6後後-13 2つの迷宮2
「ちょっ、何なの?嫌がらせなの?・・・大人しく黙っていればよかったのに・・・」
「多分、命の危険を感じたんじゃないかなぁ・・・?」
プロティービクセンに噛みついたデフテリービクセンに対して思わずぼやいたワルツと、その原因がこれからするだろう自分たちの行動にあるのではないか、と思ったルシア。
「どうするの?先にデフテリービクセンを片付けちゃう?」
そんなルシアの問いかけに、ワルツは腕を組んで考え始めた。
「・・・このままデフテリービクセンを相手にしたら、なんか、後ろからプロティービクセンに襲われそうじゃない?別に大した問題じゃないかもしれないけど、うっかり人の入ってるプロティービクセンごと吹き飛ばしたりなんかしたら・・・後でユキに怒られちゃうわよね。きっと」
「(怒られるだけで済めばいいけど・・・)」
一体、どれほどの市民が中に入っているのかは分からないが、それを吹き飛ばしたとなれば・・・まぁ、何もお咎め無しで済まないのは間違いないだろう。
尤も、ビクセンの町が崩壊寸前になっている現状を鑑みるなら、うっかりプロティービクセンを消し飛ばしても『どうしようもなかった・・・』の一言で済ませられなくも無さそうだが・・・。
しかし、市民たちを救えないと決まったわけではないので、ワルツにはその選択肢を採るわけにはいかなかったのである。
面倒だからという理由で見殺しにする、というのは、流石の彼女でも出来なかったのだ。
(さて、どうしようかしら・・・。この状態で、2体いっぺんにどこか遠いところに転移魔法で飛ばしたら、戦闘のせいで気が散って戻ってこないかもしれないけど、一緒に市民も飛ばしちゃうことになっちゃうしね・・・。・・・でも、街の中で暴れられるよりは良いかしら・・・)
・・・というわけで、
「ねぇルシア?このまま2体が町中で暴れるとちょっと面倒だから、外の安全な場所に転移させてもらえない?でも遠くにやっちゃダメよ?市民を助けられなくなるから」
ワルツは、周囲の魔力を聞き取っているためか、自分の隣で頻りに獣耳を動かしていたルシアに頼んでみた。
もしもこれが、普通の魔法使い相手だったのなら・・・『正気か?』と怪訝な表情を浮かべるか、『冗談だろ?』と苦笑を浮かべるか、あるいは無茶な頼みをしてくるワルツに愛想を尽かして彼女の元から去っていくことだろう。
それほどに、転移魔法で超巨大な迷宮を移動させるというのは、困難なことなのである。
・・・しかし相手は半無限(?)の魔力を保有するルシア。
小言も何も言わず、むしろ満面の笑みを浮かべて、ワルツの頼みを聞き入れた。
「うん!やってみる!っていうか、暗いから明かりを作ってもいい?」
「いいわよ?だけど、この街の上はダメよ?私達が戦ってる姿を市民に見られるかもしれないから」
「えっと・・・うん、分かった!」
この町に来た最初の日、スカービクセンと戦っていて町の人々に取り囲まれたことを思い出したのか、一瞬だけ眉を顰めるルシア。
しかし、直ぐに元の表情に戻って、迷宮たちに手を向けると・・・
ブゥン・・・ドゴォォォォン!!
そんな衝撃波を発生させながら、街から10kmほど離れた開けた場所へと、難なく転移させてしまった。
そして、迷宮たちのいる場所の空へと再び手を翳すと、
ブワッ・・・!!
激しい熱気を放つ、昼間の太陽のような明るい光源が、彼らの頭の上に現れた。
この仮初の太陽は、嘗てルシアが、ミッドエデンの王都にモノリス(?)を建てた際、暗いからといって魔法で空に作ったものと同じ光源である。
それが原因(の一つ)で、彼女はミッドエデンの勇者に選出されてしまったのだが・・・まぁ、誰もないはずの真っ暗な空の上で浮かべるくらいなら、特に問題はないだろう。
「おっけー。ありがとうルシア」
「うん!」
そう言って、ワルツの方に頭を傾けながら、嬉しそうに尻尾を振るうルシア。
(えっ・・・何?頭、撫でて欲しいの・・・?)
彼女の姿にふとそんなことを思うワルツだったが・・・今はそんなことをしているタイミングでもないと考えて、そのまま視線をルシアから迷宮へとずらした。
すると、
「・・・」
シュン・・・と言った様子で、あからさまに残念そうな表情を見せるルシア。
なのでワルツは苦笑を浮かべると・・・結局、彼女の頭の上に、自身の手を置くのであった。
そしてそのままの状態で口を開く。
「とりあえず当面は安全だと思うけど・・・このまま迷宮を放っといたらどうなると思う?」
そんなワルツの問いかけに、
「んーとね・・・共食いになる?」
気持ちよさそうな表情を浮かべたまま、ルシアはその表情にそぐわない言葉を口にした。
「・・・うん、そうね・・・。ま、ある程度、弱ってくれたほうが片付けやすいんだけど・・・」
そんなルシアに、再び苦笑を浮かべながら、そう言葉を返すワルツ。
ともあれ。
ルシアの頭をもみくちゃにしている間、次の行動が取れないので、ワルツは近くにいたユリアたちに視線を向けた。
「・・・そういえば・・・ユリア?今、どのくらいの人数の市民が迷宮の中にいるか分かる?」
その質問に対して、ピッと背筋を伸ばすと、ユリアは丁寧な口調で報告を始めた。
「私達が王城を出た時は、5割ほどという報告でした。なので20万人ほどではないかと。あと、その際、アル○○ルらしき人物が兵士を乗っ取って、ヌル様方を暗殺しようとしておりましたことを一応報告させていただきます」
「えっ、ちょっ・・・なんで、その報告を先にしないのよ・・・」
ルシアの頭に載せていた手を思わず引っ込めてしまうほどに驚きながら、ワルツはユリアに問いかけた。
「申し訳ございません。なにやら、ワルツ様が取り込んでいる様子でしたので」
「あ・・・」
話しかけようとしていたユリアたちの言葉を遮ったことを、今更になって思い出すワルツ。
「・・・そう。で、どうして貴女たちはここにいるわけ?ユキFたちが襲われてるなら、そっちの護衛に行くべきじゃないの?」
その話は、先程、ルシアがシルビアに向けたものと同じ質問であった。
その際、嘘がつけないシルビアは、ルシアの質問に撃沈していたが・・・
「・・・今この状況下で、無線機を使うというのは、あまりワルツ様がお喜びにならないかと思い、直接報告に参った次第です。コルテックス様のお話によると、電波を使った通信機器は、他者による傍受が容易であると仰っておりましたので避けたほうが良いかと考えました」
「ほー。ちゃんと勉強してるじゃない。でも、私達が使う無線機については大丈夫よ?アナログだけど暗号化してるし、今、この周辺で、出処不明な電波が飛び交ってたりはしてないから。まぁ、パッシブならどうかは分かんないけど、それはあまり考えられないしね」
「そうですか。では、次回から無線機を使用させていただきます」
「うん、そうしてちょうだい」
と、難なく、ピンチを乗り切るユリア。
流石は先輩、といったところだろうか。
「それでは、ヌル様方のところに戻ろうと思います。また、何かございましたらご連絡下さい」
「えぇ。そっちもね」
「では」
そしてユリアとシルビアは、ワルツたちから離れて、再び王城へと向かったのである。
「・・・」
なお。
そんなユリアの言葉に、本当の事情を知っているルシアが一人苦笑を浮かべていたことについては・・・まぁ、誰も気づかなかった、とだけ言っておこう・・・。
そして2人がワルツ達から離れて、500mほど進んだ頃。
「流石ですね!先輩」
「当たり前じゃない。答えは常にいくつか用意しておくものよ?あと色々なことに対する勉強も必要ね」
「そんなに頭は回りませんよ・・・」
ユリアとシルビアはそんなやり取りをしていた。
「例えば、今回の無線機に関する知識だって、実は諜報活動とは切っても切れない関係だと思わない?」
「確かに、誰かに情報を漏らすわけにはいきませんからね」
「うん。それもあるけど・・・もしも、何処か僻地で偵察任務についていたとするじゃない?そんな所で無線機が壊れたりしたら・・・」
「私なら、任務失敗で戻りますね」
迷わずそう応えるシルビア。
なお、やむを得ない理由で逃げ出さざるを得ない状況に陥ったとしても、ミッドエデンの情報部に罰則は無い。
「えぇ、確かに情報部では、それが鉄則になっているわね。だけど、もしも壊れた無線機が直せたら・・・あるいは新しく作れるほどに原理を知っていなら・・・って、私は思うのよね」
そんなユリアの言葉に・・・シルビアは皿のような眼を彼女に向けながら言った。
「・・・まさか先輩・・・作れるんですか?」
「暗号化されてない、簡易的なものなら、ね。コルテックス様に作り方や原理をみっちり教わったし、その送受信機はコルテックス様も持ってるから、無線機が壊れたとか、無くしたとかなっても、私にとっては大きな問題では無いわね」
「・・・真似できません!流石ですね、先輩!」
「ふふん!そうでしょー?」
・・・そんな、まるで何かのフラグのような会話をしていると、2人は先ほど飛び立ったビクセンの王城の中庭まで戻ってきた。
その際、
ドゴォォォォン・・・
何処か遠くの方から轟音が鳴り響いてくる。
「・・・?ワルツ様方が戦闘を始めたんでしょうか?」
「多分、そうでしょうね。今にも飛びかかろうとしてた様子だったし・・・」
「大丈夫でしょうか・・・」
「私たちがどうにか出来る次元の話じゃないから、後は祈るしか無いわね。まぁ、私たちは、私たちのサポートっていう仕事に戻りましょう。これも重要な仕事なんだから」
ユリアが尤もらしくそんなことを口にすると、シルビアは何処か腑に落ち無さそうな表情を浮かべながら言った。
「はい。・・・でも、良いんですか?」
「何が?」
「先程、重症を負った様子でヌル様方と別れましたよね?今のピンピンとした状態で行くと拙いんじゃ・・・」
「あっ?!い、痛い・・・!」
・・・と、どこが痛いのか分からない様子で、身体の色々な場所を抑えるユリア。
「・・・ひどい演技ですね」
「いや、それは、演技が始まったところから見てたからよ・・・実際、ヌル様には通じたんだから」
「いや・・・う・・・そ、そうですね・・・」
すると・・・
「ゆ、ユリアっ!!」
ガラスが割れた会議室の窓からユリアに向かって、件のユキFが声を上げた。
「あー・・・あれ怒ってますよ?騙したことがバレたんじゃないですか?」
「いや・・・そ、そんなはずは・・・」
血相を変えたユキFにそんなことを思う2人。
・・・だが、どうやら、そういうわけではないようだ。
「に、逃げてっ!!」
『えっ・・・?』
ブゥン・・・
突如として、何もない空間へ姿を消すユキF。
「ちょっ・・・」
「こ、これ、拙いやつじゃ・・・」
転移魔法が使えないはずのユキFが、転移したのである。
すなわち、誰かによって転移させられたか・・・あるいは、非常時の自動転移魔法ということになるだろうか。
彼女の近くに誰もいなかったことを考えるなら・・・
『やっばっ!!』
自動転移・・・すなわち、暴れているプロティービクセンに取り込まれそうになっていることを理解したユリアとシルビアは、直ちに地面から離れて、再び空に浮かぼうとした。
しかし・・・
キラキラキラ・・・
「ま、間に合わない!」
自分の身体に転移魔法がかかり始めていることを感じて、ユリアは空へと全力で羽ばたいた。
しかしシルビアの方は、それとは別のことに気を取られているようであった。
「せ、先輩!あ、あれっ!!」
そう言って彼女が指をさした先では・・・
「何・・・あれ・・・」
何か空の雲をも貫く巨大な影が・・・
ブゥン・・・
・・・だが、その影の正体が何であるのか理解すること無く、ユリアの視界は転移魔法に飲まれていったのである・・・。
書けるときは書けるんじゃがのう・・・。
ちなみに所要時間は2時間なのじゃ。
・・・とは言っても、それほど話は進んでおらぬがのう。
さて。
明日は用事があるから、今日はさっさと寝なくてはならないのじゃ。
故に、あとがきも簡潔に終わらせるのじゃ!
・・・多分。
・・・何か補足すべきことが無いかを見なおしたのじゃが・・・ルシア嬢のことくらいしか書けることがないのう・・・。
というかあやつ、ワルツの前では狐ならぬ猫を被っておるのじゃ。
猫は狩人殿で十分だというのに・・・。
あと、ルシア嬢がユリアに対して苦笑・・・もとい、生暖かい視線を向けておったのは、あれをネタに揺さぶるためなのじゃ。
・・・という話を書くと、後で冷たい風呂の中に転移させられるので、あまり変なことは書けぬ・・・というか書かぬがのう。
む?
ルシアが猫を被っておるという話は大丈夫なのかじゃと?
まぁ、そのくらいなら問題はなかr
ブゥン・・・




