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6後後後-01 行く末1

身じろぎ一つしないプロティービクセンに対して容赦なく噛み付いている様子のデフテリービクセンを尻目に、エネルギアへと戻ってきたワルツたち。

その際、空に浮かんでいたエネルギアが、いつも通り力任せに飛ぶのではなく、まるで風に漂うかのように飛行していた姿を見て、ワルツは人知れず驚いていた。


無線機でエネルギアに停船を呼びかけた後、素直に停止した彼女(?)の艦橋までやってきたところで・・・ようやくワルツは、どうして彼女が滑らかな軌道を描いて、無理なく飛んでいたのかを理解する。


「なるほどね。無駄のない飛行をしてると思ったら、飛竜が操縦してたわけね。一見すると飛ぶのっていうのは簡単に見えるんだけど、本当は簡単なことではなくて、空気の流れを感じ取ったり予測したりしなくちゃならないから、結構難しいことなのよね」


「流石はワルツ様。よくご存知で」


と、少しだけ胸を張りながら、ワルツの言葉に同意する飛竜。


『でも、怖かった・・・』


しかし、飛行経験のまだ浅いエネルギア本人にとっては、まだ難しい次元の話だったようだ。


「・・・あれ?そういえば、ユキAたちは?」


ここを出た時にはいたはずのユキAたちが艦橋からいなくなっていたことに気づいて、そんな疑問を口にするワルツ。

彼女はそんな言葉を誰に向けるでもなく投げかけると共に、顔を青くしてグッタリとしたまま動かなくなっていたユキFの身体を艦橋の床にゆっくりと置いた。

どうやら彼女は、市民たちを助けられなかったと思って、精神的なダメージに苛まれているようだ。


一方、ワルツの隣りにいたルシアも、姉と同時に、重力制御魔法と風魔法を解除して、宙に浮かべていたユリアとシルビアを床へと降ろした。

2人とも急激に魔力を失って意識を失ってしまったのだが、涎を垂らしながら幸せそうに寝ている姿を見る限り・・・単に疲れて眠ってしまっているようである。

既にカタリナの治療を受けた後なので、朝になれば、勝手に起きるのではないだろうか。


それはさておいて。

ワルツの質問に対して、エネルギアが答える。


『2人なら・・・ルシアちゃんの部屋のベッドで一緒に寝てるよ?』


「・・・え?なんで・・・」

「どうして私の部屋で・・・」


『んー、分かんない。冷蔵庫に入ってたクッキーを食べたら、急に寝込んじゃった?』


「・・・」

「・・・」


そんなエネルギアの言葉に、声にならない音を口から漏らしながら、納得したような表情を見せるワルツとルシア。

彼女の料理がどのようなものであるのかを理解しているワルツは無論のことだが、作った本人であるルシア自身にも、身に覚えがあるようだ・・・。


「・・・あのクッキー、料理の実験t・・・ううん。なんでもない」


『えっ?』


「なんでもないよ?エネルギアちゃん。気にしないで?」ニコッ


『う、うん・・・』


そんなキレの悪い言葉を返すエネルギアの脳裏(?)で、


『(もしかして、そんな危険な食べ物を僕に食べさせようとしてた?)』


と思っていたのかどうかについては・・・『不明』ということにしておこう。


「・・・カタリナ?後で、追加で2人のことも、診てもらえる?」


「・・・分かりました」


そんな言葉を苦笑を浮かべながら口にするワルツとカタリナ。

もしかすると彼女たちの自室の冷蔵庫にも・・・何か得体の知れないものが隠されているのかもしれない・・・。




そんな混沌とした冷蔵庫の中身の話が一段落して、カタリナとルシアがユリアとシルビア(要救護者)を医務室へと運んでいった後。

ワルツは、艦橋の床に表示されている荒廃したビクセンの町並みと、今もなおプロティービクセンに対して齧りついているデフテリービクセンの姿に目を向けながら・・・


「・・・さて」


と徐ろに切り出した。


「これからどうしよっか?」


「・・・」

「我にはなんとも・・・」

『僕にも分かんないよ』


と各々に口を開く者達。

ここ(艦橋)に残されたのは、ユキF、飛竜、エネルギアの3人(1人+1匹+1隻?)だが・・・その中に、どうも反応の思わしくない者が1人いた。


「・・・・・・はぁ」


ワルツは溜息を吐くと、カタリナの超回復魔法による治療を受けて5体満足に戻った上、エネルギア艦内の超科学を目の当たりにしているにもかかわらず、船に乗る前からずっと変わらない真っ青な表情を浮かべたまま、『グッタリ』という言葉以外にその様子の表現しようが無かったユキFの隣に腰を降ろした。


「ほら、ユキF。よく見なさい」


そう言って、ユキFがへたり込んでいた場所のすぐ前に床に、手を触れるワルツ。

そして、


ブゥン・・・


触れた場所を中心に床の景色が変わり、ビクセン市外の何も生えていない畑・・・すなわち、かつてルシアが魔力爆弾で吹き飛ばした畑を拡大して表示した。


「・・・あっ・・・」


そこに表示された景色が目に入った瞬間、水を得た魚のように、ユキFの瞳に輝きが戻ってくる。


「・・・すっごく言い難くて今まで言えなかったんだけど・・・ごめんなさい。全人口の7割くらいしか助けられなかったわ」


と言いながら、ユキFに対して頭を下げるワルツ。

そんな彼女の前で、


「・・・・・・」


両手を床につきながら、眼前に表示された無数の人々の姿に、食い入るような視線を向けるユキF。

それから彼女は、恐る恐るといった様子で、ワルツに問いかけた。


「・・・生きてるんでしょうか?」


「そうね・・・。もしも全員死んでいたとして、そんな市民たちを貴女に見せるような真似をしたら・・・多分、私は未来永劫、貴女に呪われ続けるでしょうね・・・」


「えっ・・・じゃぁ・・・!」


「えぇ。もちろん、生きt」


ガバッ


「ちょっ!?」


「よ、よかったぁ・・・!本当に良かったです・・・!」


急に抱きついてきたユキFに、慌てふためくワルツ。

・・・とはいえ、ここまで彼女に対して、市民たちが生きていることを言い出せなかったことについては、自分に非があったので、ワルツはユキFが落ち着くまで、そのまま彼女に抱きつかせたままにするのであった・・・。




「ふむ・・・」


『どうしたのドラゴンさん?何もない空中で何かを抱き込むように腕を動かして・・・』


飛竜の身体に取り付かせていたナノマシンを回収した後で、問いかけるエネルギア。


「人が人を抱くというのは・・・一体、どのような意味を持つのだ?我はドラゴン故、人の文化についてはそれほど明るくないのだ」


『んー、僕も人間じゃないから、ちゃんとしたことは言えないけど・・・嬉しくなったり、悲しくなったりしたら、抱きつきたくなる、って言えばいいかなぁ?』


「そうか・・・要するに、感情が(たか)ぶると、人は人に抱きつきたくなるわけだな?」


『うん、たぶんね。そういえば僕も、ビクトールさんを見ると、なんでか思わず抱きつきたくなる・・・・・・』


・・・そしてどういうわけか、急に黙りこむエネルギア。


「ん?どうしたのだ?」


『・・・ビクトールさんに会いたい・・・。元気にしてるかなぁ・・・』ずーん


・・・どうやらエネルギアは、サウスフォートレスの復興事業に参加している剣士のことを思い出して、禁断症状に襲われてしまったようだ。


「・・・人の心というものは、なんとも形容し難い形をしておるのだな・・・。しかし、我の心は、一体どんな形をしておるのだろうか・・・」


そう言って腕を組みながら、考えこむ飛竜。

人になりたい彼には、人(?)の行動一つ一つが、興味深く見えるらしい。


そんな折、ワルツに抱きついたままだったユキFが、ようやく彼女を開放した。


「す、すみません・・・」


「いや、良いけどさ。別に()を貸すくらいなら・・・」


と言いながら、自分よりも頭一つ分以上、身長の高いユキFに、難しい表情を浮かべるワルツ。


「で、落ち着いたところ、早速で申し訳ないんだけど・・・これからどうする?」


「・・・・・・」ポッ


「・・・えーと、ユキF?」


「え?あ、あぁ。はい」


「・・・大丈夫?」


「はい。問題はありません」


そう言いながらもどういうわけか頬を赤らめるユキF。

彼女は、まだ十分に、心と身体の調子が戻っていないようだ。

・・・ということにしておこう。


それからユキFは、5秒ほど考えた後で、ワルツの問いかけに対して答え始めた。


「・・・まずは市民たちの安全確保を優先させていただければと思います。町の外ではいつ魔物に襲われないとも限りませんし、近くではデフテリービクセンが暴れていますから」


「そう。それじゃぁ私たちは・・・って言いたいところなんだけど、ごめんねユキF。私、あまり人前に出られないのよ。影で戦ったりすることは出来るんだけどね?」


「はい。それは承知しています。なので今は、私とアインスを、地上にいるだろう姉妹たちの所に降ろしていただけませんか?」


「えっ・・・」


・・・その言葉に、ぎょっとした様子で固まるワルツ。


「・・・ごめん。ものすごく言い難いことなんだけど・・・救出した人たちの中に、ユキBからEはいなかったわよ?まさかとは思うけど・・・」


「・・・私に吸収された、と?いいえ。それはありません。確かに幾ばくかの人々を無理矢理に吸収させられたことは間違いなく事実です。ですが、姉妹たちは、その中に含まれておりませんでした」


「・・・え?じゃぁ一体どこに・・・。迷宮の中も、探し溢しがないように、ちゃんと探しまわったはずだし・・・」


「・・・あの、ワルツ様?」


必死なって思い返している様子のワルツに、ユキFは諭すようにして口を開いた。


「彼女たちは私のコピーでもあり、同じ志を持った同志でもあるのです。もしも今回の件で命を落としていたなら・・・それは、市民たちを守るために戦った結果と言えるでしょう。そもそもこの自体を招いてしまったのは、私の弱い心のせいなのです・・・。なので、妹達のことについて、ワルツ様が責任を感じることは何もありません。それに、まだ死んでしまったと決まったわけでもありませんからね」


「・・・申し訳ないけど、その言葉に甘えさせてもらうわ。私がいつまでも悩んでいると、貴女も大変だと思うし・・・」


「ありがとうございます」


本来なら、妹達がいなくなったことで悲しむべき場面のはずなのだが・・・市民たちが無事だったためか、ユキFは残念そうな表情の中にも小さく笑みを浮かべて、そんな礼の言葉を口にした。


(・・・ユキF、前に見た時よりも、ずいぶん元気になってる気がするんだけど・・・なんかあったのかしら?)


もしかして、市民たちを吸収したことで、お腹いっぱいになって満足したんじゃ・・・などと思うワルツ。


それから彼女は、ユキAとFを下ろすために、エネルギアを停泊させる場所を探し始めたのであった・・・。

難しい、1話じゃった・・・。

何が難しいって・・・色々あったのじゃ。

他言できぬ、事情が・・・の。

・・・何となく察せるじゃろ?

・・・まぁ、その通りに書けばいいのじゃがの。


さて。

今日は(も?)、ぱぱっとあとがきを書いてしまうのじゃ。

あ、ちなみに章の名は、『終』ではなく、これまで通り『後後後』にすることにしたのじゃ。


ユキFの態度については・・・お察しなのじゃが、少し書き方を変えてみようと思うのじゃ。

いんだいれくと、なのじゃ。


あと、航行術については特に説明せぬぞ?

航空機等で経済巡航を徹底するために特殊な飛び方があるらしいのじゃが、妾自身が風を感じて飛べるわけではないから、詳しく説明することはできぬのじゃ。

・・・一度は、上昇気流を利用して空を飛ぶグライダーというものに乗ってみたいがのう。


あと、ルシア嬢のクッキーの件じゃが、これについては諸事情により、妾の口から説明することは出来ぬのじゃ。

まぁ、食べた2人が生きておるだけでも行幸j


ブゥン・・・

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