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6後後後-18 ついの迷宮2

時間は1時間半ほど遡り、なおかつ視点も変わって・・・


「・・・ねぇユキ(A)。もう少し良く噛んでから食べたほうがいいと思うわよ?」


ワルツとユキAとヌル、それにカタリナと飛竜の5人(?)は王城内の仮設食堂を貸しきって昼食を取っていた。

その際、王城の外から(ひろ)ってきた魔物のステーキを、まるで飲み物のようにして飲み込んでいたユキAに対して、ワルツは思わずそんな言葉を投げ掛けたのである。


「モキュモキュ、ゴクン・・・。・・・これはお見苦しいところをお見せしました。お肉がこれほどまでに美味しいとは思わなかったもので・・・」


「うむ。肉は美味いものだ。我はそれ以外に食べたいとは思わぬ」


と、食べ方はともかく、口の周りを上品に拭きながらワルツに言葉を返したユキに対して、そんな言葉を口にする飛竜。


「っていうか、貴方、肉食なんだから、肉しか食べなくて当たり前じゃない・・・」


「ふむ・・・・・・一体、肉食とは・・・?」


どうやら飛竜は、肉食という言葉が分からなかったようだ。


「・・・肉食っていうのは、肉しか食べない生き物のことよ?他にも草食や雑食っていう言葉があって、草食っていうのは野菜しか食べない生き物を指す言葉、雑食っていうのは肉も野菜も両方共食べる生き物に対して言う言葉、って感じね」


飛竜にとってはそんなワルツの言葉が難しかったのか、彼は難しい表情を浮かべながら口を開いた。


「ふむ・・・。哲学ですな・・・。肉しか食べないから、肉食と言われるのか。はたまた、肉食だから、肉しか食べないのか・・・」


・・・しかし、どうやら、彼女の言葉が理解できなかったわけではないようだ。


(うん・・・多分それ、哲学じゃないと思うわ・・・)


口に出さずにそう考えつつ、自身も食事に手を付けるワルツ。


その際、彼女は、飛竜が美味しそうに齧りついていたテンタクルエレファントの丸焼きを見て、ふと思い出したことを口にした。


「・・・そういえば、ヌル?外の魔物たちの回収ってしてるの?血抜きしたり、内臓の処理をしたりしなきゃならないと思うけど、ビクセンの今後の食事情を考えると、ただ捨てるのは勿体無いと思うのよね」


現代世界で食事中に同じような無いようの話をすると、恐らく白い目で見られるはずだが、普通に生きていくということ自体が大変なこの世界では少々事情が違ったらしく、ヌルは嫌な顔ひとつ見せずに、何かを思い出すかのような素振りを見せた後で言った。


「通達は出していませんが、兵士たちや市民たちが独自に動いているようです」


「ま、それもそうよね・・・。畑が台無しになっちゃってるんだから、これからどうやって食べてくとか、必死になって考えてるんでしょうね・・・」


例え街がボロボロになってしまったとしても、そこに人がいる限り、必ず食料は必要なのである。

そのことに気付いた市民が、政府よりも先に動いていたとしても、何ら不思議なことでは無いだろう。


「一応、こっちの国(ミッドエデン)からも、余剰になった食料は回す予定だから食糧危機に陥ることは無いと思うけど、食に関しては念の為に、今から切り詰めてもらったほうが良いかもしれないわね」


「ご配慮、感謝いたします」


「えっと・・・感謝いたします」もきゅもきゅ


ワルツの言葉に、一旦食器を置いてから頭を下げるヌルと、慌ててそれに追従するユキA。


その後でヌルは、あっ、と何かを思い出した様子を見せながら口を開く。


「・・・ワルツ様。一つ考えていることがあるのですが、お聞きいただけるでしょうか?」


「・・・・・・確認を取るくらいだから、私的なことではなさそうね?」


「はい。その通りでございます」


そしてヌルは一旦口を閉ざした後で、申し訳無さそうな表情を浮かべながら言葉を続けた。


「・・・実は、ミッドエデンに我が国との連絡役として、大使を派遣したいと考えております。今のままですと、完全にワルツ様方に連絡の負担をおかけしてしまうことになるので、こちらで負担できるところは負担しようかと思いまして。・・・ですが・・・・・・」


そう言ってから俯いてしまうヌル。

どうやら彼女は、魔族の国であるボレアスと、人間の国であるミッドエデンが繋がっていることを、周囲の国に知られたくないというワルツたちのスタンスを理解していて、これ以上同意無しに、勝手に話を進めることは出来ないと考えていたようだ。


「なるほど・・・。つまり、うちの国に遠慮してるわけね」


「率直に言ってしまうと、そういうことですね」


と、ワルツの指摘を素直に認めるヌル。


「ま、私たちの国のことは置いておくとして、貴女の国・・・ボレアス側としては問題ないの?立場としては、ウチとそう大差無いと思うんだけど・・・」


他国からの視線が気になるという点では、ミッドエデンもボレアスも同じはずであった。

両国が正式に交流を持ったあかつきには、ボレアス側も周囲にある魔族の国から孤立してしまう可能性を否定出来ないはずなのだが・・・


「はい。周りの国に、つべこべ文句は言わせないので問題ありません!」


と、ヌルは少々興奮気味に即答した。


(・・・・・・なんか、そういう政治の仕方があったわね・・・。近くの国とは仲を悪くしておいて、遠くの国とは仲良くしておくっていう外交。『外堀から埋める』・・・っていうのとは少し違うわね・・・。ま、似たようなものだと思うけど)


と、大昔に中国であった遠交近攻(えんこうきんこう)を思い出すワルツ。

まぁ、現代世界でも、やっている国は今でもやっているようだが・・・。


それからワルツは少し悩んだ後、自身の隣りに座っていて、筋の多いステーキを結界魔法で切断していたは良いが、誤って皿まで切断してしまい、そのまま固まっていたカタリナに問いかけた。


「ねぇ、カタリナ。貴女はどう思う?」


「え?あ、はい。私は肉よりも野菜のほうが好きです」


「・・・話、聞いてなかったのね・・・」


「・・・すみません・・・」


そんな謝罪の言葉を口にしてから、シュンとなるカタリナ。

それから彼女は、皿ごと・・・実は机も切断していたことをヌルに謝って、ワルツから簡単に事情の説明を受けてから、自身の考えを口にした。


「・・・良いのではないですか?ミッドエデンの現在の国力と、これから発展していくだろう未来の国力を考えても、周りの国にとやかく言われてどうにかなるような小さな国ではないと思うのですが・・・。それに、隣国の大国であるメルクリオも掌握したようなものですし・・・」


「ま、文句を言ってくるとすれば、勇者を派遣してるエンデルシアくらいだと思うけど・・・あそこの国王、この前、コルテックスが焼却処分してたから、暫くは大人しいと思うしね」


『えっ・・・』


2人が何を言っているのか分からない、といった様子で、驚いたような声を漏らすヌルとユキA。


「はい。問題があるとすれば・・・他国がどうこうというものではないと思います。大切なことは、ミッドエデンの国民がどう思うか、ですよね?ただ幸いな事に、ワルツさんが魔神であるという噂が、既に市中に行き渡っているにも関わらず、ワルツさんと交流のあるコルテックスが議長であることに、誰も異論を唱えようとしないところを見ると、魔族の国との交流を受け入れる準備が実は整っている、と考えても良いのかもしれませんね」


と、カタリナは平然とそんなことを口にした。


(それ少し横暴な考えじゃないかしら?単に私たちからの報復を恐れているだけかもしれないし・・・。っていうか、私、魔神じゃないんだけど・・・)


しかし、そんなワルツの切実な思いが、周囲の者たちに届くことは無かったようで・・・


「流石はワルツ様。圧倒的な力で周辺諸国と(ぐみん)共々をねじ伏せるその手腕・・・誠に感服いたしました。もしも私たちの国を征服する予定がございましたら、その際は素直に属国として付き従う次第なので、何卒ご容赦をお願いしたく申し上げます・・・」


ボレアスの現皇帝であるヌルが、何故か赤い顔をしながら、ワルツに対してそう口にした・・・。


「うん、大丈夫。安心して?それ誤解だし、他の国を攻めるとか絶対に無いから」


『えっ・・・』


「・・・なんで、そこで残念そうな表情を見せるのよ・・・」


自身に理解できない態度を見せるユキたちを前に、内心で頭を抱えるワルツ。

その隣でカタリナが、まるで納得したように、うんうんと頷いていたのは一体何故だろうか・・・。


まぁ、それはともかく。


「・・・ここで市民たちがどう考えているのかを議論しても、確定的なことは言えないから、正式に大使館のようなものを構えるのは、もう少し先のことね。でも、非公式に大使を派遣するなら、別に否やは無いわよ?この前のユキみたいにね」


と、現時点において、自身で勝手に判断できるギリギリの結論を、ワルツは口にした。

正式に決定するには、コルテックスたちによるホムンクルス会議での了承や、議会での決議(?)、そして市民たちへの希望調査が必要になるだろうか・・・。


(・・・意外と、国民投票とか必要になったりしてね?もしも実際にやったら、多分、この世界では初めての試みになるんじゃないかしら?)


ワルツはそんなことを考えながら、ミッドエデンの法律の中に、国民投票法があったかを思い出すのであった・・・。


と、そんな時。


『あ、お姉ちゃん?今、大丈夫?』


というエネルギアからの通信と、


コンコンコン!


「シ、シリウス様!」


という兵士の声が重なってやってきた。


『はいはい、聞こえてるわよー?まぁ、大体、何があったのかは予想つくけどねー』


「・・・騒々しいですね。何かあったのですか?」


と、それぞれに言葉を返すワルツとヌル。


そして声をかけてきた彼らは、同時に同じ言葉を口にした。


『迷宮が動き始めたよ?』

「め、迷宮が動き始めました!」


『・・・・・・そう』

「そうですか・・・・・・」


そしてワルツたちは、食事をそこで切り上げて、椅子から立ち上がったのであった。


・・・こうして、プロティービクセンと、デフテリービクセンの今後の処遇を決めるための行動が始まったのである。

・・・ボ、ボレアス編、最後の物語を書いておるんじゃぞ?(震え声)

そのためには、登場人物たちの整理が必要だったのじゃ。

要するに、いにしゃらいず、なのじゃ!


というわけでじゃ。

早速、補足するのじゃ。


まず1つ目じゃが・・・これは補足というか、悩んだことなのじゃ。

飛竜と会話をしておった際にワルツが使った、『生き物』という言葉。

最初は『動物』と書こうと思ったのじゃが、なんかそう書くと、飛竜に申し訳ないような気がして、『生き物』という言葉を使うことにしたのじゃ。

大して変わらぬ気がせんでもないがのう・・・。


で、次じゃ。

ワルツがユキ殿やヌル殿と普通に食事をしている理由についてかのう。

・・・端的に言えば、この数日で慣れたのじゃ。

ヌル殿は例外かもしれぬが、ユキ殿はほぼ身内になったようなものじゃからのう・・・。

食堂にいた5人のうち4人が身内と考えて、気を使う必要は無いと思ったのじゃろう。

・・・多分の。


で、最後じゃ。

カタリナ殿が、コルのことを呼び捨てにしておった件なのじゃ。

作った本人じゃから当然のことなのじゃ。

じゃから、基本は呼び捨てなのじゃ。

・・・ただし、てぃーぴーおーによるがのう。


まぁ、今日はこんなところじゃろうかのう。

さて・・・次回は・・・明日こそは、話を進めるのじゃっ・・・!

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