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6後後-04 ボレアスへの帰還4

艦橋の壁にある超高ダイナミックレンジモニタが映し出す外の景色。

そこに映る赤い点を眼にしたイブは、徐ろに口を開いた。


「・・・え?何かあったの?」


ビクセンがまだ離れた場所にあったことや、辺りが既に闇に包まれていたこともあって、普通の視力しか持たない彼女の眼には、その赤い輝点が自分たちの向かう先であるビクセンだとは分からなかったようだ。

ワルツ達の会話の中にも、ビクセンという単語が出てこなかったので、分からなくても仕方ないだろう。


その一方、


「あれは・・・戦火、だな」


常日頃から空を飛んでいる飛竜にとっては、問題なく景色が見えているようであった。

彼が空の支配者(飛竜)であることを考えるなら、夜空からの景色は見慣れた光景なのかもしれない。

ただ、彼も、それがビクセンの町並みであることまでは分からなかったようだが・・・。


そんなやり取りをする2人の後ろでは、さきほど驚いた声を上げたワルツとユキ、そして今現在ビクセンまっただ中なユリアとの間で、無線での会話が続いていた。


「・・・一体、どういうこと?」


眼で見える景色だけでは詳細が分からない、と判断したワルツは、ユリアからも情報を集めるべく問いかけた。


『今、情報を集めているところなので詳しいことまでは分かりませんが、大きい魔物のようなものが、5体ほど町の中で暴れているようです。小さい魔物たちの方は都市結界に阻まれて侵入してきていませんが、報告によると、今もなお数は増え続けているようです」


そんなユリアの言葉を聞いて、ワルツの隣に立っていたユキが口を挟む。


「・・・大きな魔物の方に、結界は効かなかったのですか?」


「あ、シリウス様。・・・えっと、はい。彼らは突然、結界の中に現れたようです。転移魔法のようなもので侵入してきたものかと思われます」


「転移魔法・・・都市結界があるのにどうして・・・」


人間の領域にある町と同じく、ビクセンにも都市を保護するための結界魔法が掛かっていたはずなので、転移魔法によって魔物が結界内に入ってくることは、通常、考えられないはずであった。


「あれじゃない?空間制御魔法。カペラとか言う奴はまだ捕まってないんでしょ?それくらいしか考えられないわよね・・・」


全く、困ったものよね・・・と言った様子で、腕を腰に当てながら、険しい視線をビクセンの町へと向けるワルツ。


「そうですね・・・。空間制御魔法についても、都市結界の方で弾けると良いのですが、使用できる者が極端に少ないためか、対応できないようですから・・・」


「・・・メルクリオ製だったけ?」


「いえ。それは人間側の領域の場合ですね。魔族側では、近くの別の国が製造しています」


「ふーん・・・」


ユキの言葉を聞いていたワルツは、空間制御魔法と都市結界との間に、セキュリティホールやバックドアのような意図的なモノを感じ取った。

・・・だが、同時に、都市結界を作っている国の王が、また自称神なのではないかと思った彼女は、それ以上余計に問いかけることを止めてしまう。

・・・どうやら、頭の中に、何かイラッとするエルフの顔が浮かんできたらしい・・・。


「・・・それで、ユリアたちや、町の人たちは大丈夫なの?」


頭の中に浮かんできた顔をかき消すかのように、都市結界の話をやめて、ユリアに問いかけるワルツ。

すると、


『私たちの方は問題ないのですが・・・』


ユリアはどこか浮かない様子で話してから・・・今、ボレアスで生じている別の大きな問題について、口を開いた。


『どうしてか分からないんですが、市民の避難転移が始まらないみたいなんです』


「・・・え?ユキFが承認したんじゃないの?」


市民たちの転移が、国を治めているユキたちの承認が無いと始まらないことを思い出しながら、ワルツは問いかけた。


『もちろんヌル様も転移には同意されています。ですけど、プロティービクセンの方が反応しないみたいなんですよ』


「なんか、面倒なことになってるわね・・・」


『はい。なので今は、城の者たちを総動員して、市民を王城へ誘導し始めたところです』


安全な場所へと逃げたいが、町の外は魔物で溢れ、かと言って内側は得体の知れない大きな魔物が跋扈(ばっこ)する。

そんなビクセンの中で避難できる場所といえば、ルシアの作った(ミッドエデン風)王城しかなかったようだ。

例え自動的な転移魔法が掛からなくても、王城まで行けば、いつでも使える転移魔法陣があるので、一応は安全なプロティービクセンの中のシェルターへと逃げこむことは出来るのだが・・・


「・・・避難は間に合いそうなの?」


『正直難しいところです。ルシアちゃんに足止めをお願いしていますが、近くに市民がまだ多くいるので、大きな魔法が使えず苦労しているようです』


「・・・そう」


そしてワルツはそう呟いてから・・・どういうわけか、何かを悩む様子で頭を抱えた。

しばらくして顔を上げると、見える景色から現在位置を確認して、再び口を開く。


「・・・もう間もなくそっちに到着するから、もうちょっと待っててくれるかしら?」


『あ、はい。分かりました。それまでどうにか頑張ってみます!』


「無理しちゃダメよ?」


『大丈夫です!分かっています!』


そして無線通信は切れた。


「・・・なんか、ビクセンに来る度に、問題が起こってんじゃない?」


「・・・偶然だと思いたいですね」


自分の国の首都が、今のところ2/3の確率で、移動の度に炎に包まれているのである。

ユキにとっては、まさに繰り返す悪夢、としか言いようのない光景ではないだろうか。

いや、立ち(のぼ)っているものが炎であることを考えば、あるいは・・・。




「さて。どう行動したものかしらね?」


間もなくビクセン到着といったところで、ワルツは艦橋にいた者達に対して声を掛けた。

なお、本来なら、カタリナにも声を掛けるところなのだが・・・・・・諸事情により声を掛けられなくなっていたことについては、わざわざ説明するまでも無いだろう。

同じ理由で、テンポにも声はかけていない。


つまりここにいるのは、ワルツ、ユキ、イブ、飛竜の3人+1匹である。


「・・・ま、イブと飛竜は留守番ね」


2人が長時間に渡って捕まっていたことを考えるなら、当然のことなのだが・・・


「え?何で?!」

「そうですぞ、ワルツ様!我々も戦えます!」


と、2人とも、ワルツの言葉に抗議してきた。


「まぁ、治療を受けた飛竜は良いかもしれないけど、今のイブの姿を見なさいよ?ガリガリに痩せた骸骨みたいな体型になってるじゃない・・・」


数日間に渡って食事を拒んでいたためにやせ細り、そして今日になって一気に食べたためにお腹だけが膨れ上がって・・・そんなどこか欠食児童のような体型になっていたイブの身体を、X線が見える瞳で透視しながら、ワルツはそう口にした。

それ以前に・・・


「っていうか、イブ。貴女、まともな服を来てないんだから、そもそも、外出られないでしょ。露出趣味があるなら別かもしれないけど、そんなんで町中歩いたら衛兵に捕まるわよ?」


イブは、今なお、ユキのコートをバスローブのようにして着ているのである。

まともな装備も身に着けていないのに魔物たちが跋扈している外へと出るのは、自殺行為としか言えないだろう。

・・・尤も、魔王専用のコートの防御力がどれほどのものなのかについては、計算に入れていないが。


そんなワルツの言葉に、


「れ・・・レディーに対して、その言い草は失礼かもなんだからね?!」


そう言って、顔を真赤にしながら、胸の前で腕をクロスするイブ。


「いや、私もレディー・・・うん・・・もう良いけどさ・・・(どうして、女に見られないのかしら?)」


実はこの世界の人間は、フェロモンか何かで性別を判別しているんじゃ・・・などと考えるワルツだったが・・・話が大幅に脱線し始めた事に気づいて、元の話題に戻すことにした。

・・・そう、もうビクセンは間近なのだから。


「ま、そういうわけだから、飛竜は師匠(イブ)が無理しないように見てなさい」


「・・・・・・承知しました」


イブと違ってワルツの言葉を素直に聞き入れる飛竜。

彼なら、ワルツの言いつけを必ず守ることだろう。


イブの方も、飛竜が首を縦に振った様子を見て、


「むーっ。もういいもん!待ってる間、この船の中を探検してやるんだから!」


諦めたようであった。

飛竜は残ると言っているのに、その師匠たる自分が『残らない』とは言えなかったようである。

こうしてワルツたちが出掛けている間、イブと飛竜はエネルギアで留守番することに決まった。


それからワルツは、自分の隣に立っていたユキに視線を向けて口を開く。


「さてと。問題は私達よね・・・・・・あ」


そう言ってからワルツは、ユキのとある変化に気付いた。

イブの身体を透視した眼で、そのままユキの方を向いた結果、何かが分かったらしい。


「・・・?どうされたのですか?」


自分の方を見て、怪訝な表情を浮かべるワルツにそんな疑問を口にするユキ。


「・・・貴女も、イブのこと言えないわね・・・」


「えっ?」


そんなワルツの言葉が、一体何のことを指して言っているのか全くのか解らなかったために、ユキは頭を傾げた。

確かに、炎の中で遊んでいた(?)ために鎧はボロボロになって、皇帝や魔王というよりは・・・どちらかと言うと血色の良いゾンビのような姿になっていたが、それは王城へと戻ればいくらでも着替えがあるので問題ないはずである。

では一体、ユキの何が悪いというのか。


「ユキは、少し、自分の身体について理解すべきね」


そう言うとワルツはユキに近づいて彼女の手を取った。


「っ・・・?!」


突然、ワルツに握られた右手の感触に、顔を赤らめて手を引いてしまいそうになるユキ。

しかし、どうにか我慢していると・・・ワルツは彼女の腕に着けられていた装備を外して、燃えずに残っていた服の袖を(めく)った。


そして、見えたきた自分の腕が・・・


「えっ・・・」


自身の想像と大きくかけ離れた状態になっていたために、ユキはそんな驚きの声を上げた。


「・・・あまり、大きなダメージを受け続けると、こうなるから注意してね?」


艦橋のLEDライトに照らしだされたユキの腕は・・・・・・まるで数日間に渡って絶食していた女性のもののような病的な細さになっていたのである。


「ど・・・どうして?」


「ユキの身体の中にいるナノマシン・・・まぁ小さな機械が、怪我をしたユキの身体を治そうとして、身体中から使える細胞・・・身体の部品をかき集めてきた結果、こんな風にやせ細っちゃうのよ」


「・・・」


「別に心配しなくても大丈夫よ?ちゃんとご飯を食べてれば、その内、また増えてくるから。・・・というわけだから、今回はユキもお留守番ね」


「・・・あの・・・はい・・・・・・」


そしてユキは、反論すること無く、力なく俯いてしまった。

自分の身体の現状を知った瞬間、無力感や脱力感のようなものに襲われたようである。


「・・・あの、やはり、どうしても行っては・・・・・・いえ。今この状態で外に出て行っても、ワルツ様方の足を引っ張るだけですね・・・」


自分の国の民が窮地に立たされているというのに活躍できないことをユキは心残りにしていたようだが、それを振り払うように頭を振ると、明るい表情を見せながらワルツに問いかけた。


「ここにいても出来ることは無いでしょうか?」


そう。

何も戦うことだけが、皆のために出来ること、とは限らないのである。


するとワルツは、


「・・・そうね。じゃぁ、貴女には武器を貸してあげるわ?」


・・・戦うことを諦めていたユキに、どういうわけかそんなことを口にした。


「えっ・・・それでは留守番にならないんじゃ・・・」


ワルツの言葉に、思わず戸惑いの表情を見せるユキ。

そんな彼女に、ワルツはニヤリとした笑みを見せると・・・


「ここに、武器の塊があるじゃない?エネルギアって名前の武器が、さっ。・・・これを貴女に貸してあげるわ?」


・・・エネルギアによる航空支援(爆撃?)を任せたのである。

あとがきは、後で書く・・・のじゃ!


・・・


後になったから書くのじゃ!


うむ、最近、オーバーラン気味なのじゃ・・・。

じゃが、2時間で書いておることを考えるなら・・・こんなものではないかのう。

・・・ホント、主殿は、妾のらっぷとっぷを開放すべきじゃと思うのじゃ。

自分のですくとっぷがあるんじゃからのう・・・。


さて、補足なのじゃ。

艦橋のモニターのスペックを考えておって・・・中々に書きにくかったのじゃ。

じゃから、主殿に相談すると、『だいなみっくれんじ』が広いと書いておけばとりあえずどうにかなる、と言っておったから、その通り書いてみたのじゃ。

・・・一体、何の話なんじゃろうかのう・・・。


おっと。

あまりオーバーランしすぎるのは良くないので、この辺であとがきは終えるのじゃ。

残りは、活動報告の方で書くのじゃ。


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