6後後後-03 行く末3
ぽかーん
・・・という擬音語がある。
言葉で説明するなら、『開いた口がふさがらない』といった状況において、人が見せる表情の一つを表現したオノマトペ、と言えるだろうか。
ちなみに、今その状況に陥っているのは、ユキF(ヌル)である。
一体彼女の表情のどこに、『ぽ』の成分と、『かー』の要素と、『ん』の撥音が含まれているのかは分からないが・・・それでもヌルの表情は紛れも無く、ぽかーん、であった。
ではどうしてそんな表情を浮かべていたのか。
・・・エネルギアの船体を目の当たりにしたからである。
ワルツに連れられて乗り込んだ際、彼女の思考は市民たちのことでいっぱいだったために、どうやら周りが見えていなかったらしく、外に降りた途端、まるで初めてエネルギアを見るような様子で固まってしまったのだ。
「なん・・・ですか・・・これは・・・?!」
先程まで半ば脳内お花畑状態にあったヌルは、その全長300mを超える白い巨体を目の当たりにして、一気に現実に引き戻されたようである。
・・・まぁ、その眼に見える光景が、現実であるかどうかを逆に疑っている可能性も否定は出来ないが・・・少なくとも、頭の中にあった花々は、一瞬で真っ白な雪原の中に埋もれてしまったことだろう。
「え、これ?エネルギアよ?さっき乗るとき見たでしょ?」
ようやく、まともな反応を見せ始めたヌルに対して、ニヤニヤしてしまいそうな顔をどうにか抑えながら、タラップをゆっくりと降りていくワルツ。
そんな彼女の後から、同時に飛竜も降りてきた。
「・・・ふむ。船に乗るという経験は初めてのことでしたが、なかなかに貴重な体験をさせていただきました」
巨大なエネルギアに対し、何処か敬意を払うような視線を向けて、そんな言葉を呟く飛竜。
すると、今度はワルツが、そのままタラップを下りながら振り向くこともなく、彼に対して話しかけた。
「なんだったら次に作る船、貴方が操縦してくれない?」
その言葉に・・・飛竜はどういうわけか急に足を止めて、その長い首を傾げる。
それから彼は、恐る恐るといった様子で、ワルツに対して問を投げかけた。
「・・・・・・すまぬがワルツ様。どうやら聞き違えてしまったようなので、もう一度言っていただけませぬか?」
しかし、飛竜が聞き間違えてしまったわけでは無かったようで・・・
「貴方の航法、中々に巧そうだから、次作る船の操縦士をお願いしようと思ってるのよ。いたずらにホムンクルスを増やすわけにもいかないしね」
ワルツは先程の言葉を繰り返しつつも、補足するような形で、そう告げたのだ。
「・・・あ、でも、人間になることを諦めちゃダメよ?流石にうちの街でも、町中をドラゴンが歩いてると、大騒ぎになっちゃうんだから・・・(・・・多分ね)」
一瞬だけ、自分の魔神としての名が蔓延っている王都のことを思い出して、もしかしてドラゴンが歩いていても騒ぎにならないのではないか、などと思ってしまうワルツ。
そんな彼女の言葉に、
「・・・・・・」モワッ
・・・飛竜は釣り上げた口元からブレスを漏れ出させる。
どうやら、人で言うと、『気の昂ぶった状態』になったらしい。
「・・・飛竜?口からブレスが漏れてるわよ?」
「おや、これは失敬」
(今度は外だけじゃなくて、艦橋の中も耐熱仕様にしなきゃダメかもね・・・)
嬉しそうに笑み(?)を浮かべる飛竜に、ワルツは今から設計の変更を考え始めたのであった・・・。
「・・・・・・」ぽかーん
(・・・ヌル?そんな口を開いたままで歩き回ってたら、魔王とか皇帝とか美貌とか、完全に形無だと思うんだけど・・・いいのかしら?)
未だ姿を現していなかったカタリナたちをタラップの前で待っている間、口を開けたまま、目を皿のようにして、エネルギアの姿をしげしげと観察しているヌルに、そう思うワルツ。
(もしかしてこのまま放っといたら、『私も欲しい!』とか、言い始めたりしてね・・・。あれ?そういえば、テレサも大体似たような立場にいるけど、あの娘、エネルギアが欲しいって言ったことないわね・・・。技術は欲しいって言ってるけど・・・)
今頃、ミッドエデンの王城で、ぐっすりと寝ているだろうテレサの事を思い出しながら、ワルツがヌルの行動に苦笑を浮かべていると・・・
「・・・お待たせしました」
一人でカタリナが、タラップを降りてきた。
「あら、思ったよりも早かったわね。ユキAの脱毛とか剃毛とかに、もう少し時間がかかると思ったんだけど・・・って、その本人は?」
「そこにいますよ?」
そう言ってタラップの上の方を見上げるカタリナ。
すると・・・
「・・・・・・」じーっ
といった様子で、エネルギアの巨大なハッチの縁から自分たちのことを見ているユキAの姿が、ワルツの眼に入ってくる。
「・・・何やってんの?あれ・・・」
「そうですね・・・。例えるなら・・・髪型を変えた後、知り合いに見られるのって、なんとなく恥ずかしくないですか?恐らく、あれと同じ状態なのだと思います」
「・・・ごめんカタリナ。私、髪を切ったこと無いから分かんないわ・・・」
と言いながら、今もなお、狐耳付きで真っ黒だった髪の毛を腰のあたりまで伸ばすワルツ。
「・・・自由なんですね」
「えぇ、自由自在よ?」
それから手を使わずに、獣耳の中から生えるダブルツインテール(クアッドラプレット?)などを作っていると、ようやくユキAが意を決したのかタラップを降りてきたので、ワルツは元の髪型に戻して声を掛けた。
「別に恥ずかしがることなんて無いと思うわよ?ユキ」
ワルツの眼からは、どう見ても、先ほど船内で別れた時と同じ姿のユキAだったのだが・・・
「・・・ほ、本当ですか?ボク・・・もう、どの姿が自分の本当の姿が分からなくってしまって・・・ぐすっ・・・」
どうやら、テンポに毛を生やされすぎたのか、自分の姿を見失ってしまったようだ。
「まぁ、少なくとも、私の眼から見る分には、大きく変わった感じは無いわよ?あるとすれば・・・その青い髪飾りを付けたくらいかしら?」
「!」
・・・その瞬間、どういうわけか、ぱぁっ、と炎が灯ったように明るくなるユキAの表情。
(あ、これ、気づいたら拙かったタイプのフラグね・・・)
「さっ、行きましょうか」
「えっ・・・」
そしてワルツは、まるで逃げるかのように、ユキたちに背を向けて、街へと歩き始めたのであった。
その際、
トコトコトコ・・・
「・・・あれ?カタリナも来るの?」
さも当たり前、といった様子で無言で付いてくるカタリナに、ワルツはそう問いかける。
「・・・自分の故郷なのですが・・・来てはダメだったでしょうか?」
「う、ううん。そんなことないわ。ユキを連れてくるっていう時点で、一緒に来ると思ってたわよ?でも疲れてないかなぁ、って思って・・・」
カタリナの言葉の副音声に、何処か形容しがたいほどに暗いものを感じ取ったワルツは、彼女に一緒に行くかどうかを問いかけていなかったことを思い出して、必死に弁明した。
それが功を奏したのか・・・
「お気遣いありがとうございます」
そんな言葉を漏らしながら、明るい表情を浮かべ直すカタリナ。
・・・しかしその後で、彼女は再び、妙に影の濃い表情に戻ると・・・
「・・・でも、私には、行くかどうかを聞いてくれませんでしたよね・・・寂しかったです・・・」
・・・ワルツにとって、どうにも回避しようのない重い言葉が、彼女の口から飛んできたのであった・・・。
「・・・ごめんカタリナ。いつも医務室にいるから、今回もいるかと思って聞いてなかったの・・・。本当にごめんなさい・・・。でも疲れてないかなって思ったのはホントだからね?」
「えぇ、もちろん分かってます。それにワルツさんが、私にいじわるをしようとしていた訳ではない事もちゃんと分かってますよ?」
そう言って、ワルツに笑みを向けるカタリナ。
(・・・むしろ、いじわるを受けてたのって・・・私の方かしら?ま、私には非があるから、何も言い返せないんだけどね・・・)
ワルツはそんなことを思いながら、何とも難しい表情を浮かべると、未だにエネルギアに向かって熱い視線を向けていたヌルを重力制御で引っ張って、ビクセンの街に向かって歩いて行くのであった・・・。
今日の文を書くのは楽じゃったのう。
一体、何が楽で、どうして大変に思えるのか・・・。
それが知りたいのう・・・。
それでじゃ。
妾は思うのじゃ。
・・・人の会話を記述した部分に、今まさに、いのべーしょんを起ころうとしているような気がすると・・・。
なぜか?
・・・妾が気に食わないから、なのじゃ。
やはり、会話の隙間にナレーションを挟むのは・・・もうすこし方法を考えねば、しっくりこない気がするのじゃ。
本当なら誰か書き方を真似したいところなのじゃが、最近時間がのうて、読書をしておる暇が無いのじゃ。
じゃから、自分でわざわざ書き方を再開発していくしか無いと思うのじゃ。
・・・そういう時間の掛かる作業は嫌いではないからのう。
もしもこれがどうにかなれば・・・書く速度が飛躍的に向上するのじゃ。
文のチェックで、一番時間が掛かっておるのは、この部分の言い回しじゃからな。
その割には、完成度が低い・・・。
もうこれは、いのべーしょんが必要としか言いようが無いじゃろ?
・・・さて。
そろそろ、補足に入るのじゃ。
前話でカタリナに対して問いかけなかったのは、こういうことだったのじゃが・・・妾が意図したかどうかは内緒なのじゃ。
・・・内緒なのじゃ!
重要(?)な事じゃから、2度言ったのじゃ!
他、ユキAが明るい表情を見せた件について、どんなフラグ(地雷?)があったのかについては、別に補足は必要ないじゃろ?
分からぬ者って・・・たぶん、おらぬよな?
まぁ、よいか。
で、問題はヌル(ユキF)なのじゃ。
あやつが抱えておる問題について、中々切り出すタイミング無いのじゃ。
・・・いや、別にどうでもいい問題なのじゃが・・・絵柄としてのう・・・。
そういう意味では、ユキAについても同じことが言えるのじゃ。
いっその事、このまま忘れてしまおうかのう・・・。
・・・あ、そうじゃ。
ユキAが、どこぞのSF映画に出てくるような茶色い毛むくじゃらの巨漢になっておることを期待した者達には、ここで深くお詫びするのじゃ。
ワルツにとってもそうじゃが、妾もそんなユキ殿の姿は見たくないのじゃ。
・・・逆に、チュー○ッカの毛を全て削いだらどうなるか・・・。
一度、見てみた・・・くはないの。




