが・・・まぁ、これ以上、詳しいことは言わんでおこうかのう。
まぁ、そんなところかのう。
さぁさぁ、余裕のある内に、出来るところまで書いておかねば・・・。




