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6後後-14 2つの迷宮3

時間は数分だけ(さかのぼ)って。

ユリアたち2人と別れたワルツとルシアは、一見するとただの平原のように見えるビクセンの郊外にある畑のど真ん中で、転移した後も争い続けていた迷宮たちに向かって、高速に移動していた。


そこから見える2つの迷宮は・・・デフテリービクセンのほうが短いイモムシに足が生えた様子、そしてプロティービクセンの方は饅頭のような身体自体が変形して移動している・・・そんな見た目であった。

デフテリービクセンの方は確固とした形状があるようだが、プロティービクセンの方は大きく硬いスライム、といった姿で、絶えず形状を変化させながら動いているようである。

なお大きさ(体積)については、2体ともそう大差はなく、全長1kmほどのやや細長いデフテリービクセンに対して、直径700mほどの平たい円形状のプロティービクセン、といったところだ。


「遠くから見る分には美味しそうだよね・・・」


「え?細長い方?」


「・・・お姉ちゃんわざと言ってるよね?」


「いや、何かそう言わなきゃならないような気がして・・・」


「よく分かんないけど・・・。でも、もしも細長いほうが美味しそうって言ったら、反応に困っちゃうよね」


(・・・見ようによってはビニールに入った羊羹(ようかん)みたいに見えるんじゃない?サイズが4桁くらい違うけど・・・)


と、目の前で暴れる2体の迷宮に対して、そんな感想を呟くワルツとルシア。

なお、ワルツは羊羹があまり好きではなかったりする。


「到着したらどうするの?」


と、ワルツの周りを器用にグルグルと回りながら、ルシアが問いかけた。


「さっき行った通り、デフテリービクセンの方を先に吹き飛ばしてから、プロティービクセンを片付けましょう?」


「うん、いいよ」


そしていよいよ、ワルツとルシアの戦闘圏内(キルゾーン)に迷宮たちが入ろうか、といった時のことであった。

ここまでデフテリービクセンに齧りつかれるがままだったプロティービクセンの身体に、変化が生じたのだ。


その最初の変化は・・・頭(背中?)から生じた。

平たい饅頭の頭に、直径100m程の突起が生じ始めたのである。


それは見る見るうちに伸びながら形を変えていき・・・遂には()()()()()と殆ど同じ形状になってしまった。


「えっ・・・腕?」


「腕よね・・・それも人間の・・・」


指のディテールまではまだ出来上がっていなかったが、手のひらまではほぼ出来上がっており、手首の関節、肘の関節、肩の関節の比率を考えるなら・・・どう見ても、スライムから伸びた触手ではなく、人の腕そのものの形状だったのだ。


そしてそんな腕が・・・


ガシッ・・・!!


まるで猫か犬か狐の背中を人が掴むような様子で、デフテリービクセンを鷲掴みにすると・・・


ゴゴゴゴゴ・・・


何メガトンあるのか分からないようなデフテリービクセンを持ち上げて・・・


ブゥン・・・ドゴォォォォン!!


近くの丘陵に叩きつけたのである。


「ちょっ・・・」


「すごい(ちから)・・・」


と、その様子に唖然とする2人。


その後、全身から体液を吹き出させながら動かなくなったデフテリービクセンの動きを確認するような仕草を見せてから・・・プロティービクセンはさらなる身体の変化を始めた。


まず、身体の頂点部から生えていた手が細くなりつつ更に伸び、遂にはその付け根に胴体のようなものが現れ始めたのである。

同時にその胴体には、顔は無いが頭のような肉塊が生じ、最初に出てきた腕とは反対側の方からも、今度は肩の部分から腕が生えてきたのだ。

その様子を例えるなら・・・マンホールのような穴から腕だけ出していた人間が、穴の縁に手を掛けてゆっくりと身体を引き起こす・・・そんな姿に近いだろうか。


「お姉ちゃん・・・これ、放っておくと、そのうち人の形になっちゃうんじゃない?」


「そうよね・・・っていっても、中に市民がいるから、一気には攻撃出来ないじゃない?・・・なんか嫌な予感しかしないけどさ」


「うん・・・。でもどうすれば・・・」


今もなお、刻一刻と、人の形に変わっていくプロティービクセンの姿を前に、次の行動を思い悩む2人。

当初の予定では、デフテリービクセンを吹き飛ばして、ある程度時間を置いてからプロティービクセンに対処する予定だったのである。

そうでなくては、取り込まれた市民たちの意識が完全には落ちておらず、自分たちの姿を見られる可能性が否定出来ないのだから・・・。


しかし・・・


「・・・もう、四の五の言ってる暇は無さそうね」


プロティービクセンが完全に人化してしまうと、手がつけられなくなってしまう・・・・・・そんな予感を無視できなくなったワルツは、ここに来て行動を選ぶことをやめた。


「いいの?」


「あんまり良くないけど・・・変装していれば・・・まぁなんとかなるでしょ?」


と言いながら、ちゃんと黒い狐耳と尻尾が生えているかを確認するワルツ。

それから彼女は、獣耳の存在を触って確かめていた自分に対して、何故か嬉しそうな表情を向けていたルシアに問いかけた。


「っていうか、ルシアの方こそ良いの?見られちゃうかもしれないけど・・・」


「えっとね・・・うん!お姉ちゃんと一緒ならいいよ?」


「・・・そう。なかなか責任重大ね・・・」


そう言いながらワルツは、近い内にルシアの変身用の魔道具か何かを準備したほうが良いのではないかと、この期に及んでようやく考え始めた。

なお、変身する対象は、『狩人さんみたいな猫娘・・・っていうか、狩人さんでいっか・・・』と考えていたのは、彼女だけの秘密である。

・・・どうやら仲間たちを、混乱の渦の中に巻き込みたいらしい・・・。


まぁ、それはさておき。


「じゃぁ、行くわよ!人体内探検ね!」


「えっと・・・うん!(でもどこに行くんだろう・・・)」


一体、姉は、雲にも届きそうな巨大な迷宮(人体?)のどこから入って、どこを目指そうとしているのか・・・。

ルシアは一抹の不安を覚えながらも・・・耳と尻尾をはためかせながら再び高速で飛び始めたワルツの後ろを、それでも嬉しそうな表情を浮かべながら追いかけるのであった・・・。




一方、その頃。

エネルギアの艦内では・・・


『へぇ・・・こんな大っきい人がいるんだ・・・』


「あの・・・エネルギア様?人ではなく・・・迷宮です」


かなり疲弊した様子で、ユキは指摘の声を上げた。

どうやら、プロティービクセンの登場で町が大きく壊されてしまったことに、精神的なダメージを、現在進行形で受けているらしい。


「そうは言うけど、アレ・・・殆ど人じゃない?なんか、あまり血色は良くないけど・・・」


とイブも感想を呟く。

もしも、人でも迷宮では無いと言うのなら・・・あるいは、巨大なゾンビ、と言えるのかもしれない。


「しかし、何故、人の形をしておるのだ・・・ドラゴンの姿のほうが()えるのではないか?」


飛竜はそんな感想を口にする。

彼だけでなく、他の者たちも同じことを考えていたようで・・・


「それが不思議なんですよね・・・。何で人の形なんかに・・・」


ユキも同じ疑問を口にした。


「んー、人になりたかったんじゃないの?」


そんなイブの言葉に、


「人になりたい・・・か・・・」


感慨深い様子で、目を閉じ、考えこむ飛竜。

自分の人になりたいという気持ちを、迷宮に対して当てはめているのかもしれない・・・。


と、そんな時。


ガションッ・・・


艦橋のドアが、誰かが近づいてきたことによって、自動的に勝手に開いた。

そしてやってきたのは・・・


「・・・これまた、凄いことになってますね」


医務室にいたはずのカタリナである。

そんな彼女の登場に、


『ひぃっ・・・!』


・・・何故か怯えた様子で、身体をビクリとさせるユキとイブ、そして飛竜。

どうやら、皆、怖い医者がやってきた、と思っているらしい・・・。


「あれは・・・何ですか?」


一瞬だけ眼を見開いて外を見た後で、直ぐに元の表情に戻って疑問を口にするカタリナ。

誰かのせいで重体に陥っていたサキュバスを治療しなくてはならなかったために、医務室に引きこもっていた彼女には、艦橋のモニターに映し出されていた巨大な人間(?)が、プロティービクセンであるとは分からなかったようだ。


「迷宮・・・プロティービクセンの成れの果てです・・・。あの中には市民たちが囚われていて、どうやって攻撃していいものかと、イブちゃん達と考えていたところです」


ユキは、やはり、少々根暗な彼女に慣れないのか、僅かにおどおどしながら、現状についての短い説明を口にした。

するとカタリナは、


「・・・そうですか」


そう短く言葉を返すと・・・そのまま、彼女たちに背を向けて、艦橋を出ていこうとする。


「えっ・・・あの・・・失礼ですが、何をしに来たのですか?まさか、現状の確認だけ・・・なんてことはありませんよね?」


「はい。現状の確認だけです。他に何かありましたか?」


「えっと・・・いえ。なんでもありません・・・」


何処か素っ気ない雰囲気を漂わせるカタリナの態度に、彼女の医者としての役割を思い出したユキは、無闇に引き止めることをやめた。


その後でカタリナは、まさに艦橋の扉から外へと出て行く際、一旦足を止めて、何もない天井に向かって顔を上げると、徐ろに口を開く。


「・・・エネルギアちゃん。あの迷宮のどこでも良いので、私を降ろしてくれませんか?」


『えっ・・・』


そんな彼女の思いがけない一言に唖然とする一同。

するとカタリナは、自ら乗り込もうとする理由を口にした。


「・・・まだ仕事らしきことができていないので」


・・・どうやら彼女は、ロリコンたちがいた施設で、暴れたりなかった(?)らしい。


こうしてカタリナは、ワルツたちとは別に、迷宮の中へと単身で乗り込むことになったのである・・・。

物語の『こんぽねんと』がまだ足りぬ・・・とだけ言っておくのじゃ。

・・・いや何となく、蛇足感も感じておるのじゃがのう?

まぁ、気にするでない。


さて。

超速補足なのじゃ。

えーと・・・別に、ルシア嬢に関しては説明する必要はないの。

というか、下手な補足をすると、昨日みたいに消されかねぬからのう・・・。


プロティービクセンの詳細に関しては次回説明するのじゃ(?)。

・・・妾が忘れなければのう?


あ、そうじゃった。

ユキのことじゃ。

カタリナを怖がっておるというのは、彼女の戦い方を前回の施設で目の当たりにしたからなのじゃ。

それまでは、特に怖がってはおらんかったのじゃが・・・残忍な方法で屍(?)の山を作ってゆく彼女が怖くなってしまったのじゃ。

・・・と言う設定なのじゃ。

まぁ、長い間、カタリナと一緒におると、ルシア嬢のように打ち解けられるようになるのじゃが・・・まだ先の話になりそうじゃのう。



今日はこんなところなのじゃ。


それはそうと・・・・・・狐をモフモフしたいのう。

ルシア嬢は・・・モフっても嬉しくも何とも無いしのう・・・。

え?

自分の尻尾をモフっておれ?

・・・前も言ったが、そんなに長くないから届かぬのじゃ!

いいとこ、脇に抱えられるくらいなのじゃ。

まぁ、尻尾の詳細に関しては・・・気が向いたら書くのじゃ。

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