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1.1-02 HelloWorld 2

「(なんで、ゴブリンみたいな生物がここに……?)」


自分を見た途端、指を差して逃げていく緑色の動物たちについて、思いを巡らせるワルツ。


そんな彼らは、以前、兄に見せてもらったことのある物語に登場していたキャラクターたちに酷似していて……。

それを見たワルツは、こう考えざるを得なかったようだ。


「(実はここ、アニメの世界だったりするのかしら?)」


ワルツが、現実逃避気味に、そんなあり得ない可能性について頭を悩ませていると――


「……お姉ちゃん、誰?」


彼女は目の前にいた少女に話しかけられた。

それも、ワルツがよく知っている日本語で。

どうやらこの世界では――もしかするとこの地方に限った話かもしれないが、日本語が一般的な言語として使われているようである。


「(……えーと?ちょっと整理するわね?)」


そのことがあまりにも予想外すぎたためか、手元にある情報を再確認するワルツ。


地球とこの惑星の、自転と公転周期の類似性。

緑色の生物――いわゆるゴブリン。

獣耳と尻尾を持った少女。

そして彼女が使った日本語……。


それらを考えた結果――


「(……うん。これ絶対、アニメの世界でしょ。2次元よ、2次元)」


ワルツはそんな結論にたどり着いたようだ。

そして、わざわざ手を振り回して、空間の奥行きを確認するのだが――


「(……やっぱ、2次元では無さそうね……)」


まぁ、当然のごとく、画面の中に広がる平坦な世界ではなかったようである。


それから彼女は、情報の欠片を拾い集めて、その時点で考えられる最も高い可能性に辿り着く。

それも、限りなく0に近い、確率で表現するには烏滸(おこ)がましいほどに低い可能性を……。


(異世界転移、か……)


それが本当だとするなら、彼女に搭載されていた空間制御システムとは、異世界に転移するためのシステムだった、ということになるだろう。

それも、どこかの小説で語られるような、人の生活に支障を(きた)さない、理想的な環境が存在する異世界へと転移するという、とんでもシステムである。

もしもそんなものが現代世界にあったなら、大混乱が生じていたことだろう。

……まぁ、実際にはあったようだが。


それを考え――


「(まったく、うちの創造主マッドサイエンティストは、こんな分けわからないシステムを作って、一体何をしたかったのかしら?)」


と、1人、呆れたような表情を浮かべるワルツ。


それから彼女が疲れたように、深く溜息を吐いていると……。

考えている間、放置状態だった少女の方から、心配そうな声が飛んできた。


「あの、お姉ちゃん?大丈夫?」


どうやら彼女は、何も言わずに手を振ったり、コロコロと表情を変えるワルツのことが、心配でならなかったようだ。


「(そういえば、この子に質問されていたのよね?)」


と、自分の顔を心配そうに見上げてくる少女に、どう対応しようかと考えるワルツ。


もちろんそれは、少女に向けられた質問の内容を忘れたから、というわけではない。

この世界を小説の中にあるような異世界だと認識した彼女は、幾つかの懸念を抱いていたのだ。

まぁ、それも――


「(もしも、言霊のようなもので人のことを縛れる世界なら、ここで本名を名乗るのは……って、私に魂なんて無いから関係ないか)」


すぐに霧散する程度のものに過ぎなかったようだが。


なお、彼女が生活を送っていた未来の世界でも、魂の科学的な定義は存在していない。

例え、人と同じような思考のできるアンドロイドたちが行き交うような時代であっても、魂という存在は、科学的には記述できない超科学的な存在だったのである。


もしも、それが記述できるというのなら、アンドロイドたちは作られなかったことだろう。

何しろ、アンドロイドの身体の中に人の魂を入れ込めれば、人に似せたアンドロイドを作る必要はどこにもないどころか、単なる混乱の火種にしかならないのだから。

例えば、隣家の住人は人間ではなくて、実はアンドロイドだった、といったように……。


まぁ、その話はとりあえず置いておくとして……。

実名を名乗ることを決めたワルツは、もう一つそれに付随する情報について、頭を悩ませた。

すなわち、”ジョブ”――仕事である。

まさか、自分は自宅警備員です、などとは紹介するわけにはいかないだろう。


「(職業は言っても言わなくてもいいと思うけど……うん。アレしか無いわね)」


ワルツはまるで決めていたように自分のジョブを決めると……。

自身に対し、いよいよ怪訝な表情を送っていた少女の前で、視線の高さを合わせるかのように中腰になって……。

そして、自身が何者なのかについて、話し始めた。


「えっとー、ごめんね?ちょっと考え事してたのよ。私の名前はワルツ。通りすがりの”冒険者”よ?」


難しい設定を考えるとボロが出ると思ったのか、ありきたりの設定を口にするワルツ。

なお、この世界に、そういった職業があるかどうかは、今のところ不明である。

まぁ、ここが異世界だというのなら、無い可能性の方が低いのではないだろうか。


そんなワルツの言葉を聞いて、安心したのか――


「あ、ありがとうございます!助けてくれて……本当に死ぬかと思ったぁ……」


少女はそう口にすると、突然泣き出してしまった。

それを見たワルツは――


「(えっ……ちょっ……こういう時どうすんの?)」


とアタフタして、どうすればいいのかを悩んでしまったようである。

それは、彼女にとって、こういった子供とのふれあいが、人生(?)で初めての経験だったことも、大きく関係していたのだが……。

そのこととは別に、彼女には少女に手を触れることを躊躇ってしまう事情が存在した。


というのも、ワルツのいた未来の日本では、不用意に他者に触れることが、性別に関係なく、違法だったのだ。

例えそれが自分の子ども、あるいは自分の親であっても、例外ではなかった。

子供の保護、プライバシーの侵害、セクシャルハラスメント……。

そんな言葉たちが度を越して暴走し、ついには他者に触れること自体を政府が禁止してしまったのである。


その結果、日本でどんなことが起ったのか……。

……まぁ、それは別の機会に話すとしよう。


ともあれ。

結局、ワルツは、(いず)れの行動も起こすことが出来ず……。

少女が泣き止むまでの間、彼女はその(かたわ)らで静かに待つことしかできなかったようだ。



最初にこの話をあっぷろーどした当時、書きたい文が書けなかったのじゃ。

それが今では、ある程度、思い通りに書けるというのが、少しだけ嬉しかったり……なのじゃ。

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