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6後後-30 贄9

見るも無残なロリコンの死体をルシアの魔法で焼却し終わった後。

ワルツは徐ろにカタリナに対して質問した。


「・・・っていうか、なんでカタリナがこんな所にいんの?」


更に細かく言うなら、いつの間に迷宮に乗り込んだのか、という意味も含まれているだろう。

まぁ、言うまでもないことだが、カタリナは、ワルツ達とほぼ同時刻に、彼女たちが突入した迷宮前部とは逆の後部から挟み撃ちするかのような形で、乗り込んだのである。

しかし、お互いの姿は迷宮の身体が影になっていた上、少々タイミングがずれていたために、各々がそれを知るよしは無かったようだ。


カタリナを含めた他の者達にとってワルツ達の突入は、直接その姿を見ずとも、予想が可能だったのだが・・・逆にワルツたちにとっては、特に連絡もなく彼女が突入したカタリナの行動が意外だったようである。

本来なら事前に無線機で連絡を取っておくべきだったのかもしれないが、迷宮の分厚い身体を電波が貫通して届かない以上、それが出来なかったのは仕方のないことであったと言えるだろう。


そんな理由があって、ワルツはカタリナに対して問いかけたわけだが・・・カタリナは、唇に指を当てて少し考えるような素振りを見せてから、徐ろにワルツの問に対して答え始めた。


「・・・先ほどの施設で、天使化したと思わしき魔物たちを見かけまして、もしも迷宮の中がそのような魔物だらけになっていたらワルツさんたちが大変かと思い乗り込んだ次第です」


「乗り込んだって・・・エネルギアから?」


「はい。彼女に迷宮に向かって直接体当りしてもらい、その際に出来た傷から中に入りました」


「あぁ、なるほどね。でもさ・・・どうやって迷宮の体内を進んで、ここまで来たの?それに、魔力のドレインとかあったわけでしょ?」


「魔力のドレインについては結界魔法でなんとかしました」


「・・・万能すぎでしょ・・・貴女の結界魔法・・・」


「あと、ここまでどうやって来たのか、ですが・・・」


そう言うとカタリナは、近くにあった迷宮の核の壁に手を当てた。

すると・・・


サラァ・・・


・・・砂のように、あるいは液体のように溶けていく迷宮の壁。


「このように、迷宮の身体を構成する細胞に対してアポトーシス《細胞死》を働きかけて、普通にトンネルを作って歩いてきましたよ?回復魔法なんですけど、死んでしまうとか不思議ですよね・・・」


「・・・それ、多分、『普通』って言わないと思う・・・」


そう言ってから迷宮の核の床に視線を向けるワルツ。

そこに不自然な様子で大きく穴が開いていたのは・・・カタリナが、アポトーシスを駆使してトンネルを作った際、地下の空洞に向かって床が陥没してしまったため、ということらしい。


(あれ・・・?たしか、あの穴の中心には、カペラとかいう奴が埋まってた気がしたけど・・・)


どういうわけか(おびただ)しい血液が付着した上、今もなお獲物を待ち構えているかのようにポッカリと暗い口を開けている・・・そんな床の穴を見て、ワルツがそこで何が起ったのかを想像していると・・・


「あ、そういれば・・・」


カタリナが何かを思い出したかのようにして、そんな言葉を口にした。


「アル○○(ピー)ルさんがロリコンに取り憑いていましたよ」


「えっ?・・・あー、こっちにも来てたんだ、アル○○(ピー)ル」


「・・・お姉ちゃんたち・・・なんか、シュール・・・」


2人のやり取りにそんな言葉を呟くルシア。

それから彼女が、『ピー』の部分を練習するように繰り返し口ずさんでいたのは・・・まぁ、そう言う気分だったのだろう。


「こっちにも来てた・・・とは?」


「いやね?ユリアたちのところにも、来てたらしいのよ。彼女」


「そうだったんですか・・・」


「で、なんか言ってた?」


「えっとですね・・・」


するとカタリナは・・・思い出したかのようにクスッと笑みを浮かべながら、口を開いた。


「思わせぶりなことを呟いたら、慌てて攻撃してきましたね」


「一体、言ったのよ・・・」


「ワルツ様は()()()()()()だから渡さない、って言っただけですよ?」


「・・・いやいや、私は誰かの所有物じゃないんだけど・・・。っていうか、それだけで、普通、慌てるかしら?」


「えっと、その他にも、『昔も言いましたよね?』って言葉を追加して言いましたね」


「・・・うん、カタリナ。ビクセンとか言う元魔王に似てるらしい貴女がそれを言うと、洒落にならないわよ?」


「・・・だからこそ、ですよ?」


そう言ってカタリナは、ワルツに背を向けると、白衣の裾から見え隠れしていた尻尾を嬉しそうに振りながら、ワルツの後ろで浮かんでいた意識のないユリアたちの所へと歩いて行った。


「・・・・・・まぁいいけどね」


・・・その後で、ワルツは何ともやりきれない視線を、アルタイルが取り憑いていただろうロリコンの亡骸があった場所へと向けたのだった。


と、そんなタイミングで、


ゴゴゴゴゴ・・・


突如として、迷宮の核の壁が歪み始める。

迷宮を操作していたカペラがいなくなったことで暴走が始まったのか、それとも迷宮の核が大きく傷ついたことで崩壊が始まったのか・・・。

何れにしても、碌でもないことが始まったことに違いはなさそうだった。


「それじゃ、こういう厄介なものには、さっさと消し飛んでもらいましょうか?」


「うん!」


そしてワルツとルシアが、迷宮の核の天井へと手を掲げた・・・その時である。


「あの、ワルツ様とルシア様。お願いがございます」


右腕と両足を失いつつも、ここまで意識を失わずにルシアに浮かべられていたユキFが、ワルツたちの行動を引き止めるようにして口を開いたのである。


「・・・もしよろしければ、迷宮をこのままにしておいていただけませんでしょうか?厚かましいお願いとは存じておりますが、ビクセンの街において迷宮の存在は特別な意味を持つのです。・・・どうかお聞き取り下さい」


そんなユキFの言葉に、一旦は上げた腕を静かに下ろすワルツとルシア。


「・・・別に私たちは一向に構わないけど、後で同じようなことが起こって、町や国が滅ぼされそうになっても、その時も助けるとは限らないわよ?(そもそも私はいないかも知れなし・・・)」


「はい。構いません。その時は・・・私が戦います」


そう言いながら、残った左手で、刃の部分が無くなってしまった黒刀を鎧を纏った胸に当てるユキF。


「・・・まぁ、そんなことになったら、ユキA・・・アインスにでも頼むことね。そうすれば、無駄に市民の犠牲を払うこともないだろうしね」


「・・・ありがとうございます!」


そしてユキFは、宙に浮いたまま目を閉じて礼を口にした・・・。

・・・その瞬間である。


ドゴォォォォォン!!


迷宮を一際大きく揺るがす振動が、彼女たちにも伝わってきたのだ。


「・・・じゃ、脱出しましょうか」


「一体、何が起こってるんでしょうか・・・」


地面に直接立っていたが故に、バランスを崩しそうになったカタリナが、ワルツの重力制御で浮かべられながらそんな疑問を口にする。


「そうね。外に出れば分かるんじゃない?迷宮の中じゃ、流石に私にも何が起こっているかは分からないわ。単にエネルギアが攻撃をしてるだけかもしれないし」


「そうですね・・・。ところで、避難するのは良いとして、市民たちは大丈夫なのですか?」


そんなカタリナの問いかけに・・・ワルツの表情は一気に曇る。


「・・・問題はそれよねぇ・・・」


・・・まさかこの国と街を育ててきたユキFが目の前にいるというのに、市民の7割しか助けられなかった、とは口にできなかったワルツ。

それと共に、ユキFに対して、『一体、何人、人を喰べたのか』とも聞くことができなかったようである。


「・・・今助けにいけば、まだ間に合うかしら?」


「・・・何か複雑な事情でも?」


「うん・・・ちょっとね・・・(こんな展開になるなら、カタリナのことを放置して、市民たちを探せばよかったわ・・・。まさかこんなに強くなってるとは思わなかったし・・・)」


「・・・何か?」


「いいえ。なんでもないわよ」


・・・そしてワルツたちは、結局、すぐに脱出することを取りやめて、一旦は見捨てた市民たちを救うべく、来た道を戻ることにしたのである。




「・・・もういないわよね?」


迷宮の中の内臓という内臓に、超高速で片っ端から穴を開け、生き残っている市民たちがいないかどうかを確認して回ったワルツたち。

しかし結果として、他に残されていた市民たちを見つけることが出来なかったのは・・・既に迷宮に取り込まれてしまったからなのか、あるいはユキFによって喰べられてしまったからなのか・・・。


助け(こぼ)しがないように、確かめるように周囲に視線を向けながらそう口にするワルツに対して、カタリナが答える。


「はい。もういないかと思います。・・・ですが不幸中の幸いでしたね。大腸に何も排s」


「おっと、カタリナ。それ以上は女子が簡単に人前で口にしてはいけない領域よ?」


「・・・そうですか」


と、そんなワルツ指摘に、何故かシュンとした表情を見せるカタリナ。


・・・そんなわけで、彼女たちが今いるのは、人の臓器に換算すると、大腸か、あるいは直腸に分類される場所であった。


「さてと。というわけだから、ユキF?残りの人々は諦めてね?」


「えっ・・・」


突然、市民を諦めろ、と言われたことに対して、真っ青な顔を見せるユキF。

事前に7割の市民たちを救出したことをワルツもルシアも説明していないので、彼女の視点からすると、救出した市民はゼロ。

・・・恐らく彼女の中では、その真っ青な顔では表現することの出来ないほどの、計り知れないショックに襲われているに違いない・・・。


「それじゃぁ、行くわよ」


「えっ?!ちょっと待って、お姉ちゃん!一体どこへ・・・」


「そりゃもちろん・・・外よ?」


「いや、えっと・・・」


平然と『外に出る』と言い放つワルツに、何とも表現しがたい表情を浮かべるルシア。

ここが腸の出入り口に近い場所だとするなら、一体どこから出ると言うのか・・・・・・まぁ、あえて言わないが。


恐らく、そのことについて懸念を持っているだろうルシアに、


「もちろん、真横に向かって、穴を開けてね?」


ワルツは苦笑を浮かべながらそう口にした。


「・・・お姉ちゃん・・・もしかして、いじわるしてた?」


「いえ。そんなことはないわよ?ほら、さっさとこんな場所からは離れて、外に出ましょ?」


「・・・うん・・・。分かった・・・」


ルシアは納得できなさそうな表情を浮かべていたが・・・いつまでも迷宮の中(大腸)にはいたくなかったことについては、同意だったようである。


「じゃぁ、行くわよ?」


ワルツがそう口にした次の瞬間、


ドゴォォォ!!


と、迷宮の壁に大きな穴が穿って、外の景色が見えてきた。

今の時間はもう深夜のはずなので、大きな月も沈んで、外は既に真っ暗なはずだったが・・・。

しかし、外が異様に明るいところを見ると、どうやらルシアが宙に浮かべた真夜中の太陽は、今もなお、煌々と輝いているらしい。


「さ、忘れ物はないわね?」


「うん」

「ありません」

「あの・・・市民たちは?」


・・・そしてワルツたちが、彼女の開けた迷宮の穴から外へと飛び出そうとした・・・そんな時である。


ドゴォォォン・・・


そんな低い轟音が鳴り響いて、突然景色が真っ暗になってしまったのだ。


『・・・?』


その光景に、思わず怪訝な表情を浮かべる一同。


「穴が塞がった?・・・やっぱり、正当な出口から出ろってことかしら?」


「えっ?!」


「・・・いや、もちろん冗談よ。ホント、迷宮って不思議よね・・・」


そう呟いてから、再び別の方向に向かって穴を開けるワルツ。

どうやら今度は、勝手に穴が塞がってしまうようなことは無いようだ。




「ふぅ・・・久しぶりの外の空気。やっぱり、お空の空気が一番美味しいね?お姉ちゃん」


外に出られたことが嬉しかったのか、ルシアは尻尾をブンブンと振りながら、ワルツに言葉を投げかけた。


しかし・・・


「・・・うん・・・」


どういうわけか、ワルツは思いつめた様子で、元気が無かった。


「・・・?どうしたのお姉ちゃん?」


「・・・色々あるのよ・・・面倒なことが、ね・・・」


「え・・・う、うん・・・」


そんな姉の様子にルシアは、『まさか、本当に《正しい出口》から出られなかったことが残念だったの?』と思っていたり、思っていなかったり・・・。


・・・だが、そうではなかったらしい。

そんなことを考えていたルシアの・・・そのさらにその後ろへと向かって、ワルツは険しい表情で視線を向けながら口を開いた。


「・・・後ろを振り向いて御覧なさい。・・・見たところで面倒なことしかないけどね」


「え?後ろ?」


そう言って、出てきた迷宮のほうを振り向くルシア。

するとそこには・・・


「えっ・・・どうして・・・」


「・・・こうなったのかしらね?」


・・・人型からスライム型へと変わりかけていたプロティービクセンの身体(臀部(でんぶ)?)に、全身体液まみれ(血まみれ?)の状態のデフテリービクセンが噛み付いていたのである・・・。

あー、ついに30話に到達してしまったのじゃ・・・。

要するに、1ヶ月は同じ話を書き続けておることになるのう・・・。

もうそろそろ次の話に移りたいのじゃが、今日の話にあった通り、まだ迷宮たちの話は終わっておらぬのじゃ。


さて。

あとがきじゃ。

補足なのじゃ。

・・・なんか昨日寝るときに語っておらぬことがあった・・・と考えておったんじゃが、思い出せぬのじゃ。

なんじゃったかのう・・・。

まぁ、思い出した時に書くのじゃ。


それで・・・まぁ、今日の話は、総集編みたいなものじゃったから、新しいことは無いと思うのじゃ。

カタリナ殿の言動については・・・まぁ、お察しじゃのう。


他は・・・あれかのう。

残された市民たちがおらんかった話。

これは・・・いや、何でもないのじゃ。

本編の中で話すのじゃ。

・・・忘れなければ、の?


うむ。

とりあえず今日はこんなところなのじゃ。

というわけで、明日からは『6終章』が始まるのじゃ。


多分の。

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