6後後-21 飛竜と戦艦3
『じゃあ、本番いってみよう!』
「・・・は?」
グラッ・・・
エネルギアの言葉に飛竜が振り向くと・・・彼の眼から見える世界が大きく変わった。
もちろん、ワープや転移をして、どこか見知らぬ土地へと移動したわけではない。
船体が大きく傾いて、地面へと真っ逆さまに落下を始めたのである。
『あー、ダメだよ。ちゃんと飛行に専念しなきゃ』
と言いながら、飛竜の操作を一旦無効化して、船体を引き起こすエネルギア。
そのおかげで、間もなく船体は元の高度まで戻ってきた。
「う、うむ・・・すまない」
『次はちゃんと飛んでね?』
声だけしか聞こえなかったが、スピーカーの向こう側で恐らく彼女(?)は、ルシアのように頬をふくらませていることだろう。
そんな彼女に、
「ところで・・・」
戸惑い気味に、飛竜は問いかけた。
「・・・具体的にどうやって操ればよいのだ?」
そう。
彼は直接説明を受けたわけではなかったので、エネルギアが行ったキャリブレーションだけでは、どうやって操作して良いのか分からなかったのである。
『んー、やっぱり、説明しないと分かんないか・・・』
エネルギアは、まるでどこかの面倒くさがり屋のような言葉を口にすると、飛竜に対して操作方法の説明を始めた。
『さっき、色々な飛び方の方法を教えてくれたでしょ?あの時の動きの通りにすれば、僕の身体がその通りに動くはずだから色々試してみて?・・・おっと。でっかいのが僕達を追うのをやめて、町の方に移動し始めたから、早く慣れてよ?』
「う、うむ。相分った」
すると今度は、ちゃんと真っ直ぐ前を見て、操艦しようと試みる飛竜。
グッ・・・
「ほう・・・確かに操作できるようだ」
思った通りに操作が出来たのか、船首が少しだけ上を向いたことで傾いた周囲の景色を見て、彼はそんなことを口にした。
続いて今度は、機首を下げようとする。
・・・しかし、
グワングワン・・・
と、一定の角度に安定せず、上下に振動し始めてしまった。
「むぅ・・・中々に難しい・・・」
上手く操作できないもどかしさに、思わずそんな言葉を漏らしてしまう飛竜。
すると、
『何が難しいの?』
飛竜の操作を陰ながらアシストしていたエネルギアが問いかけた。
「・・・身体を動かしているという感覚が全く無いのだ。何と言えば良いのだろうな・・・・・・落ちたり、昇ったりする時に感じる感覚なのだが・・・」
『加速度・・・だね?んーまぁ、ちょっと痛いことになるかもしれないけど分かったよ。やってみるね』
「・・・?」
一体、何が分かったのか。
飛竜には全く分からなかったが・・・彼の疑問は、実体験となって解消することになった。
フワッ・・・
・・・先程まで1Gで制御されていた艦橋の重力制御が、急に無くなったのである。
例えるなら・・・機首を下に向けて落下中の飛行機の中と同じ状況、といえば分かるだろうか。
要するに、エネルギアの船体が降下を初めて・・・その際の加速度が、艦橋の中に伝わってきたのだ。
あるいは、艦橋の中だけ重力制御が無効化された、とも言えるだろうか・・・。
「うおっ?!」
その瞬間、急激に襲ってきた浮遊感に、思わず羽ばたこうとする飛竜。
すると今度は逆に・・・
グォォォォォ!!
艦橋の床が彼を襲ってきた。
「うおぉぉぉ?!」
その強大な加速度に、今度は身体をその足でどうにか支えようとする飛竜。
そんな彼に・・・
『ドラゴンさん!落ち着いて、今、ドラゴンさんは飛んでるんだから!』
エネルギアは、完全に混乱状態にあったドラゴンに対して、そんな言葉を口にしたのである。
・・・すると、
フワッ・・・
艦橋の中を襲っていた過度な加速度が消え、落ちているのでも、昇っているのでもない、安定した加速感が飛竜の身体を包み込んだ。
・・・どうやら彼は、混乱から抜け出せたらしい。
「ふぅふぅ・・・何とも凄い感覚だ・・・」
どうにか息を落ち着かせながら、まるで銅像か何かのように、身体をピタッと止めて動かないように維持する飛竜。
その身体が、まるで初めて自転車に乗った子どものように、ぷるぷると震えていたのは・・・実際、慣れない乗り物を操作しているので、仕方のないことだろう。
それでも、船体の軌道が安定していたのは・・・彼が欲しかった加速度がフィードバックとして伝わってきたから、ということのようである。
「しかし・・・中々に興味深い」
そして飛竜はそのままの姿勢で・・・外の景色にその鋭い視線を向けたのである。
・・・ただし、口から薄っすらとした輝きを覗かせながら・・・。
ドゴォォォォン!!
ビクセンの空を、大質量の何かが爆発するような轟音が包み込んだ。
しかし、何かが実際に爆発したわけではなく、爆風のようなものが荒廃しきった街の中を、まるでトドメと言わんばかりに吹き荒れる・・・ようなことは無かった。
では一体何が、その音を発生させたのか・・・。
フッ・・・
・・・その原因である白く巨大な物体が、音もなく、猛烈な勢いで、街の上を通過していった。
次の瞬間、
ゴォォォォォッ!!
先ほどの爆発音とは異なる爆音が、街全体を包み込んだのである。
・・・要するに、音速を超えた何かが、ソニックブームを発生させながら、街の近くを飛んでいったのだ。
まぁ、言うまでもなく、エネルギアである。
『ちょっ、ドラゴンさん!こんな低い高度で、速度出しすぎだって!』
・・・つい数十秒前までとは、全く異なる色を含んだエネルギアの声が、艦橋の中を木霊する。
一方で、飛竜の方は、
「これは凄いぞぉ・・・!!船がどこまでも思い通りに動いてくれる・・・!!」
・・・と、まるで、ハンドルを握ると性格の変わる危険なドライバーのような言葉を、少量のブレスと共に口から漏らしていた。
そんな折、飛竜は何を血迷ったか、迷宮の方へと向かって、船体を無理矢理に捻るようにして方向転換させる。
『うわぁ・・・もしかして、ちきんれーすとか言うやつをやろうとしてる?!』
とエネルギアがそんな言葉を口にした・・・その次の瞬間には、既に船体が迷宮の直前まで移動していて、
グワァァァッ!!
・・・まるで迷宮の表面を流れるかのように滑らかな軌道を描きながら、スレスレの場所を通過したのだ。
『っ?!』
「素晴らしい・・・」
顔についている筋肉の構造上、表情が無いはずの飛竜だったが、その口が裂けんばかりに頬を釣り上げた。
『・・・うわぁ・・・』
そんなアグレッシブな飛竜に対して、今更ながら後悔するエネルギア。
彼女の反応速度は、ワルツたちのように高速なものではなく、むしろ人に近いものであった。
故に、彼女が操艦した際の動きは、この船が自分の身体そのものとはいえ、人が操作するものと比べても、そう大きな違いはなかったのである。
もちろん彼女が、これからも飛行方法について精進を続けていけば、熟練度は高まっていくかもしれないが・・・しかし、少なくとも現状では、空が住処とも言える飛竜の飛行方法や反応速度とは比べ物にならないほどに未熟だったようだ。
彼女の今の心境を例えるなら・・・プロドライバーの横に乗った、ペーパードライバーといったところだろうか。
まぁ、それはさておいて・・・
飛竜の操艦によって、迷宮の身体に大きく変わったことがあった。
ボコォォォォッ!!
・・・まるで、何か巨大なものに体当りされたかのように、プロティービクセンの腹部が大きく凹んだのだ。
どうやら、エネルギアが纏っているソニックブームを迷宮の近くまで接近して当てることができれば、まるで船体で直接体当たりするかのようにダメージを与えられるようである。
「ほう?!この船でギリギリのところを攻めれば、武器を使わずとも攻撃できるのだな?!」
『や、やめっ・・・』
ドゴォォォォ!!
・・・それからも続く、エネルギアの船体を使った、極超音速の近接戦闘(?)。
そんな彼の操艦に対して、エネルギアは攻撃手という役割も忘れて、ただオドオドとした声を上げしか無かったようだ。
それでも、彼から操縦権を奪わずにさせるがままにしたのは、急に操作を奪うと危険だったためか、あるいは・・・・・・他に何か理由があったのかもしれない・・・。
ふむ。
やはり、最初から書くことを決めておいたこともあって、飛竜の操艦並に書くのが捗ったのじゃ。
もう、書く速度が、極超音速なのじゃ!
さてと。
補足するかのう。
・・・とは言ってものう・・・。
今日の話は、分かる者には分かる制御の難しさ・・・というやつなのじゃ。
妾も、コルや主殿、それにルシア嬢から嫌というほど仕事を回されるから、おーばーしゅーとや発振現象が理解できるのじゃが・・・制御に触れたことのない者にとっては、少々難しいかもしれぬのう。
ちなみにじゃ。
エネルギアが迷宮の近くを通過した際に、相手に対してダメージを与えるという話。
専門用語で言うと、表面効果というものがあって云々・・・という話を書こうと思ったのじゃが、亜音速以下ならまだしも、超音速領域においても同じことが言えるのか分からなかったので省略したのじゃ。
・・・もう、殆どの者にとっては意味不明じゃろうな・・・このあとがき・・・。
・・・え?
何で妾がそんなことを知っておるのか?
それはあれじゃ。
・・・・・・そのうち分かるのじゃ!
んー・・・
いつか、ボルちゃん(Vortex Generator)の話とか書きたいのう・・・。




