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6後後-24 贄3

「(それじゃぁ、ワルツ様の言った通りに行動しましょう!)」


ワルツの姿が透明になって消えた後、ユリアは近くにいたルシアとシルビアに対して声をかけた。


「(私が首輪を狙えばいいんだよね?)」


「(そうそう。私には難しいと思うから、ルシアちゃん、お願いね?)」


「(任せて!)」


と、小声でやり取りするユリアとルシア。

一方、シルビアは・・・


「(・・・私は何をすれば・・・)」


自分にできることは何もないのに・・・、と思いながら2人に対して問いかけた。


・・・いや、正確には何も出来ないなどとは思っていなかった。

彼女だからこそ出来ることがあったのである。

・・・ただし、あまり気の進まない()()()だったが・・・。


「(それはもちろん・・・アレでしょ?)」

「(うん、そうだよね。アレしか無いよね?)」


「(・・・はい。囮をやってきます・・・)」


・・・そしてシルビアは、ユキFの攻撃から仲間たちを守るために、狭い天井に向かって飛び立ったのである・・・。


ところで。

こんなやり取りをしている間、ユキFからの魔法攻撃は、どうして彼女たちに対して襲いかかって来ることはなかったのか。

・・・もちろん、作戦会議の間の数分間だけ待っててくれているわけではなかった。

魔法を放つのに、チャージする必要も弾を込める必要も無ければ、どこぞの悪役よろしく、相手が無防備になる変身タイムだけ待っててくれていたわけでもない。

こうして話し合っている間にも、無数の上級氷魔法が、容赦なく3人に対して襲いかかってきていたのだ。


それでも彼女たちが、普段通りの喋り方で、焦ることもなく、会議を続けていられたのは・・・


グシャッ・・・


・・・ユリアが話の片手間に幻影魔法を操作して、ユキFの氷魔法を事も無げに握り潰していたからであった。


「(・・・ねぇ、ユリアお姉ちゃん・・・)」


「(どうしたんですか?ルシアちゃん)」


「(・・・私たち、いらなくない?)」


「(いえ、そんなことはないですよ?こう見えても一杯一杯なんですから)」


「(・・・全然そうは見えないんだけど・・・)」


会議が終わっても、小声で話す2人。

なお、本当に今のユリアが一杯一杯なのかは・・・不明である。

恐らく本人も、自分の力の天井がどこにあるのか分かっていないのではないだろうか・・・。

あるいは、自分が強いわけではなく、ユキFが手を抜いてくれている・・・と、思い込んでいるのかもしれない。


ワルツの下で働くようになってから、これまでに本気で自分の能力を使って戦うようなことが無かったことを考えると、ユリアのそんな謙遜的な態度も仕方の無いことと言えるだろう。

・・・ただ、それは、仲間たち全員に対して言えることなのだが・・・。


さて。

ユキFの面前に向かって飛び込んでいったシルビア。

・・・彼女もまた、ユリアとは別の方向に異常な強さを持っていた。


ドゴォォォォォン!!


「(・・・ねぇ、ユリアお姉ちゃん・・・)」


「(どうしたんですか?ルシアちゃん)」


「(・・・やっぱり私たち、いらなくない?)」


「(いえ、さっきも言いましたけど、そんなことはないですよ?後輩ちゃんもあれで一杯一杯なんですから・・・多分)」


「(・・・全然そうは見えない・・・っていうか、痛くないのかなぁ?あれ・・・)」


そんなルシアたちの視線の先では・・・


ドゴォォォォォン!!


「ぶはっ!冷たっ!」


・・・などと言いつつ、ユキFの攻撃を直撃しても全くダメージを負った様子の無いシルビアが、計画通り(?)に囮としての役割を果たしていたのである。


と言うより、そもそもユキFの氷魔法は、シルビアの身体には当たっていなかった。

彼女の体に当たる直前で、霧散して消え去っていたのである。

どうやら、天使の魔法を無効化する能力が、そのまま彼女の身体に宿っているらしい。


「(あの大っきなユキちゃん・・・魔王だよね?こんなに弱くて良いのなかなぁ・・・)」


「(・・・ダメですよルシアちゃん。侮ってはいけませんよ?ヌル(ユキF)様は、手加減しておられるのかもしれません。あるいは、まだ本調子ではないのかもしれませんしね)」


「(んー、本当にそうなのかなぁ・・・)」


そう口にしながら、疑いの視線をユキFへと向けるルシア。


するとそのタイミングで・・・・・・シルビアに気を取られていたユキFが、攻撃の機会を伺っていたルシアたちに背を向けた。


「(チャンス・・・?)」


「(・・・っ!)」


その瞬間、ユリアは行動に出る。


ユキFの後ろに巨大な幻影の腕を作り出すと、


ブゥン!!


・・・まるでハエを叩きのめすかのように、その腕を、彼女に向かって振りかざしたのだ。

次の瞬間・・・


バチュン!!

ドゴォォォォン!!


一瞬、水っぽい音がして、呆気無く、そして勢い良く、幻影で作られた腕ごと迷宮の床にめり込むユキF。


『・・・・・・』


そんな光景に、3人は思わず言葉を失った・・・。


「・・・すみません。つい勢い余って・・・」


『・・・・・・』


幻影の手のひらに、何か嫌な感触を感じながら、そんなことを口にするユリア。

そして、そんな彼女に対して、思わず眉を顰めてしまう仲間たち。


それからややあって、ユリアは徐ろに口を開いた。


「・・・手を退けますけど・・・覚悟は良いですか?」


『・・・・・・』ごくり


2人から明確な回答はなかったが・・・ユリアには手のひらから伝わってくる、その生暖かい感触を、いつまでもそのままにしておくことが出来なかったようで・・・


スッ・・・


と、幻影の手のひらを持ち上げた。


次の瞬間、


ドゴォォォォ!!


手のひらと床の隙間から、強大な氷魔法が3人に向かって襲いかかろうとしてきた。

ユキFの首につけられたリングの効果のためか、それとも彼女自身の魔王としての能力のためか・・・ユキFはまだ、健在だったようである。


ベチャッ・・・


「・・・よかったぁ・・・まだ生きてました」


『・・・・・・』


再び、その重そうな手を地面に下ろして、魔法ごとユキFを押しつぶすユリア。

その際、幻影の手のひらの下で、ユキFの氷魔法が弾けたようだが・・・まぁ、気のせいだろう。


「ねぇ、ユリアお姉ちゃん」

「先輩・・・」


胸を撫で下ろしながら安堵するユリアに対して、やりきれ無さそうな視線を向けながら、ほぼ同時にそんな言葉を口にするルシアとシルビア。

それから彼女たちは、今度こそ完全に同時に、口を開いた。


『・・・私たち、いらなくない(ですか)?』


「・・・・・・」


そんな2人の指摘に、どう答えるか、一瞬だけ考えてしまうユリア。

それから彼女は、


「・・・ふっ・・・」


そんな溜息とも苦笑とも取れない息を吐くと、


「・・・私には、首輪は壊せないから、ルシアちゃんが必要なんです」


そう言って微笑みを浮かべたのである。


「・・・あ、そうだったね。じゃぁ、首輪を壊すから、大っきなユキちゃんの首の部分だけ幻影の手のひらに穴を開けてくれる?ユリアお姉ちゃん」


「はい。もちろんです」


「・・・あれ、私のことは?」


こうして、3人には、暴走状態にあったユキFを難なく取り押さえることに成功したのである・・・。




さて。

少しだけ時間は遡って、3人とユキFの戦闘(?)が始まる前まで話を戻そう。

そして今回の視点は・・・一人だけ別行動を始めたワルツからのものである。


彼女はユリアたちと別れた後、男たちの近くへと透明になって移動しようとして、


(・・・どうしたら良いかしら・・・?)


・・・それが出来ずに頭を抱えていた。


(見た目は何もないように見えるのに、思いっきり空間が歪んでるせいで近づけないのよね・・・)


というワルツの心の言葉通り、彼女は、男たちを捕縛するために真っ直ぐに近付こうとして・・・しかし、いつの間にか後ろを向いている、という不可解な現象に(さいな)まれていたのである。

恐らく彼らの周りには、空間制御魔法によって作られた、見えない迷路のようなものが存在しているのだろう。


ワルツがそんな魔法を前に、どう対処すべきかと考えあぐねていると、


ドゴォォォォン!!


後ろの方から大きな音と振動が響いてきた。

どうやら、ユキFが、幻影魔法の手のひらによって押しつぶされてしまったらしい。


(・・・生きてるかしら・・・ユキF・・・)


機動装甲の眼から見える光景にそんなことを考えながら、同時に男たちへの対処手段についても考えるワルツ。

すると、


「・・・頃合いってやつか?」


「・・・・・・分かった」


どこかで見たことのある男と、半身が迷宮に埋まった裸の男が、そんな意味深げなこと口にした。


「それにしても、随分強い奴らだな・・・。流石、魔神の(しもべ)ってところだな」


「・・・・・・そんなことより」


「あぁ。分かってる。魔神が消えたって話だろ?っていうか、多分、今の俺達の会話も近くで聞かれてるんだろうなぁ?」


そう言いながら、どこかで見たことのある男が、何が面白かったのか、ニヤニヤと嬉しそうな笑みを浮かべた。


「・・・・・・全く、くだらんが・・・まぁいい。・・・始めてくれ」


裸の男がそんなことを口にした瞬間だった。


ゴゴゴゴゴ・・・


そんな低い音が周囲を包み込んだかと思うと、


「きゃっ?!」

「んなっ?!」

「ふべっ?!」


・・・宙に浮いていたユリアたち3人が、床へと突っ伏してしまったのだ。


「ちょっ・・・」


その光景に、思わずそんな声を漏らしてしまうワルツ。

男たちに自分の声が聞こえてしまう、などということはなかったが・・・もしも聞こえていたとしても、それを気にするどころではない出来事が起きつつあった。


ユリアが地面に伏したせいで、幻影魔法が消え・・・


ユラリ・・・


・・・そしてユキFが開放されて立ち上がったのである。


「・・・・・・ドレインを始める」


短く、そんなことを呟く裸の男。

どうやら床に墜ちてしまったユリアたち・・・中でも特に、膨大な魔力を持ったルシアから、魔力を引きぬくつもりらしい。


(やばっ・・・!)


そんな状況を前にして・・・しかしワルツは幾つかの事情から、彼女たちを助けるための行動に出ることは無かった。


一つは既に男たちの近くへと接近していたこと。

・・・とはいえ、現状を鑑みるなら、この点はそれほど大きな問題とは言えなかった。

再び振り出しに戻ってしまうかもしれないが、ルシアたちの救出に向かえばいいだけのことなのだから。


あるいは、ルシア達と同じく地面に降り立っているユキFを救うべきかどうかを悩んだこともその理由の一つと言えるだろう。

放っておけば、恐らく彼女も、ドレインとやらの餌食になってしまうはずなのだから。

ただし、そのまま放置しておけば弱体化して、倒しやすくなることも否定は出来なかったが。


その2つは・・・結局の所、ワルツが動けない、あるいは動かなくてもいい決定的な理由には成り得なかった。

では、一体何故、彼女は動かなかったのか。

何よりもワルツが動かなくてもいい別の理由が・・・


ドゴォォォォ!!


・・・他にあったからである。


「・・・・・・っ!」


ルシアが(すんで)のところで、地面には墜ちてはいなかったのである。

その上、


ドゴォォォォ!!


・・・地面に引き付けられるように墜ちるなら、それに応じた出力の風魔法を吹き出して浮き上がればいい・・・そう思ったのか、ユリアとシルビアをその細い腕で掴んだ上で、大出力の風魔法を行使して、無理やり宙に浮かんでいたのである。


(・・・まだ大丈夫そうね)


ルシアの健在な姿を見て、安心するワルツ。

それからワルツは、自分の役割をまっとうするために、目の前の男たちに視線を向け直した。


・・・こうして、ルシアとユキFとの間で、戦いの第二ラウンドが始まったのである・・・。


んー・・・

・・・要するにじゃ。

ワルツは、ルシアがユリアたちを掴んだまま戦えると思っておるのじゃ。

まぁ、その話は次回じゃのう。


それで補足なのじゃ。

補足というか、一度やってほしいことがあるのじゃ。

ルシアVSユリア

・・・どっちが強いんじゃろうか。

・・・うん。

ルシアじゃのう。Q.E.D.?


まぁ、それはさておきじゃ。

駄文っぽくなっておるんじゃが・・・いや、駄文なんじゃが、これを書いておかねば、ユキFの戦闘回が1話で終わってしまうという悲しい状況に陥ってしまうことに、つい2時間前に気づいたのじゃ。

じゃから、駄文かも知れぬが必要な物語じゃった・・・いや、一部、必要なことも書いておるしのう。

完全には不必要とも言えぬの。

・・・まぁ、気にするでない。


というわけでじゃ。

・・・次の物語を書いてくるのじゃ!

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