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6後-26 どこかの施設で5

修正:ユキの・・・

「・・・眼を隠さなくてもいいよ?」


自分の眼を押さえる少し冷たい手のカタリナに対して、困惑した様子で告げるイブ。

そんな彼女に対して、カタリナは眼の前で広がる凄惨な光景を、幾重にも包んだオブラート(?)の上から説明し始めた。


「・・・いいえ。恐らくあなたが思い描いているよりも、ずっと酷く無残な光景が、繰り広げられていると思いますよ?そうですね・・・全ての手足を千切った○○○○を瓶の中いっぱいに詰め込んだ結果、まるで○○みたいになっている光景・・・あれ、ものすごく気持ち悪いですよね・・・。でも私がこの手を退()けると、アレよりももっと酷いものを見ることになると思いますが・・・それでも見たいですか?」


「う、うぅ〜〜〜〜〜〜」


カタリナの例えがあまりにも残酷だったためか、思わず泣き出すイブ。


「・・・そうですね。見ないほうが賢明でしょう」


そしてカタリナは、イブの頭を優しくギュッと抱きしめた。


「・・・カタリナ殿よ・・・。そこまで酷い光景だろうか・・・?」


魔物たちを文字通り、千切っては投げ、千切っては投げと繰り返していた飛竜が、カタリナの(たと)えを想像して、嫌そうな視線を彼女に向けた。

どうやら、彼にとっては、現状の光景よりも酷い喩えだったらしい。


「・・・人によりますね。少なくとも、子どもに見せるような光景ではないことは確かかと思いますよ?」


「・・・人の子との接し方は、思ったより難しいのだな・・・・・・フンッ!」


ドゴォォォォン!!


会話しながらも、順調に戦闘を続ける飛竜。


そんな彼の身体にはカタリナの結界魔法が掛けられており、魔物を吹き飛ばした彼自身の身体にダメージが蓄積しないようになっていた。

こうした肉弾戦というのは、必ずしも相手にダメージを与えるだけではなく、相手に与えたダメージと同等の運動エネルギーが、自分の身体から放たれたり、あるいは蓄積されたりするのである。


故に、相手からの攻撃だけでなく、自分の攻撃が通れば通るほど、実は体力の消耗も激しくなるのだが・・・前記の通り、カタリナの結界のおかげで、そうはなっていなかったのだ。

もしもこれが、彼一人で戦っていたなら・・・スタミナ切れや全身の痛みで、すぐに魔物たちの餌食になっていたことだろう。


・・・そう。

飛竜は無双できるほど圧倒的な戦闘能力を持っているわけではないのだから・・・。


「ふむ・・・身体が軽くなる、とまでは言わぬが、いつも以上に動けておる気がするな・・・」


「パーティーでの戦闘は、1+1が2になるわけではないですからね」


カタリナがそう呟くと・・・どういうわけか、急に飛竜の動きが鈍る。


「・・・すまぬ。『いちたすいち(1+1)』とは何だ?」


・・・左右が分からなかった飛竜は、四則演算についても知らなかったようだ・・・。


「・・・気にしないでください。人の間に伝わる、ことわざのようなものなので」


「・・・ふむ」


カタリナの言葉に納得したような声を返す飛竜。

計算は出来ないようだが、『ことわざ』という言葉は分かるようである。




そうこうしていると、いつの間にかカタリナ達の周囲から魔物の姿が消えていた。

もちろん、魔物たちの肉塊が消え去ったわけでは無いが、大方、片付け終わったようである。


・・・つまり、残っているのは・・・


グォォォォォ!!


今もなお、石礫(いしつぶて)を飛ばし続けている地竜くらいのものだろう。


飛竜は、イブたちに近寄りそうな魔物がいないことを確認した後・・・


「ガァァァァッ!!」


地竜に向かってそんな雄叫びを上げながら、


ドォォォォン!


・・・体当たりを仕掛けた。

壁の穴の内側(?)にいたままでは、一方的に攻撃を加えられるだけ・・・そう思ったようだ。


ただ、飛竜の空を飛ぶという性質上、彼の体重は地竜と比べて圧倒的に軽かった・・・。

故に、地竜を押しのけることが出来ず、そのまま押し返されてしまうが・・・・・・辛うじて、開けている空間側へと移動することには成功したようである。


地竜にぶつかった彼は、その後、地面に降りること無くそのまま狭い空に向かって羽ばたくと、天井近くにあった件の金属製の柱に足を掛けてから、それを蹴って方向転換し、地竜から少し離れた場所へと降り立った。


グォォォォォ!!


頭の上を超えて、飛んでいった飛竜に、どこか苛立ちのような雰囲気を漂わせながら、咆哮を上げる地竜。

そんな彼に対して、飛竜は優しげに・・・あるいは懐かしげに呼びかけた。


「・・・地竜よ、主と旅をした短い時間、我は満ち足りておったぞ?誰かと行動を共にするというのは・・・我にとって初めてのことだったのだ」


グォォォォォ!!


そんな飛竜の呼びかけは、やはり地竜には届かないのか・・・彼は意味もあるのかすらも分からない咆哮を、ただひたすらに上げ続けた。

しかしそれでも、飛竜が呼びかけを止めようとすることは無かった。


「主と戦いたくはない・・・。約束したではないか?人になるために、人を食べるのは止め、人のように助けあって生きていこうと。・・・ここで我らのどちらかが倒れるようなことになったのなら・・・お互いに得は無いではないか?」


グォォォォォ!!


「地竜よ・・・主にはどうにか正気を取り戻して欲しいのだ・・・」


・・・飛竜がそう言った時の事だった。


グォ・・・


不意に、地竜の鳴き声が止まる。


「・・・?」


そんな彼に飛竜が怪訝な視線を向けていると・・・


グォッ!


急に地竜が首のリング周辺を、その前足で掻きむしり始めたのだ。


「・・・く、苦しいのか?!」


嘗ての仲間のもがき苦しんでいる姿に、狼狽える飛竜。

それから彼は、後先を考えずに思わず駆け寄ってしまう。


そんな彼に対して、


「フン・・・試しにやってみたが・・・やはり、ドラゴンと言え動物(まもの)と思考は、そう変わらなかったか・・・」


と、頑丈に見える檻の中から、ロリコンがそう呟いた。

どうやら彼らが、地竜を操って、まるで苦しんでいるような動きを見せていたらしい。


その直後、ロリコンたちが何かコンソールのようなものを操作すると・・・


グッ・・・グォォォォォ!!


・・・再び咆哮を上げた地竜が、近づいてきた飛竜へと襲いかかった。


・・・が、


「・・・そんなことは、百も承知だ!」


そう言うと飛竜は、地竜の噛みつきによって自身の翼や腕があらぬ方向へと曲がった上、出血してしまうことも気にせずに、地竜の首で鈍く輝いていた首輪に向かって、自身も思い切り噛み付いた。


バキバキッ・・・


渾身の力で噛み付いたためか、首輪を構成する金属に負けて、粉々に砕ける飛竜の牙。


「ンガァァァァ!!」


だが飛竜は、血まみれになったその口を離すこと無く・・・そして、筋肉が断裂して、骨が砕けてしまっても関係無しに、顎に力を入れ続けた。


その結果・・・・・・残念なことに、飛竜の力は首輪を破壊するには及ばず、牙でキズを付ける程度しか損傷を与えられなかった・・・。


「・・・馬鹿なやつだ。生物の力で噛み砕ける首輪では無いというのに・・・やれ」


そんな飛竜の大きな隙を見逃さなかったロリコン達は、地竜に向かって首輪経由で司令を送ると、


ドゴォォォォン!!


・・・身体全体を使った突進を行わせて、飛竜を、地竜と壁との間に挟めるような形で潰してしまった。


「・・・かはっ!!」


顎が砕けていた上に、地竜の突進を胸で受けて声帯を潰され、まともな叫び声を上げることすらできずに・・・壁へと埋まる飛竜。

その際、全身を打撲して、身体のどこにも痛みを感じない部分が無いほどにダメージを受けた彼は・・・遂にその意識を闇へと落としてしまった・・・。

それでも、死なずにその程度のダメージで済んだのは・・・やはり、カタリナの結界魔法が彼を守っていたからだろう。


「恨むなよドラゴン。これも仕事なんだ。・・・トドメを刺せ」


ロリコンが近くにいた兵士に指示を出すと、地竜はその重い身体をゆっくりと壁から離し、飛竜に対して魔法に属する攻撃を加えようとした。

物理的な攻撃で思ったようにダメージが与えられないのなら・・・魔法で攻撃すればいい。

結界を張っているカタリナたちに対処するため、ロリコンたちも、彼女たちと同じようなことを考えていたようだ。


グォォォォォ・・・!!!!


まるで口の中にエネルギーを貯めるかのように、徐々に高くなっていく地竜の咆哮。

それを見る限り・・・彼はどうやらブレスを吐き出そうとしているようである。


そして、飛竜に向かって、彼の口が開かれた・・・そんな時だ。


「さ、させません!」


そんな、何処か頼りない声が聞こえたかと思うと、


ドゴォォォォン!!


どういうわけか、真横に向かって吹き飛ぶ地竜。

その際、彼の撃ちそこなったブレスが天井へと飛んでいき・・・


ズゴォォォォン!!


本物の空が露出するほどに、大きな穴を穿(うが)った。


「・・・?!す、すごい威力ですね・・・。飛竜様、実は弱かったのでは・・・?」


ブレスに対してそんな感想を漏らしながら、逆さになった地竜の影から現れたのは・・・先程まで気絶していたはずのユキだった。

彼女が、何らかの方法で地竜を吹き飛ばした、ということらしい。


「・・・とにかくです。飛竜様の仇は、ボクが打t」


バァン!!

ドシャッ!


突然の破裂音と共に、そんな湿ったような音が辺りに響き渡る・・・。


「えっ・・・」


バタッ・・・


いつの間にかユキの半身に拳大の穴が開き、彼女は再び力なく地面へと伏せてしまった・・・。


「・・・やはりあのBBAには、結界魔法が掛けられていなかったか。分析通りだ・・・」


地面に倒れた彼女には、一切、目もくれず、コンソールを見ながらそう(くち)にするロリコン。

彼の横では、ヘルメットの上からヘッドフォンを掛けた兵士が、妙に長い黒い筒・・・所謂対物ライフルに対して、1発しか装填できない銃弾をリロードしていた。

ユキは復活して早々、このライフルから放たれた凶弾に貫かれてしまったようだ。


それからロリコンは、机の上にあった資料を手に取ると、それに厳しい視線を向けながら呟いた。


「・・・では、第3フェーズに・・・・・・ん?!」


・・・そして彼は驚愕した。

ただし、紙に書かれていたことに、ではない。


・・・彼が手に持った紙の束の向こう側。

地竜に付けられた首輪のステータスが表示されたコンソールの端の方にあった、監視カメラからの映像。


そこに・・・


「痛っ?!し、死ぬかと思いましたよ!せっかく新しい身体なのに、ワルツ様に貰われる前に傷跡が残ったらどうするんですか!」


・・・いつの間にか塞がっていた胸の傷に手を置いて、痛そうに(さす)りながら起き上がるユキの姿が映っていたのである・・・。

・・・終わらない6後章・・・。

それでも、終わらせなくては先に進めぬのじゃが・・・まだ2〜3話は掛かりそうなのじゃ。


というわけで。

今日は投稿に時間の余裕が無いから、あとがきは簡単に済ませるのじゃ。

まぁ、細かい話は次回にするとして、ユキの胸の傷が塞がった理由は、体内のナノマシンのおかげなのじゃ。

・・・質量保存則を考えるなら・・・ナノマシンによって修復されるユキの体組織は、一体どこからやってくるのじゃろうな?


ん?じ、時間が・・・!

あ、後の事については・・・活動報告の方で書くのじゃ!


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