6後後-07 帝都防衛3
ワルツたちが、魔物との戦闘に苦慮していた頃・・・。
「じー・・・・・・」
「じー・・・・・・」
「・・・・・・?」
『・・・・・・?』
町の周囲を回り続けていたエネルギアの艦橋では、居残り組による空からのビクセン観察が行われていた。
「・・・何をしておる?」
じー、と口に出しながら、地上を見つめているユキ、それにイブに対して問いかける飛竜。
それに対して答えたのは、彼の師匠に就任したイブであった。
「・・・えっとねぇ、戦略を考えてる?」
「戦略・・・?」
戦略、と言う言葉が解らなかったわけではないが、飛竜は一体どんな戦略を考えているのか疑問に思ったらしい。
すると、今度はユキが答える。
「今手元にある材料を精査して、最良の未来を得るための方法を考えているのです。・・・これが中々に難しいのですよ」
「ほう・・・どう難しいのだ?」
「例えば・・・ワルツ様やルシアちゃんの力を惜しみなく使ったり、この船に付けられている武器を上手く使ったりすれば、非常に短い時間で敵を殲滅させることも出来なくは無いでしょう。ですが、そのことだけに注視しすぎると、不意な出来事に足元を救われるかもしれない・・・そんな不確定要素に対するマージンについても考えなくてはなりません。例えば、急に出てくるかもしれない追加の敵のことや、町や民が受ける損害、それに戦いの後での損失の補填・・・・・・その他にも、いろいろ考えることはあるんですよ。決して、最短時間で物事を進めることが最適なことであるとは限らないのですから」
「ふむ・・・そう言われてみれば、そうかも知れぬな・・・」
ユキの言葉に納得した声を上げる飛竜。
すると、ユキと同じように、難しい顔をしていたイブが口を挟む。
「でもねー。考えてばっかりで行動に出さないと、余計に状況が悪化するかもだよ?」
「ぐ・・・」
「先ずは確実なところから手を付けて、それから出てきた問題を叩いていくっていうのも手じゃないかなと思うんだけど?この場合、一番大切なのは、市民の命を守ることだし・・・その他のことなんて、この際、二の次でいいよね」
「・・・」
そんなイブの言葉に、『あれ?もしかしてボク、王様失格なんじゃ・・・』などと内心で思わなくもないユキ。
どうやらユキにとっては、何の柵もなく、自由に考えて判断することの出来るイブが、少しだけ羨ましく思えたようだ。
「・・・と、我が師匠は言っておるが・・・シリウス殿はどうするのだ?」
「・・・そうですね。ぱぱっと片付けて、市民を守りましょうか。・・・あ、攻撃する時に、レストランとかに当たらないように避けてくださいね?後でワルツ様を連れて出歩く時、見て回れる施設が無くなるのは困るので」
『・・・』
180度・・・とまではいかないが、大きく方向転換したユキに対して、ジト目を向ける一同。
そんな彼女に、
『あの、ユキ・・・さんでいいのかなぁ?どこを攻撃するのかを決めるのは、ユキさんですよ?』
と、今まで黙っていたエネルギアが声を上げた。
ちなみに今、彼女(?)は姿を見せていない。
現在、戦闘待機状態で飛行しているので、船体修復用のミリマシンをハッキングできないということもあったが、艦橋の片隅に転がっているワルツお手製のメカメカしいアンドロイドにも入るつもりは無いようであった。
どうやら、船を作った誰かに似て、人見知りが激しい性格らしい。
「えっと、エネルギアさん・・・でしたっけ?ボクが攻撃する場所を決めるっていうのは・・・一体どうやってやるのですか?」
エネルギアとの初めての会話になったユキは、姿の見えない相手に戸惑いつつも、そんな尤もな疑問を問いかけた。
ワルツにはエネルギアを使っての攻撃を任されたものの・・・どうやって攻撃して良いのか、未だによく分かっていなかったのである。
『じゃぁ、そこにあるお姉ちゃんの席に座ってもらえる?』
「お姉ちゃん・・・わ、ワルツ様の席・・・」
そう言いながら、どういうわけか、生唾をゴクリと飲み込むユキ。
それから彼女は、何故かプルプルと震えながら、席に手を掛けると・・・
スッ・・・
っと、座席に腰掛けた。
「・・・あっ・・・玉座なんて比べ物にならないくらい気持ちいい・・・・・・」
『えっ・・・』
どうやら、エルゴノミックデザインのバケットシートは、ユキの想像以上に心地よかったらしい。
まぁ、それだけとは限らないのだが・・・。
ちなみに余談だが、本体が機動装甲であるワルツにとっては、ホログラムの姿で実際にこの椅子に腰掛ける事は出来なかったので、結局のところ椅子座り心地は無意味だったりする・・・。
ともあれ、ユキにとっては至高の座り心地だったらしく、
「ほわぁ〜・・・・・・」
見る見るうちに、座席の中で溶けていった・・・。
『あの、ユキさん?』
「ほぇ?」
『何やってるんですか?』
「・・・・・・はっ?!」
エネルギアの言葉に眼を開けた途端、自分の街が炎に包まれている様子が目に入ってきたためか、ユキは意識を落とす寸前で、どうにか留まれたようだ。
「な、何ですかこの椅子?!人を駄目にする魔法でも掛かっているのですか?!」
『・・・そろそろ説明してもいい?』
急に責任転嫁を始めたユキに、スピーカーから微妙な空気を漂わせるエネルギア。
「あ、はい。お願いします」
・・・こうして脱線した話が、再びレールの上に戻ってきたのである。
『はい、これ』
エネルギアがそう口にした直後、
ブン・・・
そんな低い音が鳴り響いて、ユキの前に大きく透明なホログラムのモニタが浮かび上がってきた。
最初は単なるマス目の入った板のような外見だったが・・・次の瞬間には、それが凹凸を構成して何かを形作っていく。
「・・・模型?」
『うん。そんな感じ』
3Dに浮かび上がってきたそのホログラムは・・・今のビクセンの町並みの姿を1/500ほどに縮小したジオラマの模型のようなものであった。
『それで、攻撃したい武器をこの一覧から選んで・・・』
とエネルギアが言うと、ユキの座っていた座席の横に、16種類にも及ぶ様々な武器のアイコンが表示された2Dのホログラムモニタが、追加で浮かび上がってくる。
『そして、この地図の上で攻撃したい場所を指で触ると、僕が攻撃する、って感じだよ?分かった?』
「・・・つまり、ボクが地図で指をさした所をエネルギアさんが攻撃するんですね?」
『そうそう。そういうこと』
「なるほど。分かりやすい・・・」
それからユキは、意気揚々と武器の選択パネルに目をやってから・・・・・・何故か眉を顰めた。
「・・・すみません、エネルギアさん。この絵だと、どれがどんな武器なのか分からないのですが・・・」
武器の選択パネルには、レーザーやら、メーザーやら、ミサイルやらの一覧が載っていたが・・・それらを直接見たことも聞いたこともないユキとっては、一体どれがどのような効果を持った武器なのか、分からなかったようだ。
『弾はたくさんあるから、一つ一つチェックしていけばいいと思うよ?あ、でも、一番下にある武器は、お姉ちゃんに止められてるから、選んでも発射出来ないから注意してね?』
「えっ・・・は、はい・・・」
ワルツが使用を止めるほどの武器・・・。
果たしてどのようなものが搭載されているのか、と少し興味が湧いたユキだったが、他の武器についても何も知らなかったので、とりあえずは使える武器から試してみることにしたようだ。
そして最初に選んだのは・・・
「じゃぁ、先ずはこれから・・・」
ピッ・・・
・・・何やら細長い棒のようなものが2本並んだアイコンであった。
「あれ?この音、最近どこかで聞いたような・・・」
ユキがパネルを操作した際の音を聞いて、横からそんなことを口にするイブ。
しかし、残念ながら思い出すことは出来なかった・・・というよりは、ユキのやっていることに強く興味が惹かれていたので、途中で考えることを止めたようである・・・。
まぁ、それはさておき。
『じゃぁ、あとは、攻撃する場所を選んでね?』
「えっと・・・」
それから艦橋の外の真っ暗な景色に対して、超高性能カメラで出来た眼を向けるユキ。
そして辺り一帯を見渡してから・・・その中に、取り分け魔物が集中する場所を見つけた。
「・・・じゃ、じゃぁ、ここで」
ユキはそう口にしてから、その白く細い指で、街の外にあった結界の境界部分のジオラマに恐る恐る触れると・・・
ピッ
そんな音がして、地図の触った部分の色が変わった・・・その瞬間だった。
ウィィィィン・・・カコンッ・・・・・・
エネルギアの船体が大きく傾いて、彼女たちの頭の上にあった壁面モニターの向こう側を、随分と大きな2つのレールがその巨体に似つかないキビキビとした動きで回転していき・・・
ドゴォォォォォン!!
・・・紫電を撒き散らしながら、真っ白に加熱された直径長さ共に1200mmの円筒・・・タングステン塊を、マッハ10を超える極超音速で地上へと撃ちだしたのである。
直後、
チュドォォォォォン!!
という音はここまで聞こえてこなかったが、真っ黒な景色の向こう側で土砂が巻き上がり、同時に魔物たちが一瞬で肉塊へと変わった。
・・・TNT換算で大体36トン分ほどのエネルギー・・・と言ったのではよく分からないので、具体例で説明すると、深さ15メートル、直径80メートルほどのクレータを作った・・・と言えば分かってもらえるだろうか。
まぁ、要するに、着弾地点から直径100m前後の範囲にいた魔物が、皆一斉に絶命したのである。
「・・・すごい威力なんですけど・・・これ、連発しても大丈夫なんですか?」
飛んでいった重量物と、繰り広げられる景色に目をやりながらエネルギアに問いかけるユキ。
『1200mmレールガンは弾が限られてるから、乱発するなら、別のやつを使ったほうがいいかも。多分、後で、お姉ちゃんとルシアちゃんが頑張って作んなきゃいけないと思うから』
「そうですか・・・」
ユキはそう言って残念そうな表情を見せると、別の兵装を選ぼうと再びパネルを眺め始めた。
すると・・・
「ねぇ、シリウス様?私もやってみたい」
ホログラムのジオラマの地形が大きく変わった様子を見て、そんなことを呟くイブ。
「・・・そうですね。では、一緒にやりますか」
そう言ってユキは、自分の膝に彼女を招き入れると、まるで齢の離れた兄弟のようにして、2人揃ってモニターを眺め始めた。
・・・こうして、皇帝と一ビクセン市民による、壮絶(?)な魔物退治の火蓋が切って落とされたのである・・・。
長くなるのでここで一旦カットなのじゃ。
というか、寝不足で頭が回らぬのじゃ・・・。
明日はちゃんと書くのじゃ。
さて。
補足・・・というか、こんな展開もあった、と言う紹介じゃ。
・・・じゃが・・・途中まで書いておったんじゃが、やっぱり書くのを止めるのじゃ。
よく考えてみたら、ネタバレになるのじゃ。
というわけで、ちゃんとした補足なのじゃ。
・・・クレーターのサイズは、ちゃんと計算して出しておるのじゃよ?
もちろん、妾が。
・・・ネットのスクリp、ゲフンゲフン・・・。
どうも最近、空気が乾燥してのどが痛いのじゃ。
いや・・・今日はもう頭が回らぬのじゃ。
ここはもう寝るとするかのう・・・。
うむ。
そうするのじゃ!
zzz....




