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6後後後-27 迷宮のあとで3

その向こう側では大きな月が輝いているためか、まるで大都市の光に照らしだされたかのように、薄く輝きを放っていた低い雲。

そして今もなお、大きな花のような雪を振り撒いている・・・そんな空の下には、所々で、蝋燭(ろうそく)のような小さな灯りを放つ、静かなビクセンの町並みが広がっていた。


そんな町並みと、巨大な城を隔てる大きな溝・・・プロティービクセンが地中から出て来たことで生じた大きな穴の上を、一部の仲間たちを連れて、一瞬で飛び越えたワルツ。


「・・・よっこいしょっ」


そして彼女は、地面に仲間たちを下ろした後、全く疲れていないにもかかわらず、条件反射のように、そんな一息つくような素振りを見せた。

その際、


「しゅたっ!」


自身の隣へとゆっくり降ろしたはずのイブが、大げさな様子で着地する。


「・・・いやいや、口で颯爽さを表現しても、意味ないからね?」


彼女に対して呆れた表情を向けるワルツ。

しかし一方で、イブの方には、その言葉を気にした様子は無かったようだ。


「ん?そんなこと無いかもだし。とーちゃんが言ってたもん。何事にも儀式は必要だって」


「時と場合によると思うけどね・・・」


と言いながら、先ほどの自身の発言を、心の中に設置していた物がいっぱいに溢れている棚の上へと無理やりに乗せるワルツ。

それから彼女は、今しがた、自分たちが超えてきた大きな穴の上空へと視線を向けた。


「・・・そうね。本物の『シュタッ!』っていうのは、あんな感じね」


するとそこでは、何か白い影がこちらに向かって移動してきていて・・・・・・そして、次の瞬間、


ドゴォォォォン!!


と、イブの横の地面に降り積もった雪と、街の大通りに敷き詰められていた石畳を、風圧と自身の質量で吹き飛ばしながら着地したのである。

そして、雪煙の中から、怪しげに赤い瞳を輝かせながら現れたのは・・・


「ふぅ。ようやく、身体の使い方が分かってきました・・・!」


・・・大きな雪だるまだった・・・。

いや、ユキだるま、と言うべきか・・・。

どうやら、先ほどの雪合戦で大量に身体に付着していた雪は、着地の際の衝撃でもほとんど落とすことが出来なかったようである。


「・・・ごめん、イブ。ユキの着地、シュタッ!、じゃなかったわ・・・。ま、別に真似してもいいけどね?」


「わ、ワルツ様、私の事、殺す気?!」


「大丈夫大丈夫。カタリナがいれば、そう簡単に死なないはずから」


ワルツはそう言いながら、イブとは自身を挟んで反対側に着地させたカタリナに対して視線を向けた。

するとそこには・・・


「・・・これは、もうダメかもしれませんね・・・」


・・・何故か匙を投げた様子のカタリナの姿が・・・。


「あのー、ワルツ様?ユキちゃんのお姉ちゃん・・・えっと、ヌル様が、さっそく死にそうになってるかもよ?」


「イブ。あれはね・・・逃亡した結果の戦死なの。むしろ処刑されたって言うべきかしらね・・・」


と言いながら、ユキ以上に凍り漬けになっていて、瞬き一つできない様子のヌルに、生暖かい視線を向けるワルツ。

その様子を見る限り、ヌルはすでに生命活動を停止しているようであった・・・。


先程の雪合戦の際、ユキと共にワルツ側へと寝返ろうとしたヌルは、敵と味方の両方から飛んできた大量の雪球に対応すべく、氷魔法で壁を作ろうとしたのである。

しかし、予想以上に雪球の数が多かったためか全てを防ぐことは出来ず、さらには半分溶けかかっていた雪球が氷魔法の影響を受けて過冷却状態になってしまって・・・そして彼女身体に当たった瞬間、その衝撃で凍り()()()しまったのだ。


・・・まぁ、それが1個や数個程度なら、何の問題にもならなかったかもしれない。

しかし、彼女たちの前方には、重力を巧みに操る超兵器、そして後方には、同じような能力を持った最強の魔法使いがいたのである・・・。

例え、その窮地を救うことが出来るかもしれない力を秘めたサイボーグ()魔王が唯一の味方として隣にいたとしても、残念ながら彼女はまだ身体の使い方をよく知らなかったので、単に自走するだけの肉の壁でしかなかったのだ・・・。


その結果、どうなったのか。

・・・過冷却状態の大量の雪球(ゆきかべ)に襲われたヌルとユキは、自爆するような形で、完全に氷の中へと閉じ込められてしまったのである。


まぁ、ユキにとっては、単に破壊して外へと出ればいいだけなので、大した問題では無かったようだが・・・・・・しかしヌルの方は、腕力(物理)が飛び抜けて発達していたわけではなかったので、自らの魔法によって凍りづけにされたまま、抜け出すことが出来なくなってしまっていたのだ。

もしも彼女が、氷魔法だけでなく、生前のユキ(?)のように火魔法を扱える雪女だったなら、こうはなっていなかったのではないだろうか・・・。


「ま、雪女は凍りづけにされたくらいじゃ問題無いって話だから、別に死んだわけじゃないんだけどね(どうやって呼吸してるのかは知らないけどさ?)」


「んー・・・なんか腑に落ちないかも・・・」


カタリナが匙を投げたことに対してなのか、あるいはワルツに話をすり替えられたことに対してなのか・・・。

イブは腕を組みながら、眉間にしわを寄せて、頭を傾げるのであった。


すると、その横から・・・


「・・・ではカタリナ様。我がその氷を溶かしてみせましょうぞ?」


と、翼が無くなったために空が飛べなくなっていた飛竜が歩み出た。

たとえ翼を失っていたとしても、ブレスなら使える、と思ったようだ。


「そうですか・・・。私の火魔法では、ヌル様の氷魔法に太刀打ち出来ないので、ドラゴン様の提案に甘えさせてもらいましょうか」


「うむ。ではゆくぞ?」


カタリナとそんなやり取りをした後、飛竜は氷漬けになったヌルの前に仁王立ちすると・・・


ドゴォォォォ!!


っと、口から・・・というよりは、顔全体(?)からブレスを吹き出した。


「・・・熱そう」

「・・・絶対熱いよね」

「・・・ごくり」

「そういえば、火傷に対する回復魔法は、一度も使ったことが無かったですね・・・」


と、それぞれ感想を口にする仲間たち。


するとカタリナの火魔法ではどうにもならなかった氷が、見る見るうちに溶け始め、遂には・・・


「・・・熱っ!」


っと、ヌル自身が話せるほどに、彼女の上半身を包み込んでいた氷を溶かすことに成功したのである。


そんなヌルの様子を確認してから、同時にブレスを止める飛竜。

その瞬間、彼女も・・・


「熱っ!!」


・・・と、顔を真赤にしながら、ヌルと同じ言葉を口にした・・・。


『・・・・・・』


やっぱり熱かったんだ・・・、と考えている様子で、飛竜に難しい視線を向ける一同。


するとそんなタイミングで、空から声が降ってきた。


「お姉ちゃんたちまだー?」


大粒の雪を振らせ続けている雲の仕組みが気になって、その雲の中を飛び回っていたルシアである。


「ごめんねー。だいたい片付いたから、先に行って待っててもらってもいいわよ?」


「・・・それさっきも言ってたよね・・・」


どうやらルシアは、中々やってこないワルツたちのことを確認するために戻ってきたようだ。


「ここまで来れば、後はもう少しよ?もう、目と鼻の先でしょ?」


と言いながら、雪が降りしきる街の先にあるだろう市壁の方へと眼を向けるワルツ。


「うん・・・。じゃぁ、待ってるよ?」


ワルツの言葉に、ルシアは少しだけ疑いの色を含んだ声を残した後で、その場所から再び白い空の中へと飛び去っていった。


「・・・というわけだから、さっさと行くわよ?」


ワルツはそう言いながら、今もなお、下半身を氷に埋めているヌルに近づくと、


スパンッ!


と彼女を覆っていた氷を、レーザーで軽々と切断する。


『?!』


「・・・申し訳ありません。ワルツさん」


「いや良いのよ。ルシアじゃあるまいし、魔王と魔力の力比べなんてやっても、仕方ないからね」


力が及ばなかったことについて、申し訳無さそうな表情を浮かべていたカタリナに対し、そんなフォローの言葉を掛けるワルツ。


「流石はワルツ様。見事なお手前でございます・・・」


カタリナからやけどの治療を受けていた飛竜も、彼女と同様に、無念そうな表情を浮かべながら、そんな言葉を口にした。


「熱っ!?いや、冷たい?!」


・・・まぁ、当事者であるヌルにとっては、それどころではなかったようだが・・・。


・・・ところで。

そんな仲間たちの中で、どうして最初からワルツがヌルの氷を破壊しようとしなかった、その事情を把握できていなさそうだったのは・・・イブだけだった。

とはいえ、周りの仲間たちの様子から、何か事情があることについては察していたようで、イブは、いつもとは違って遠慮げに、ワルツへと問いかけの言葉を口にした。


「・・・ねぇ、ワルツ様?どうして、最初から、ヌル様のこと助けようとしなかったの?」


「ま、修行みたいなものだからね」


「しゅ、しゅぎょー・・・・・・!?」


その言葉に、垂れた獣耳を少しだけ持ち上げて、尻尾をピンッと真っ直ぐに張るイブ。

どうやら、彼女の中で、『修行』という言葉が、急激な勢いで化学変化を起こし始めたようだ・・・。


「こ、これはいけない!ドラゴンちゃん!行くよ!」


「ど、どうしたのだ、主よ?」


「私たちも、ちゃんとしゅぎょーしなきゃっ!」


そう言ってから、街の中へと向かって走りだすイブ。


「ちょっ・・・ま、待つのだ!」


治療を終えて、すっかりと元通りの顔色に戻っていた飛竜も、突然火が付いたように走り始めた彼女のことを、必死になって追いかけていった。


「・・・あの娘、なんか、勘違いしてる気がするんだけど」


「・・・走り込むことが修行だと思っているのではないでしょうか?」


「いや、そうなんだろうけどさ・・・・・・」


それでも、一旦、火の付いてしまった彼女たち(?)のことを、無下に呼び止めるのもどうかと思ったのか、あえて追いかけること無く、2人の背中を見送るワルツ。


「・・・ま、いいわ。その内、戻ってくるでしょ」


それから彼女は、再び呆れたような表情を浮かべてから小さく微笑むと、ルシアが待っているだろう目的地へと、足を進め始めたのであった・・・。

重い・・・。

ねっとが重いのじゃ・・・。

特にこの時間帯にとらふぃっくが集中するのじゃろうのう・・・。

まぁ、あっぷできたからよいがの。


あー。

本当は今日で終わらせられなかったのじゃ・・・。

残り25%程度までは書いておったのじゃが、その最後の詰めの部分をゆっくりと書きたくなったので、次話に持ち越すことにしたのじゃ。

・・・じゃが、別にハードルを上げておるわけではないのじゃぞ?

駄文に代わりはないからのう・・・。


さて。

補足を始めるのじゃ。


雪女の生態・・・。

・・・はっきり言って不明なのじゃ。

息を止めておれば死ぬし、水中で溺れても死ぬ・・・。

じゃが、氷漬けにされても死なぬのじゃ・・・。

現代物理学では解明できぬ、超常現象なのじゃ!

じゃから、水中で雪女が溺れそうになったら、その頭の上から液体窒素かヘリウムを掛けて、周囲の水ごと凍らせれば、延命させることが出来るのじゃ。

・・・多分の。


で、次なのじゃ。

カタリナ殿がヌル殿を閉じ込めていた氷を、結界魔法で切断しようとしなかった理由。

実は、すでに、可能な限り切断しておったのじゃ。

じゃが、身体の表面を削るようなギリギリの所まで切断するわけにもいかず、最後に残った部分は少しずつ火魔法で溶かそうとしておったのじゃが・・・魔力の違いが大きすぎて、全く溶かすことが出来なかったのじゃ。

カタリナ殿の魔法は強力じゃが、それは一部に特化しておるというだけで、力比べでは勝てなかったのじゃの。

逆に、飛竜のブレスの火力は、ヌル殿の氷魔法に対抗できるほどに、十分に強かったようじゃがの。


で、次なのじゃ。

これは補足ではなく釈明かのう。

・・・ルシア嬢が一瞬だけ現れてどこかへ消える・・・。

別に彼女の存在を忘れておったわけではないのじゃ。

この場にルシア嬢がいると、ヘタすれば、ヌル殿ごと蒸発させておったかも知れぬからのう。

一時的に退場して貰う必要があったのじゃ。

・・・お察ししてもらえると助かるのじゃ!


以上なのじゃ!

さて・・・次の話を書ききってしまうのじゃ!

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