6後後後-13 爬虫類(?)の視線から2
「うぉっ?!」
「な、何でこんな所に!?」
「ひぃ?!お助けぇっ!」
「・・・ふむ。やはりユキ殿と共に行動していると、普段とは異なる人々の姿を観察することが出来る。中々に興味深い・・・」
ノッシノッシと(ミッドエデン風)王城の廊下を歩きながら、逃げまわる兵士たちの姿を見て、そんな感想を口にする飛竜。
「・・・多分それ、ボクのせいではない思います・・・」
彼の隣りにいて、まるで女騎士のような真っ白な軽甲冑を身に着けていたユキは、逃げていく兵士に対して、申し訳無さそうな視線を向けながら口を開いた。
兵士が2人から逃げていくのは、どうやらユキが原因というわけではないらしい・・・。
「む?何か申したか?ユキ殿」
「・・・もしかして、飛竜さん、耳が遠いのですか?」
「いや、そういうわけではないはずだ。我の頭は主から離れたところにあるがゆえ、単に声が届いておらぬだけだ。それに・・・・・・ここは人が多くて騒がしいしな・・・」
キャァーーー!
ウワァーーー!
ヒィィーーー!
「・・・そうですか。では、今度から少し大きめの声で話しかけますね」
「うむ、よろしく頼む」
「分かりました。・・・それでは早速・・・」
そしてユキは、いつもより大きな声で、飛竜に対して話しかけようとしたのである。
・・・その行為自体は、なんてことのないものであった。
例えるなら、耳の遠い高齢者に対して、大きな声で語りかけるようなものであると言えるだろう。
強いて不安な点を上げるなら・・・ユキは新しい身体になってから、これまで一度足りとも大声を出したことが無かった、ということだろうか。
あるいは、つい先日(?)までボレアスの皇帝をやっていた彼女にとって、大声を上げるようなシチュエーション自体が殆ど無かったことも、不安材料の一つとして挙げられるかもしれない。
それ故か、ユキはどの程度の大きさの声を上げれば良いのか分からず、喉に手を当てて、うんうんと唸り、喉の調子を整えてからようやく声を上げようとしたのである。
結果、
ドゴォォォォン!!
という原因不明の爆音が城の内部で反響し、ユキたちの近くにあったガラスや陶器などをほとんど割ってしまった挙句、石材でできているはずの壁にもヒビを入れるという事態を引き起こしてしまった・・・。
どうやら、ユキの喉には、ショックウェーブジェネレータが搭載されていたらしい・・・。
「・・・うん。大きな声を出すのは久しぶりですが、喉の調子は良さそうですね」
・・・しかし、自分の凶行に気づいていない様子のユキ。
そんな彼女に対して、飛竜は・・・
「うむ。中々に良い声だ。しかし・・・今喋った声より少し大きいくらいでも、我には十分聞こえるのだが・・・」
と、周囲の景色に眼をやりながら、口を開いた。
そんな彼の耳には、どうやらダメージは無かったらしい。
高空から低空まで、様々な高度を飛行する飛竜の鼓膜は、そう簡単には破れないのだろう・・・。
「あれ?随分と周りが静かになりましたね?どうしたんでしょう皆さん。耳を押さえて蹲って・・・」
「うむ。どうしてだろうな・・・。・・・やはり、主といると、非常に興味深い人の習性を観察できそうだ・・・」
「いや・・・ですから、ボクがいるからではないですよ?」
「・・・・・・そうか」
・・・こうして2人は、周囲の全てを混沌に陥れながら、城の中を進んでいったのである・・・。
「あの・・・ドラゴンさん?」
城の中を歩いていて、ユキは口に手を当てながら徐ろに問いかけた。
「どうしたのだ?」
「いえ、大したことではないのですが・・・・・・ここどこでしょう?」
ルシアがつい最近作ったために、ユキにとっては見慣れなかった(ミッドエデン風)王城。
その中を特に行く宛もなく歩いていると、気づいた時には知らない場所にいた・・・という展開である。
一応、ユキの頭の中には薄っすらとミッドエデンにある本物の王城の記憶が残っていたが、流石に内部の詳細までは覚えていなかったので迷ってしまったようだ。
「・・・主らの城ではないのか?」
「・・・ドラゴンさんは知らないと思いますが、実はこの城、つい最近ルシアちゃんの手によって新しく作られたものなのです。おっしゃる通り、確かにこの城はボクたちの城なのですが、お恥ずかしいことに、まだ内部の構造を全て把握しているわけではないのですよ」
「なるほど・・・。流石はルシア様。ワルツ様の妹君だけのことはある・・・」
「・・・・・・」
何となくその飛竜の言葉が、自分とヌルに向けられたもののような気がしたユキ。
その後で彼女は、これまでに他の国の魔王から同じ言葉を掛けられたことがあったかどうかを、思い返したとか、思い返していないとか・・・。
「・・・そ、そういうこともありまして、ここがどこなのか分からなくなってしまったのです」
「ふむ・・・相分った」
それからユキたちは、通路の様子を見渡し始めた。
先ほど長い階段を下ったためか、周囲の壁は手掘りの洞窟のような雰囲気に包まれていた。
時折、暗い空間の向こう側から、水滴の落ちる音が聞こえてくるので、恐らくここは地下ということなのだろう。
ただ、壁には、魔道具で作られたランタンが掛かっており、通路が真っ暗というわけではなかった。
流石のルシアの土魔法(?)でも、魔道具の再生までは不可能なので、ユキたちよりも先に誰かがここに先に来て、ランタンを設置していった、ということらしい。
「・・・ダンジョン、ですね」
そう言いながら、何故か嬉しそうな表情を浮かべる元魔王。
一方、
「・・・我には少々手狭だな」
身体の大きな飛竜にとっては、もしものときに戦闘できるような場所ではなかったためか、彼は通路の奥に対して嫌そうな視線を向けていた。
「なんか、こう・・・穴蔵の向こう側から、突然何かが出てくるような気がしませんか?」ワクワク
「・・・・・・カタリナ殿などが、か?」
「・・・・・・それ、単純に怖いだけです」シュン
「・・・・・・同感だな」
そんな、カタリナに聞かれると生体実験の対象にされそうな会話を交わしながら、2人が地下道を歩いて行くと・・・
「・・・突き当たりですね?」
「うむ。そのようだ」
通路は行き止まり・・・・・・ではなく、大きな扉によって塞がれていた。
「・・・一体、何の部屋でしょうか?」
「開けてみれば分かるのではないか?」
「まさか宝の部屋・・・ということは無いですね。地下に財宝は隠されていないはずなので・・・」
「・・・む?それはつまり・・・」
「いえ、なんでもありません。では、開けてみましょうか?」
「・・・・・・うむ。しかし良いのか?勝手に開けても?」
「えぇ。ボクたちの城なので問題はありません。・・・恐らく」
「・・・・・・では、主に任せる」
飛竜がそんな言葉を呟くと、ユキは扉の方へと軽い足取りで歩いて行った。
そんな彼女にもしも尻尾が生えていたなら・・・恐らくその尻尾は、美味しい物を食べている際のイブのように、左右へとブンブン振られているに違いない。
そして扉の前に到着したユキは、長年迷宮と共存してきた都市を治めていた者の義務であるかのよう、そこにトラップが仕掛けられていないかどうかを確認してから、扉に対して恐る恐る手をかけた。
「ふぅ・・・。コレ、一度やってみたかったのですよ」
・・・しかしどうやらユキ自身は、迷宮内を探検したことは無いようだ・・・。
人の手が加わった場所に住むことはあっても、自ら開拓することはないのだろう。
「・・・・・・そうか。それで・・・そろそろ開けてもらえるだろうか?」
「・・・すみません。今開けます」
一体誰が王城の中の扉にトラップを仕掛けるというのか、という副音声を含んだ飛竜の言葉に気づいて、ようやく我に返った様子のユキ。
そして彼女は、金属のようなものでできたその全高数メートルにも及ぶ巨大な扉を、まるで木の葉を跳ね除けるかのように軽々と開いたのである・・・。
風邪とは・・・一体何だったのじゃろうか・・・。
まぁ、よいか・・・。
それで、なのじゃ。
ユキたちが(ミッドエデン風)王城のどこに行ったのかという話は次回に回すとして・・・。
今日補足すべきは・・・・・・特に無いかのう。
・・・昨日の話で、またユキ殿の一人称を間違えておったとか、謝罪すべきことはあるんじゃがの・・・。
まぁ、それを言い始めると、ユキ殿が登場する回で、9割9分、謝罪することになるんじゃがのう。
まぁ、補足すべき点に気づいたら、後日加筆するのじゃ。




