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6後後-03 ボレアスへの帰還3

・・・どういうわけか、暗い表情で俯くユキを連れながら、艦橋へと向かう一行。

もちろんそこには、飛竜の姿も一緒であった。


彼は艦内を物珍しそうに見回したり、匂いを嗅いだりと、どこか落ち着きなくワルツ達の後ろを歩いていた。

やはり、物珍しさというのは、人間もドラゴンも関係なく、同じく感じられるものなのだろう。


艦橋まで歩き始めてからあと半分ほど距離になった頃、そんな彼に対して、ワルツは徐ろに声を掛けた。


「そういえば、飛竜は何で捕まってたの?」


するとキョロキョロしていた飛竜は、ワルツの方に顔を向けると、頭を傾げながら口を開く。


「どうしてなのか・・・それについては我も憶測でしか言えませぬが・・・それでもよいですかな?」


「えぇ、構わないわ?(ユキからの話でなんとなく予想はついてるけどね・・・)」


それから彼は・・・イブに聞かれた際には答えなかったことを口にし始めた。

その当時は口にしたくなかったが、今なら良い、といった様子だ。


「・・・彼奴(きゃつ)らの言葉から推測するに、魔物たちを意のままに操る術を探しておったようです。全く、嘆かわしいことでございますが、我らはその実験台として捕まってしまったようでございます」


(ふーん、魔物を操る・・・ね。・・・あれ?なんか引っかかるんだけど・・・ま、いっか)


「・・・他にはなんか言ってなかった?」


「そういえば・・・」


そう言って飛竜は、随分前のことを思い出すかのようにして顎に手をやると、ゆっくりと話し始めた。


「あの、ロリコンと呼ばれていた者、我らの首につけられた首輪に眼をやりながら『迷宮がなんとやら』と話しておりました」


「・・・詳しいことは覚えてないのね?」


「いやはや、我には少々難解な言葉だった故・・・・・・いえ、一つだけ思い出しました。確か『迷宮もドラゴンも大きな違いは無い』と・・・」


「・・・そう」


迷宮とドラゴンの間にどんな共通点があるのか、よくは解らないが、飛竜たちが付けていた首輪と、ビクセンで迷宮が暴れだしたことには、何か因果関係があるらしい。


「申し訳ございませぬ・・・」


「ま、良いわ。直接聞けばいいことだしね」


と、今もカタリナのバッグの中で、謎の溶液に浮かんでいるだろうロリコンの頭部のことを思い出すワルツ。


『・・・え?』


ユキ以外の2人が疑問の声を上げるが・・・ワルツがそれを軽くスルーしたところを見ると、面倒なのか、ここで説明する気は無いようだ。

ちなみに、ユキが何故声を上げなかったかについては、言うまでもないことだろう。


「さてと、ここが艦橋よ?みんな、道は覚えたわね?」


艦橋の扉の前で、ワルツは誤魔化すように、2人(と1匹)に対して問いかけた。


「はい。もう完全に覚えましたよ?」

「私だって、覚えたもん!」

「・・・確か真っ直ぐでしたか?」


飛竜は気絶した際に積み込まれたためか、ワルツが何の道のことを問いかけているのか分からない、といった様子だったが・・・残り2人は自信があるようだ。

尤も、許可された場所以外に行くことはセキュリティ用のシャッターがあるために出来ないので、迷いようが無いのだが・・・。


ガションッ・・・


そんなガス抜けるような音がして、先ほどと同じように、勢い良く艦橋の扉が開く。


「・・・これ、どういう原理なの?」


扉の構造に興味があるのか、イブが問いかけた。


「えーと・・・ドップラーレーダーを使った動体検出回路をエアバルブに繋いでガスシリンダを動かしてるって感じの単純な自動ドアね」


『・・・』


ぽかーん、と言った様子で、口を開く3人。


「・・・要するに、人が来たら反応する魔道具みたいなものがあって、それが反応すると、別の魔道具にドアを開閉させる作りになってる、ってことよ?」


「・・・なんか、ものすごく魔力を使いそうですね・・・」


と、頭の中が魔法一色のユキが感想を口にした。


「違っ・・・いや、うん。それ以外の方法で理解するには知識が不足してるから仕方ない、っていうのは分かってるんだけどね・・・」


「えっ・・・違うのですか?」


「・・・そんなんだと、姉妹たちの代わりの身体を作れるようになるのは、はるか先の事になるわよ?」


「え、ええ?!こ、これって、そんな重要な事と関係してたのですか?!」


「う、うん・・・そこまで驚くとは思ってなかったけど、まぁまぁ重要な事ね。私が使ってるのって、魔法じゃないしね」


『えっ?!』


「はいはい。この展開はもうこれまでに何回も見てきたから、もう後の詳しいことはカタリナにでも聞いてくれると助かるわ」


そう言うとワルツは、疑問の声を上げる新しい仲間たちの姿を尻目に、超科学の塊のような艦橋へと足を踏み入れた。

まぁその際、初めて艦橋の中に映しだされた景色を見る飛竜が、まるでテレビに映る動物の姿に驚いた猫のような反応を示していたことについては・・・もう、説明しなくてもいいだろう・・・。




超音速で成層圏を飛行するエネルギア。

その艦橋から見えていた景色の中から、いよいよ太陽が消えて、空に小さな星たちが疎らに見え始めた頃・・・。


地面に真っ赤な発光塗料を真っ直ぐに塗ったかのような景色が眼下に見えてきた。

人と魔族の領域の境界、大河である。


「あれ・・・大河?」


「えぇ、そうよ?」


「なんか・・・すっごく小さい・・・」


『大河』と言う割には、イブの眼に見えていた赤い線は、それほど大きなものではなかった。

もちろん小さくなったわけではなく、距離が離れている、というだけである。

飛行高度と相対位置を考えるなら・・・30kmは離れているのではないだろうか。


「近くで見ると大っきいのにね・・・」


そんなことを呟いていると・・・急にイブの顔色が変わる。


「・・・えっ?このまま飛び越えちゃうの?!飛び越えたら、落ちちゃうんじゃないの?!魔法が使えない場所なんだし・・・」


そんなイブの表情に、ワルツは少し考えてから・・・


「・・・・・・あ、すっかり忘れてたわ」


まるで『今思い出した』といった様子で、ワルツはできるだけ表情を変えずに、そう口にした。


「このままだと拙いかもね・・・」


ニヤけてしまいそうな口元を我慢しながら、意識的に眉を顰めるワルツ。


・・・しかし、


「・・・あ、でも、放物線を考えれば、魔法が使えなくても、もう飛び越えたようなものかもだね」


イブは勝手に自分で納得してしまった。


「・・・」


イブを驚かせようと思ったら、一人置いてけぼりを喰らった様子のワルツ。


「・・・何で、放物線なんて言葉、知ってるのよ・・・」


「だって、とーちゃんが学者様だったし」


そんな8歳児の言葉に、


(まぁ、異世界だけど、古典物理くらいはあるのかしら・・・。一体どんな人だったのかしらね?この世界で放物線とか、重力加速度を見つけた人って・・・)


見知らぬ誰かに対して、ワルツはそんなことを思った。

元の世界で言うなら、アリストテレスかニュートンのような人物がいたのだろうか。


まぁ、それはともかくとして。

ワルツがそんな思いに耽っていると、イブがニヤリとした視線を彼女に向けてきた。

そんな彼女に、


「・・・・・・?」


訝しげな視線を向けるワルツ。


どうやらイブは、ワルツが自分をはめようとしたことを分かっていたようで、どうにか切り抜ける方法が無いかと考えたらしい。

その結果、放物線のことを思い出して、自己完結したは良いが・・・・・・今度はワルツの方が、そのせいで考えに耽ってしまった、ということのようである。


そんな、空気の読めないワルツに・・・


「・・・ワルツ様のバカ・・・」


イブは悪態を吐いた。


「えっ・・・」


「もういいもん!」


そう言って近くにいた飛竜に抱きつくイブ。

その際、ワルツに、べ~、と舌を出すのだが・・・


「・・・?」


ワルツは事情が飲み込めないのか、頭を傾げるしかなかったようである。

一言、『物知りね』と声をかければ、お互い、笑顔でいられたのだが・・・人付き合いがあまり長くない彼女には、難しい問題だったようだ。


「・・・ん?どうしたのだ?ワルツ様と喧嘩でもしたのか?」


突然抱きついてきたイブに、外の景色を眺めていた飛竜が、長い首を彼女の方へと向ける。


「ワルツ様、こーしょー(高尚)なやり取りが出来なくて、ダメダメなんだもん!」


「ふむ。では主は、どのようなやり取りを望んでおったのだ?」


「んー、感動スペクタクルが押し寄せてくるような会話?」


「・・・すまぬ・・・我には理解できなさそうだ」


そして飛竜は、申し訳無さそうに俯いてしまった・・・。


「私だって、そんなこと言われても何なのかさっぱり理解できないわよ・・・」


「え?・・・うーん・・・」


2人とも、自分が何を言っているのか分からないといった様子であることに、イブはどう説明して良いのかを考え込んだ。

・・・まぁ、何も難しいことはなく、単に他愛のない会話をしたかっただけのはずなのだが・・・。


と、そんな時。


『お姉さま〜?』


無線通信システムと艦橋のステータスモニターから、同時にそんな気の抜ける声が飛んで来た。


「何かあった?コルテックス」


『大した問題では無いのですが、一応ご報告まで〜。現在、王都周辺に大量の魔物たちが集結しつつあるようです。その数〜・・・計測不能ですね〜。100万を超えてるのではないでしょうか〜?』


「あ、そう」


「えっ・・・」


ワルツの反応があまりにそっけなさ過ぎたためか、思わずそんな声を上げてしまうユキ。


「100万や1000万くらいなら、どうってことはないわよ?大量に来るなら、ショックウェーブジェネレータ使えばいいだけだし・・・。一体何でそんなことになったのかは分からないけど、ユキは逆に喜んでも良いんじゃない?これで、ボレアス国民が食糧不足に悩まされなくて済みそうだしね」


「えっ・・・」


「だって、勿体無いじゃない?肉をそのまま捨てるわけにもいかないし・・・」


「は、はあ・・・」


もしも自分の国なら、『食べるか食べないか以前に、喰われるか喰われないかの話になりそうですね・・・』と内心で思うユキ。


「というわけだから、コルテックス?狩ったらちゃんと冷凍庫に入れとかなきゃダメよ?」


『承知いたしました〜』


そして、いつも通り、コルテックスとの通信が切れた。

・・・のだが・・・


『ちょっ・・・姉さん!お父様が死にそうなんだけど!』


立て続けに、今度はメルクリオの王城にいるはずのストレラから連絡が入った。


「え?お父様?・・・あぁ、カノープスね。なんかあったの?」


『魔物が多すぎて過労死寸前よ!』


「えっ・・・そっちも?」


『そっちも、って・・・姉さんの方も?』


「いや、今、私は、ミッドエデンにいないんだけど、なんか王都が襲われてるらしいのよ。コルテックスが対応するみたいだから問題ないと思うけどね(あ、そういえば、アトラスもいたのを忘れてたわ・・・)」


『じゃぁ、姉さんは暇よね?ちょっとこっちに援護しに来てよ』


「えっ、面d・・・今、忙しいから難しいわ。っていうか、貴女が直接対応すればいじゃない。別にカノープスに任せなくても、一人で全部、相手できるんじゃないの?」


『だって、面d・・・一応、お父様や政府の重鎮たちの前で、非力なお嬢様を演じてるんだから、ここで私がでしゃばったら、ここまで積み上げてきた全てを台無しにしなきゃならなくなるじゃない・・・嫌よそんなの・・・』


・・・なお、積み上げ始めた地位は、実質1ヶ月も満たないものである。


「まぁ、何れにしても、今は無理よ。もう夜になるんだし、闇にまぎれてこっそりやれば問題ないんじゃない?」


『・・・はぁ・・・』


ストレラが深い溜息を吐いて通信を切ると、それっきり彼女から連絡が戻ってくることは無かった・・・。

どうやら、自ら対処するようだ。


「・・・あの、ワルツ様?いつもこのような感じなのですか?」


「え?そうだけど?」


「そうですか・・・」


それからユキが、自分の数百年の執政について思い返し始めた時、


『わ、ワルツ様!』


今度はユリアから連絡が入ってきた。


「ん?そっちも魔物?」


『え・・・い、いや、違います!()()()()()()()()んです!』


彼女が焦り気味にそう口にした頃、エネルギアの艦橋から、雲の隙間にビクセンの町並みの光が見え始めた。

ただしそれは、普段の街の(あかり)ではなく・・・


「・・・えっ?」

「・・・は?」


・・・何か複数の大きな影によって作り出された、真っ赤な戦火の炎だったのである・・・。

そしていつもアトラスの存在を忘れる妾・・・なのじゃ・・・。


諸事情があって、今日はあとがきは短めなのじゃ。

・・・ワルツみたいに面倒じゃからという理由ではないぞ?

やらねばならぬことがあるのじゃ。

・・・というわけで、とりあえず更新するのじゃ。


・・・


更新したのじゃ。

えーと、なのじゃ。

色々と上げたフラグをどうやって回収するかを悩んでおるのじゃ。

おかげで文量は増えるわ、書くのも時間がかかるわで、大変なのじゃ。

・・・もっと細かく分けようかのう・・・。


というわけでじゃ。

ルシア嬢と主殿に頼まれていたことがあるので、今日はこの辺でさらばなのじゃ!

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