7.0-01 王都の長い一日1
チックタックチックタック・・・・・・
時計の音だけが鳴り響く大きな部屋の中。
具体例を上げるなら、どこかの教会の大聖堂、といった様子である
・・・まぁ、実際、大聖堂なのだが・・・。
そこでは、4人の人々が、3対1で向かい合っていた。
面接のようにも見えるが・・・しかし、大聖堂で面接をするなど、教会関係者だとしても、普通、あり得ないことである。
では、彼らは一体、何をしていたのか・・・。
「では、開廷しますね〜」
・・・裁判である。
その罪状は・・・
「サキュバスへの暴行と、殺人未遂です」
ということらしい・・・。
普通は逆のはずなのだが・・・どうやら特別な事情があったようだ。
「被告人は前へ〜」
そんな気の抜けた裁判長の声を受けつつも、粛々と証言台へと向かう、白っぽい金髪の少女。
一件、人畜無害そうな(?)この少女が、サキュバスに対して暴行を加えたということなのだろうか・・・。
「検察側は求刑を〜」
本来なら、証拠の提示や、関係者による証言など、様々な手続きがあるはずなのだが・・・しかし、それらの手続きがまるで最初から無かったかのように省略して、裁判長はいきなり求刑を求めた。
その言葉と同時に、検察役をしていた黒い長髪の女性が、無表情のまま喜々として立ち上がる。
「求刑は・・・『島流し』としましょう。それと合わせて、機動装甲の制御権の剥奪も必要ですね」
「・・・・・・」
そんな求刑に対して、不服だったのか、眉を顰める被告人。
いや、むしろ、求刑に不服だったのではなく、検察役をやっている女性そのものに対して憤りを感じていた、と言うべきか・・・。
「それでは、弁護側は、最終弁論を行ってください」
まだ一度も弁論の機会を持っていないというのに、いきなり最終弁論までショートカットする裁判長。
しかし、弁護側の人物は、そんな横暴な裁判長に対して、特に異議も唱えること無く、弁論を始めようとした。
弁護人を務める男性・・・と言うよりも少年にしか見えない彼は、その場で立ち上がると、手元の資料に眼を通しながら発言を始めたのである。
「・・・被害者側の証言が必t」
「では、判決を言い渡します」
「ちょっ・・・・・・」
どうやら、裁判長は、判決を急いでいるらしい・・・。
あるいは、弁論すらも意味が無いほどに、重罪だということなのだろうか・・・。
そして出された判決は・・・
「死刑」
『・・・・・・』
・・・その場にいた者たちにとって、想像を絶する(?)ものだった。
「あー、良かった、良かった。勝訴したわね(本気で変なこと言われたら、どうしようかって迷ってたのよね・・・。まぁ、死刑くらいなら問題ないでしょ。そもそも、生きてないし・・・)」
・・・だが、どうやら、被告人にとっては、喜ばしいものだったようだ。
実際、検察役の女性が無表情で悔しがっているところを見ると、被告人にとっては勝訴だったのだろう・・・。
・・・しかし。
ガンガン!
「静粛に〜」
裁判長がまだ何か言いたそうに木槌を叩いている様子を見ると・・・どうやら、判決は完全には伝えきっていなかったようだ。
「死刑。弁護人を死刑ですよ〜?」
「ちょっと、待て!コルテックス!俺が何をした?!」
「何もしてくれないから死刑です。死刑になりたくなかったら、口説く真似くらいはしてもいいのではないですか〜?」
「何で兄弟を口説かなきゃならないんだよ・・・」
「さぁ〜?」
「・・・・・・」
どうやら裁判長、もといコルテックスにも、判決の理由が分かっていないらしい。
4人が早朝の教会の中で、そんな茶番を繰り広げていると・・・
ガチャッ・・・
「さて・・・。今日はミサの日じゃ。準備をせねば・・・」
と、御年80歳になる国教会の教皇が現れて・・・
「・・・おや」
聖堂の壇上で何かをしている4人の姿に気付いた。
「あ、すみません。今、片付けますんで・・・」
そう言った後で、王城から持ってきた小道具の書類を急いで片付け始める被告人、もといワルツ。
そんな彼女に・・・
「あ・・・あぁ?!」
と、驚いた表情を見せながら、周囲にあった椅子を蹴飛ばしつつ、おぼつかない足取りで後ずさりを始めた教皇は・・・
「わ、ワルツ様っ!!」
彼女の名前を叫び声のように上げて・・・
ズサッ!!
・・・そして地面にひれ伏した。
そして、
「我らが国教会!貴女様を唯一の神として崇めさせて頂きます故、どうか民には寛大なご容赦を!!」
高齢の教皇は、まるで民を鷲掴みにして、今にも口に運ぼうとしている魔神に対して向けるような、そんな言葉を口にしたのである。
「・・・ねぇ、もう帰っていい?っていうか、私がいない間に、王都でどんな噂が流れていたわけ?」
教皇が乱心した様子を、眼を細めながら一瞥しつつも、撤収作業を進めながら、ミッドエデン共和国上下院議会議長代理(?)であるコルテックスに対して問いかけるワルツ。
「そうですね〜。私が知っている限りだと〜・・・・・・実はこの国がワルツという魔神によって統治されているという噂が、街の隅々の子どもたちまで知れ渡ってしまった、ということくらいでしょうか〜。それ自体は目新しい情報ではないと思いますけどね〜」
「・・・十分、面倒な情報よ・・・それ・・・」
流石に、姿までが知れ渡ったわけではないはずだが、どうやら町中では、気軽にワルツの名前を出せなくなってしまったようだ。
・・・ところで。
では、どうして教皇がワルツの顔を知っているのか。
・・・どうやら、かつて魔女として捕らえられていた際に顔を合わせていたことや、あるいはルシアの勇者騒ぎの際に、ワルツが彼のことをぐるぐる巻きにして納戸の中に押し込んだことがあったために、いつの間にか顔を覚えられてしまっていたようである。
恐らく彼の目蓋の裏には、ワルツが悪巧みをする際に浮かべる怪しげな笑みが、恐怖という名の形で、しっかりと焼き付いてしまっていることだろう・・・。
「・・・ねぇ、教皇のお爺ちゃん。頼むから、神さまって崇めるの、やめて貰えると助かるんだけど・・・」
「ははぁ・・・。承知いたしました」
「・・・・・・?」
妙に飲み込みの良かった教皇に対して、小さな疑問を抱くワルツ。
しかし、ちょうど片付けが終わったので、彼女はそんな疑問を頭の片隅に押しやると、荷物を全てアトラスに持たせて、教会の外へと歩み出たのであった。
外へ出ると、東側の空に、真っ赤な太陽と、白っぽい太陽が頭を出してきていた。
2つの太陽たちに照らしだされた空は、どこまでも澄み渡っていて、まさに冬の朝、といった様子である。
そんな景色の中、ワルツはひときわ目立つ物体に眼を向けると、空の色とは異なる憂鬱そうな表情を浮かべながら口を開く。
「あー・・・あの四角いサイコロ、中々減らないわね・・・」
まるで、大量に積まれた美味しくないクッキーを消費しなくてはならない、といったような場面で使われそうな言い回しだが・・・・・・彼女が見ていたソレは、四角いクッキーでもなければ、四角いサイコロでもなく、街の南側で静かに鎮座していた巨大なモノリスであった。
つい2週間ほど前に、ルシアが火山一つを丸ごと鋳造して作った、巨大な鉱山(?)だ。
今なお昼夜問わず、冒険者たちや鉱業ギルドの者たちの手によって採掘され続けているようだが・・・そのあまりの硬さから、開発はほとんど進んでいないらしい。
「ですが、使用用途の方は、もうすでに決まっていますよね〜?」
ワルツの横に立っていたコルテックスが、モノリスに向けた彼女の表情に気づいて問いかけた。
「んー、まぁね。これからしばらくの間、忙しくなるわよ?そん時は手伝ってね?」
するとコルテックスが即答する。
「はい。嫌です」
「・・・・・・」
・・・コルテックスとしては、そんな暇は無いですよ〜!、ということなのだろう・・・。
実は、彼女の補佐についているはずの、テレサや水竜たちと上手くいっていなかったりするのだろうか・・・。
「・・・いやね?無理させてるってのは分かってるのよ?」
と、すかさずフォローを入れようとするワルツ。
するとコルテックスは、先ほどのテンポの言葉を引用して言った。
「・・・では、判決の続きです。島流しになりましょう?」
「おや。コルテックスも、随分と物分りが良くなったようですね。あとは、機動装甲の制御権を・・・・・・?はて?島流しになる?」
「・・・つまり、休暇が欲しいのね?」
そんなワルツの言葉に、コルテックスは無言のまま、テレサそっくりの尻尾(1本)を左右に振りながら、ワルツに対して笑みを向けた。
その後で、徐ろに口を開く。
「実のところ羨ましかったのですよ〜。お姉さま方だけが外の世界を見に行って、私たちが見るのは、常に王城の中だけ。アトラスがちょっかいをかけてきてくれるなら、まだ我慢のしようもありますが、彼、むっつりなのか全く手を出してこないのですよ〜。ね〜?アトラス〜?」
「・・・姉さん。俺もどこか、コルテックスのいない場所に逃げたい・・・」
と言いながら、鬼嫁からの小言と、育児に疲れ果てた、気の弱いサラリーマンのような表情を浮かべるアトラス。
やはり、彼の家出は、秒読み段階だったようだ・・・。
「そうね。コルテックスだけじゃなくて、他にも王城の中に籠もりっきりになってる人がいるわよね(ま、アトラスもそうよね・・・)。そんな人たちを連れて、たまには慰安旅行に出かけるっていうのもいいかもね」
「いいかもね、じゃないですよ〜?お姉さま。・・・判決です」
「・・・・・・」
笑みを浮かべたまま、声だけ鋭い色に変わるコルテックス。
どうやら、近いうちに彼女を外に連れ出さないと、後で判決が覆されて、より重い刑を強制執行されそうである・・・。
うむ。
特に背景を考えずに駄文を書くのじゃったら、原文を書くのに30分もかからぬのう。
・・・まぁ、その分、余った時間を加筆と修正に時間を費やしたがのう。
ところでじゃ。
タイトルにもあるように、『後後後』と書くのが嫌になって、番号を振るようにしたのじゃ。
『序』とか『中』とか書いても、全然、序でも中でも無いからのう。
最適化、なのじゃ!
と、まぁ、そんなところで、補足に入ろうかのう。
・・・無い。
無いのじゃ。
ホムンクルス裁判のフラグを回収する+αだけの駄文じゃったから、特に補足すべきことがないのじゃ。
あるとすれば・・・モノリスについて幾つかあるのじゃが、今の時点では、何を補足すべきで、何を本文で書くか決まっておらぬから、補足しようがないのじゃ。
というわけでじゃ。
今日はあとがきを短めにして、今の内に、ストックをあと3話くらい書いておくのじゃ!




