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6後後-19 飛竜と戦艦1

ワルツたちが迷宮の肉壁の中を、まるで遠足か何かのように歩いて(?)いた頃・・・。


キィィィィン・・・


プロティービクセンの周囲を、もう100周近く回っていたエネルギアの中では・・・


「むー・・・」

「んー・・・」

「ぬ・・・?」

『・・・ずーん』


・・・イブ、ユキ、飛竜、エネルギアによる、迷宮対策会議(?)が開かれていた。


「下手に攻撃できない相手をどうやって足止めすればいいんだろう・・・」


そう。

エネルギア経由で、ワルツから伝わってきた言葉に、イブたちは頭を悩ませていたのである。


ワルツから連絡があってから、未だ一歩もプロティービクセンは動いていなかったが、それでもいつ動き出すのかはそこにいる誰にも分からなかった。

まさか、動き出してから対策を考える・・・というわけにもいかなかったので、イブが皆で考えようと呼びかけたのだ。


・・・その際、ユキが、『してやられた・・・!』といった様子で悔しげな表情を浮かべていたのだが・・・一体、どういう意味が含まれていたのかは・・・まぁ、不明である。


「流石に、ズババ!っと足を()()するのは、拙いですよね・・・」


「ユキちゃん・・・それ、爆破するときの擬音じゃないよね・・・」


そう言いながら、『真面目な話をしてるんだからっ!』と、ユキにジト目を向けるイブ。

それから彼女は、一旦小さなため息のようなものを吐いた後で、言葉を続けた。


「まぁ、それはいいけど・・・確かにそうだよね。足を壊したら、どっちに倒れるか分かんないかもだし、それに、中の人たちやワルツ様たちが無事で済むか、それも分かんないかもだしね・・・」


そんな様子で、2人は迷宮を足止めする方法について頭を悩ませていたのである。


一方、飛竜の方は・・・


「ふむ・・・我には少し難しすぎるのだ・・・。人の身の脆さとは、それほどのものなのか・・・」


そんなことを呟いていた。

どうやら彼の頭の中では、人間=ユキ、と考えているらしく、人々は皆、ユキ並の強さを持っていると考えているようだ。

もしも、囚われている市民たちが、ユキと同じような防御力を有しているとするなら、例え迷宮の下敷きになったとしても、怪我らしき怪我を負うこと無く、自力でその下から這い出てくることも考えられるのだが・・・・・・そもそも、そんな市民なら、(はな)から迷宮に囚われるはずが無いことについては、思い至っていないようである。


そして、最後。

エネルギアは・・・


『ずーーーん・・・』


・・・少々人見知りが激しいせいで、2人の会話に参加できなかった彼女(?)は、市民たちに小さな魔物が近づかないように護衛することくらいしかやることが無くて暇(?)だったせいか、遠くはなれてしまった剣士のことを思い出して、凹んでいるようであった・・・。


そんな中で、


「・・・んあーっ!」


イブは頭を掻きむしって、意味不明な雄叫びを上げた。

・・・どうやら、頭が一杯になってしまったらしい。


「足元に穴を掘って、倒れる方向を調整するくらいしかできないんでしょうか・・・」


ユキも、それ以外に特に思いつくことがなかったようで、そうつぶやきながら頭を抱え始めた。

すると、


とーぶん(糖分)足りなぁぁぁいっ!!」


髪の毛と犬耳をクシャクシャにしていたイブが、迷宮とは関係ない言葉を叫び始める。


「こういう難しいことを考えるときは、頭を働かせるために、砂糖か砂糖か砂糖が必要なんだよっ!分かる?!」


と、砂糖を連呼するイブ。


「えっと、それは何となく分かります。頭がいっぱいな時に甘いモノを食べると辛いものも食べたく・・・じゃなくて、すっきりしますからね」


行き詰った現状に、ユキも何か()いモノが食べたくなったらしい。

すると、


『甘いモノが欲しいの?』


イブの叫びを聞いて、心の中の薄暗い世界から戻ってきたのか、エネルギアがそんなことを口にした。


「あるの?」


『無いわけじゃない、って言えばいいかな?』


「・・・随分と含みを持たせた言い方ですね・・・」


何か嫌な予感を感じるユキ・・・そしてイブ。


そしてエネルギアは・・・その問題の一言を口にした。


『ルシアちゃんの部屋に、ルシアちゃんが作ったクッキーが置いてあるよ?』


『・・・?』


何かトンデモナイ言葉が飛んで来るのではないかと身構えた割には、普通の言葉が飛んできて、ユキたちは肩透かしを喰らったような少し間の抜けた表情を浮かべた。


そう。

ルシアくらいの少女が、お菓子の1つや2つくらい作っていたとしても、それ自体は何らおかしくはないことなのだから。


問題があるとすれば・・・それを無断で食べてしまっても果たして大丈夫か、といった点くらいだろうか。

まぁ、それも、迷宮に対処しなくてはならないという現状や、痩せ細ってしまった今のイブやユキの身体を考えるなら、事後承諾でも何ら問題は無さそうではあるのだが・・・。


故に・・・


「んー、じゃぁ、ちょっとだけもらっちゃおうかな?」


イブは食指を伸ばすことにしたようだ。


「そうですね・・・。それで市民たちを救えるような妙案を考えつくのでしたら、後で少し怒られたとしても問題は無いでしょう」


「えっと・・・うん・・・やっぱり、怒られるのかな・・・」


・・・ともあれ。

食欲に勝てなかったイブは、狭い通路を通れなかった飛竜をそのまま艦橋に置いて、ユキと共に、船内にあるルシアの部屋へと向かったのである。




ガションッ・・・


艦橋の扉と同じ音を上げながら、自動的に開くルシアの部屋の扉。


「・・・本当に、ここでいいの?」


『うん、そうだよ?』


「ふーん・・・ここがルシアちゃんの部屋ですか・・・」


声だけのエネルギアに案内されて、ルシアの部屋へとやってきた2人。


その部屋の中には・・・イブの戸惑ったような言葉の通り、女の子らしい物はあまり置いてなかった。

何やら分厚い本と、それが詰まった本棚がぎっしりと並んでおり、(さなが)ら、小さな図書館、といった様子だったのである。

もちろん、収集が趣味(?)の一つにもなっている洋服の類は、クローゼットの中に収納されているようであったが・・・しかし、ぬいぐるみなどの、所謂『かわいいもの』は、一切見て取ることができなかったのだ。


・・・いや、一つだけ。

それほど大きくはないベッドの枕元に、何を模したのかよく分からない、灰色一色のぬいぐるみが置いてあった。


「・・・何これ?」


自分の部屋の中も似たようなものかも、などと思いつつ、所々に突起がある謎のぬいぐるみを手に取るイブ。


「これは・・・」


それを目の当たりにしたユキは・・・それから眉を顰めて、口を閉ざしてしまった。


実は、そのぬいぐるみは、ワルツの機動装甲を模したものだったのである。

彼女の本当の姿を知っているなら、見た瞬間に分かるはずだったのだが・・・イブにはそれが分からなかったのだ。

つまり、イブは、まだワルツの本当の姿を知らない、ということになるのだが・・・彼女はそのことを察して、説明すべきか否かを悩んだのである。

・・・そして悩んだ末、結局、ワルツ自身が説明するまでは、自分からは何も言うまい、と言葉を飲み込むことにしたようであった。


「・・・それ、大切なものだと思うので、勝手に触ったら起こられますよ?(むしろボクが欲しいくらいです。というか、ボクなら勝手に触られたら怒りますよ?)」


「えっ・・・」


何故か、妙な気配を出し始めたユキに対して、思わずたじろいだイブは、手に持った人形を元の場所に、元の角度で置き直した。


「(人形は触っちゃダメなのに、クッキーは食べていいって・・・・・・大丈夫かなぁ・・・)」


そんな不安が脳裏をよぎるイブ。


すると、


『そこの冷蔵庫を開けて見て?』


「え?れいぞうこ?」


『そこの白くて、上下に扉がある箱』


「これですか?」


そしてユキは・・・言われるままに、冷蔵庫の()()()()を開いた。

その瞬間・・・


ブワッ・・・


「あっ・・・」


思わずニンマリと笑みを浮かべるユキ。


「ん?どうしたの?何かいいものでも見つけたの?」


そんな彼女に、イブは思わず問いかけた。

・・・しかしユキには、彼女の問いかけが届かなかったようで、


「・・・いいですね。冷蔵庫って・・・」


目の前の白い箱に対して、嬉しそうな表情を浮かべながらそんな言葉を呟いたのであった。


『冷たいでしょー?』


「いっその事、この中に入り込みたいくらいです」


と、何も入っていない冷たい冷蔵庫(冷凍庫)の中に、上半身を入れるユキ。

どうやら彼女は、熱いものだけでなく、冷たいものも大好きらしい。

・・・エントロピーの差に惹かれているのだろうか。


『で、クッキーがあるのは、その下の扉だよ?』


「・・・そうですか・・・」


何も入っていない冷凍庫に、悲しげな視線を向けたまま身を引くユキ。


そんな彼女の意味不明な行動に・・・イブは、自分には見えない何かが置いてあるのかと考えて、冷凍庫に向かって眼をぱちぱちさせながら、難しい表情を浮かべた。

しかし、残念ながら、彼女がどんなに眼を細めても、冷気を見ることは叶わなかったようだ。


「それでは、開けますね?」


冷凍庫を閉めた後で、冷蔵庫の扉を開けるユキ。

するとそこには・・・


『・・・うわぁー』


上から下までびっしりと()()()()()()クッキーの乗った皿が置いてあったのである。


『そのクッキーね、僕のために焼いてくれることもあるんだけど、僕って、ちゃんとした身体がないから、食べ物を食べられないんだよね。それに、この船の中にはいつも人がたくさんいるわけじゃないから・・・そんな感じで余っちゃうみたいだよ?多分だけど』


そんなエネルギアの言葉に、ふと、疑問の表情を浮かべるユキ。


「えっ・・・では、相当昔に作った物もあるのですか?」


賞味期限、と言う言葉はこの世界にはまだ無かったが、あまりに古い食べ物を食べれば、腹を壊してしまうことは、常識的な範疇で知れ渡っていた。

故に聞いたわけだが・・・


『多分、作ってからまだ1週間くらいのやつしか入っていないから、腐っていはいないと思うよ?その箱、冷蔵庫って言って、食べ物を長い間保存しておくためのものだし、それに古い奴は捨ててるみたいだしね』


「えっ・・・勿体無っ・・・」


捨てるくらいならいくらでも食べるのに・・・と、最近の貧相な食生活を思い出すイブ。


「・・・では、この一番上に置いてあるものをいただきますね?」


『うん。一応、僕の方からも伝えておくけど、後でちゃんと断ってね?』


そんなエネルギアの言葉に、笑みを浮かべた二人は首を立てに振ると、


「えっと、こういう時、かける言葉がありましたよね?」


「あ、それね、ドラゴンさんにも教えてあげたよ?」


「そうですか。では一緒に言って食べましょうか」


「うん」


「せーのっ」


『いっただっきまーす!』


そう言って、ルシア製のクッキーを2人で一緒に頬張った。


・・・そしてその日、彼女たちがその部屋から外に出て来ることは無かったのである・・・。




「皆、遅いのだが・・・何かあったのだろうか・・・?」


ドラゴンとは思えない姿勢で、腕を組みながら、外の景色に眼を向けつつ、そんな言葉を口にする飛竜。

どうやら彼は、2人がいない間、代わりに迷宮に異変が無いかどうかを監視しているようだ。


「ふむ。高みの見物とは、まさにこういうことを言うのだろうな・・・」


目の前に広がる景色に、そんな独り言を呟いていると・・・


『あの、ど、ドラゴンさん?』


「ぬ?エネルギア殿か?」


『えっと、そうです。実は・・・』


するとエネルギアは、ルシアの部屋であった出来事を口にした。


『2人ともルシアちゃんのクッキーを食べたら、急に眠くなっちゃったみたいで、その場で眠ってしまって起きなくなっちゃったんです。かなり疲れてたみたいなんで、無理矢理に起こすのもどうかと思うんですけど・・・どうします?』


「ぬ・・・?それは・・・由々しき事態だな・・・」


自分には、正直な所、理解できないほどに複雑な会議をしていた2人が、思わぬところで退場してしまったことに、眼を細める飛竜。


・・・と、そんな時、


ゴゴゴゴゴ・・・


「こ、これは・・・・・・なんとタイミングが悪い・・・」


つい今し方まで動きを止めていたプロティービクセンが、急に動き出したのだ。


『あー、困っちゃいますね』


と、エネルギアはどこか人ごとのように言うと、飛竜の前に、巨大なホログラムモニターを2つ表示した。

ユキたちが使っていた、モニターの巨大版である。

要するにこれを使って、迷宮を足止めしてほしい、ということなのだろう。


しかし・・・


『ごめんなさい、ドラゴンさん。僕はイブちゃんやユキさんたちのことを運ばなくてはならないので、こっちはドラゴンさんに任せますね?さっき2人が操作してたのと全く同じなので、改めて説明する必要は無いですよね?それじゃぁ!』


ブゥン・・・


そんな低い音を残すと、エネルギアの気配は艦橋から消えてしまったのである。


「ぬ?!え、エネルギア殿?!」


・・・しかしは、その問いかけに応答は無かった。

どうやらエネルギアは、嫌いな飛竜と一緒にいたくなかったようだ。


「むむむ・・・し、仕方あるまい・・・。だが、攻撃の方法はちゃんと見ておったから、どうにかなるだろう・・・」


そう言うと、鋭い視線を外の景色に移す飛竜。


・・・こうして、飛竜が操艦(?)する空飛ぶ巨大戦艦と、巨大な迷宮との間で、戦いの火蓋が切って落とされたのだ。

後で書くのじゃ!

・・・書いたのじゃ!


いやの?

書いてて思ったんじゃが、エネルギアが実は腹黒設定・・・というのも考えたのじゃ。

じゃがのう。

妾自身が腹黒くないから、書けぬということに気付いたのじゃ。

・・・腹黒くないぞ?


で、補足なのじゃ。

ルシア嬢のクッキーは大きく分けると、数種類の効果に分類されることが、妾の身を持った経験と研究によって明らかになっておるのじゃ。

その内2つについては、物語の中でも公開されておるので、説明するのじゃ。

まず一つ目。


美味しくnブゥン・・・

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