6後後後-25 迷宮のあとで1
そして、その日の夕方・・・
「うわぁぁぁん!!」
と、泣いているのか、ダダをこねているのか分からない様子で喚き散らしているのは・・・ボレアス帝国の皇帝の座に戻った(?)、ヌルである。
皆で食堂を貸しきって夕餉を取っていた際、ワルツが『あ、ヌル?明日帰るからー』と唐突に告げた瞬間、飲んでいたワインのようなものを思わず吹き出しながら、突如として泣き始めたのだ。
『・・・・・・』
その様子に『え・・・・・・』というような口の形状を見せながら、引き気味の視線をヌルに向けるユキA以下姉妹たち。
ユキAはともかく、他の姉妹たちには、ヌルがなぜそのような恐慌状態(?)に陥ったのか理解できなかったためか、戸惑いを隠せなかったようである。
・・・ところで。
この部屋には、そんなユキたち以外にも、ルシア、イブ、飛竜(人)、そしてカタリナの4人の姿があった。
ここに来る前、カタリナは、『エネルギアに残してきたテンポやリアに申し訳ないので・・・』と帰る気だったようだが、『たまには息抜きも必要よ?1日くらい良いんじゃない?』と言うワルツの言葉にあまえる形で、ここに留まっていたのである。
その他の3人については、夕食、という単語さえ上げておけば、追加の説明はいらないだろうか。
そんな彼女たちが摂っていたのは・・・荒れ果てた町で出てくるとは思えないような、豪華な食事であった。
なお、言うまでもないことだが、それらはワルツたちとの最後の晩餐を予期して、ヌルがわざわざ料理人に作らせたもの・・・ではない。
外にできた巨大な大森林から(兵士たちが)収穫してきた食材を使って作った結果、豪華になっただけのことである。
畑は台無しになってしまったが、迷宮が残した置き土産は、それをある程度、補えるほどの恵みを提供してくれるようだ。
・・・まぁ、それはさておいて。
部屋の中の状況を説明し終わったところで、冒頭のヌルの叫び(?)へと話を戻そう。
「・・・ごめんねヌル。私たち、いつまでも国を開けるわけにはいかないのよ。このままミッドエデンを放置しておくと、多分、コルテックスやストレラたちが結託して、この国に攻め入ってくると思うのよね・・・。私たちだけズルいって言って・・・」
『・・・・・・は?』
一体、ワルツが何を言っているのか分からない、といった様子で、自分の耳を疑うユキたち他2名。
一方で、ルシアやカタリナにとっては、何となくその光景が想像できたようだ・・・。
「それに、私というメイド(趣味)がいないと、城の中が荒れ放題になっちゃうしね・・・。分かるでしょ?その意味。同じような事やってるヌルなら・・・」
そんな言葉に、先程まで鳴き続けていたヌルは・・・どういうわけか、急に押し黙ると・・・
「・・・・・・仕方ありませんね」
と、まるで人が変わったかのように、聞き分けがよくなったのである・・・。
そして彼女は、静かに眼を瞑り・・・そして言った。
「・・・そう、私はメイド・・・。主と客に最高のもてなしを提供することを至上の喜びとする存在・・・」
「・・・うん。よく分かってるわね。私たちに主はいないけれど・・・」
そして、妙に力の入った視線を交差させて頷くワルツとヌル。
どうやら彼女たちの間で、謎のアイコンタクトが成立したようである・・・。
そんな彼女たちの会話を見ながら、骨付き肉の・・・骨の部分に齧りついていたイブが、隣で同じように骨を口にしていた飛竜に忠告する。
「ダメだかんねー?ドラゴンちゃん。あんなワルツ様たちのわけ分かんないやり取りを学んだら・・・」
「ぬ?それは一体・・・何故なのだ?」
するとイブは、自信を持った表情で、飛竜の問いかけに即答した。
「普通じゃないから」
グサッ・・・
・・・何やらそんな音が、約2名(?)の胸辺りから聞こえてきたようだが・・・まぁ、気のせいだろう。
「なるほど。つまり、あれが、『特殊性癖』というものなのだな?」
グサッ・・・
「んー、ホントはちょっと違うけど、この場合は間違いないかもだね」
イブたちがそんなやり取りをしていると、ワルツとヌルのテンションが、見る見るうちに床を突き抜けて地面へとめり込んでいったようだが・・・どうやら、他の者達にはどうでもいいことだったようだ。
実際、ルシアとカタリナとユキA辺りは、そのやり取りを完全に無視して、他の話題の会話をしていた。
「そうそう、この子に食事を与えなくてはなりませんね」
と徐ろに、白衣の中に手を突っ込むカタリナ。
そして、そこから出て来たのは・・・ルシアくらいなら簡単に入れてしまいそうな、大きな宝箱だった。
「あの、カタリナ様?そのトレジャーボックスについて、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
と、中身を知らないユキAが問いかける。
すると彼女は、『ん?』と首を傾げるカタリナに・・・
「・・・率直に言います。それは、どちらから持ってきたものですか?」
そう言いながら、申し訳無さと、疑うような様子が混ざった、複雑な視線を向けたのである。
「・・・・・・何かあったのですか?」
そういえば、まだシリウス様とルシアちゃんには、この子の紹介をしていませんでしたね、と思い出しながら、逆に問いかけるカタリナ。
そんな問いかけに、ユキAは、周囲にいた者たちにとって、思いがけない理由を口にし始めた。
「・・・カタリナ様方には隠さずにお話しましょう。実はこの国、ボレアスに伝わる秘宝が、同じ形状をしたトレジャーボックスに保管されていたはずなのです。それも、ヌル姉さまの執務室に・・・」
「・・・つまり、これが国宝なのではないか、と疑っていらっしゃるのですね?」
「はい、申し訳ございません。カタリナ様やワルツ様・・・・・・えっと、ルシアちゃんもね?・・・なら、持って行っていただいても構わないと考えているのですが、それでも一応は一言、声をかけていただきたい、と思いまして・・・」
「そういうことですか・・・」
それからカタリナは、小さく頬を引き上げてからトレジャーボックスを床に置くと、その蓋をゆっくりと開いた・・・。
すると箱の中で・・・
ウニョ・・・・・・
と蠢く、黒い影・・・。
「う、うひゃっ?!」
その姿を見て、まるで、黒光りする小さな昆虫を見た女性のような奇声を上げながら、ユキAは後ろにあった椅子を倒しながら、思わず飛び退いた。
その際、
ドゴォォォォン!!
・・・力加減を間違えたのか、どこかの漫画のように、後ろにあった壁を抜いて隣の部屋へと姿を消したのは・・・まだ身体の動かし方に慣れていない彼女のことを考えるなら、仕方のないことだろうか・・・。
一方、ユキAと共に、宝箱の中を覗き込んでいたルシアの方は・・・
「・・・ミミック?」
と、宝箱の中身に対しても、急に姿を消したユキAに対しても、あまり驚くような様子を見せずに、カタリナにそんな質問を投げかけた。
するとカタリナは、机の上にあったお皿の中にジョッキからミルクを開けて、それスプーンですくった後、ミミック(?)の方へと近づけながら、ルシアの問いかけに対して答え始める。
「実はこの子、あの大きな迷宮に直接もらったんですよ。だから、ミミックなのか、実は迷宮の子どもなのか、私もよく分かっていないんですよね・・・」
「ふーん・・・。ねぇ、カタリナお姉ちゃん?この子、名前あるの?」
「名前ですか・・・」
それからカタリナは、少し考える素振りを見せた後、ミミック(?)がスプーンごと自分の手に齧りついた様子を見ながら、嬉しそうに言った。
「・・・シュバル」
「シュバル?・・・って、カタリナお姉ちゃん!手、齧られてるよ?!」
「えぇ・・・。ちょっと意味が深すぎるかもしれませんが、名前を選ぶなら、このくらい複雑な意味を持っている方がいいかな、って思いまして」
と言いながら、何事もなかったかのように、手を引き上げるカタリナ。
その手が全く傷ついていなかったのは、シュバル(ミミック)が実は甘噛をしていたからなのか、それともカタリナ自身の超回復魔法か結界魔法のためなのか・・・。
何れにしても、彼女にそれを気にした様子はなく、ボロボロになってしまったスプーンを交換すると、同じようにミルクを与え続けたのである・・・。
「(うわぁ・・・絶対近づかないようにしよう・・・)」
と思ったのか、思っていないのか・・・。
そんなカタリナとシュバルのやり取りに、ルシアは細めた視線と苦笑を向けるのであった。
「・・・というわけだから、明日帰るわ」
混迷の度を深めてきた部屋の中に、生暖かい視線を向けながら、再び同じ言葉を繰り返すワルツ。
その彼女の言葉に、ヌルは・・・
「全く『わけ』の『わ』の字も見えてきませんが・・・・・・そうですね。迷宮という問題が無くなったこの地に、いつまでもワルツ様方を止めておく事は出来ませんからね・・・」
もう泣くことはなかったが、複雑な表情を浮かべながら、やり場のない感情を漏らすように、小さく溜息を吐くのであった・・・。
すると、そんな時。
コンコンコン!
「し、シリウス様!!」
・・・何処かで見たことのある伝令の兵士が、乱暴に食堂の扉をノックした後、中の様子を確認せずに入ってくる。
「・・・何事ですか!」ゴゴゴゴ
せっかくの食事と雰囲気を邪魔されたことに憤ったのか、額に青筋を立てながら、兵士に対して凄むヌル。
「ひ、ひぃ・・・?!も、申し訳ございません・・・!ですが、報告だけはどうかお聞き下さい!」
現魔王から、殺意に近い何かをぶつけられた兵士だったが・・・しかし、その場で崩れ落ちたり、意識を失うなどの粗相をすること無く、どうにか報告を口にすることには成功した。
「め、迷宮が・・・・・・増えました!」
『・・・・・・え?』
その一言を聞いた結果、一瞬にして、固まる場の空気。
・・・どうやら、王城の外では、いつの間にかよく分からない事態が進行していたようだ・・・。
タイトルを考えた後で・・・前の話のタイトルもこっちに変えてしまおうかと悩んだ妾・・・。
まぁ、いっかー、なのじゃ。
さて、順調にファイナライズが進んでおるのじゃ。
予定では、あと1話か2話で、ボレアス編を終了するつもりなのじゃ。
ここまで無駄に長かったのう・・・。
さて、次はどこの話を・・・って、もう決まっておったのじゃった。
もしかすると、次の章は短いかも知れぬがのう・・・。
さて、補足に入るとするかのう。
ミミック(?)の『シュバル』という名前。
・・・説明せんほうが良いかのう?
まぁ、でも、本編で説明することはないから、簡単に説明してしまおうかのう。
・・・但し、箇条書きで。
・フランス語で『馬』
・フランス語でシュバリエは『騎士』
・ドイツ語でシュバルツは『黒』
まぁ、他にもいろいろとあるんじゃが、主だったところはそんなところじゃろうかのう。
で、何故、『馬』という意味を付けたのか。
それはカタリナ殿が、ワルツから現代世界の昔話を聞いておったから、ということにしておくかのう。
・・・何の話とは言わぬが・・・。
で、次なのじゃ。
どうしてワルツたちは、自分たちの食料の確保を、自らやらなかったのか?
・・・実はこの話、ついさっきまで本文の中に入っておったのじゃ。
じゃが、どう考えても駄文で蛇足だったから、削除させてもらったのじゃ。
じゃから、ここでもさわりだけを言うが・・・要するに、ワルツたちが自ら狩りや収穫をすると、森が・・・・・・もう分かるじゃろ?
せっかく、生えてきた森を、台無しにすると、ビクセン市民が飢えに喘いでしまうかも知れぬ、という、ワルツたちの心配り(?)があったからなのじゃ!
・・・面倒だったから、ではないぞ?多分の。
そういえば、冬になって雪が降っておるのに、収穫できるのか、という疑問も残っておるか・・・。
・・・未知の力が働いておるのじゃ!
具体的に言うと、謎の迷宮ぱわーと、道の種類のマナが、地面から植物へと影響を(略)。
というわけなのじゃ。
・・・何も分からぬという苦情は受け付けないのじゃ!
まぁ、今日はこんなところかのう。




