6後後-28 贄7
ぐろちゅーこーしょん!
だーくこーしょん!
「ほら。あなたと、そのお友達です。もちろん、今も生きてますよ?」
「・・・」
黄色い液体に満たされたシリンダーと、そしてその中に浮かぶロリコンの首とカペラの首。
そんな得体の知れない物体を手にしたカタリナに対して、ロリコンは一瞬は取り乱したものの、すぐに落ち着きを取り戻して銃を構えた。
「・・・ふぅ。随分と生々しい代物だが、魔神の手下が使う新手の精神攻撃か?そんなもん、俺には効かないぜ。精神攻撃なんぞ、このバングルさえあれば、無効化できるからな」
そう言ったロリコンの腕には、不自然に豪華な装飾が張り巡らされた金色のバングルが輝いていた。
「・・・そうですか。意図したつもりはありませんでしたが、これは精神攻撃の一種だったんですね・・・」
するとカタリナは、考えこむような素振りを見せた後、何か閃いた様子でカペラの首の入ったシリンダーをバッグの中にしまい込んで、ロリコンの首の入ったシリンダーだけを本人によく見えるような位置まで持ち上げてから・・・シリンダーに対して微弱な雷魔法を行使した。
その瞬間、自分の顔と瓜二つな首に起った光景に、再び青い顔を浮かべ、脂汗を掻きながら、同時に苦悶の表情を浮かべるロリコン。
彼が見ていた生首に、一体、何が起ったというのか。
・・・例えば、生きているカエルを解剖して、足に電流を流したらどうなるか・・・。
それを人の生首でやったなら、顔の筋肉が一斉に緊張して・・・いや、これ以上は説明を省略しよう。
そんな自分の生首の姿に、再度取り乱したロリコンに対して、カタリナは興味深げに口を開いた。
「確かに一部の魔法の中には、一種のレム睡眠を誘発して簡易的な幻覚を引き起こすことで、相手の精神をコントロールするものもありますが・・・・・・なるほど。貴方の様子から察するに、ミラーニューロンを媒介した認知の中に生じる共感もまた、精神攻撃、と言えるのかもしれませんね。しかしながら、そのご自慢のバングルでは、今の現象を無効化できていないようですが・・・もしかして、偽物を掴まされたされたのでしょうか?」
と、一部専門用語を使って問いかけるカタリナ。
・・・なお念のため意訳すると、『そのバングル、効果無いじゃないですか?』である。
そんな彼女の言葉を受けてから・・・
「・・・っ!」
パン!!
パンパンパン!!
・・・あたかも銃を持っていたことを今になって思い出したかのように、カタリナに対して発砲するロリコン。
そんな彼から放たれた銃弾は・・・以前カタリナに対して放たれた時のように、見えない壁に当たって止まってしまった。
どうやら、この部屋に現れた際に、彼女が腕を吹き飛ばされてしまったのは、油断していたから、ということらしい(?)。
「く、くそっ!化物め!」
自分に対して眼もくれることなく、自身の首の入ったシリンダーを鞄の中に押し込んでいる様子のカタリナに対して、ロリコンはそんなことを呟いた。
するとカタリナは、
「・・・一度言われてみたかったんです、その言葉。ワルツさんがよく言われているらしいのですが、一体どんな気分がするのか、想像だけでは分からなかったんですよ」
それからカタリナは、バッグの蓋としっかりと締めると、無手のままでロリコンに対して振り向き、その言葉に対する感想を口にした。
「・・・最悪の気分ですね。一体、私の何を知って、そんな言葉を口にしているのでしょうか?」
・・・そして、目を細めたカタリナと、そんな彼女に歯を食いしばりながら苦々しい表情を浮かべていたロリコンの間で・・・戦いが始まった。
迷宮の核の中央部に開いた大きな穴の縁で、グルグルと回るようにして追いかけ、そして逃げ続ける2人。
追っているのは、手に結界魔法を纏って手術用のメスのように使うカタリナ。
そして逃げているのは、魔法が使えない以上、銃での長距離戦闘しかできないロリコンである。
・・・まぁ、魔法が使えても長距離の戦闘しか出来ないのだが・・・。
パンパンパン!!
走りながらも連続的かつ正確な発砲を繰り返しながら、ロリコンは口を開く。
「くそっ!どうして魔法が使えない?!」
もしも空間制御魔法が使えたなら、気の狂った化け物のような彼女と戦うことなく、外へと逃げ遂せることが出来るというのに・・・それができない。
そんな当然の疑問が、彼の頭の中で渦巻いていた。
それに対してカタリナは、彼を追いかけながら、特に隠す様子も無く説明を始める。
「・・・魔力というのは、一種の熱のようなものと聞いています。術者の体内にある高温の熱が、外の冷たい空間に出る際、その温度差が魔法となって発生する。これをそのまま熱の現象に置き換えて考えると、身体の内側と外側とで同じ温度なら、そこには温度差は無いはずなので魔法は生じない、ということになりますよね?これはダンジョンや迷宮によくある、魔法使用不可領域で起こっている現象です。知っていますか?」
「しらねぇよ!」
「・・・そうですか・・・」
せっかく分かりやすく説明したはずなのに、即座に、知らない、と言われて少々傷ついたような表情を見せるカタリナ。
しかし彼女に、繰り返して細かく説明する気は無かったので、そのまま説明を続けた。
・・・どうやらカタリナは、論理的な説明をすることが好きらしい。
「もしもルシアちゃんのように莫大な魔力があって、なおかつ魔力を通しにくい閉鎖空間というなら、そのような魔法の使い方もできるかもしれませんが、生憎、私にはそれほどの魔力はありません。・・・なので考えました。実は大変だったんですよ?思いつくの。・・・迷宮の体内を歩いてここまで来る間で、襲ってきた魔物を相手に実験して仮説が正しいかどうかを実証したんですから」
「・・・」
先ほどカタリナが口にした話は、今ここで魔法が使えないことに対する説明じゃなかったのか、と思わなくもないロリコン。
しかし、どうやら違うらしい。
ともあれ、逃げ続けなくてはならない現状の彼には、そのことをわざわざ指摘する余裕は無かったようだ。
「・・・『断熱』と言う言葉を知っていますか?周囲に熱が伝わらないように伝熱の経路を遮断することを指していう言葉です。熱を媒介する物質が存在しない真空などがそれに当たりますが、そういった空間では放射現象などを除いて、理論上、温度勾配が存在しないことになります。つまり、同様に魔力的な真空を作り出せれば、魔法の行使はできなくなる、ということですね。・・・でも、現状の魔法工学では、空間中に漂う魔力を排除できないので、魔力的な断熱空間を作り出すというのは、現実的に極めて困難です。そんな魔力を物理的な現象に例えるなら・・・空間中を漂う自由電子のようなもの、と例えることが出来るでしょうか」
「・・・おまっ・・・なんで、そんなことを知って・・・」
「・・・まだ魔法が使えないことに対する説明は終わってませんよ?女性に対して、立て続けにいくつも重ねて質問するというのは、男性として如何なものかと。まぁ、そのせいでロリコンをやっておられるのかもしれませんが・・・。・・・では、説明を続けますね」
と、説明を続けようとするカタリナ。
ロリコンも然ることながら、彼女の説明好きもまた、カタリナに異性の知り合いが殆どいない原因の一つになっているのかもしれない・・・。
「・・・と思ったんですけど、いつまでも追い続けながら説明していると、私も疲れてくるので、そろそろ省略して終えようと思います」
するとカタリナは、急に立ち止まってロリコンに対して背を向けると・・・突然、壁を蹴った。
・・・いや、蹴ったのではなく、靴の裏を密着するように押し付けて・・・そして、壁を歩き始めたのだ。
「で、最後の説明ですね」
迷宮の核の天井を逆さまになって歩きながら、そんなことを口にするカタリナ。
そんな彼女の靴から、何やら小さな触手のようなものが大量に生えて、天井に食い込んでいるのは・・・・・・恐らく気のせいだろう。
「んな?!」
その有りえない光景と、自分までの道のりを省略してやってくるカタリナに、唖然とするロリコン。
そんな彼に対して・・・カタリナは口を開いた。
「それで、魔法が使えない理由なのですけれど・・・この部屋の中の魔力の動きを、結界魔法を使って固定させていただきました。仮想的な『断熱』と言ったところでしょうか・・・っ!」
そう言った後、重力を感じさせない様子で、天井からロリコンに対して一気に飛ぶカタリナ。
もちろん、そんな彼女に対して、蜂の巣を作らんとする勢いでロリコンは発砲するものの・・・全く効果が無かったことについては言わずもがなだろう。
そして、彼女の手刀が、遂にロリコンの頭上へと降り注ごうとしていた・・・そんな時だった。
『あらあら。ダメですよー?私の勇者様を、断りもなく傷つけようとしたら』
そんな声が聞こえたかと思うと、
ドゴォォォォン!!
「かはっ・・・!?」
放物線を描いて跳ねていたはずのカタリナの軌道が、急激な勢いで下方向へと変わって、彼女は胸から迷宮の核の床へと落下してしまったのだ。
・・・それだけではない。
『そんな悪い狐には、お仕置きが必要ですね』
そんなどこから聞こえてくるかも分からない女性の声が聞こえたかと覆うと、
ドゴゴゴォォォン!!
・・・地面に伏せていたカタリナの全身を、これまたどこからともなく現れた直径30cmほどの黒い杭が3本ほど彼女の背中を貫いて・・・首から下を完全に肉塊へと変えてしまったのだ。
「・・・うわぁ・・・女神様。もうすこしやり方はあったんじゃ・・・。まじで、グロ注モノなんですけど・・・」
『何をおっしゃいます。相手は魔神の手下。容赦は一切必要ありません!いつもそう言っているではないですか?』
「それは分かりますが・・・こう、単に首を刎ねるとか、心臓を挿すとか、肉塊にせずとも色々やり方はありましたよね?」
『え?ちゃんと首を跳ねてますし、心臓にも杭が刺さっているはずですよ?』
「・・・あ、はい」
そんな眼には見えない女神(?)と、同じ口で話し合うロリコン。
それから彼らは、術者が死んだことで魔法が使えるようなったはずのその場から、魔神たちが来る前に、空間制御魔法で立ち去ろうとした。
・・・そのつもりだった。
「・・・あれ?」
『・・・どうしたのですか?』
「魔法がまだ使えない・・・」
『あ・い・う・え・お・あ・お。・・・ちゃんと毎朝、滑舌の練習はしているんでしょうね?』
「いや、それはもち・・・」
『・・・ちゃんと毎朝、練習はしているんでしょうね?』
「・・・申し訳ございません。してませんでした」
『はぁ・・・。まぁいいです。口を借りますよ?ーーーー※×△$&○@・・・』
と、女神(?)が流暢な発音で詠唱するが・・・
『・・・出来ませんね。勇者様、魔力が尽きたのでは?』
どうやら彼女(?)にも、空間制御魔法は行使出来ないようであった。
「いや、さっき魔力回復薬を飲んだから、そんなことは・・・・・・は?」
・・・そして、目の前の異変に気づくロリコン。
眼を共有している(?)ためなのか、女神もソレに気づいたようで・・・
『あ、あり得ない・・・』
そんな言葉を漏らした。
彼らの前で一体何が起こっていたのか。
それは・・・
ズバンッ!!
ドシャンッ!!
・・・5体がバラバラに千切れているはずなのに、カタリナの腕が勝手に動いて、自身に刺さった黒い杭を切断していたり、
グチャッ・・・
・・・真っ黒になったり、真っ赤になったりしながら、バラバラになったり、くっついたりを繰り返していたからである。
そしてそれが最後には一つになって・・・
「・・・・・・修復完了」
・・・服にすら傷の残っていない、無傷のカタリナが立ち上がってきたのだ。
カタリナが跳ねておるはずなのに、女神(?)のセリフが長い?
あれじゃ。
漫画でよくあるパターンじゃ。
多分、早口で喋っておるか、時間をゆっくりと流しておるんじゃろ?
原理はよく分からぬがの。
でじゃ。
今日書きたかったのは・・・2点なのじゃ。
まず1点目。
カタリナの強さ。
・・・まぁ、これは次回に持越しじゃがのう。
で、2点目。
化け物という言葉についてじゃ。
よく、『化け物』と言われて褒め文句じゃと口にする者がおるようじゃが・・・少なくとも、妾やカタリナにとっては、嬉しい言葉ではないのじゃ。
『化け物』それぞれで捉え方は異なるから、一概には良し悪しを決めることは出来ぬがのう。
・・・べ、べつに、天邪鬼なわけじゃ無いんだからね、なのじゃ!
まぁ、この辺は、妾の書く物語の登場人物の大半に当てはまるのじゃ。
・・・大半に、のう。
・・・全員、ではないのじゃ。
で、補足なのじゃ。
えーと・・・物理現象としての熱・・・。
・・・あれじゃ。
念の為に言っておくが、これは単に例えでしか無いのじゃ。
・・・前にコルが『魔力波は電波のように伝わりますよ〜』という話をしておったが、熱のようにマクロな視点で見た時に遅い反応しかできぬような物理現象で、電波のような光速で伝わる現象を説明するのは、難しいからのう。
その辺、遠赤外用のイメージングセンサであるMEMSのサーモパイルを作っておる者達は、相当苦労しておるんじゃろうのう・・・。
・・・一体何を言っておるのじゃのう、妾は・・・。
つまりじゃ。
電子の運動に例えて説明すると、誰にも分かってもらえぬから、身近な熱の現象で例えた、ということなのじゃ。
・・・全然身近ではないがのう。
でじゃ。
あとはミラーニューロンかのう。
この辺は、ggrなのじゃ。
妾がここに書き出すと、本文より長くなってしまうのじゃ。
以下略なのじゃ!
・・・というわけで、今日はこの辺でお開きなのじゃ。




