6後後後-02 行く末2
「・・・ところで」
ふと気づいたかのような様子で、エネルギアの艦橋の中に視線を向けながら、徐ろに口を開くユキF。
「ここはどこなのでしょう?」
「・・・ようやく気付いたのね・・・」
エネルギアに初めて乗った者達の中で、ユキFの反応が取り分けてあまりに薄かったことに、『流石は、おば・・・古くからいる魔王ね・・・。肝が据わってるって、きっと、このことを言うのね』と内心で考えていたワルツ。
しかしどうやらユキFは、心に負った傷(?)が大きすぎたために、周りが見えなくなっていただけのことだったようだ。
(・・・そういえば、彼女のことをどうしようかしら。迷宮から抜けだした時の勢いで、そのままエネルギアに乗り込んじゃったけど、本当はユキFのこと、ここに連れて来るつもりは無かったのよね・・・)
そんなワルツの心の声の通り、ボレアス帝国の影の支配者であるユキFとそれほど深い交友を持つつもりは、彼女には無かったのである。
ではどうして、ワルツはユキFを連れてエネルギアにやってきたのか。
・・・端的に言えば、単に深く考えていなかっただけなのだが・・・それでも強いて理由を説明するなら、一刻も早く、自分の居場所があるエネルギアの艦橋に戻りたかった、ということが一番の理由と言えるだろうか。
「ここはね・・・」
そしてワルツは、渋々といった様子でエネルギアの説明を始め・・・ようとした。
だがその前に、
「あ、そういうことでしたか」
急に何かを納得したように声を上げるユキF。
「え?何が?」
「ワルツ様ほどのお方です。このような空中要塞をお持ちになっていたとしても、不思議ではありませんでしたね」
「えっ・・・う、うん・・・。間違いでは・・・ないわね」
今はすべての武器を体内部に収納しているので、一見すると滑らかな見た目のエネルギアの船体。
しかし、一度、戦闘モードになったのなら・・・まるで空飛ぶハリネズミのような見た目になってしまうのである・・・。
・・・まぁ、それは少し言いすぎかもしれないが、全方向に向かって様々な武器を構えられる事に違いはなく、その機能と役割を考えるなら、紛うこと無く、空飛ぶ要塞であった。
ただ、艦橋に映る景色の中に、今現在、エネルギアの船体の姿が映り込んでいなかったことを考慮すると、もしかするとユキFは、艦橋の形状のような半球状の形をした透明なケージが空を飛んでいる、と考えているのかもしれない・・・。
それはさておき。
「・・・そうね」
小さな溜息を吐いた後で、一人納得したように、そう呟くワルツ。
それから彼女は、外の景色や宙に浮かぶ巨大な画面、それに何故か大胸筋を鍛えるようにして両腕を動かしていた飛竜に興味深そうな視線を向けているユキFに対して、何かを言おうと口を開いてから・・・・・・しかし、一旦口を閉ざし、そのあと少し悩んで、ややしばらくあってから言葉を放った。
「・・・この船のことは誰にも内緒よ?」
「はい。もちろんです」
そう言って、明るい表情を見せながら頷くユキF。
しかし、そんな彼女の表情とは対照的に、ワルツの内心では、小さくはない悩みが渦巻いていたのである。
(・・・勇者たちにこの船をあげるのは良いんだけど、彼、アルタイルに洗脳されてるらしいし・・・このままだと、近いうちに、この国に攻め込んじゃうんじゃないかしら。多分、今の弱体化したユキF程度なら、勇者でも互角くらいには戦えると思うけど、エネルギアが手元にあったら、単に一方的な殺戮よね・・・。・・・今度、テレサに頼んで、他の場所を攻めこむように洗脳してもらったほうが良いかしら・・・。その場合・・・エンデルシアが良いわね)
・・・まぁ、勇者を派遣した当の国であるエンデルシアに攻めこませるかどうかはさておいて、である。
もしもここで、エネルギアの船体の形を知らないユキFに対して、事細かくこの船のことを紹介したとしよう。
・・・しかし、あとで勇者たちが、ワルツしか持っていないはずのこの船を使ってボレアスを滅ぼしに来たなら、ユキFたちは一体どう考えるだろうか。
ワルツはそれを考えて、ユキFにエネルギアを紹介するかどうかを悩んでいたのだが・・・結局、いつも通り、後のことは後でどうにかする、ということにしたようである。
それと同時に、彼女に対して必要以上に説明することも止めておくことにしたようだ。
やはり余計なことは口にしないことに限る、と思ったのだろう。
「ま、そういうわけだから。・・・それじゃぁ、エネルギア?降りるわよ?市民たちとは街を挟んで反対側に降りてもらえるかしら?」
『うん。わかったよ』
そしてエネルギアは、ビクセンの街の南東側にあった畑に、ゆっくりと降下を始めたのであった。
「じゃぁ、行きましょうか」
「・・・えっ?」
エネルギアが着陸した後で、艦橋から外へと出ていこうとしていたワルツが口にした言葉に、ユキFはそんな疑問の声を上げた。
「いや、別にこのまま帰ってもいいんだけど、今なお迷宮が暴れてる状態で、ユキFたちを放置して帰るもの忍びないし、市民たちの様子も見てないし、それに貴女の姉妹たちの行方も分かってないし・・・。ま、要するに、このままもう少しだけ、この国の様子を見ていこうかと思ったんだけど・・・必要ない?」
「い、いえ。国を上げておもてなしすることは出来ませんが、私が是非おもてなしさせていただきます!」
「えっ・・・いや、そんな気を使わなくてもいいわよ?遊びに来たわけじゃなくて、単に様子を見ていくだけなんだから・・・」
「えっ・・・・・・はい。分かりました・・・」
と言いながら、何故か悲しそうな表情を見せるユキF。
「・・・?・・・まぁ、良いわ。さて・・・」『カタリナ?ユキAは無事?』
ワルツは、医務室でユキAやイブの診察をしてるだろうカタリナに対して、無線機越しに問いかけた。
すると、間髪入れずに、
『はい。まだ寝ていますが、特に問題はありません。叩き起こしますか?』バシバシッ!
と、何か痛そうな音と共に、彼女から連絡が返ってくる。
『・・・実はもう叩いてない?』
『いえいえ。そのようなことは・・・』ドン!
『・・・今度は蹴ったわね?』
『いえ、テンポの足がぶつかっただけです』
『・・・あ、そういうこと』
・・・どうやら、彼女と同じく医務室にいたテンポが、せっかくカタリナが作った新しい身体だというのに、ほとんど役立っていないユキAの眼をどうにか覚まそうとしているらしい・・・。
『でも、謎スイッチを押して、ユキを全身毛だらけにはさせないでね?そんなユキ、見たくないから・・・』
『分かりました。では、剃るか、薬品を使って脱毛させておきます』
『・・・もうやった後なのね・・・』
艦橋の巨大なステータスモニターから聞こえてくるそんなやり取りに・・・
「・・・・・・クスッ」
何故か、嬉しそうに笑みを零すユキF。
「・・・貴女の妹、今、雪女じゃなくて、イエティーになってるみたいよ?」
「たまには・・・それも良いのかもしれません」
「毛むくじゃらなのに?」
「毛むくじゃらでも、楽しそうなら、それはそれで良いのではないでしょうか」
(・・・本人、まだ意識が戻ってないと思うけどね・・・)
朝(?)起きたら、イエティーになっていた・・・。
果たしてそれを楽しそう、と言えるのかどうか、本気で悩んでしまうワルツ。
それから彼女は、質問の続きを口にした。
『で、どうなのカタリナ?ユキは眼を覚ましそう?』
『あ、はい。大丈夫です。今起きたみたいです』
『じゃぁ、これからビクセンに降りようと思うんだけど、タラップの所まで連れて来てくれるかしら?』
『はい。分かりました』
カタリナがそう言って通信を終えようとした際、ワルツは思い出したように、言葉を繋げた。
『・・・そういえばルシアは?』
『ルシアちゃんですか・・・・・・ちょっと今は・・・』
と何か事情がありそうな様子でそう口にするカタリナ。
すると間もなく、
『えっと、起きてるよ?お姉ちゃん』
・・・寝ているかどうかを聞いたわけではないにもかかわらず、ルシアが直接そんな言葉を返してきた。
どうやら、ウトウトしていたか、寝ていた、ということらしい。
『・・・ごめんね。ちょっと、街の様子を見に行ってくるだけだから、ルシアは船で待ってなさい?』
『えっ・・・うーん・・・一緒に行きたいなぁ・・・』
声から察するに、どう考えても眠そうな様子のルシア。
そんな彼女に対して、ワルツは隣で無線の会話の内容を聞いているユキFのように、小さく微笑みながら口を開いた。
『そうね。じゃぁ、こう考えましょう?・・・今は静かに魔力を溜めるための時間。それも私の手伝いの一つとして・・・。それなら、待っていられるんじゃない?』
『・・・うん。分かった。お姉ちゃんがそう言うなら、待ってる』
『うん、いい子ね』
その言葉を最後に、ルシアは言葉を返してこなくなった。
どうやら彼女は、本格的に横になり始めたようだ。
『というわけだから、カタリナはユキのことをお願いね?先にタラップで待ってるから』
『分かりました』
そしてカタリナとの通信も終了した。
(他のメンバーはどうしようかしら・・・。ここで放置して出て行くというのもねぇ・・・。せっかく、弟子になりたいとか言ってるわけだし?)
と考えながら、船内にいる仲間たちのことを思い出すワルツ。
(長い時間拘束されていたイブは暫く寝かせておくとして、ユリアとシルビアについては・・・・・・労災ね)
どうやらワルツは、血まみれにしてしまったリサと、彼女を看ているだろうテンポのことは、できるだけ考えないようにしているようだ。
となると残るは・・・
「・・・飛竜はどうする?」
目の前にいた彼だけ、ということになるだろうか。
「共に付いて行ってもよいのですか?」
「えぇ、もちろんよ?・・・ところで、ユキF?一応聞いておくけど、ビクセンの町中をドラゴンが歩いてると、やっぱ、問題になったりするの?」
そんなワルツ言葉に・・・やはり、嬉しそうに笑みを浮かべながら、ユキFは口を開いた。
「はい。それは、もちろんですよ。ですが、今、町中に市民たちはいないはずです。ならは、特に問題はないかと」
「そう・・・。というわけだから、貴方もどうかしら?飛竜」
「はい。では是非、同行させてもらいます」
そう言うと飛竜は、尻尾をどこかにぶつけないように注意しながらワルツに向かって振り向くと、艦橋の中をゆっくりと近づいてきた。
そんな彼の姿を見てから・・・ワルツは徐ろに、ユキFに問いかける。
「・・・それにしても、貴女、随分嬉しそうね?」
「いえ・・・そのようなことは・・・」
と言いつつ、ワルツよりも先に、まるで顔を隠すようにしてそそくさと艦橋の外に出ようとするユキF。
それから彼女は廊下に立つと、まるで燥ぐ少女のように、くるっと踵を返して、ワルツに言葉を投げかけた。
「ワルツ様?私のことはユキFではなく、是非『ヌル』と呼んで下さい」
「・・・・・・はぁ。・・・はいはい。ヌル、行くわよ」
「はいっ!」
(・・・どーしてこの世界は、こんな面倒な作りになってるのかしら・・・)
そしてワルツは難しい表情を浮かべた後、時間と共にまるで若返るかのようにして表情が明るくなっていくユキFと、その様子を興味深げに観察していた飛竜を連れて、エネルギアの廊下を外に向かって歩いて行くのであった・・・。
なんでじゃろう・・・。
書くのに時間が掛かるのじゃ・・・。
いや、正しくは、追記するのに時間がかかっておるのじゃ・・・。
というか、自分の分の書き方がまた変化していくのを感じるのじゃ・・・。
ま、劣化したり、スランプ(?)に陥らなければ何の問題も無いがのう。
さて。
サイドストーリーと本文を書き分けておって思ったことがあるのじゃ。
この物語、『ワルツの心境しみゅれーしょん』・・・なのかもしれぬ、とのう。
尤も、主殿が書き始めた当時は、それを目標に書いておったらしいのじゃ。
もしかすると、それが今でも繋がっておる、ということなのかもしれぬのう。
で・・・補足(?)なのじゃ。
ユキFの態度。
これが徐々に変化していくのは、理由があってのことなのじゃが・・・まぁ、ペース的にはこのくらいの速さではないかと思うのじゃ。
妾はユキFのようにとんでもない年齢ではないから実際にどうなるかは分からぬが、身体は若いはずじゃから、『とある状況』に陥ると『とあるホルモン』が分泌され、脳内がお花畑に・・・以下略。
・・・いやー、もう少しブレーキを掛けたほうが良いかのう。
あと、ストラトフォートレスに関してじゃが・・・一応言っておくが、某爆撃機とは関係ないのじゃ。
妾は、どちらかと言うと、爆弾を積んだ飛行機よりも、お皿を積んだ飛行機のほうが・・・いや、なんでもないのじゃ。
今日はとりあえず、そんなところかのう。




