6後後後-26 迷宮のあとで2
情報が遅いはずの兵士から報告があったにもかかわらず、空から状況を監視しているだろうエネルギアからの連絡が無いことに少しだけ疑問を抱きながら、王城の外へと出たワルツ、ほか仲間たち。
するとそこで、彼女たちを待ち構えていたのは・・・
「うわっ、何これ?!」
と驚くルシアの表情・・・・・・も、そうだが、いつの間にか積もっていた深さ10cmほど雪だった。
そう。
夜空に浮かぶ分厚い雲の向こう側から、今もなお深々と、大粒の雪が降り注いでいたのである。
「これ?・・・雪よ?昼間、降ってたやつの大きい版って言えばいいかしらね?」
「これが・・・雪・・・」
(・・・あれ?ユキって返してくるかと思ったら、意外とまともだったわね・・・)
どうやらワルツが思っている以上に、ルシアは本気で驚いているようだ。
「冷たい・・・」
雪の中に手を入れて・・・そして、その冷たさを確かめるルシア。
そんな、戸惑いと驚きの表情を浮かべている彼女の横を・・・何か、黄色いものが横切った。
「ひゃっはーーっ!」
ボフッ!ゴロゴロゴロ・・・
・・・雪が積もっている様子を眼にした瞬間から、どういうわけかテンションが最高潮に達していた様子のイブである。
一体、彼女がどういった体勢で、雪へと突入していったのかについての説明は割愛するが、どうやらこの世界でも、雪が降ると犬(の獣人)は庭を駆け回r・・・
「い、痛いっ!!痛いかもじゃなくて、痛い・・・!!」
・・・のたうち回るらしい・・・。
どうやら、10cm程度の雪では、湿っていて重かったとはいえ、彼女の身体を受け止めきれなかったようだ。
「・・・生傷が絶えないわね・・・」
脇腹を抑えこんでピクピクと痙攣しているイブに対して、生暖かい視線を向けるワルツ。
すると、そんな彼女の横を・・・今度は何か白いものが通過していった。
「ファースト、ダーーーイブッ!!」
ドゴォォォォッ!!
と、イブの上を通り越して、人目を憚らず、降り積もる雪の中に飛び込んでいったユキである。
「・・・ユキ?セカンドよ?」
そんなユキに対して、ワルツがジト目を向けていると・・・今度は隣りに立っていたヌルの様子も何やらおかしいことに気づいた。
「・・・まさか、貴女も飛び込むなんて言わないわよね?」
「・・・いえ。飛び込みません・・・」
と言いつつも、下唇を噛み締めながら、ワナワナと震えている様子のヌル。
・・・どうやらこの国では、雪が降ると、誰も足を踏みしめていない雪原へと飛び込む習慣(?)があるらしい・・・。
「ふむ。これも、人の習性なのですな?実に興味深い・・・」
「・・・ううん。多分違うと思うわ・・・。飛竜は人の視線があるところで真似しちゃダメよ?やるなら、誰も居ないところでね?」
と、実は、自分も飛び込みたかった様子のワルツ。
「はあ・・・」
しかし、飛竜にとっては、積もった雪を見ても、特に思うことは無かったようだ。
「っていうか、こんなところで油売ってないで、さっさと、その増えた迷宮とやらの様子を見に行くわよ?」
「・・・おっと、そうでしたね」
「アインス・・・後で少し、お話があります・・・」
「・・・ひうっ?!」
「カタリナ様ー!痛いよーっ・・・治してーっ!」
「・・・仕方ありませんね」
「そこ頭!頭は怪我してないかもなんd・・・?!」
「はい。終わりました」
そんな、いつも通りのやり取りをしながら、王城から伸びた桟橋を渡って、雪の降り積もる町へと歩みを進めようとする一行。
・・・しかし、一人だけしゃがみ込んだまま、一団に付いてこない者がいた。
「・・・・・・雪・・・」
城から出て、積もった雪に手を触れたまま固まっていたルシアである。
「・・・?どうしたの?ルシア」
普段とは異なる彼女の様子に、ワルツは立ち止まって振り向いてから、そんな問いかけを投げかけた。
するとルシアは、その手のひらの中にあったまだ柔らかい雪を、その感触を確かめるように何度も握りしめながら口を開く。
「・・・お姉ちゃんには言ったことがあったよね?私が雪を見たこと無いっていう話・・・。おとぎ話や伝記とかで、たまに見かけることはあったんだけど、ちゃんと想像できなくて、ずーっと、どんな感じかなーって、思ってたんだよね。冷たくて、柔らかくて・・・そして、雨でもないのに空から降ってくる、よく分かんない白いもの・・・。実は今まで、ホントにそんなモノが、この世界にあるのかなぁ、って疑ってたの。・・・でも・・・」
そう言ってルシアは立ち上がると・・・
ボフッ・・・
・・・まるで空を見上げるようにして、雪の中へと背中から倒れ込んだのだ。
「・・・こんな素敵なものが、ホントにあったんだね・・・」
そんな彼女が視線を向けた先からは、まるで牡丹の花のような雪が、無遠慮に空から舞い降りてきていた。
その様子を見る限りは、あまり感動的なシーンとは言えなかったが・・・もしかすると、初めてそれを眼にするルシアにとっては、何か違うものに見えていたのかもしれない。
「・・・・・・そう」
ワルツはそう言ってから、ルシアの隣に立つと・・・
ボフッ・・・
自身も、雪の中へと倒れこんだ。
「あー、雪とか何時ぶりかしらねー」
そんなことを口にしながら、故郷の森や山に降り積もっていた、少なくない量の雪の様子を思い出すワルツ。
するとそんな彼女の横に・・・
ボフッ・・・
「・・・たまには、こういうのも良いですね」
カタリナが同じようにして倒れこみ、続いて・・・
ボフッ、ボフッ・・・
「ちょっ・・・ワルツ様、ズルい!なんで、人にいいだけ文句言っておいて、自分も寝転がってるの!?私も寝る!」
「・・・主よ、雪山で寝込んで氷漬けになった人間を見たことがあるのだが・・・」
と、イブと飛竜がワルツの頭側に寝転んで、そして逆の足側には・・・
ボフッ、ボフッ・・・
「くっ・・・タイミングを逃しました・・・!・・・ところで、アインス。そこをどきなさい!」
「さ、流石カタリナ様・・・。しかし、いつかその場所は頂いてみせます!っていうか、ヌル姉様こそ邪魔です!」
・・・ユキとヌルが場所を奪い合うかのように、陣取ったのである。
その際、王城の2階の窓に3人分の人影が映って、窓枠を何故かガタガタと揺らしていたようだが・・・まぁ、気のせいだろう。
「えへへ!」
そして最初に寝転んだルシアは、嬉しそうな笑みを、隣に寝転んでいたワルツに対して向けたのであった。
・・・その際、
「全く・・・困った娘ね」
実は、雪に飛び込みたいと考えていた自分のことを察して、ルシアがこうなるように仕向けたんじゃないか、と思い始めたワルツ。
それから彼女は少し考えてから、徐ろにこう口にした。
「・・・ま、ミッドエデンは、雪、降んないし・・・・・・今のうちに満喫しておきましょうか?」
そして、その手に雪をすくい・・・・・・超高精度の球体(直径70mm)の雪球を作ると・・・
「ほいっと!」
と、寝転んだまま、適当に空へと投げたのである。
・・・するとその雪球は・・・
ギュン!!
と、物理法則を無視して曲がると・・・
ボフンッ!!
「んぎゃっ!!」
・・・どういうわけか、イブの額に命中した。
・・・まぁ、そんなことがあったのだが、これより後の展開に関しては、詳しい情報が無いので、説明を省かせてもらおうと思う。
それでも、市民たちから聞き取った噂を、いつくか抜粋して挙げるなら・・・・・・王城の外壁や地面に何故かクレーターが出来て、周囲の建物の屋根が吹き飛び、そして雪によって作られたものではなく本物の土や岩で出来た塹壕が城の裏庭に出現したとか、していないとか・・・。
一体何が起ったのか、本人たちや王城関係者は皆、頑なに口を閉ざして語ろうとしないが・・・その後で、彼女たちが、びしょ濡れになりながらも、嬉しそうな表情を浮かべつつ、仲良さそうに町の外へと向かった・・・ということだけは、多くの人々が目撃していたようなので、間違いようだ・・・。
ゆ、雪にかまけておって、予定より書き進めることができなかったのじゃ・・・。
明日中に、6章終わるのじゃろうか・・・。
・・・どうにか頑張るしかないのう・・・。
まぁ、それはよいのじゃ。
さっそく、補足しようかのう。
ワルツたちが雪の中に飛び込んでいった際、近くに兵士たちはおらんかったのじゃ。
・・・いいだけ、傷めつけられたからのう。
・・・主にユキと、ユリアに、じゃがのう。
まぁ、その関係者と考えるなら、近寄り難かったんじゃろうな・・・。
で、次なのじゃ。
・・・王城の2階から窓枠を揺らしていた人物3人の正体。
・・・これについては、わざわざ言わなくても良いか。
で、さっさと次に進んで・・・最後の部分。
情報が無い、という記述の部分なのじゃ。
詳しく言わぬが・・・雪合戦をしていたということと、もう一つだけは言っておこうかのう。
・・・どんなメンバーに分かれておったのか。
・・・至極、簡単なのじゃ。
ワルツ vs 全員
むしろ、ワルツが全員に対して雪球をぶつけた結果、戦闘が始まった、と言うべきかのう。
途中、一部の雪女たちが、血迷って寝返ろうとして、敵味方両方から総攻撃を浴びたようじゃが・・・まぁ、詳しい情報が無いから、妾にもよく分からないのじゃ。
お察しなのじゃ!
まぁ、こんなところかのう。




