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6後後後-20 ついの迷宮4

「なーんか昔、どっかの物語で、こんな感じの展開を見たことあるのよね・・・」


迷宮から流れ出してくる粘度の高い液体が、まるで即効性の除草剤のようにして周囲の草原と畑の植物を枯らしながら、徐々に広がっていく・・・。

その様子を王城のテラスから眺めながら、ワルツはそんなことを呟いた。


「・・・ちなみに、その物語の結末はどうなったのですか?」


と言いながら、自身のバッグの中を(まさぐ)り始めるカタリナ。

恐らく彼女は、流れ出てくる液体のサンプルを確保するためのシリンダーが、手持ちの中に余っていたかどうかを確認しているに違いない・・・。


「えーとねぇ・・・随分と昔の話だから、うろ覚えなんだけど・・・確か、巨人か何かが、大切なものを奪れたことで怒り狂って生じたハザードだったような気がするのよね・・・。で、どうしてかは分かんないけど、若い男女がその奪われた何かを迫り来る液体の中に戻すと、収まったって感じの物語ね。・・・・・・あれ?それともみんな、結局、死んだんだっけ・・・?」


「・・・全く想像できないのですが、話を聞く限り、誰も救われてない物語な気がしますね・・・。せめて、何が奪われたのかくらいは思い出せないのですか?」


もしかしてワルツさんは、誰も救われないような、どうしようもない物語が好きなのでしょうか・・・・・・などと考えながら、カタリナは眉を顰めながら問いかけた。

するとワルツは、


「んー・・・・・・」


と、しばらく唸った後、近くにあったものから記憶を連想できないかと思ったのか、周囲を見渡して、最終的に飛竜へと視線を向ける。

その瞬間、


「・・・・・・あっ!」


「な、何ですかな?」


ワルツは何かを思い出したかのように声を上げた。

それから彼女は、突然の行動に驚く飛竜に気を配ること無く、満面の笑みを浮かべながら思い出したことを口にした。


「うん!ドラゴンの首を刎ねて、投げ込んだのよ。確か」


「?!」


「・・・やはり、脈絡が無さ過ぎて、どんな物語だったのか予想が付きませんね・・・」


「あれ?違ったかしら?・・・・・・おっかしいわね・・・」


頭の中ではすっきりと終わったはずの物語なのに、中々思い出せず、もどかしさに苛まれるワルツ。

すると今度は飛竜が、自身の首を腕で押さえながら言った。


「わ、我に贄になれと申されるのですか?!」


「いやいや、そんなことしないから、心配しなくても大丈夫よ?結局、うろ覚えな物語の話だし・・・。それに・・・他の種類だけど、ドラゴンならもう既に巻き込まれてるみたいだしね・・・。ほら、あれ」


と言いながら、遠くの平原を指さすワルツ。

その指の先では、迷宮に対して不用意に近づいた飛竜・・・ではなく、ワイバーンの一種が、迷宮から生じた毒ガスか瘴気のようなもの吸い込んだのか、意識を失った様子で地面へと落下して、液体の中に飲み込まれていくところであった。

まぁ、ワイバーンがドラゴンの一種なのか、という疑問は残るところなのだが・・・。


『・・・・・・』


「あ、もしかして助けたほうが良い?」


「いえ、同種ではございませんし、仲間というわけでもございません故、わざわざワルツ様のお手を煩わせずとも問題はございません・・・」


そう言いながら、液体へと溶けこんでいくワイバーンの姿に、眼を細める飛竜。

彼がそんな表情(?)を浮かべたのは・・・・・・そこに自分の姿を重ねたからなのか、実はワルツに助けて欲しかったからなのか・・・。


とはいえ、彼はすぐに元の表情(?)へと戻ると、ワルツに対して問いかけた。


「・・・このまま迷宮の接近を許すと、あの液体が、いずれこの街にも押し寄せるものと思うのですが、いかがされるおつもりですか?」


するとワルツは、今なお、接近しつつあった迷宮へと視線を向けて・・・面倒そうな表情を浮かべてから口を開いた。


「・・・・・・ギリギリまで様子見ね」


「・・・・・・は?」


ワルツの言葉が聞き間違いだと思ったのか、思わず聞き返す飛竜。


「様子見よ、様子見。・・・でも、別にいつでも消せるから、っていう理由で言ってるわけじゃないわよ?そうね・・・・・・私の考えを聞くよりも、直接、専門家の話を聞いた方がいいと思うわ?・・・・・・ね?カタリナ?」


「・・・私は、いつから専門家になったのでしょうか?」


「少なくとも、ここにいる3人の中では、一番詳しいと思うけど?」


「・・・・・・」


急に話題を振られて、どこか納得行かない様子のカタリナだったが、ワルツの言葉を要約すると、『貴女はどう思う?』という意味なので、渋々自身の考えを口にすることにしたようだ。


「・・・市民の命を守るということを再優先に考えるなら、どうすべきかは言うまでも無いことだとは思うのですが、シリウス様のお願いもありますから、ワルツさんがおっしゃられた通り、ギリギリまで待ってもよろしいのではないでしょうか。それに・・・・・・」


『・・・・・・?』


途中で言葉を止めたカタリナに、怪訝な視線を向ける2人。

すると彼女は、眼を瞑って溜息を吐き、そして首を振りながら言葉を続けた。


「・・・いえ。可能性としてはあまり高くはない憶測を言おうとしただけなので、気にしないでください」


「どーせ、今は暇なんだから、言いたいことがあれば、言っちゃったほうが良いわよ?」


「気になりますな・・・」


「・・・そうですか?では、お言葉に甘えて・・・」


そしてカタリナが、黙り込んだ部分を口にしようとした・・・・・・そんな時である。


ゴゴゴゴゴ・・・


先程まではゆっくりと移動していたはずの迷宮が、急にその移動速度を上げたのだ。


「おっと、ごめんねカタリナ。なんか迷宮がすごい勢いで転がり始めたみたいよ?」


「・・・・・・残念ですね・・・」


ワルツの言葉を受けてから、迷宮へと振り向いたカタリナは、その言葉通り、残念そうな表情を見せた。

どうやら彼女の本心としては、自分の推測について話したかったようだ・・・。


「さーて、どう料理しましょうか・・・」


まるでボウリングの玉のように転がり始めた巨大な迷宮を前に、いたずらの方法を考える子供のような笑みを浮かべるワルツ。

そんな彼女に、カタリナは先程からの表情を変えずに問いかけた。


「・・・消し飛ばすのですか?」


「そうね・・・。どうしようもなかったら()っちゃても良いかな、って思ってるんだけど、まだなんとかなりそうだから、今直ぐにヤる、ってわけではないわね」


そう言いながらワルツは、テラスから見えていた王城(よこ)の大穴・・・つまり、この街に来て最初に暴れていたスカービクセンが出て来ただろう巨大な穴を一瞥してから、街へと向かって転がってくる迷宮に対して重力制御の行使を始める

すると迷宮の軌道が、まるで変化球のように変わり・・・


コロコロコロコロ・・・スコーーン!


・・・というゴルフボールがホールに落ちるような音ではなく、


ゴゴゴゴゴ・・・ドゴォォォォン!!


という、どちらかと言うと、何か大爆発が起こったような音を立てながら、迷宮は穴の中へと落ち込んだ。

その際、迷宮自身が纏っていた液体が、衝撃によって飛び散って・・・


ドシャァッ!!


と、街の上・・・と言うよりは、王城の直上へと降り注いでくる。


「うわー・・・これ、私がいなかったら、今頃、みんな死んでたわよ・・・」


そう言いながら、重力制御によって作り上げた見えない壁を使って、雨のように降り注ぐ液体を弾き返すワルツ。

そんな彼女に、


『・・・・・・』


カタリナと飛竜が、どこな納得できなさそうな表情と視線を向けていたのだが・・・果たして一体、どんな理由があったのだろうか・・・。


「さーて・・・次はどう動くのかしらね?」


しかし、ワルツが2人の様子に気づいた様子はなく、彼女は迷宮へと視線を向けたまま無邪気な笑みを浮かべるのであった。




・・・さて。

ここまでのワルツの行動は、いつも通りのものである、と言えるだろう。

故に、その後の行動も、いつも通りであった。

要するに、大出力の重力制御を使った後は、恒例のエネルギーの補給である。


「・・・2人共?さっき、昼食食べたばかりなのに、私がまたビーフジャーキー齧って、よくそんなに食べれるな、なんて思わないでよ?」


と言いながら、機動装甲のカーゴコンテナの扉を開けるワルツ。


「はい。もう何度も見ていますので、今更、そんなことは言いませんよ。ですが、ワルツさんが口にしているのは、ビーフではなく、ディア(鹿)ですよね?王都周辺の魔物の内、ディア系の魔物を優先的に駆逐して、食肉加工する事業を政府主導で立ち上げたという話をテンポから聞いたのですが・・・」


カタリナにとっては慣れた話だったようで、冷静に指摘の言葉を口にした。

一方、


「・・・小腹がすいたのですか?」


新入りの飛竜にとっては、初めて聞く話だったようだ。


「えっと、そうですね・・・それに近い状況かもしれません。ワルツさんは大きな力を使った後、何かを口にしないと、餓死するらしいです」


「餓死・・・・・・。ワルツ様は、それほどまでに身を削ってまで、この町の人々を助けようとしたのですな・・・。いやはや、感服いたしました」


「・・・いや、そういうわけではないと思いますよ?」


感動した様子で腕を組みながら頷いている飛竜に対して、首を横に振るカタリナ。

それから彼女は、首を動かす軸を変えて、頭を傾げた。


「・・・・・・ワルツさん?」


ワルツの話をしているというのに、全く会話に入ってこようとしない彼女に、カタリナは何となく異変を察したようである。


そしてカタリナが視線を向けたその先では・・・


「・・・・・・」


ワルツが、虚空に突如として現れたように見えるカーゴコンテナの中を覗き込んだまま、身動ぎせずに固まっていた。

より詳しく言うなら・・・顔色が思わしくない状態で、脂汗を掻いて、プルプルと震えている、と言うべきか・・・。


「・・・何かあったのですか?」


「ほう・・・変わった魔法ですな?」


それぞれにワルツへと問いかける2人。


一方、質問を投げかけられたワルツは・・・


「・・・拙い・・・拙すぎる・・・!」


カーゴコンテナの中に視線を向けたまま、そう呟いてから・・・


「非常食が底を突いたわ・・・」


・・・最近何処かで聞いたことのあるようなそんなセリフを、ぎこちない動きで振り向きながら口にしたのである・・・。

次回、『飛竜?その尻尾、切ったらまた生えてくる?』乞うご期待!・・・・・・うそなのじゃ。


飛竜ジャーキー・・・。

おそらく、筋だらけの硬いジャーキーじゃろうのう・・・。

一部のじゃーきーふりーく達には、噛んでも噛んでも噛みきれない、最高のごちそうかも知れぬがの・・・。


まぁ、それはさておいて、なのじゃ。

なんか、他に書くことあったかのう・・・。

あぁ・・・そういえば、昨日のあとがきで、デフテリービクセンについての話を書く、と言っておったのじゃが、結局、書けなかったのじゃ。

まだ、機会はあるから、そのうち折を見て書こうと思うのじゃ。

・・・そんな重要な事では無いんじゃがのう・・・。


あ、それともう一つ。

この話と前の話を書いておって、思ったことがあるのじゃ。

・・・一応分かっておるとは思うのじゃが、妾の文がカオスすぎて理解されていないかも知れぬから、念のため混乱しないように言っておくのじゃ。

・・・プロティービクセンとデフテリービクセンの2つの迷宮は、融合して1つの『迷宮』になったのじゃぞ?

何か固有名詞を付けても良かったのじゃが、やはりこちらも命名のタイミングが無くて、単に『迷宮』という名前になってしまったのじゃ。

まぁ、名前が無くとも、迷宮はこの地に1つしか残っておらぬから、間違えようがないとは思うがのう。


さて、今日はこんなところかのう。

・・・ワルツの非常食ネタ・・・。

使うかどうかで3時間は悩んだのじゃが、結局使うことにしたのじゃ。

果てさて・・・どう書いてゆけるものかのう・・・。

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