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6後後後-05 行く末5

ギギギギギ・・・


「・・・待たせたわね」


教会の扉を開いて外に出てきたワルツとカタリナ。

そこでは、彼女たちが教会の中に入った時のように、仲間たちがそのままの位置で待っていた。


「いえいえ。そんな待ってはいませ・・・・・・?!」

「わ、ワルツ様・・・。貴女様がいなくなると何故か胸が苦し・・・・・・?!」

「・・・何かあったのですか?」


教会から出てきた2人にそんな言葉を掛けるユキA、ヌル、飛竜の3人。

そんな3人の視線が、繋がれた自分とカタリナの手に向いていることに気づいて、ワルツは苦味の成分が多い苦笑を浮かべながら口を開いた。


「あぁ・・・。カタリナに掴まれて、離してもらえなくなったのよ。・・・そろそろ離して欲しいんだけど?カタリナ」


と言ってから、嬉しそうに手をニギニギと握っていたカタリナに対して、ジト目を向けるワルツ。

するとカタリナは、そこで初めてワルツや仲間たちの視線に気づいたのか・・・少し、残念そうな表情を浮かべながら、名残惜しそうに手を放した。

とは言え、ユキたちの無言の圧力に屈したというよりは、荒れてしまった街の姿に、我を思い出した、といった様子である・・・。


(・・・そんなに私の手の触り心地って、良いものなのかしらねぇ?)


ワルツはそんなことを考えながら、仲間という仲間たちがスキあらば手を握ろうとしてくることを思い出して、自分の手に何か付いているのかと視線を向けてみるが・・・・・・そこにはどう考えても、触り心地が良いとは思えない、偽り(ホログラム)の手があるだけであった。


(余程、ルシアの手のほうが、柔らかくてスベスベしてそうだけどね・・・)


そう思いながら、ワルツが自身の手に視線を向けたままグーパーグーパーと繰り返していると、今度はユキAが、文字通り()()()()()を浮かべながら問いかけた。


「あの、ドラゴン様の言葉を繰り返すような形になりますが・・・教会の中で、何かあったのですか?」


そんなユキAの声には、恐らく5種類以上の感情が含まれていたことだろう。

それでも、直接感情を表に出さなかったのは・・・魔王としての矜持のためか、あるいはワルツと手をつないでいた相手が、命の恩人であるカタリナだったためか・・・。


「んー、まぁ、何もないっちゃぁ、何もなかったけど・・・一つ大きな問題が生じたのは事実かしらね?」


と言いながら、ワルツはカタリナの方を振り向いた。

ワルツにとっては、それ以上、カタリナのプライバシーを含む詳しい話の内容を口にするわけにはいかなかったので、後は任せる、という意味合いを含んだ視線を向けたのだが・・・


「・・・・・・」


しかし、カタリナは、何も言わずに静かに首を振って歩き始めた。

そして、ユキたちを通りすぎて、更に何歩か進んだところで振り返った後、


「・・・帰る場所を失ったので、いよいよ本格的に、ワルツさんのところでお世話になることになりました」


・・・などと言ったのである。

それも、目尻に涙を溜めた笑みを浮かべながら・・・。


『・・・?!』


その瞬間、姿形は異なるというのに、まったく同じ表情を浮かべるユキ姉妹。

それと同時に周囲の景色が、一瞬で氷に包まれてしまったのは・・・まぁ、彼女たちの心境を考えるなら、必然のことと言えるだろう。


そんな同じ表情を浮かべる姉妹は、恐らく頭の中でも同じことを思い浮かべたに違いない。

・・・この雌狐(Vixen)め!、と。


「・・・はいはい。その辺にしときなさいよ?カタリナ」


そう言って作った小さな拳を、彼女のこめかみに軽く当てるワルツ。

このまま放っておくと、迷宮が暴れるどころの被害では済まない大戦争が、町中で勃発すると感じたらしい。

・・・まぁ戦いは、カタリナの圧勝で終わるはずだが・・・。


「・・・はい。申し訳ございません・・・」


カタリナはそう言うと、慣れた様子で頭を下げた。


『ぐぬぬぬ・・・』


それを見ていたユキたちも、ワルツが事態の収拾に動いたことを無視できなかったのか、そんな唸り声を上げながらも、どうにか(ほこ)を収めることに成功したようだ。


・・・しかし、その代わり。


「・・・この戦い、絶対に負けません!」


「そうです!相手がカタリナ様とはいえ、負けるわけには・・・・・・えっ?」


「・・・えっ?」


そう言って、顔を見合わせるユキAとヌル(ユキF)

・・・どうやら別の場所で、不毛な戦いが始まろうとしているようである・・・。


「・・・ふむ。人というものは理解に苦しむ生き物ですな・・・。何故、このような殺伐とした雰囲気を作り出しておるのでしょうか?」


「・・・知らないわ。むしろ知りたくもないわね。飛竜も、あまり変なことに首を突っ込まないほうが良いわよ?触らぬ魔王に祟り無しって言うくらいだしね?」


飛竜の問いかけに対して、手をひらひらさせながらそう答えて、街の中を再び歩き出すワルツ。

そんな彼女に静かについていくカタリナと、今なお険悪な雰囲気を纏いながら睨み合っているユキたちの様子を見比べて・・・飛竜は、この争いの勝者が誰なのかを、はっきりと感じ取っていたようであった・・・。




「・・・さて。ここまで来たわけだけど、この壁の向こう側に市民たちがいるわけね?」


「そうでございます。我が覚えている限り、この壁の向こう側には広大な平原が広がっていたはずでございます」


「『平原』・・・ね。それ、ルシアの前で言わないほうが良いわよ?」


「はあ・・・。それは一体・・・」


「いや、その平原を作ったの、あの娘だし」


「平原を作っ・・・は?」


「要するに、禁句、ってことね。多分だけど・・・」


自身の言葉の意味が飲み込めていない様子の飛竜と、後ろから付かず離れず付いて来ていたカタリナ、そして、今もなお(いが)み合っている様子のユキたちを一瞥(いちべつ)してから・・・ワルツは、一人だけで、8mはありそうな市壁の上へと跳んだ。

どうやら彼女は、今のメンバーの中に、重力制御によるアシストを必要とする者はいないと考えたらしい。


実際、カタリナは、


カツンカツンカツン・・・


と、垂直に聳え立つ壁を、まるで普通の平地を歩くような様子で歩いて上がり、飛竜もその背中についていた巨大な翼を使って飛び立つと、市壁の上に立っていたワルツの横に降り立った。


問題は・・・残りの2人である。


「貴女・・・いつからワルツ様のことを・・・!」


「お、お姉様こそ!私は、使者としてミッドエデンに派遣された時からずっとですよ!」


まともに前も見ずに、薄暗い道を歩いて行く2人。

そして案の定・・・


ゴツン!


『あいたっ!』


・・・市壁に頭からぶつかった。

これが見た目通りの少女たちなら、思わず涙目になって、ぶつけた箇所を痛がるかも知れないが・・・そこは齢、250歳と500歳を超えたおば・・・淑女。

それも、サイボーグ化した現魔王と、所々鎧は壊れているとはいえフルアーマー状態の元最強の魔王である。


彼女たちは、ぶつかった壁を憎らしそうに一瞥し、それからその壁の上に立つワルツたちに目を向けてから・・・当然のように、競い始めた。


「ふん。この程度の壁など、魔力の戻った今の私には、壁のうちにも入りません」


そう言いながら、氷魔法を行使して階段を作り出し、普通に登っていくヌル。

壁の登り方はいくつかあったはずだが、恐らく『エレガントさ』を追求して、そんなを魔法を使うことにしたのだろう。

・・・何より、目の前では、ワルツが自分のことを見ているのだから。


一方・・・。


「・・・ふっ・・・」


・・・ヌルが行使したそんな魔法を鼻で笑うユキA。

ルシアとの戦闘によってボロボロになってしまった鎧を身に付けながら、しかし、随分と立派なデザインの階段を登っていく姉の姿を見て、思わず失笑してしまったらしい。


ただ、そう言う意味では、ユキA自身が身に着けていた鎧も、炎の中で遊んだために半ば溶けかかっていて、鎧として機能してはいなさそうだったが・・・


「・・・わざわざ魔法を使う必要もありません」


どうやら自身の姿については見えていないのか、一部燃え残っていたスカートの端を女性らしく押さえる、というほとんど意味のない行動をした後・・・しかし、同時にサイボーグらしく、壁の上に軽々と跳ねようとした。


そしてユキAは・・・


ピョン・・・


と、跳ねて・・・


シュタッ!


・・・と、着地したのである。


ただし飛距離は20cmほどだが・・・。


「あ、あれ?」


自分の身体に何が起こっているのか分からない様子で、目を丸くしながら、皆が待つ市壁の上に対して、泣きそうな視線を向けるユキA。


そんな彼女に対してワルツは、


「・・・あー、ごめんね」


すっかり忘れていた、といった様子で謝罪しながら、重力制御を使って持ち上げたのである。


「そういえば、貴女、体力がギリギリの状態だったわね。それに、テンポに無駄に毛を生やされていたみたいだし・・・」


身体を修復するために使用された細胞、そして、毛を生やすために使われたエネルギーと材料・・・。

それは一体どこから来たものなのか。

・・・言うまでもなく、それらは全て、ユキAの身体の中に元々あったものなのである。

要するに今の彼女は、ガス欠状態のワルツと同じ状況に陥っており、体力が普通の少女と同じ程度にまで低下していたのだ。


「・・・すみません・・・」しゅん


ワルツの手を(わずら)わせる事になってしまい、申し訳なく思ったのか、うつむきながら涙目になるユキA。

彼女が姉の方に視線を向けようとしなかったのは・・・自身の負けを悟ってしまったから、ということなのだろう。

・・・尤も、そんな彼女の姿を見たヌルが、勝利の余韻に浸っていたかどうかについては、また別の話だが。


と、そんな姉妹の対決が、勝者無し(?)で決した頃、空を飛んでいたエネルギアから、ワルツに対して無線通信の連絡が入る。


『お、お姉ちゃん!』


何処か慌てた様子のエネルギア。

そんな彼女に、ワルツは嫌々ながら、口を開いた。


『・・・もしも良いニュースと悪いニュースがあるなら、良いニュースから言ってね?』


『え?悪いニュースしか無いよ?』


『・・・そう。それで、何かあったの?』


ワルツがそう問いかけて、そしてエネルギアから返って来た言葉は・・・・・・エネルギアの考えとは裏腹に、良いニュースと悪いニュースの両方を含んだものであった。


『人が・・・街の人たちが、襲われそうになってるの!』


『・・・確かに悪いニュースね。でも、それくらいなら、貴女が攻撃すればいいんじゃないの?どうせ、魔物か何かなんでしょ?』


『ううん。魔物じゃなくて、人が人を襲おうとしてるの』


『・・・益々、悪いニュースね。そのせいで、攻撃していいかどうかを悩んじゃったわけね。・・・でもそんな悪い奴が来てるなら、遠慮無く()っちゃっていいわよ?』


『えっ・・・いいの?お姉ちゃんの近くにいる、ユキFとかヌルとかって呼ばれてた人にすごく似てるんだけど・・・』


『・・・良いニュースじゃない』


・・・どうやら、行方知れずだったユキの姉妹たちが、理由は不明だが、市民を襲おうとしているようだ。

いやー・・・。

ユキの姉妹たちのこと、すっかり忘れておっ・・・いや、忘れてはおらぬぞ?

どうするかを悩んでおったのじゃ。

・・・本当じゃぞ?

・・・多分。


それと、ユキAとユキFの格好について、ようやく書くことが出来たのじゃ。

ユキAは、炎の中で遊んでおったから。

ユキFは、ルシアに腕と足を切断されてしまった故、鎧がボロボロになっておったのじゃ。

それを何処かで着替える・・・的なストーリーを書こうと思ったのじゃが、どこにもそれを入れられるスペースが無かったのじゃ。

じゃから、そのままボロボロのままで行くことにしたのじゃが・・・問題は、結局、それをどこで述べるか、ということだったのじゃ。

どうでもいいことなのじゃが、肩の荷が降りた気分なのじゃ。


さて。

補足するのじゃ。

・・・と言っても、特にストーリーに進展はないから、補足することはないかのう?

強いて言うなれば、ユキAとFの不毛な戦い結果についてかのう。

まぁ、どちらが勝ったのかについては・・・想像にお任せするのじゃ。

か弱きおなごが勝ちとするか、誇り高きおなごが勝ちとするか・・・。

・・・まぁ、物語を書いておる妾が常に勝者じゃがの。

・・・カタリナ殿とルシア嬢の前で同じことは言えぬがのう・・・。

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