6後後-15 迷宮探検?1
『んなっ・・・!』
単身で乗り込もうというカタリナに対して、そこにいた全員が驚きの声を上げる。
「あまりに無謀では・・・?」
そんな仲間たちの中で、ユキは思っていたことをそのまま口に出した。
そもそも人間ではないワルツや、圧倒的な魔力を誇るルシアなら、なんとかなるかもしれないと考えることも出来るのだが・・・カタリナは、見た目が大昔の魔王に似ているというだけの、ただの狐娘である。
確かにその戦力は計り知れないが、その場で思いついたようにして、考えも無しに巨大な迷宮に飛び移っても、すぐに命を落としてしまうだけではないのか。
ユキだけでなく、そこにいた者たちが全員、そんな考えを抱いたのである。
「無謀・・・確かにそうですね。今から3ヶ月くらい前の私なら、同じように思ったかもしれません」
ユキの問いかけや、その場にいた者達の表情に対して、少しだけ眼を細めながら、そんな言葉を呟くカタリナ。
「・・・では今なら、なんとかなると?」
「はい。特に問題はないと思います」
カタリナは、ユキに対してそんな素っ気ない言葉を返した。
それから彼女は、一旦はユキたちの方へと振り向いていた顔を、艦橋の扉の外へと向けると、続けて口を開く。
「もしもここで私が行かなかったら・・・恐らくワルツさんたちは大変な思いをすることになると思うんです。さきほどの施設にいた魔物たちとあの迷宮が全く関係ないというのなら、恐らく大丈夫でしょうけど・・・でも、現状を考えるなら、それが否定できませんからね・・・」
そんな彼女の言葉に、先程までいた施設で自分たちを襲ってきた魔物たちが、首を吹き飛ばすまで死ななかったことを思い出すユキ。
「・・・まさか、プロティービクセンも同じようなことになっていると?」
「それは・・・最悪の場合ですね。そうでなければ私が行かなくても問題はありませんが、そんな最悪の状況のことを考えて事前に行動しておく、そういうことです」
「・・・」
もしもカタリナの予想通りだとして・・・しかし果たして彼女が行ったところで、どうにかなる問題なのか。
ユキの脳裏では、結局そんな疑問が頭から離れなかったようだ。
ただ、カタリナにはそれをどうにかするアイディアか自信のようなものがありそうなので、ユキはそれ以上彼女を引き止めることを諦めるのであった。
すると、
『そろそろ突入しても良い?』
『えっ・・・』
早く話が終わらないかと待っていた様子で、エネルギアが問いかけた。
比較的、カタリナとの付き合いが長かったエネルギアは、彼女の行動について、全く懸念も疑問も持っていないようだ。
「はい。お願いします」
『おっけー』
・・・そしてエネルギアは、迷宮の周りをグルグルと回っていた周回軌道を一旦外側へとずらすと、大きな弧を描きながら、人型の迷宮へと近づくコースを採ったのである。
他方。
「さぁ、土手っ腹に大穴開けるわよ!」
「うん。頑張って!(あぁ、よかった・・・)」
迷宮の正面(?)から、真っ直ぐに腹部へと向かっていたワルツとルシアはそんな会話をしていた。
ちなみに、ルシアが何故安堵しているのかというと・・・まぁ、詳細は言わなくてもいいだろう。
とりあえず、侵入部が排泄口でなくてよかった、と思っていたとだけ書いておこう。
それはともかく。
あと1kmほどの距離に迫った頃、それまでただ立っていただけの迷宮が、ワルツたちの殺気を感じたのか、突如として行動に出る。
ドゴォォォォ!!
自分の身体に接近しつつあった彼女たちに対して、まるで平手打ちをするように、その巨大な手を振りかざしたのである。
そんな全長70mほどにも及ぶ手のひらが、あたりの空気を押しのけたり、圧縮したりしながら、2人に向かって真っ直ぐに飛来してきて・・・
ドゴォォォォン!!
・・・そのまま、煙か幻影をかき消すかのような様子で、逆方向に吹き飛びながら虚空へと消えてしまった・・・。
「危ないよね。人がいるのに・・・」
迫ってきた壁のサイズの1/1000ほどの大きさしかない小さな手のひらを、今は何も無くなってしまった空間へと向けながら、頬を膨らませるルシア。
どうやら、彼女が消し飛ばしてしまったらしい。
「・・・うん、そうね・・・」
一体どういう原理で吹き飛ばしたのかワルツには分からなかったが・・・まぁ、いつものことなので、苦笑を浮かべるだけで、直ぐに目の前に迫る迷宮の腹部に視線を戻した。
その視線の先にあって、腕を引き飛ばされた迷宮は・・・しかし、次の行動には出て来ることはなかった。
もしも人が同じようなことをされたのなら、悲鳴を上げたり、腕を抑えて蹲ったりするところなのだが・・・スライムのような身体で出来ている迷宮には痛みが感じられないのか、全く反応を見せなかったのである。
故に、そんなタイミングがチャンスであると考えたワルツは、接近する軌道を変えること無く接近して・・・間もなく迷宮の腹部に到達するといった頃、再び口を開いた。
「今度は私がやるから、ルシアは見てね?」
「うん!」
すると、
グシャッ!
っという音は鳴らなかったが、一見するとそんな擬音が当てはまりそうな様子で、まっ平らだった腹部に突然10mほどの穴が生じた。
恐らく、重力制御を使って空間を捻じ曲げ、穴を穿ったのだろう。
どうやらワルツは、爆発的な攻撃だと内部にいる人間たちに傷を負わせてしまう可能性があると考えて、できるだけ穏便な方法で侵入するための経路を作り出したかったようである。
・・・ちなみに余談だが、当初ワルツは、本当に口か排泄口から侵入しようと考えていた。
しかし、残念ながら、彼女からは顔に口があるようには見えなかったのである。
そんな迷宮の姿に、『口がないのなら、排泄口もないはずよね・・・』とワルツは考えた結果、腹部に穴を開けることにしたのだ。
なお、本当に無いかどうかは・・・確かめていないので不明である・・・。
「んじゃ、最初は胃から」
「えっ・・・何で胃なの?」
「いや、だって、食べ物を消化するって言ったら、普通、胃でしょ?(自分に付いてないからよく分かんないけど・・・)」
「うん・・・・・・」
実は、これから行くだろう胃の中で想像を絶するような悲惨な光景が繰り広げられていないか、と想像して、苦い顔を浮かべるルシア。
もしも市民たちが消化されていたのなら・・・侵入する先が胃ではなかったとしても、大体似たような光景が広がっていることだろう。
・・・ともあれ。
こうしてワルツたちは、迷宮の体内へと、飛び込んでいったのである。
その後ろ側。
迷宮の背部では・・・
ドシャッ!!
と表現すべきか、
サクッ!!
と表現すべきかを悩む音を上げながら、ブレンデッドウィングボディーのエネルギアが、人に剣を刺すようにして、先端部から迷宮の内部へと突っ込んだ。
『はい、到着〜』
「じゃぁ、行ってきますね」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
行き先は迷宮の体内だというのに、まるで電車から降りるようにして外に出ていくカタリナに、唖然とする一同。
・・・いやむしろ、エネルギアがこのようにして使われることに、驚愕していたというべきか・・・。
なお、言うまでもないことだが、この世界に電車はない・・・はずである。
まぁ、それはさておき。
迷宮の体液が飛散する肉壁の上に降ろしたタラップを、いつも通りに降りて行くカタリナ。
そして彼女が、迷宮に一歩足を下ろした・・・その瞬間であった。
・・・カタリナは、その足を直ぐにタラップの上へと戻したのである。
『・・・?』
そんな急な彼女の行動に、疑問を浮かべる一同。
するとカタリナは・・・
「普通に歩いて行くと、強制的に魔力が吸われていきますね」
と、その理由を口にした。
どうやら、デフテリービクセンの中で倒れそうになったユリアのように、魔力が極限まで吸われ切ってから気づくような鈍感な感覚ではなかったらしい。
「・・・リアの件で魔力漏れに対する知識はあるので、大きな問題ではないですね」
そう言うと、彼女は何か小さな言葉(詠唱?)を口の中で呟くと、それから再び歩みを進め・・・そして再び戻ってくるようなことはなかった。
だが、一旦、降りきった所で足を止めると、振り返って自分のことを心配そうに見つめる仲間たちに声を掛ける。
「追ってくるようなことをしてはいけませんよ?このまま来ても、命の保証はできませんし・・・はっきり言って足手まといになると思いますから」
「はい。待ってます・・・」
「い、いかないもん・・・こんな怖いとこ・・・」
「ワルツ様に承った言伝があります故・・・」
と、一緒に付いて行こうとする様子の無い仲間たち。
やはり皆、カタリナのことが怖いようだ。
すると、仲間たちに対して少しだけ寂しそうな表情を見せるカタリナ。
そんな彼女に対して・・・ユキは頭を下げて、申し訳無さそうに口を開いた。
「どうか・・・市民たちをお願いします。ボクにできることは・・・この船で、外から迷宮を攻撃することくらいです。・・・こんな無力なボクを・・・どうかお許し下さい」
「いえ。貴女は2つの意味で無力ではないですよ?」
カタリナは寂しそうな表情をかき消すように唇の端を軽く持ち上げると、ユキに対して言葉を続けた。
「シリウス様には、エネルギアという強い武器と、イブちゃんやドラゴン様のような頼もしい仲間がいるではないですか。どうかこれまで通り、外から援護して下さい」
「えっと・・・まだ、ちゃんと援護らしき援護はできていないですけど・・・はい。頑張ります」
「それに・・・地竜様に吹き飛ばされたり、吹き飛ばしたり、炎の中で燥ぎ回る人を無力とは言いませんよ?確かに今は、ダメージの回復のせいで無力かもしれませんが、身体が治ったならどんな魔王よりも強いはずですからね」
「はい・・・・・・あれ?」
と、急に何かに気付いた様子のユキ。
そんなユキに対して、カタリナは背を向けると、エネルギアの開けた穴の奥に向かって、そそくさと歩みを進め始めていった。
「あの・・・何でボクが炎の中で遊んでたって知ってるんですか?!あの時、側にいませんでしたよね?!」
「・・・・・・」
そのユキの言葉が聞こえているはずなのに、まるで無視するかのように歩いて行くカタリナ。
しかし、彼女はしばらく進んだ所で、足を止めてから頷くと、踵を返し、
「えっと、身体に受けたダメージから推測したんです・・・」
まるで今思いついたかのような言い訳を口にした。
ただし、視線をユキから逸らしながら、である・・・。
「あ、怪しい・・・」
「で、では行ってきます」
・・・そしてカタリナは、それから足を止めること無く、迷宮の奥へと歩みを進めていったのである・・・。
カタリナがどうしてユキの行動を知っておったか?
・・・さぁのう?
まぁ、テンポ殿が『毛の生えるスイッチ』、コルが『内臓脂肪の増えるスイッチ』を持っておるということは、カタリナもユキの身体に何かを仕込んでおる、ということじゃろうかのう・・・・・・多分じゃがの。
さて。
まぁ、あれじゃのう。
・・・なんか、視点がコロコロと変わって申し訳ないと思う今日このごろなのじゃ。
最大3つ・・・それ以上はトレースしきれぬと思うから、増やすつもりはないのじゃが、それでも読みにくいかもしれぬということは承知しておるのじゃ。
・・・どうにか、上手くかき分ける方法は無いものかのう・・・。
あとは・・・まぁよいじゃろう。
ルシアの魔法は、もう人間の反応速度以外インフレしておるとだけ説明しておくのじゃ。
・・・あー・・・この辺で6後後後章にシフトしたかったのじゃ・・・。




