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6後後後-28 迷宮のあとで4

そこからワルツたちが200mほど歩いて目的地に着くと・・・


「ぜぇはぁぜぇはぁ・・・・・・」


・・・イブが、市壁に手をつきながら、荒い息をついていた。

ロリコンたちに開放されてから、たった1日で体力が戻るわけがない、ということもあるのだが、雪が積もっていて普段よりも歩きにくかった町の道は、必要以上に彼女の体力を奪ってしまったらしい。


「ほら、風邪引くわよ」


そう言いながらワルツは、イブの頭に積もった雪をその手で掻き落としながら、ついでに、彼女の頭の上に、重力制御で作った透明な傘を展開する。

雪合戦をして、びしょ濡れになっていたというのに、その上、一気に走って汗を掻いて・・・そして周囲の気温に冷やされたとなれば、風邪を引いてしまっても決して不思議なことではないだろう。


「ほら、飛竜も。イブを温めようとしてブレスなんて吐いたらダメよ?」


と言いながら、同様に飛竜の頭からも雪を退けるワルツ。


「う、うむ。かたじけのうございます」


どの程度の出力でブレスを吐いたら、イブのことを燃やさずに温めることが出来るか・・・。

飛竜は誰もない方向を向いて、口(顔)から出す炎の出力を調整していたようだ。

もう少し、ワルツたちが来るのが遅れていたなら・・・もしかするとイブは今ごろ、魔王(ヌル)の作った氷ですら溶かしてしまう超高出力のドラゴンブレスによって、真っ黒焦げになっていたかもしれない・・・。


「・・・さて、この上に登るわよ?」


そんな飛竜のことを(とが)めること無く、空を飛べない2人と、そして加熱されたり冷却されたりして弱っていたヌルのことを、重力制御で市壁の上へ持ち上げるワルツ。

その後を、カタリナが壁を歩いて上り、ユキがジャンプして付いてくる。


すると、そんな彼女たちの姿が空から確認できたのか・・・


シュタッ!


「待ちくたびれたよ?お姉ちゃん!」


ルシアも空から降りてきた。


「ごめんね・・・・・・ルシア」


「うん・・・・・・今度、買い物に付き合ってくれたら、許してあげる」


「う、うん・・・分かったわ・・・」


ルシアを待たせた代償は、ワルツにとっては随分と重いものになってしまったようだ・・・。


・・・まぁ、それはさておき。


「で、その増えた迷宮ってのはどこかしらね・・・」


市壁の上へと辿り着いたワルツは、鬱蒼(うっそう)としげる森・・・ではなく、木も草も生えていない、雪原に向かって眼を向けた。

そこで雪の載ったサボテンのようなものが生えているところを見ると・・・どうやらここは先程まで砂漠だったようだが、雪が積もってしまったせいで、雪原に変わってしまったようである。


「えっと、兵士の報告によると、この場所から見渡せるという話だったのですが・・・暗くてよく分かりませんね。今、見えるのは・・・・・・調査のために歩きまわっている兵士たちが持ったランタンの光くらいでしょうか」


と、薄暗い雪原の中で輝く、小さな星のような黄色い光に対して、そんな言葉を口にするヌル。

すると、高性能なカメラの眼から景色を眺めていたワルツは、彼女に対して、自身から見えていた事実を口にした。


「・・・あの光、全部、迷宮よ?」


『・・・・・・へ?』


「確かに、光ってるのはランタンだけど、その下に、洞窟みたいな穴が開いてるみたいだしね・・・。あれじゃない?兵士たちが見つけた迷宮の穴の上に、ランタンを設置した的な感じ」


そう口にしたワルツが思い出していたのは・・・ミッドエデンのアルクの村近郊にある、ルシアの魔力で作り出された小さな迷宮の入口の姿だった。


地面から盛り上がった土に、かまくらのようにして開いた穴と、発見した者によって掲げられたものだろう小さなランタン。

その様子と、ほぼ同じような装いの洞窟が、雪が降り続けているために見えにくかった視界の中だけでも、20個以上あったのである。


「ほら、そこなら見えるんじゃない?」


そう言いながら、人の目でも十分に見ることのできる距離にあったランタンと地表に開いた穴を指さすワルツ。


するとその言葉に、ヌルではなく、別の者が口を開いた。


「やはり、この子はミミックではなく、迷宮の子どもだったのですね・・・」


と言いながら、白衣のポケットを愛おしげに撫でるカタリナ。

恐らく彼女は、線香花火のように、周囲に腕を伸ばしていた巨大な迷宮の最期の姿を思い出しているのだろう。

その腕から放たれたモノが、目の前の迷宮たち、というわけである。


(カタリナ・・・。その・・・シュバルって言ったっけ?それ持って帰ってどうすんの?ウチの王都を迷宮都市に変えるつもりなの?・・・いや、別にいいけどさ?)


と、ワルツがそれを口にしようか悩んでいると、今度は、迷宮たちの姿を見て固まっていたヌルとユキが口を開く。


「どうすればいいのでしょう・・・。喜んで良いのでしょうか?」

「どうしましょうね・・・。やっぱり間引くしか・・・」


『ビクセン=迷宮都市』という構図自体は守られたが、想像以上に増えすぎている迷宮にどう対処して良いのかを悩む2人。


「これからも同じことが起きるかもしれないこと考えれば、9割くらい間引くっていうのが妥当なところじゃない?」


今後のビクセンの町のことを考えながら、そう口にするワルツ。


すると、そんな時・・・


ビクンッ・・・


「・・・?何か今動いたような気が・・・」


白衣の中のシュバルがワルツの殺意(?)を感じて動いたためか、カタリナはそう言いながら、感触を確かめるようにして、再び自身のポケットに手を当てた。

それと同時に、過呼吸から復帰したイブも、脇腹を痛そうに押さえながら口を開く。


「あの・・・ワルツ様?迷宮を殺しちゃうの?」


「・・・まだ決まったじゃないわよ?決めるのは・・・私じゃなくて、ユキたちだしね。消して欲しいって言うなら手伝ってもいいけど、こればっかりはボレアスの人たちが決めるべき話だから・・・」


・・・だから、私が勝手に決めていいものではない。

そんな副音声を残したまま、ワルツはその視線をユキたちに向けた。


すると、ヌルは黙ったまま口を閉ざしていたが、その横にいたユキが意を決したように口を開く。


「・・・・・・ボクは・・・もしかすると皆様には無責任だと取られてしまうかもしれませんが、どちらでも構わないと考えています。何も選択肢は、消すか消さないかの2択だけではないのですから」


つまり、人側が移住するか、あるいは、人と迷宮とが共存できるような新しいあり方を模索してもよい、というわけである。

そもそもこれまでは、どうにか共存してきたのだから、これからも形を変えて、同じ関係を築いていけるのではないかと思ったようだ。


そんな妹からの言葉を受けた、全てのユキのオリジナルであるヌルは、深く考えるために閉じていた眼をゆっくりと開くと、自身の考えを口にし始めた。


「・・・全世界を探したとしても、これほどまでに迷宮が密集した土地は、他に無いでしょう。そう言う意味では、学術的にも非常に重要な場所とも言えるのでしょうね。・・・ただ、問題は、やはりそこに住む人々のこれからなのです。果たして、現実的に、多くの迷宮たちと人々が共に暮らしていくことが出来るのか・・・。長いこと生きていますが、このような状況は経験したことがないので、すぐには決めることが出来ない、というのが、私の現在の結論です」


「ま、そうよね・・・。あまりに、不確定な要素が多すぎて、すぐには決められないわよね。・・・迷宮を間引いた時と、間引かなかった時の効果。それに、人の移住に掛かる時間と費用と場所の問題。他にも、政府としての機能をどうするのかとか、経済的な影響とかについても考えなきゃなんないしね。今もそうだけど、国が弱体化しているわけだから、他国に攻め入られる可能性も否定出来ないわけだし・・・」


「はい。考えなくてはならない問題は山積していますが、全てに対して同時に手を付けるのは、私たちでは不可能です。なので、現状維持を基軸に、どうにか対処できる部分から手を付けて・・・・・・その間に、迷宮との今後のありかたを皆で協議していくことが最適かと考えています」


そこで言葉を終えたヌル。

これ以上は言うことがない、ということなのだろう。


つまり、そうなると・・・


「・・・なら、迷宮を間引くっていう話は・・・無くなるのかしら?」


・・・ということになるだろうか。

現状維持を推めながら、少しずつ『人側』の対処の方法を模索していくということは・・・・・・つまり、迷宮の数は考慮に入れずに、人側が変化して対応する、という意味になるのだから。

そもそも、迷宮の数を減らすことを前提に考えているのなら、『現状維持』という言葉は使わない、と言ったほうが分かり易いだろうか。


「はい」


そう短く答えながら、小さく笑みを浮かべるヌル。


「そう・・・。ま、気が変わった時に(私が居れば)、言ってくれれば手伝うわ。ユキや他の冒険者がいれば、なんとかなりそうだけどさ?」


『・・・ありがとうございます』


そして、ヌルとユキは、ワルツに対して同時に頭を下げたのであった。




と、そんな時、不意に北から流れてきた強い風が、市壁に当たって、上昇気流を巻き起こし、ただでさえ身体が冷えつつある仲間たちに襲いかかる。


「うほあっ!!寒っ!!」


そう言って、着ていたコート(ユキからの借り物)の襟元を引っ張て、隙間風が入らないように小さくなるイブ。


「ほーら、風邪を引いて、カタリナに痛い注射されても私は知らないわよ?」


「か、カタリナ様、注射してこないし!」


キラッ・・・


「ひぃっ?!」


「・・・?」


カタリナの方に眼を向けた瞬間、イブが急に怯え始めたようだが、何か見たくないものでも見たのだろうか・・・。


「変な娘ね・・・」


そう言いながら、カタリナの方に視線を向けるワルツ。


「・・・何か?」


「いえ。何でもないわ・・・」


しかし、彼女の姿に、不自然な様子は無さそうだ。

まぁ、何かあるとすれば・・・先程まで外に出ていた手を、白衣のポケットの中に入れていることくらいだろうか。


その後で、再び、『このままだと、冗談じゃなくて、みんな本当に風邪を引いちゃいそうね・・・』と考えながら、イブに対して視線を向けるワルツ。

するとそこでは・・・・・・イブが、カタリナではなく、違う方向を向いて固まっていた。


「・・・?」


しかし、ワルツが気づいてみると、固まっていたのはイブだけではなかった。

ヌルや飛竜、それにルシアも町とは反対方向の雪原に眼を向けながら、何か真剣な視線を向けていたのである。

そして、それに追従するように、カタリナも眼を向け始めた。


「・・・・・・皆さん、どうしたのですか?」


唯一、反応していなかったのは、最近サイボーグになったばかりユキだけであった。


そんな彼女の問いかけに、ルシアが答える。


「魔力が・・・集中していってるの・・・」


「魔力・・・?」


その言葉に、自身の耳(人)を傾けるユキ。

しかし、その耳では、魔力を()()()()ことは出来なかったようだ。


同じく魔力を感じ取ることの出来ないワルツが、その様子に気づいて口を開く。


「ごめんね、ユキ。今度、魔力を感じられるようにするために、追加で手術s・・・」


「いえ、結構です!間に合ってます!絶対にしないでください!」


と全力で、頭と腕をブンブンと振るユキ。


そんな彼女背後で・・・・・・それは突如として生じた。


ブゥン・・・


『?!』


近くの雪原にあったランタンの上空で、まるで雲を割れるようにして、その向こう側に巨大な月が姿を現したのである。

他にも・・・


ブゥン・・・


今度は明るい2つの太陽が現れ・・・更には・・・


ブゥン、ブゥン、ブゥン・・・


と、それぞれのランタンの上に、切り取ったような空が浮かび上がってきたのである。


星空、雨、嵐、あられ、濃霧・・・

その様子は、昼夜が逆転していたデフテリービクセンの内部が、それぞれの小さな迷宮の上に現れたような光景であった。


「流石は迷宮の子どもたちね・・・。空間制御魔法かしら?」


「さぁ・・・?ボクにも詳しくは分かりませんね・・・」


ワルツの言葉に頭を傾げるユキ。


すると、彼女たちの上空にも・・・


ブゥン・・・


と低い音が生じて、今いる場所とは異なる空が生じたようだ。


「・・・・・・やはり、シュバルは、迷宮の子どもだったのですね」


「うん・・・でもさ・・・」


カタリナの言葉にそう返しながら、ワルツが空へと眼を向けると・・・そこからは、どういうわけか周囲の小さな迷宮とは違って、雪が降ってきていた。

それも、周囲の空と見分けがつかない、暗い空から、である。


「・・・これじゃ、本当に迷宮の子どもなのかどうか分かn・・・・・・ううん。なんでもない」


周囲が暗いにも関わらず、何となくカタリナの表情の上に、より暗い影が差したような気がして、思わず途中で言葉を遮るワルツ。


そんなやり取りをする彼女たちの周りでは・・・


「綺麗・・・」

「壮観ですな・・・」

「っていうか、この世の終わりってこんな感じかも?」

「これなら、年中、作物が収穫できそうですね」

「・・・何故、熱そうな場所が無いのでしょうか・・・」


仲間たちがそれぞれにそんな感想を漏らしながら、白い雪原に照らしだされていた、様々な色の空に見入っていたようだ。


「これじゃ、間違っても、今すぐ間引くとかでき無さそうね・・・」


「そうですね・・・」


そして皆と共に、色とりどり景色へと視線を向けるワルツとカタリナ。


そんな彼女たちの眼の前で・・・


『へ、へっくしゅん!!』


と同時に仲間たち全員がくしゃみをしてから、恐る恐る後ろを確認するようにして振り向いたのは・・・・・・果たして、どうしてだったのだろうか・・・。

風邪を引いてカタリナの世話になることが無いワルツにとっては、最後まで理解できなかったようである。


というわけで。

こうしてボレアス帝国での一件は、終わりを見せたのである。

正しくは、()()()終わりを見せた、と言うべきだろうか・・・・・・。

この後で、ワルツたちは、再びこの地へと訪れることになるのだが・・・・・・まぁ、その話については、またいつかすることにしよう。


・・・ともあれ。

この翌日の早朝に、ワルツたちはエネルギアに乗って、ミッドエデンへと帰還した。

その際、ワルツと並んで嬉しそうにエネルギアへと搭乗するユキに対して、ヌルが複雑な表情を浮かべながら、プルプルと震えていたようだが、特に混乱は無かった、とだけ言っておこう。


そう。

この時は、何も無かったのだ・・・。

次回、『か、カタリナ様!?その腕より太い針、人間用じゃないかもだし!?』、乞うご期待!

・・・嘘じゃがの。


というわけでじゃ。

・・・ようやく6章が終った(つもりな)のじゃ・・・。

なんと実に、174話・・・。

言い換えるなら、174/357≒49[%]。(48から修正したのじゃ)

・・・ダメじゃろ、これ・・・。

しかも、ミッドエデンに戻ってから、色々と回収せねばならぬフラグが残っておるしのう。


もう、1〜4章を1章に変えて、5章を2章、そしてこの章を3章にしようかと思っておるくらいなのじゃ。

4章まで修正が終わったら、番号をシフトするかのう・・・。


でじゃ。

少々後悔しておったり、しておらんかったり・・・。

なんか、結局、よくある展開で終わってしまったのじゃ。

下手のなんとやら、とも言うから、無難とも言えるんじゃがのう。


まぁ、よいのじゃ。

次章でどうにかすれば良い話じゃからのう。

・・・いや、ハードルを上げておるわけではないのじゃぞ?


さて。

補足するのじゃ。


あ、そうそう。

一つ前話で書くことを忘れておったのじゃ。

エネルギアから連絡が無かった話。

別に、エネルギアが何者かに襲われておったとか、ECMとかEMPバーストを浴びておったとか、そういうのではないのじゃぞ?

・・・雪雲が厚くて、地表が見えなかったのじゃ。

それに、たとえ見えていたとしても、それぞれの迷宮自体は小さいものじゃったから、エネルギアの巨体にとっては無いにも等しいものじゃったしのう。

そんな理由から、エネルギアから連絡が飛んでこなかったのじゃ。


で、次じゃ。

・・・・・・無いの。

カタリナが白衣のポケットに、鉄パイプのようなものを仕込んでおるとか、そんなしょうもない話を書いても仕方ないじゃろ?


というわけでじゃ。

・・・ストックが無くなってしもうたから、次話の執筆を始めるのじゃ!

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